27 / 53
齋藤奈々未編
齋藤さんのケーキと金髪の勇気 第2話(全8話)
しおりを挟む
視聴覚準備室に向かう途中、小林さんとばったり会った。
「先ほどはすいませんでした」
小林さんがそう言って深々と頭を下げてきたので、気にしなくても大丈夫だよと言っておいた。
「ちょっと気になったんですけど、先生って怖い話とか平気ですか?」
「うん、怖い話は好きだよ。小林さんは好きなのかな?」
小林さんは少し何かを考えていたようで、廊下から見えるグラウンドに体を向けていた。
「あたしは怖い話好きだったけど、最近はちょっと変わっちゃって、好きなのかわかんないかも。恋愛とかでも好きだけどわからないみたいな感じってあるよね」
小林さんの明るめの髪は太陽の光でより明るく見えた。
ソフィアさんの金色の髪まではいかないのだけれど、それに近いくらい透明感のある髪の毛に感じていた。
「あ、今日はナナっちが先生に話するって言ってたみたいだから、今度あたしの相談もお願いします。出来れば早いうちにお願いね」
そう言うと小林さんはまた僕の背中を叩いて去っていった。
しばらく廊下を歩いていると、調理実習室の方から甘い良い匂いが漂ってきた。
ドアについている窓から中を覗いてみると、家庭科部の部員たちがオーブンで何かを焼いているようだった。
楽しそうだなと思って見ていると、中の一人と目が合った。
その部員は仲間たちに何かを言うと、こちらに向かって笑顔で手招きしてきた。
「先生、先生、お腹空いているならケーキ食べていきません?焼き立てのケーキですよ」
一人がそう言うと、僕を囲んで食べろ食べろの大合唱が始まった。
「いつもは顧問の芳野先生に味見をお願いしているんですけど、田村さんがいなくなったのが気がかりで、部活に来なくなったみたいなんです」
「私は芳野先生がダイエットしてるからお菓子作りの時は来ないって聞いたよ」
「え、私は虫歯の治療しているから食べに来ないって聞いたけどな」
芳野先生は家庭科の先生ではないけれど、家事は何でこなして部屋は綺麗に整理整頓されていると噂は聞いている。
生徒思い出真面目に熱心なところは、そう言った要素が原因なんだろうと思う。
「はい、先生はここに座ってケーキを待っててくださいね。芳野先生以外の先生に食べてもらえるのは久しぶりだから緊張するわ」
そう言いながらも、見ただけで美味しそうなパウンドケーキを切り分けて皿に盛りつけていた。
ケーキの横にはホイップクリームも添えられていて、見た目だけならオシャレなカフェで出てきてもおかしくないと思った。
さて、一口いただこうと思って皿の周りを見てもフォークが無かった。
箸やスプーンも無いようなので、手掴みで食べようとしたところ、なぜか手を叩かれた。
今日は女性によく叩かれる日なのかもしれない。
「先生、素手でケーキ食べるのは行儀良くないですよ」
左手を腰に当てて、僕の手を叩いた右手でゆびをさしながら生徒は言った。
手を叩いたり人を指さすのも行儀がよくないとは思うのだけれど、ここは我慢しておこう。
そのまま様子をうかがっていると、一人の生徒がフォークを持ってきて部長に渡した。
部長はそのフォークで一口大に切り分けると、少しだけクリームを載せた。
「先生は独身だから特別にケーキを食べさせてあげるわ。若い女の子から食べさせてもらえるなんて幸せ者ね」
そう言いながらも部長は僕の口元にケーキを運んでくれていた。
僕は口元に運ばれてくるケーキを一切見ずに、部長の目だけをじっと見つめて口を開けた。
部長がちょっと目をそらしたため、ケーキが少しずれて口のここにクリームがついてしまった。
「あら、先生はケーキもちゃんと食べられないのね」
「いやいや、部長が先生に見つめられて照れたからじゃない」
「そうよね、部長はマジ照れしてたよね」
冷静を装っていた部長はあっさり他の部員たちに見抜かれていて、顔を赤らめながらフォークを振り回していた。
パウンドケーキは見た目だけではなく味も良かった。
ややあっさりした味わいの生地と甘いホイップクリームが絶妙にマッチしていた。
味の感想を素直に伝えると部長は勝ち誇ったように喜んでいた。
他の部員たちもフォークを持ち出して僕に対して餌付けするような勢いで食べさせてくれていた。
そんなタイミングを見計らったかのようにソフィアさんは家庭科室の扉を開いた。
「良い匂いがしていると思ったら、マサ君先生だけずるい」
怒っているソフィアさんはじっとケーキを見つめていた。
部長さんが持っていたフォークをソフィアさんに渡すと、他の部員が新しく持ってきたケーキを受け取り一口食べていた。
「美味しい~。この味ならお店で売っててもおかしくないわ。マサ君先生の分も私が食べたいくらい」
それを聞いた部員たちは、奥の棚からクッキーやマカロンなどを取り出して次々とソフィアさんの口に入れていった。
外国人特有のリアクションで絶賛されたお菓子たちはあっという間にソフィアさんの体の中へと吸収されていった。
「こんなに美味しいお菓子はイギリスでも食べたこと無かったわ。お茶にも合いそうだし紅茶にも合いそうだし、お菓子作りの天才集団ね」
僕はケーキしか食べていなかったけど、美味しかったから満足しておこう。
ソフィアさんは家庭科部の部員達ともすでに打ち解け合っていて、また試食に来る約束を取り付けていた。
僕は皿を洗っている部長さんのもとへ近づいて行った。
「僕も他のお菓子の試食に協力するよ」
「先ほどはすいませんでした」
小林さんがそう言って深々と頭を下げてきたので、気にしなくても大丈夫だよと言っておいた。
「ちょっと気になったんですけど、先生って怖い話とか平気ですか?」
「うん、怖い話は好きだよ。小林さんは好きなのかな?」
小林さんは少し何かを考えていたようで、廊下から見えるグラウンドに体を向けていた。
「あたしは怖い話好きだったけど、最近はちょっと変わっちゃって、好きなのかわかんないかも。恋愛とかでも好きだけどわからないみたいな感じってあるよね」
小林さんの明るめの髪は太陽の光でより明るく見えた。
ソフィアさんの金色の髪まではいかないのだけれど、それに近いくらい透明感のある髪の毛に感じていた。
「あ、今日はナナっちが先生に話するって言ってたみたいだから、今度あたしの相談もお願いします。出来れば早いうちにお願いね」
そう言うと小林さんはまた僕の背中を叩いて去っていった。
しばらく廊下を歩いていると、調理実習室の方から甘い良い匂いが漂ってきた。
ドアについている窓から中を覗いてみると、家庭科部の部員たちがオーブンで何かを焼いているようだった。
楽しそうだなと思って見ていると、中の一人と目が合った。
その部員は仲間たちに何かを言うと、こちらに向かって笑顔で手招きしてきた。
「先生、先生、お腹空いているならケーキ食べていきません?焼き立てのケーキですよ」
一人がそう言うと、僕を囲んで食べろ食べろの大合唱が始まった。
「いつもは顧問の芳野先生に味見をお願いしているんですけど、田村さんがいなくなったのが気がかりで、部活に来なくなったみたいなんです」
「私は芳野先生がダイエットしてるからお菓子作りの時は来ないって聞いたよ」
「え、私は虫歯の治療しているから食べに来ないって聞いたけどな」
芳野先生は家庭科の先生ではないけれど、家事は何でこなして部屋は綺麗に整理整頓されていると噂は聞いている。
生徒思い出真面目に熱心なところは、そう言った要素が原因なんだろうと思う。
「はい、先生はここに座ってケーキを待っててくださいね。芳野先生以外の先生に食べてもらえるのは久しぶりだから緊張するわ」
そう言いながらも、見ただけで美味しそうなパウンドケーキを切り分けて皿に盛りつけていた。
ケーキの横にはホイップクリームも添えられていて、見た目だけならオシャレなカフェで出てきてもおかしくないと思った。
さて、一口いただこうと思って皿の周りを見てもフォークが無かった。
箸やスプーンも無いようなので、手掴みで食べようとしたところ、なぜか手を叩かれた。
今日は女性によく叩かれる日なのかもしれない。
「先生、素手でケーキ食べるのは行儀良くないですよ」
左手を腰に当てて、僕の手を叩いた右手でゆびをさしながら生徒は言った。
手を叩いたり人を指さすのも行儀がよくないとは思うのだけれど、ここは我慢しておこう。
そのまま様子をうかがっていると、一人の生徒がフォークを持ってきて部長に渡した。
部長はそのフォークで一口大に切り分けると、少しだけクリームを載せた。
「先生は独身だから特別にケーキを食べさせてあげるわ。若い女の子から食べさせてもらえるなんて幸せ者ね」
そう言いながらも部長は僕の口元にケーキを運んでくれていた。
僕は口元に運ばれてくるケーキを一切見ずに、部長の目だけをじっと見つめて口を開けた。
部長がちょっと目をそらしたため、ケーキが少しずれて口のここにクリームがついてしまった。
「あら、先生はケーキもちゃんと食べられないのね」
「いやいや、部長が先生に見つめられて照れたからじゃない」
「そうよね、部長はマジ照れしてたよね」
冷静を装っていた部長はあっさり他の部員たちに見抜かれていて、顔を赤らめながらフォークを振り回していた。
パウンドケーキは見た目だけではなく味も良かった。
ややあっさりした味わいの生地と甘いホイップクリームが絶妙にマッチしていた。
味の感想を素直に伝えると部長は勝ち誇ったように喜んでいた。
他の部員たちもフォークを持ち出して僕に対して餌付けするような勢いで食べさせてくれていた。
そんなタイミングを見計らったかのようにソフィアさんは家庭科室の扉を開いた。
「良い匂いがしていると思ったら、マサ君先生だけずるい」
怒っているソフィアさんはじっとケーキを見つめていた。
部長さんが持っていたフォークをソフィアさんに渡すと、他の部員が新しく持ってきたケーキを受け取り一口食べていた。
「美味しい~。この味ならお店で売っててもおかしくないわ。マサ君先生の分も私が食べたいくらい」
それを聞いた部員たちは、奥の棚からクッキーやマカロンなどを取り出して次々とソフィアさんの口に入れていった。
外国人特有のリアクションで絶賛されたお菓子たちはあっという間にソフィアさんの体の中へと吸収されていった。
「こんなに美味しいお菓子はイギリスでも食べたこと無かったわ。お茶にも合いそうだし紅茶にも合いそうだし、お菓子作りの天才集団ね」
僕はケーキしか食べていなかったけど、美味しかったから満足しておこう。
ソフィアさんは家庭科部の部員達ともすでに打ち解け合っていて、また試食に来る約束を取り付けていた。
僕は皿を洗っている部長さんのもとへ近づいて行った。
「僕も他のお菓子の試食に協力するよ」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる