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疑似恋愛の章
恋人にはなれない二人
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アレから一か月ほど経ったのだが、時々昼休みに美桜ちゃんが昌晃君を尋ねてくるようになっていた。昌晃君も愛華さんも今まで通りで何も変わってはいないのだけれど、以前よりも二人でいる時間が増えているような気がしていた。昌晃君と愛華さんが二人でいる時間が増えた事で飛鳥君が一人でいる時間が増えてしまっていたのだが、美桜ちゃんと一緒に遊びに来ていた璃々が飛鳥君と仲良くなっていった事で誰かが一人になる時間というものも無くなっていた。
「璃々さんって本当に優しいですよね。もしかしたら、優しさだけじゃなくて恋心とかもあったりするんですかね」
「どうだろうね。璃々から飛鳥君の話題が出た事って無いからさ、好きなのかどうかもわからないよね。フランソワーズさん達はどう思うのかな?」
「さあ、私達に聞かれてもわからないですね。外から見ている限りですが、璃々さんが飛鳥さんと話をしている時の表情は旦那様たちと話している時と全く変わらないと思いますよ。旦那様たちの事を璃々さんが愛しているという事でしたらわかりませんが、今の感じですと恋愛感情はないような気がしていますね。将浩さんは璃々さんを飛鳥さんにとられてしまうって思ってるんでしょうか?」
「そんなつもりではないけどさ、璃々が高校生になったらそういう相手も出来たりするのかなって思っちゃうんだよね」
「恋愛でしたら中学生でも出来ると思いますよ。ほら、昌晃さんに対する美桜さんの態度を見ていれば好きになるのに年齢なんて関係ないってわかるんじゃないですかね」
「まあ、好きになるのは自由だもんね」
昌晃君は何かを警戒しているのかわからないが、美桜ちゃんと二人っきりになるのだけは避けているようだった。あれだけアピールしてきている女の子をそれとなく避けているのは美桜ちゃんが忍者で普通の人ではないという事が関係しているのだろうか。おそらく、それは避けられる理由ではないのだろう。どちらかと言えば、昌晃君が誰かと付き合う事で愛華さんとの関係が今まで通りではなく変化してしまうという事に恐れているように思えた。
「昌晃君が美桜ちゃんと仲良くしているのを見て愛華さんはどんな気持ちなんだろう」
「さあ、それこそ本人に聞いてみないとわからないんじゃないでしょうかね。私はそんな経験をしたことが無いのでわかりませんが、愛華さんが昌晃さんの事を好きだと思うんでしたら複雑な心境なんじゃないですかね」
「さすがにアレだけ一緒にいて嫌いってことは無いと思うけどさ、好きではないって可能性もあるって思うのかな?」
「どうでしょうね。それも聞いてみないとわからないと思うのですが、私が見た限りでは愛華さんも昌晃さんの事を好きだとお思いますし、昌晃さんも愛華さんの事が好きなんだと思いますよ。ただ、二人ともその思いを伝えるのは苦手なようでして、自分の気持ちに素直になれる時が来たらみんな幸せな気持ちになるんじゃないかなって思いますよ」
「そういう綾乃は好きな人と書いたりするのかな?」
「私ですか。私は強くお慕いしている人は特にいないですよ。好きだという点で言えば、恋愛感情を抜きにしてお兄様の事も昌晃さんの事も好きですよ。お兄様に比べると将浩さんの方が異性として見ている部分もあると思いますが、他の方が思っているような恋愛感情ではないですね。そういう将浩さんは誰か好きな人がいらっしゃるんですか?」
「俺も特別そういう人はいないかもな。恋愛感情で誰かを見るって事が苦手ってのもあるんだろうけど、何となく今はそういう気分じゃないんだよな。みんなを好きな気持ちはあるんだけどさ、誰か一人だけ特別ってのは無いかも」
「何だ、そうなんですね。私の事を好きになってもいいんですよ」
普段はあまり冗談を言わない綾乃がそんな事を言ったのだから驚いてしまったのだが、それは冗談だったという事に遅れて気が付いてしまい、少し恥ずかしくなってしまった。綾乃は俺の目をじっと見つめて何かを企んでいるようにも見えたのだが、それに付き合輪ずに別の事をしてしまおうと思った。あまりこの話を長引かせてしまうと後で大変そうだと思ったからだ。
璃々と楽しそうに話している飛鳥君は話の途中だったと思うのだが、俺の方をじっと見て手招きしてきた。俺の近くには誰もいないし目も合っているので俺を呼んだという事は間違いないと思うのだが、璃々の事で俺に何か確認でもしようとしているのだろうか。あまり変なことではないといいなと思いながら飛鳥君の席へと近付いていった。
「昌晃によく会いに来ているあの女だが、忍者というのは本当なのか?」
「本当だと思うよ。でも、俺が知っているのは物凄く速く動けて人の死角に入るのが上手だって事かな。何か忍者らしいことをしているところを見たわけじゃないけどね」
「将浩の妹と同じことを言っているから信用できそうだな。吾輩も忍者らしい動きを見てみたいんだが、何か投げつけてみたらわかるかな?」
「いや、さすがにそれはやめた方がいいと思うよ。美桜ちゃんがそれを察知して避けたとしてもさ、昌晃君か近くにいる人に当たるだけだと思うよ。普通は何かわからないものが飛んできてもそれを受取ろうとは思わないでしょ。普通に避けて昌晃君か近くにいる真弓さんに当たって怒られるだけだと思うよ」
「その可能性は高そうだな。でも、どうしてあの二人はあんなに仲良さそうに見えるのに付き合ったりしないんだろうな。昔の女の事なんて忘れてあれだけアピールしてくる女に乗り換えても罰は当たらないと思うのだがな」
「お兄ちゃんも飛鳥さんも何もわかってないんだね。美桜ちゃんは昌晃さんと付き合いたいって本気で思ってはいないんだよ。そりゃ、付き合えることになったら嬉しいんだとは思うけどさ、その為には乗り越えなくちゃいけない障害があるんだよ。お兄ちゃんも飛鳥さんもそれは知らないと思うけど、それはどこよりも高い壁だと思うんだ」
璃々が言っていた高い壁というものは綾乃も伸一さんも知っていた。それとなく聞いてみてわかったことなのだが、美桜ちゃんには生まれたころから決まっている許嫁がいるそうだ。美桜ちゃん自身もご両親もそんな事を気にせずに自由に恋愛をしていきたいと思っているようなのだが、家同士が決めた事なので仕方ないと思っているところもあるようなのだ。
「俺にはそう言った話は遠い世界のようにも思えるけどさ、綾乃とかはそういう話がきたりしてないの?」
「私のもとにもそう言ったお話はきているみたいなんですが、お父様とおじい様が全て断っているみたいですね。私が独身のまま年を重ねていけばそう言った話に乗ることもあると思いますが、私の場合はお兄様が家督を継ぐことになると思うので多少は気楽に考えられるのかもしれないですね。美桜さんはご兄弟がいるのか存じ上げませんが、あの感じですと他にご兄弟はいないような気もしますよね」
「美桜ちゃんは年の離れた兄がいるって言ってたよ。どれくらい離れているのかわからないけど、遊んでもらったことを嬉しかったって言ってたからな。そう考えると、美桜ちゃんのところはいい感じの関係性が出来ているのかもしれないね。私は何度か美桜ちゃんの家に遊びに行ったことがあるんだけど、その時は誰も家にいなかったよ」
美桜ちゃんの家に璃々が遊びに行ったことがあるのは知っていたが、家の人に挨拶をしようとしても誰もいないのでは仕方ない。そんな事を言っていたような気がしたのだ。今になって思えば、あの時話していた誰もいない家に遊びに行った話は美桜ちゃんの家に璃々が遊びに行った時の話だったというわけなのだ。
「璃々が知っていることで重要そうなことは後でまとめておくね。その方が二人もわかりやすくていいでしょ。でも、璃々だけの視点だから正しいのかはわからないけどね」
「それでも璃々が見たことを教えてくれるなら助かるよ。俺も綾乃も美桜ちゃんの事は何にも知らないからね」
こうして美桜ちゃんにふりかかっている災いを一つ一つ振り払っていきたいと思ったのだが、璃々は俺も参加するという事があまり喜ばしくないようだ。
俺はその秘密を知らない方がいいと言われているような気がしていたのだが、どんな秘密なのか知りたいと思っていた。家族みんなが忍者なのか、美桜ちゃんだけが忍者なのか、それだけでも知りたいと思ってしまったのだ。
「璃々さんって本当に優しいですよね。もしかしたら、優しさだけじゃなくて恋心とかもあったりするんですかね」
「どうだろうね。璃々から飛鳥君の話題が出た事って無いからさ、好きなのかどうかもわからないよね。フランソワーズさん達はどう思うのかな?」
「さあ、私達に聞かれてもわからないですね。外から見ている限りですが、璃々さんが飛鳥さんと話をしている時の表情は旦那様たちと話している時と全く変わらないと思いますよ。旦那様たちの事を璃々さんが愛しているという事でしたらわかりませんが、今の感じですと恋愛感情はないような気がしていますね。将浩さんは璃々さんを飛鳥さんにとられてしまうって思ってるんでしょうか?」
「そんなつもりではないけどさ、璃々が高校生になったらそういう相手も出来たりするのかなって思っちゃうんだよね」
「恋愛でしたら中学生でも出来ると思いますよ。ほら、昌晃さんに対する美桜さんの態度を見ていれば好きになるのに年齢なんて関係ないってわかるんじゃないですかね」
「まあ、好きになるのは自由だもんね」
昌晃君は何かを警戒しているのかわからないが、美桜ちゃんと二人っきりになるのだけは避けているようだった。あれだけアピールしてきている女の子をそれとなく避けているのは美桜ちゃんが忍者で普通の人ではないという事が関係しているのだろうか。おそらく、それは避けられる理由ではないのだろう。どちらかと言えば、昌晃君が誰かと付き合う事で愛華さんとの関係が今まで通りではなく変化してしまうという事に恐れているように思えた。
「昌晃君が美桜ちゃんと仲良くしているのを見て愛華さんはどんな気持ちなんだろう」
「さあ、それこそ本人に聞いてみないとわからないんじゃないでしょうかね。私はそんな経験をしたことが無いのでわかりませんが、愛華さんが昌晃さんの事を好きだと思うんでしたら複雑な心境なんじゃないですかね」
「さすがにアレだけ一緒にいて嫌いってことは無いと思うけどさ、好きではないって可能性もあるって思うのかな?」
「どうでしょうね。それも聞いてみないとわからないと思うのですが、私が見た限りでは愛華さんも昌晃さんの事を好きだとお思いますし、昌晃さんも愛華さんの事が好きなんだと思いますよ。ただ、二人ともその思いを伝えるのは苦手なようでして、自分の気持ちに素直になれる時が来たらみんな幸せな気持ちになるんじゃないかなって思いますよ」
「そういう綾乃は好きな人と書いたりするのかな?」
「私ですか。私は強くお慕いしている人は特にいないですよ。好きだという点で言えば、恋愛感情を抜きにしてお兄様の事も昌晃さんの事も好きですよ。お兄様に比べると将浩さんの方が異性として見ている部分もあると思いますが、他の方が思っているような恋愛感情ではないですね。そういう将浩さんは誰か好きな人がいらっしゃるんですか?」
「俺も特別そういう人はいないかもな。恋愛感情で誰かを見るって事が苦手ってのもあるんだろうけど、何となく今はそういう気分じゃないんだよな。みんなを好きな気持ちはあるんだけどさ、誰か一人だけ特別ってのは無いかも」
「何だ、そうなんですね。私の事を好きになってもいいんですよ」
普段はあまり冗談を言わない綾乃がそんな事を言ったのだから驚いてしまったのだが、それは冗談だったという事に遅れて気が付いてしまい、少し恥ずかしくなってしまった。綾乃は俺の目をじっと見つめて何かを企んでいるようにも見えたのだが、それに付き合輪ずに別の事をしてしまおうと思った。あまりこの話を長引かせてしまうと後で大変そうだと思ったからだ。
璃々と楽しそうに話している飛鳥君は話の途中だったと思うのだが、俺の方をじっと見て手招きしてきた。俺の近くには誰もいないし目も合っているので俺を呼んだという事は間違いないと思うのだが、璃々の事で俺に何か確認でもしようとしているのだろうか。あまり変なことではないといいなと思いながら飛鳥君の席へと近付いていった。
「昌晃によく会いに来ているあの女だが、忍者というのは本当なのか?」
「本当だと思うよ。でも、俺が知っているのは物凄く速く動けて人の死角に入るのが上手だって事かな。何か忍者らしいことをしているところを見たわけじゃないけどね」
「将浩の妹と同じことを言っているから信用できそうだな。吾輩も忍者らしい動きを見てみたいんだが、何か投げつけてみたらわかるかな?」
「いや、さすがにそれはやめた方がいいと思うよ。美桜ちゃんがそれを察知して避けたとしてもさ、昌晃君か近くにいる人に当たるだけだと思うよ。普通は何かわからないものが飛んできてもそれを受取ろうとは思わないでしょ。普通に避けて昌晃君か近くにいる真弓さんに当たって怒られるだけだと思うよ」
「その可能性は高そうだな。でも、どうしてあの二人はあんなに仲良さそうに見えるのに付き合ったりしないんだろうな。昔の女の事なんて忘れてあれだけアピールしてくる女に乗り換えても罰は当たらないと思うのだがな」
「お兄ちゃんも飛鳥さんも何もわかってないんだね。美桜ちゃんは昌晃さんと付き合いたいって本気で思ってはいないんだよ。そりゃ、付き合えることになったら嬉しいんだとは思うけどさ、その為には乗り越えなくちゃいけない障害があるんだよ。お兄ちゃんも飛鳥さんもそれは知らないと思うけど、それはどこよりも高い壁だと思うんだ」
璃々が言っていた高い壁というものは綾乃も伸一さんも知っていた。それとなく聞いてみてわかったことなのだが、美桜ちゃんには生まれたころから決まっている許嫁がいるそうだ。美桜ちゃん自身もご両親もそんな事を気にせずに自由に恋愛をしていきたいと思っているようなのだが、家同士が決めた事なので仕方ないと思っているところもあるようなのだ。
「俺にはそう言った話は遠い世界のようにも思えるけどさ、綾乃とかはそういう話がきたりしてないの?」
「私のもとにもそう言ったお話はきているみたいなんですが、お父様とおじい様が全て断っているみたいですね。私が独身のまま年を重ねていけばそう言った話に乗ることもあると思いますが、私の場合はお兄様が家督を継ぐことになると思うので多少は気楽に考えられるのかもしれないですね。美桜さんはご兄弟がいるのか存じ上げませんが、あの感じですと他にご兄弟はいないような気もしますよね」
「美桜ちゃんは年の離れた兄がいるって言ってたよ。どれくらい離れているのかわからないけど、遊んでもらったことを嬉しかったって言ってたからな。そう考えると、美桜ちゃんのところはいい感じの関係性が出来ているのかもしれないね。私は何度か美桜ちゃんの家に遊びに行ったことがあるんだけど、その時は誰も家にいなかったよ」
美桜ちゃんの家に璃々が遊びに行ったことがあるのは知っていたが、家の人に挨拶をしようとしても誰もいないのでは仕方ない。そんな事を言っていたような気がしたのだ。今になって思えば、あの時話していた誰もいない家に遊びに行った話は美桜ちゃんの家に璃々が遊びに行った時の話だったというわけなのだ。
「璃々が知っていることで重要そうなことは後でまとめておくね。その方が二人もわかりやすくていいでしょ。でも、璃々だけの視点だから正しいのかはわからないけどね」
「それでも璃々が見たことを教えてくれるなら助かるよ。俺も綾乃も美桜ちゃんの事は何にも知らないからね」
こうして美桜ちゃんにふりかかっている災いを一つ一つ振り払っていきたいと思ったのだが、璃々は俺も参加するという事があまり喜ばしくないようだ。
俺はその秘密を知らない方がいいと言われているような気がしていたのだが、どんな秘密なのか知りたいと思っていた。家族みんなが忍者なのか、美桜ちゃんだけが忍者なのか、それだけでも知りたいと思ってしまったのだ。
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