天才たちとお嬢様

釧路太郎

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疑似恋愛の章

愛華さんの思い

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 綾乃の部屋に呼ばれて行ってみると、そこには愛華さんと璃々がいた。二人は綾乃の部屋にある漫画の量に度肝を抜かれていたようなのだが、町の小さな本屋さんくらいの量があるのでソレも無理はないだろう。
 出版社や作者ごと綺麗に並べられている様子はまさに本屋さんのようでもあるのだが、俺が持っている本はなぜか綾乃の部屋にはなかったのだ。たまたまそういう事もあるのかなと思っていたのだけれど、今アニメをやっているような人気の漫画も無いので偶然とは思えなかった。
「それにしても凄い量の漫画だね。これだけ集めるのも大変だろうけど、読むのも大変だろうね」
「そんなことは無いですよ。集めるのだってお兄様とお父様が買ってきてくれてるだけですし、読むのだって貰ったその日に全部読んじゃいますからね」
「そうなんだ。でも今話題になってるやつはないんだね。アニメ見て手続きが気になったから見てみたかったな」
「愛華さんがお探しの漫画でしたら、将浩さんがお持ちだと思いますよ。あとで将浩さんの部屋に行って読みましょうか」
「将浩君がもってるんだ。でも、部屋に行くのはやめておこうかな。何となく男子の部屋に行くのって抵抗あるからさ」
「そんな事気にしなくても良いのに。お兄ちゃんの部屋って思ってるよりも綺麗で片付いてるんだよ。何故かこの部屋より広い部屋を借りてるんだけど、広すぎてものがあってもごちゃごちゃ感が無いんだよね。璃々の部屋も広いんだけど、あまりにも広すぎて慣れるまでしばらくかかったもん」
 その後も漫画談義は続いていたのだが、俺がここに呼ばれた理由がさっぱりわからないままだった。何が目的だったのかわからないけれど、とにかく時間はゆっくりと過ぎていっていた。
「そうそう、将浩さんに来ていただいた理由を説明しないといけないですね。単刀直入にお尋ねしますが、将浩さんは昌晃さんと恋バナってしたりしてますか?」
 俺は誰かと恋バナなんてしたことは無いな。たまに正樹君とみさきさんののろけ話を聞くくらいでそう言った話をしたことも聞いたことも無いと思う。
「いや、したことは無いかも。誰かとそんな話をした記憶も無いしね」
「そうなんですね。ところで、将浩さんは愛華さんと昌晃さんの事をどう思っていますか?」
「え、二人とも仲良しで大体一緒にいるなって思ってるけど。それがどうかしたの?」
「私も将浩さんと同じことを思ってたんですけど、愛華さんは昌晃さんとそこまで打ち解けているというわけではないみたいなんですよ。夢の中ではよく会っていたそうなんですが、ハッキリと覚えていることはあまりないみたいなんですよ。昌晃さんはハッキリと覚えているらしいのですが、それってどう思いますか?」
 俺はこの前昌晃君から聞いた話を思い出していた。

「つまり、愛華さんと昌晃さんは他の世界で何度も一緒に過ごしていたという事なんですね。それで、昌晃さんはその事をはっきりと覚えてるにもかかわらず、愛華さんはほとんど覚えていないという事なんですね。二年生の天樹さん達に襲われた際も昌晃さんは戦闘に立って戦っていたのもそういう事だったんですね。愛華さんも何となく戦っていたことを覚えていて前に出ていたという事ですか。中々に難しい話ですね」
 にわかには信じがたいことではあると思うが、飛鳥君の例もあるので受け入れることは出来たと思う。飛鳥君が本当に元魔王なのかは置いておいても、昌晃君と愛華さんが同じ夢を見ていて、その世界を共有していたという事は真実なのだろう。
「でも、私が昌晃君と一緒に冒険してたんだとしてもさ、昌晃君の話だと何度も何度も交互に死んでたって事でしょ。それって、あんまり嬉しいことじゃないよね。もしかしたら、今も仲良くすることでどちらかが死んじゃうことだってあるんだろうし。そうなるんだとしたら、あんまり仲良くするのは良くないのかも」
 愛華さんはハッキリと覚えていないのに対して昌晃君はさっき見てきた事のように覚えているという事なのだが、その違いはいったい何なのだろう。ハッキリとは覚えていなくても戦っていたころの記憶がうっすらと残っていたからこそ天樹透が連れてきた男たちと戦うことが出来たのだと思う。
「璃々はよくわかってないんだけどさ、お兄ちゃんは愛華さんと昌晃さんお話って信じてるの?」
「うん、信じているよ。飛鳥君の話もそうだけど、実際にそうだったのかはわからないけど、そうだったんじゃないかなって思う事はあるよね。さっきの話と同じになっちゃうけどさ、天樹透が襲ってきたときにフランソワーズさん達と一緒に二人は戦ってたじゃない。俺も飛鳥君も正樹君も戦おうと思えば戦えたと思うんだけど、三人とも目に見える怪我を負ってたからね。昌晃君もそれは一緒だったと思っただけど、制服に少し汚れがついている以外は怪我も無くて殴られていたのに鼻血も止まってたもんね。それってさ、何か不思議な力で治ってたって事なんじゃないかな」
「それなんだけど、私もよくわからないけど、昌晃が怪我していると思ってさすっていたら少しづつ怪我も治ってたんだよね。私にこんな不思議な力があるのかなと思ってこの前転んで出来た擦り傷を治そうと思っても、それは治らなかったんだ。その時は不思議な力を貰ったのかなって思ったんだけど、たまたまそうなっただけだったのかも」

「私はね、昌晃の事は良いやつだなって思ってるよ。一緒にいて気を使ったりしないし楽しく過ごせているしね。それとは別にさ、私も恋愛をしてみたいなって思うんだ。昌晃がどう思ってるかわからないけど、私は他の子と恋愛をしてみたいって思う事が多くなってきたかも。ワガママかもしれないけどさ、他の男の子と仲良くなることで昌晃の事を今よりも深く知れるようになるんじゃないかなって思ったりもしているんだけど、それってワガママになるのかな」
「そんな事ないと思いますよ。璃々は別に好きな人欲しいとか思ったりもしないですけど、恋人が欲しいって思う気持ちは分かります。愛華さんは可愛いんだしほっといても誰かから声もかけられると思いますけど、変な人には引っかからないように気を付けてくださいね。その辺の極意はフランソワーズさん達に聞くとわかるかもしれないですよ」
「なんでフランソワーズさん達なの?」
「だって、あの人達って、そういうのもプロっぽいじゃないですか。三人とも美人だし、言い寄ってくる男もたくさんいるとおみますもん。ね、綾乃さんもそう思いますよね」
「そうですね。フランソワーズたちはどこに行ってもモテていると思いますよ。私が見ているだけでも何度も声をかけられている姿を見てますからね。私の知らないところではそれ以上にもっと多くの人から声をかけられているじゃないかと思いますよ」
「それだといろんな人を見てそうだね。どんな人が良いのか今度聞いてみようかな。でも、あんまり話したことも無いのにいきなりそんな話をしても大丈夫なのかな」
「大丈夫だと思いますよ。あとで私の方からも伝えておきますからね」
 結局のところ、俺がここに呼ばれたのは何か意味があったようで何も無かったような気もする。それでも、昌晃君と愛華さんの事を少し知れたのは良いことだと思った。
 二人の記憶に齟齬があるのはどういう理由なのかわからないけれど、昌晃君の方が愛華さんの事を強く思っていたからこそ覚えていたのではないかと思っている。愛華さんもそれなりに昌晃君の事を思ってはいるようなのだが、今の感じだと二人がどうこうするというともなく、別に道を進んでいきそうな予感はしていた。
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