天才たちとお嬢様

釧路太郎

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集団暴行事件編

人違いですけど別にいいですよね

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 あれだけいた男たちの誰もがフランソワーズさんに触れることも出来ずに敗れていった。凶器を手にした男たちは味方を傷つけてはいけないと思ったのか順番を守ってフランソワーズさんに襲い掛かっていたのだが、図らずもフランソワーズさんと一対一の場面を作ったという事もあって次々に撃破されて言ったのであった。
「あともう三人しかいないけどまだ続ける?」
「辞めるって言ったらどうするんだ。お前たちはこのまま黙って帰るっていうのか?」
「うん、黙って帰るよ。別に私達は劉輝を探してたわけじゃないんでどうでもいいことだし」
「さすがに人違いでこんな目に遭わされたんじゃやられたやつに申し訳が立たないんだわ。悪いけどさ、俺とタイマンで勝負してくれ。それで俺が負けたら黙って帰ってもらって大丈夫だ」
「劉輝の隣にいる二人も一緒に向かってきていいんだよ。その方が勝てるかもしれないでしょ」
「よく言うぜ。お前相手に複数人同時に挑むなんて自殺行為だろ。今の状況でも触れる事すら出来ないっていうのによ、二人同時に行っちまったら死んじゃうかもしれないだろ」
「そんな事ないと思うけどな。でも、二人同時だったら私は手加減なんて出来ないと思うしね」
「それによ、もうそろそろ宇佐美さんが迎えに来る頃だろ。宇佐美さんまでそっちに加わったら今気絶してる奴らが奇絶じゃすまなくなるかもしれないって事だしな。さすがにそこまで俺もバカじゃないんだ」
「わかってるんならいいけどさ。さっさと始めちゃおうか。宇佐美さんがここに入ってくる前に決着つけたいし。もう一度言うけどさ、人違いしちゃったのは私だけど、別に気にしなくてもいいからね」

 それまでとはうって変わってフランソワーズさんと劉輝の戦いは一瞬も目を離せないような息をのむ攻防が繰り広げられていた。フランソワーズさんは劉輝が攻撃してきた方へ体を動かしてかわしているのだが、その事を呼んでいた劉輝はさらに追い詰めるように攻撃をしていたのだが、気合の入ったその一撃は空振りしていたのである。
 劉輝のすぐそばにいた男二人は戦いの邪魔にならないように気絶している人をどんどん壁側に移していたりしているようだ。その事もあってか、劉輝の行動は今までにないくらいフランソワーズさんを追い詰めているように見えるのだが、繰り出されている攻撃は一度もフランソワーズさんに当たることは無かったのである。
「お前の勘違いによる人違いで俺らは死にかけているようなもんなんだが、俺はこれからいったいどうすればいいんだと思う?」
「さあ、お好きにしていただけたらいいと思いますよ。ここで諦めて私達を外へ出してくれるんでしたら何も言いませんが、そんな事はしようなんて考えてないですよね?」
「もちろん。こうなることは分かってたんで最初から俺が出ていればまた何か違ったようにも思えるのだけれど、それはもうどうしようもない事なんだよな。だから、俺はこれから本気も本気、完成された力ってやつを見せてやるよ」
 劉輝は服を脱ぎ捨てて手に持っていたナイフをフランソワーズさんに向けて投げつけてきたのだ。そのナイフもフランソワーズさんに触れることが無かったのだが、投げつけられたナイフがフランソワーズさんの後ろにある木箱に刺さるよりも早くフランソワーズさんの拳が劉輝のみぞおちあたりにめり込んでいたのだ。
 今現在世界で一番苦しんでいるのはフランソワーズさんの一撃が完全にボディに決まってしまった劉輝だと思うのだが、劉輝は呻き声を出しながらもその場に立ち続けていたのだ。呼吸が出来なくなっているのかもしれないと思うくらい顔色も悪くなっていて小刻みに痙攣しているようなのだが、俺はその様子を階段に立って眺めていることしか出来ずにいたのだ。
「人違いをしてしまったのは私が全面的に悪いと思うのですが、こうして人数を集めてしまったのは劉輝の罪でもあるんですよね。そうそう、私は別に警察も救急車も呼ぶつもりはないですから安心してくださいね。劉鵬の居場所を知っているんだったら教えて欲しいのですが、今の状況だと少し難しそうですね。なので、私は帰ったら色々と調査をして劉鵬の居場所をつきとめたいと思いますよ。その時はぜひ協力してくださいね」

 宇佐美さんの運転する車はここへ来た道とまるっきりと同じ道を通っていた。他の道を通った方が距離も近くなって良さそうだとは思ったのだが、なぜか宇佐美さんの運転する車は来た道と同じ道を通っていたのだ。
 神谷家に到着するまでの間に聞きたいことはたくさんあったのだが、宇佐美さんもフランソワーズさんも一言も言葉を交わすことも無かったので俺も無言のまま外を流れる景色をぼんやりと見つめていた。それなりに人は出歩いているようなのだが、道行く人は皆何かを隠しているように感じるのは前に座っている二人と同じ表情をしている人が多いからだったのかもしれない。
 フランソワーズさんの言った「人違いでも気にしなくていい」という言葉がどうしてそういう言い方になったのか気になっていた。普通であれば、人違いをしてしまったのだが私は気にしないと言った感じになると思うのだが、フランソワーズさんの言い方だと人違いをされてしまった劉輝に気にするなと言っているように思えたのだ。自分が悪いとは思っているけど、お前はそれを気にするなと言っているように感じたのだが、言われた側の劉輝もその言葉に納得していたように見えたのは謎だった。
「今から帰ったら晩御飯には間に合いそうですね。宇佐美さんは今日の献立聞いてますか?」
「いえ、何も聞いてませんよ。私は邦宏さんの料理を楽しみしてますし、どんな料理が出てくるのかも気になってますからね」
 神谷家が見えてくると前に座っている二人もいつものような感じに戻っていたのだが、俺にはそれが本当にいつも通りに自然な会話なのか、俺を騙すために行っていた事なのかわからなくなっていた。
「そうだ、将浩さんには一つお願いがるんですよ。ご飯を食べ終わった後でもいいんだけど、今日あの場にいた人の絵を描いてもらってもいいですか?」
「それくらいならいいですけど、暗かったからちゃんと顔を見てない人もいるんで頑張ります」
「お願いしますね。出来るだけで良いんでいつもみたいに正確にお願いしますね」
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