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集団暴行事件編
危険な出会い
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誰かが襲われたとしても自分の知らない人であればかわいそうだとは思っていても実感はそこまで無いしどこか他人事のように考えていたのだが、俺達のクラスで被害者が出たという事で今までどこか他の国の出来事のように考えていた事件がとても身近なものになってしまったのだ。
昌晃君はコンビニの帰りにバイクに乗った集団に囲まれて財布を盗られたそうなのだが、幸いなことに巡回中のパトカーが通りかかったことで大きな怪我などはせずにこうして登校してくることも出来たのだ。
「本当に運が良かったと思うよ。財布を盗まれたのは痛かったけどさ、殴られたりしなかったのはラッキーだって思っちゃったな」
「怪我が無くて何よりだが、犯人の顔は見たの?」
「それがさ、ヘルメットを着けてて顔が見えないやつだったからどんな顔かわからなかったんだよ。警察の人も近くで顔を見たのにヘルメットの中が見えなかったって言ってたんだよな。今にして思えばさ、ヘルメットの中でも何か被ってたような気がするんだよ」
「そうなんだ。犯人は顔を見られたと思って昌晃君の事を探してたりしてね」
「やめてよね。陽香さんってそう言う怖いことを言うの好きだよね。そうなったら笑えないから。でも、みんなも買い物に行くときは気を付けた方が良いよ。しばらくの間は一人で出歩かない方がいいかもよ」
「いや、普通は出歩かないでしょ。この辺で暴行事件が多発してるって怖すぎて学校以外にどこも行けないって。被害は増えているのに犯人が逮捕されたって話も聞かないし、そんな時に出歩くなんて余程のことがあっても控えるわ」
陽香さんの言うことに基本的には全面的に同意なのだが、昌晃君が外に出たくなるという気持ちも少しだけ理解出来た。神谷家にお世話になるまでの俺は狭い家の中にほとんど留まることも無く色々な公園に行っては一人で時間を潰したり萌香と話をしたりしていたのだ。たぶん、昌晃君はコンビニに行く道中で愛華さんと電話でもしていたんだと思うのだが、そんな事をみんなの前で言うことなんて出来ないだろう。愛華さんがいつもみたいに昌晃君の話に乗ってこないのもそう言う理由があるのではないかと思ってみたりした。
その時、教室のドアを開けて今まで見た事のない生徒が数人入ってきた。
「一年のこのクラスにバイクの野郎にカツアゲ食らったやつがいるって聞いたんだけど、そいつはどいつよ?」
いきなり入ってきた男は入口近くに座っているフランソワーズさんに対して高圧的な態度で話しかけてきたのだが、フランソワーズさんはその男に対して全く臆することも無くフランス語で答えていた。
「何を言ってるのかさっぱりわからねえが、このクラスで間違いないって事でいいんだよな。この学校で被害に遭うような奴はいないと思ってたんだけどよ、そんなバカはどこのどいつなんだよ。出てこいって」
昌晃君が偉そうな男の前に出ようとしていたのだが、飛鳥君が昌晃君の肩に手を置いて制止すると、その男の前までゆっくりと進んでいき今にもぶつかるのではないかと思えるくらいに顔を近付けていた。
「お前はいきなりやってきて何を言っているんだ。吾輩の友人に何か用があるというのなら先に名乗ったらどうだ。物を尋ねる前に名乗るというのは礼儀であろう」
「何言ってんだお前。サングラスに白髪頭で随分と偉そうにしているが何なんだ」
「何なんだとは何だ。そうだな、吾輩も貴様に尋ねる前に自分から名乗ることにしようか。吾輩は丸山飛鳥。今はわけ合って普通の人間をしているが、元魔王だ。この髪とサングラスには深い理由があるのだが今はそんな事はどうでも良いだろう」
「お前が元魔王ってやつか。一年坊に変なやつがいるってのは聞いたことがあったけどよ、お前がその変なやつだったのか。一度お前に会ってみたかったんだがよ、今はどうでもいいんだわ。それよりも、白髪魔王のクラスにいるカツアゲ食らったやつってどいつなんだよ。男だってのは聞いてるけど、このクラスにいる男はあと三人しかいないのか。一人ずつ聞いていくのも面倒だし、さっさと名乗り出ろって」
「貴様も名乗れと言っているのだ。名乗ってからここに来た目的を言えば吾輩の友人たちも協力する気になるかもしれんぞ。まずは名乗るとこからはじめたまえ」
「おいおいマジかよ。変な奴だとは聞いてたけど、お前って本当に面白いやつだな」
そう言いながら男たちは何がおかしいのかわからないまま笑っていたのだが、その中の一人が飛鳥君と対峙していた男の横に立って威嚇するように飛鳥君に向かって声を荒げていた。
「このお方はな、天樹透様だ。本来であればお前みたいな変人が会話することも出来ないようなお方だぞ。そこをわきまえてモノを言えよ。このカスが」
「カスとは何だカスとは。お前は自分の名も名乗れるぬような人間なのか。何者かは知らんが器が小さい男だな。そんな男が何の用か言ってみろ。吾輩が代わりに聞いてやるわ」
「器が小さいとはなんだお前は。元魔王だか何だか知らないがな、透様の前で態度がデカいんだよ。バカみたいなこと言ってないでさっさと教えろ」
「嫌だね。そんな態度のやつには教えてやるもんか。吾輩は仲間を大切に思うがゆえに貴様らのような得体のしれぬ者に教えることなど無いわ。さっさと目的を言わぬか」
その後もしばらくは似たようなやり取りが続いていたのだが、見かねた天樹透が飛鳥君と言い合っていた男を後ろに下げてここにやってきた目的を説明しだした。
「お前みたいなバカは今まで見たことが無かったぞ。そんな偉そうにしてるといつか罰が当たるぞ」
「それは貴様らにも言えることだろ。ほら、早くここに来た目的を言え」
「まあいいや、いつまでもこんな無駄なやり取りをしていてもしょうがないしさっさと目的を済ませて帰ることにするか。バイクの野郎にカツアゲにあったやつはバイク野郎の顔を見たのかどうか聞きに来たんだよ」
「なんだそんな事か。そんな事くらいならさっさと聞けばよかろうに。吾輩がさっきお前と同じことを聞いてみたのだが、中の見づらいヘルメットなのにもかかわらず覆面もつけていたようで顔は見ていないそうだ。それがどうかしたのか?」
「別にどうもしねえよ。バイク野郎の顔を見たって言うんだったらそいつを探し出してボコボコにしてやろうかと思っただけだ」
「もしかして、お前は吾輩の友人のために悪に立ち向かおうとしてたのか?」
「そんなんじゃねえよ。顔を見てないんって言うんだったら用はない。さっさと帰るぞ」
天樹透が教室から出て行くとソレについて行くように入ってきた生徒達は皆俺達の教室から出て行った。昼休みはもう残りわずかとなっていたのだが、俺はあの天樹透という男が何者なのか気になっていたのだ。
「将浩さんは天樹透が何者なのか気になってるんですよね。よろしければ簡単にどんな人物か説明しましょうか?」
「フランソワーズさんはあの男の事を知ってるんですか?」
「はい、それなりには存じております」
フランソワーズさんの説明では、天樹透という男は俺達の一学年上の二年生であり天樹グループ会長の一人息子だそうだ。天樹グループは不動産業を中心として金融やレジャー産業をおこなっている大企業だという事だ。フランソワーズさんの話によると表の綺麗なところだけではなく裏の汚れた仕事も行っているそうなのだが、神谷家にはない裏社会との繋がりという点が脅威になりえるかもという話だそうだ。
「これはまだ確証は得られていないのですが、天樹透という男は最近起こっている暴行事件に関わりがあるのではないかと思っているのです」
「それって、あの人が主犯だってことですか?」
「そうは言ってませんよ。関わりがあるといっても、向こう側ではなく捕まえる側かもしれないですからね。昌晃さんが犯人の顔を目撃していたとなれば、その犯人を捕まえることも出来たと思ってるんじゃないですかね」
「そうだといいんですけど。でも、あの態度を見ているとそうは思えないんですよね」
「言っていて何ですが、私も将浩さんと同じ考えですよ」
俺は天樹透という男が昌晃君を襲った犯人を捕まえようとしているとは思えなかった。何となく嫌な印象を受けたからという漠然とした考えではあったが、とてもではないがいい人には見えなかったのだ。ただ、俺の第一印象はあまりあてにならないのだがね。
昌晃君はコンビニの帰りにバイクに乗った集団に囲まれて財布を盗られたそうなのだが、幸いなことに巡回中のパトカーが通りかかったことで大きな怪我などはせずにこうして登校してくることも出来たのだ。
「本当に運が良かったと思うよ。財布を盗まれたのは痛かったけどさ、殴られたりしなかったのはラッキーだって思っちゃったな」
「怪我が無くて何よりだが、犯人の顔は見たの?」
「それがさ、ヘルメットを着けてて顔が見えないやつだったからどんな顔かわからなかったんだよ。警察の人も近くで顔を見たのにヘルメットの中が見えなかったって言ってたんだよな。今にして思えばさ、ヘルメットの中でも何か被ってたような気がするんだよ」
「そうなんだ。犯人は顔を見られたと思って昌晃君の事を探してたりしてね」
「やめてよね。陽香さんってそう言う怖いことを言うの好きだよね。そうなったら笑えないから。でも、みんなも買い物に行くときは気を付けた方が良いよ。しばらくの間は一人で出歩かない方がいいかもよ」
「いや、普通は出歩かないでしょ。この辺で暴行事件が多発してるって怖すぎて学校以外にどこも行けないって。被害は増えているのに犯人が逮捕されたって話も聞かないし、そんな時に出歩くなんて余程のことがあっても控えるわ」
陽香さんの言うことに基本的には全面的に同意なのだが、昌晃君が外に出たくなるという気持ちも少しだけ理解出来た。神谷家にお世話になるまでの俺は狭い家の中にほとんど留まることも無く色々な公園に行っては一人で時間を潰したり萌香と話をしたりしていたのだ。たぶん、昌晃君はコンビニに行く道中で愛華さんと電話でもしていたんだと思うのだが、そんな事をみんなの前で言うことなんて出来ないだろう。愛華さんがいつもみたいに昌晃君の話に乗ってこないのもそう言う理由があるのではないかと思ってみたりした。
その時、教室のドアを開けて今まで見た事のない生徒が数人入ってきた。
「一年のこのクラスにバイクの野郎にカツアゲ食らったやつがいるって聞いたんだけど、そいつはどいつよ?」
いきなり入ってきた男は入口近くに座っているフランソワーズさんに対して高圧的な態度で話しかけてきたのだが、フランソワーズさんはその男に対して全く臆することも無くフランス語で答えていた。
「何を言ってるのかさっぱりわからねえが、このクラスで間違いないって事でいいんだよな。この学校で被害に遭うような奴はいないと思ってたんだけどよ、そんなバカはどこのどいつなんだよ。出てこいって」
昌晃君が偉そうな男の前に出ようとしていたのだが、飛鳥君が昌晃君の肩に手を置いて制止すると、その男の前までゆっくりと進んでいき今にもぶつかるのではないかと思えるくらいに顔を近付けていた。
「お前はいきなりやってきて何を言っているんだ。吾輩の友人に何か用があるというのなら先に名乗ったらどうだ。物を尋ねる前に名乗るというのは礼儀であろう」
「何言ってんだお前。サングラスに白髪頭で随分と偉そうにしているが何なんだ」
「何なんだとは何だ。そうだな、吾輩も貴様に尋ねる前に自分から名乗ることにしようか。吾輩は丸山飛鳥。今はわけ合って普通の人間をしているが、元魔王だ。この髪とサングラスには深い理由があるのだが今はそんな事はどうでも良いだろう」
「お前が元魔王ってやつか。一年坊に変なやつがいるってのは聞いたことがあったけどよ、お前がその変なやつだったのか。一度お前に会ってみたかったんだがよ、今はどうでもいいんだわ。それよりも、白髪魔王のクラスにいるカツアゲ食らったやつってどいつなんだよ。男だってのは聞いてるけど、このクラスにいる男はあと三人しかいないのか。一人ずつ聞いていくのも面倒だし、さっさと名乗り出ろって」
「貴様も名乗れと言っているのだ。名乗ってからここに来た目的を言えば吾輩の友人たちも協力する気になるかもしれんぞ。まずは名乗るとこからはじめたまえ」
「おいおいマジかよ。変な奴だとは聞いてたけど、お前って本当に面白いやつだな」
そう言いながら男たちは何がおかしいのかわからないまま笑っていたのだが、その中の一人が飛鳥君と対峙していた男の横に立って威嚇するように飛鳥君に向かって声を荒げていた。
「このお方はな、天樹透様だ。本来であればお前みたいな変人が会話することも出来ないようなお方だぞ。そこをわきまえてモノを言えよ。このカスが」
「カスとは何だカスとは。お前は自分の名も名乗れるぬような人間なのか。何者かは知らんが器が小さい男だな。そんな男が何の用か言ってみろ。吾輩が代わりに聞いてやるわ」
「器が小さいとはなんだお前は。元魔王だか何だか知らないがな、透様の前で態度がデカいんだよ。バカみたいなこと言ってないでさっさと教えろ」
「嫌だね。そんな態度のやつには教えてやるもんか。吾輩は仲間を大切に思うがゆえに貴様らのような得体のしれぬ者に教えることなど無いわ。さっさと目的を言わぬか」
その後もしばらくは似たようなやり取りが続いていたのだが、見かねた天樹透が飛鳥君と言い合っていた男を後ろに下げてここにやってきた目的を説明しだした。
「お前みたいなバカは今まで見たことが無かったぞ。そんな偉そうにしてるといつか罰が当たるぞ」
「それは貴様らにも言えることだろ。ほら、早くここに来た目的を言え」
「まあいいや、いつまでもこんな無駄なやり取りをしていてもしょうがないしさっさと目的を済ませて帰ることにするか。バイクの野郎にカツアゲにあったやつはバイク野郎の顔を見たのかどうか聞きに来たんだよ」
「なんだそんな事か。そんな事くらいならさっさと聞けばよかろうに。吾輩がさっきお前と同じことを聞いてみたのだが、中の見づらいヘルメットなのにもかかわらず覆面もつけていたようで顔は見ていないそうだ。それがどうかしたのか?」
「別にどうもしねえよ。バイク野郎の顔を見たって言うんだったらそいつを探し出してボコボコにしてやろうかと思っただけだ」
「もしかして、お前は吾輩の友人のために悪に立ち向かおうとしてたのか?」
「そんなんじゃねえよ。顔を見てないんって言うんだったら用はない。さっさと帰るぞ」
天樹透が教室から出て行くとソレについて行くように入ってきた生徒達は皆俺達の教室から出て行った。昼休みはもう残りわずかとなっていたのだが、俺はあの天樹透という男が何者なのか気になっていたのだ。
「将浩さんは天樹透が何者なのか気になってるんですよね。よろしければ簡単にどんな人物か説明しましょうか?」
「フランソワーズさんはあの男の事を知ってるんですか?」
「はい、それなりには存じております」
フランソワーズさんの説明では、天樹透という男は俺達の一学年上の二年生であり天樹グループ会長の一人息子だそうだ。天樹グループは不動産業を中心として金融やレジャー産業をおこなっている大企業だという事だ。フランソワーズさんの話によると表の綺麗なところだけではなく裏の汚れた仕事も行っているそうなのだが、神谷家にはない裏社会との繋がりという点が脅威になりえるかもという話だそうだ。
「これはまだ確証は得られていないのですが、天樹透という男は最近起こっている暴行事件に関わりがあるのではないかと思っているのです」
「それって、あの人が主犯だってことですか?」
「そうは言ってませんよ。関わりがあるといっても、向こう側ではなく捕まえる側かもしれないですからね。昌晃さんが犯人の顔を目撃していたとなれば、その犯人を捕まえることも出来たと思ってるんじゃないですかね」
「そうだといいんですけど。でも、あの態度を見ているとそうは思えないんですよね」
「言っていて何ですが、私も将浩さんと同じ考えですよ」
俺は天樹透という男が昌晃君を襲った犯人を捕まえようとしているとは思えなかった。何となく嫌な印象を受けたからという漠然とした考えではあったが、とてもではないがいい人には見えなかったのだ。ただ、俺の第一印象はあまりあてにならないのだがね。
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