天才たちとお嬢様

釧路太郎

文字の大きさ
上 下
19 / 68
元魔王奮闘の章

飛鳥君について相談してみた

しおりを挟む
 今までみんなと離れていた席に座っていた飛鳥君が僕の席の二つ隣の空いている場所に座っていた。授業にも真面目に参加して以前のように急にわけのわからないことを言いだしたりすることも無くなっていたので問題は無いはずなのだが、何も問題が無いという事が逆に気になってしまっていた。
 自由に席を移動できるという環境では座る場所も自分の意思を表明するものと考えることが出来ると思うのだが、飛鳥君の席の左右にジェニファーさんとエイリアスさん座り飛鳥君の席のすぐ後ろにフランソワーズさんが座るっていた。誰とも関わりたくないのであれば飛鳥君は授業が始まる前に席を移動すると思っていたのに全ての授業が終わるまでその席から動くことは無かった。ただ、誰とも話をしようとしなかった飛鳥君に話しかけようとするものもいなかったのだ。
「戻ってきてくれたのは嬉しいけどさ、今のままじゃ何も変わらないと思うんだよ。飛鳥君に何があったかみんなも気になるよな。僕は明日飛鳥君に何があったのか聞いてみようと思うんだけど、どう思う?」
 正樹君は飛鳥君に何かあったのかという好奇心ではなく友達として心配していると思うのだが、真っすぐすぎるその思いは今の飛鳥君には重いのではないかと思ってしまった。
「俺も飛鳥君に何があったのか気になるけど、今はこっちから聞きに行かない方がいいと思うんだよ。俺はこの中で一番付き合いは浅いから飛鳥君の事を知っているとは言えないけど、今の姿を見ているとこっちから無理に距離を詰めるのは良くないと思うんだよ。今は少しずつ歩み寄っていって、飛鳥君が自分から言いたくなった時に聞いた方がいいんじゃないかって思うんだけど。でも、正樹君が言うことも間違いではないと思う」
「そうね。正樹君のいう事もわかるし将浩君のいう事もわかるよ。でも、私達が出来ることって何かあるのかな。昌晃君と愛華ちゃんは飛鳥君と一番仲が良いんだし、その辺はどう思うかな?」
「正直に言うと何もわからない。僕も愛華も飛鳥君とは仲の良い方だとは思うけどさ、学校以外で付き合いはないんだよね。学校の中でも進んで一緒に過ごすって感じでもないし、お互いの事はあんまり詳しく知らないんだよ。家がどこにあるのかって話もしたことないし、中学の話も小学校の話もしたことないからさ。ただ、話が合うってだけで本当に仲が良いってわけではないのかもしれない」
「私も昌晃と同じかも。飛鳥君とは話してて面白いなって思うくらいで表面的な付き合いって感じだったかも。もう少しお互いの事を知りあっていれば頼ってくれたんじゃないかなって思うんだけど、今はそれを後悔してももう遅いのよね」
 誰かが悪いというわけではないのだけれど、クラスの中を再び重い空気が包み込んでいた。俺は誰よりも飛鳥君との付き合いが薄いんだと思っていたけれど、仲が良いと思っていた昌晃君も愛華さんも俺達よりも話をしてるくらいの関係でしかないという事だった。だからと言って二人に何かを期待するのも酷だと思うし、正樹君の言う通りに直接聞いてみるのもどうかと思う。
「あの、皆さまがお望みでしたら私達三人で飛鳥さんの身の回りの事を調べますが、いかがいたしましょうか?」
 いつもは一歩引いた立場で見守ってくれているフランソワーズさんが珍しく僕たちに提案をしてくれた。飛鳥君のみの周りを調べると言っても探偵のような事を出来るのだろうか。おそらく、フランソワーズさんもジェニファーさんもエイリアスさんもそう言ったことは出来るのだろう。ただ、それを行うという事は正樹君が明日やろうとしている事よりも飛鳥君を傷付ける可能性が高いような気もするのだ。
「そんなことが出来るんですか?」
 昌晃君は不安げな表所を浮かべたままフランソワーズさんに質問していた。それに対してフランソワーズさんは表情を変えずに答えたのだ。
「まあ、出来ると思いますよ。たぶん、飛鳥さんに気付かれることなく調べることは出来ると思います。ですが、それをする事で飛鳥さんが今よりも心を閉ざす可能性もありますよ。もちろん、飛鳥さんが本当は皆さんに相談したくて言えないだけだったという可能性もありますし、その場合はより早く問題解決へと至る可能性もありますがね。皆さんが良ければ私達でお調べいたしますが、いかがいたしましょうか?」
 俺達はお互いに顔を見合わせていたのだが、その姿はまるで責任を押し付け合うようにも見えてしまった。実際のところ、俺はそんな事をしない方がいいと思っているのだが、飛鳥君が何も教えてくれない以上こちらから調べるのもありなのではないかと思っていたのも事実である。しかし、本当にそんな事をして飛鳥君が喜ぶのだろうかと思う俺もいたのだ。
「僕は飛鳥君の事を調べてもらいたいと思う。これは好奇心から知りたいって事ではなく、友達が無言で助けを求めているからこそ力になりたいって事なんだ。いつも変わってて近づきがたい男ではあるけど、楽しくていいやつだってのはみんなも知ってると思う。そんな飛鳥君が何も言わずにただ黙って授業を受けているのって何か変だと思わないか。今になって思えば、それってもっと自分に話しかけて欲しいという飛鳥君なりのアピールだったんじゃないかと思うんだよ。僕の思い過ごしかも知れないし勘違いかもしれない。でも、飛鳥君はきっと助けてくれってサインを送ってたと思うんだ。だからこそ、僕は飛鳥君に何があったのか出来るだけ調べてもらいたいって思うよ。みんなはどうかな」
 昌晃君はみんなに自分の思いを伝えると愛華さんとしばらく見つめ合ってお互いに頷いていた。それは二人の考えが一緒だというサインだったと思うのだが、それに同調したのは沙緒莉さんと陽香さんと真弓さんだった。
「私達も愛華ちゃんと昌晃君と同じように調べてもらいたいって思う。でも、一人でもそんな事をしたら飛鳥君が傷付くって思ってる人がいれば反対するよ。私達は飛鳥君の事なんて全然理解してないけどさ、クラスメートとして心配はしてるんだよ。愛華ちゃん達みたいに好奇心じゃないって言いきれないところはあるけどさ、それ以上に心配はしてるんだよ。急にわけわからないことを言いだしたり言葉遣いが乱暴だったりすることはあるけどさ、本当は優しい人だってみんな知ってるよね。だから、飛鳥君にとって一番いい方法で力になりたいって思うんだよ。みさきちゃん、綾乃ちゃん、正樹君、将浩君、あなた達はどう思うの?」
「僕もみさきも何か調べてもらえるならそうした方がいいと思うよ。でも、将浩君がさっき言ってたこともわかるんだよね。飛鳥君が自分の弱みを見せたくないって性格なのは知っているけどさ、それと同時に自分の事を何も知られたくないって思ってるのも知ってるんだよ。学校ではあんまり話したことは無いけどさ、家が近くみたいで時々近所で会ったりすることもあるんだよね。立ち話を少しするくらいの関係でしかないんだけど、飛鳥君は自分の事は何も教えてくれなかったんだ。僕が嫌われてるだけだったらそれまでなんだけどさ、会って話をしている時は嬉しそうに笑ってくれてたと思うんだよな。他人と話すのは好きだけど自分のことは出来るだけ話したくないって事なんだと思うんだけど、そう考えるといつもわけのわからないことを言っているのも本当の自分を隠すためなんじゃないかって思えてきたんだよね。みさきはどう思うかな」
「私も大体は同じ考えだよ。でも、正樹と話している時と昌晃君と話している時を比べたらさ、昌晃君と話をしている時の方が素なんじゃないかなって思う。昌晃君と話している時は意味の分からない変な事ばっかりなんだって思うけど、昌晃君と話している時の飛鳥君の方が自然な笑顔が出てるって思うんだよね。だから、私は昌晃君が思う方が正しいと思うかも。こんなのって自分の意見じゃないよね。ごめんね」
「そんな事ないよ。みさきさんの考えはよくわかったよ。綾乃さんと将浩君はどう思うかな。やっぱり調べない方がいいと思うかな?」
 俺と綾乃以外は飛鳥君に何があったか調べてもらう事を希望している。俺も調べてもらった方がいいとは思うんだけど、それをしてしまうと飛鳥君が自分から何も言えなくなってしまうんじゃないかと思ってしまう。俺はそれが一番良くないんじゃないかと思っているのだけれど、みんなの話を聞いていると一概にそうとも言えないんじゃないかと思えてきた。
 俺の考えを皆に言うのは綾乃はどう思っているのか聞いてからでも遅くない。
「綾乃はどう思う?」
「私は皆さんの意見もよく理解出来ますし、理解出来ないところもあります。ですが、私個人の意見として、飛鳥さんに何があったのか知って対策を立ててから飛鳥さんが言い出すのを待っても良いと思ってますよ。とっても卑怯な答えかもしれませんが、こちらから動いても飛鳥さんにそれを悟られないようにするのもありかと思います。他の方にはそんなことは出来ないでしょうが、彼女たちなら苦も無くそれを実践してくれると思うのですが、いかがでしょうか?」
「そうだね。綾乃さんの言う通りだよ。飛鳥君の状況を知ったとしてもソレを本人に伝えなければ飛鳥君にとっては誰も知ってないのと同じことなんだよね。あとで飛鳥君に知られたらもっと怒りそうな気もするけどさ、それが一番いい方法な気がしてきたよ。これだったら将浩君も反対はしないよね?」
 この場にいる全員の視線が俺に集中していた。こんなに注目されたのは転校してきたとき以来だと思うのだけれど、俺はこの視線に耐えてまで反対することなんて出来ない。それに、綾乃が言っているように知ったとしてもソレを言わなければ飛鳥君にとっては知られていないという事と一緒なんじゃないかと思えてきた。
「うん、わかった。綾乃が言う通りに出来るならそれでいいと思う。飛鳥君が自分から話しだすまでみんなも黙っているって言うんだったら、俺は問題無いと思うよ。でも、何があったとしても絶対に俺達から飛鳥君に知っているという事を悟られたらダメだからね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

キャベツの妖精、ぴよこ三兄弟 〜自宅警備員の日々〜

ほしのしずく
キャラ文芸
キャベツの中から生まれたひよこ? たちのほっこりほのぼのLIFEです🐥🐤🐣

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

処理中です...