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元魔王奮闘の章
元魔王終焉
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饒舌とは言い難いが話しかければ何かしらの反応が返ってきていた飛鳥君ではあるが、ここ数日にいたっては先生からの問いかけに対しても返事をすることが出来ずにいた。その姿は魂が抜け落ちた後のようにも見えるのだが、なぜそうなっているのかは誰も知らないし聞くことも出来なかった。
何よりも気になっていたのは、飛鳥君の一人称が吾輩から僕に変わっていたという事なのだ。元魔王であるとか前世の記憶だとか過去の因縁とかはわからないのだが、クラスの中でも一番仲の良い昌晃君が何かあったか尋ねてみても僕たちが期待するような答えは返ってこなかったのだ。
「飛鳥君に何があったのかわからないけど、月曜からずっとあんな感じだから気になるよね。愛華も何かあったか聞きに行ったんだけどさ、何も無いって言うんだよ。あの姿を見て何も無いとは思えないんだけどさ、飛鳥君に何かあったのは間違いないと思うんだよな。僕たちで何か出来ることが無いか先生にも聞いてみようよ」
なぜか先生に聞きに行く役目は俺とフランソワーズさんになったのだが、知らない間に学級長と副学級長に任命されていたのだ。そもそも、俺のクラスにそんな役割があったのも知らなかったし、委員会が開催されていたという事も聞いたことが無かった。俺以外のクラスメイトは皆何かしらの委員になっているのだが、俺は委員では無いかわりに全ての副委員になっていた。俺が転校してくる前に委員は全て決まっていたし副委員もしっかり決まっていたのだが、俺が委員にならない代わりに全ての委員会の副委員になっていたのだ。もちろん、俺の他にも一人ずつ副委員はいるのだが、委員会が重ならない限りは俺が副委員としての役目を全うすることになっていたそうだ。これは初耳だ。
「そう言うわけで、飛鳥君がいつもと違って変なんです。いや、いつも飛鳥君は変だったと思うんですけど、そういう意味ではなく変なんです。先生はその理由をご存じないですか?」
「そうよね。先生もいつもと違って大人しいなって思ってたんだよね。他の先生も丸山君が普通になったって驚いてるんだよね。先生も何があったのかって思ってたんだけど、みんなも何があったかは知らないんだね」
「先生も何があったか知らないんですね。わかりました。飛鳥君が変になったのは何でなのかもう少しみんなと相談してみます」
「ごめんね。でも、先生に協力出来ることがあったら何でも頼ってくれていいからね。他の先生たちもかなり気にしてるみたいだからさ。今の普通の丸山君も良いと思うけど、ちょっと変な丸山君も先生は個性的でいいと思ってるからね」
「はい、私達も前みたいに変な飛鳥君に戻ってほしいって思ってますから。何かあった時はよろしくお願いします」
俺とフランソワーズさんは先生から有力な手がかりももらえぬまま職員室を後にしたのだ。先生が何か知っていればここで飛鳥君が変になった問題の答えも出ていたのだろうが、何も知らないと言われれば俺達が職員室に残る理由もない。それにしても、普通になった飛鳥君を変だというのもおかしな話である。普通になったのならそれでいいのではないかと思うのだが、以前の飛鳥君の方が何となく話しやすいししっくり来ていたのも事実なのである。
教室に戻ってフランソワーズさんは開口一番に収穫が何も無かったという事を伝えたのだが、伝えた輪の中心にいたのは何と飛鳥君であった。みんなは何も収穫が無かったことでガッカリしているのだが、その中心にいる飛鳥君は何もわからないような様子できょとんとしていた。
俺達が先生に聞きに行ってその答えがどうであれみんなに報告するというのは誰もがわかっているはずなのに、その報告する場の中心に当事者がいるというのはどう考えても変だと思う。フランソワーズさんは飛鳥君の事を変だと何度も行っていたのだが、この状況ではクラス全員が変なのではないかと思ってしまっても不思議ではない。何より、自分の事でクラスメイトが何かしているという事をちゃんと理解しているはずの飛鳥君が何も理解していないというのも変な話なのだ。
「言いにくいことかもしれないけどさ、月曜からずっと飛鳥君は様子が変だけど、休みの間に何かあったの?」
「何かあったとかは別にないよ。僕はいつも通りだと思うけど」
「ねえ、今飛鳥君は自分の事を僕って言ったよね?」
「うん、僕って言ったけど、それがどうかしたの?」
「いや、この前まで飛鳥君は自分の事を吾輩って言ってたじゃない。覚えてる?」
「うん、覚えてるって言うか、吾輩って言ってた自覚はあるよ。でも、自分の事を吾輩って言うのはどうかなって思ってさ、それだけの話だよ」
「それだけの話って、じゃあさ、元魔王だったって話は覚えてる?」
「うん、覚えてるけどさ、それって結構痛々しい話だよね。前世の記憶が残ってるのは本当なんだけどさ、それが本当に僕の前世なのかって証明のしようも無いしね。でも、僕は昌晃君と愛華さんは勇者だったって思うよ」
その後も今までの事が急に恥ずかしくなったようにしている飛鳥君を見て思ったのだが、元魔王だ元勇者だとか魔王として恥ずかしくない行動をとらなくなった飛鳥君は普通に良い男になってしまっていた。もともと顔も良くて運動も出来て気遣いも出来る飛鳥君から変な言動を除けばモテてしまうのも仕方ないと思ってしまうくらい見た目も中身も素晴らしい男なのである。今までの中身が残念過ぎた結果、中身がまともになれば芸能人と勝負してもモテてしまいそうな予感がしていた。
「飛鳥さんって、土日に何かあったみたいですけど、それを私たちにも教えてもらう事は可能でしょうか。事と次第によっては力になることも出来ると思うのですが」
「神谷さんありがとう。みんなもありがとうね。心配してくれるのは嬉しいけど、僕は大丈夫だからさ。うん、大丈夫。とりあえず、高校を卒業するまではよろしくね。なるべく迷惑をかけないようにするからさ」
「迷惑だなんて余計な心配しなくていいんだよ。って、高校を卒業するまでって、大学はどうするんだよ?」
「うーん、まだわからないけどさ、たぶん今のままじゃ一緒に行くことは難しいかも。でも、高校はちゃんと卒業出来ると思うから大丈夫だよ」
「高校は卒業出来るって当り前じゃないかよ。それに、大学だってこのまま進学できるんだから一緒に卒業しようや。何か嫌なことがあったんだったら言ってくれよ。綾乃さんも言ってたけどさ、僕たちもみんな出来ることがあれば協力するって。なあ、みんなも協力するよな?」
いつもはクールな昌晃君が珍しく声を荒げていた。荒げていたと言っても元が落ち着いているので少し元気だなくらいにしか思えないのだが、いつもに比べると口調も少し荒々しく思えた。そんな昌晃君と綾乃の気持ちに応えるかのようにクラスのみんなも協力するという事を飛鳥君に伝えていた。
「ありがとう。こんな僕の事を本気で心配してくれて嬉しいよ。でも、僕は普通で大丈夫だからさ。今までと同じように接してくれて大丈夫だからさ。男子も女子もみんな仲の良いこのクラスで良かったと僕は思ってるよ。本当に、ありがとう」
まるで最後の別れかと思えるような事を言った飛鳥君ではあったが、その話を聞いたほとんどの人がその真意には気付いていない振りをしていたと思う。理由はわからないが、飛鳥君がみんなと一緒に大学に行くことが出来なくなった事情があるという事だけはこの場にいるみんなが理解していた。ただ、頭では理解しているのに納得をしようとしないようにしていると感じていた。
飛鳥君が普通の人のようになったまま週末を迎え、新しい一週間が始まってしまったのだが、この一週間の間は飛鳥君が登校してくることが無かったのだ。
家庭の事情で十日ほど休むという話ではあったが、その理由を相内先生は教えてくれなかった。綾乃が聞いても伸一さんが聞いても相内先生は答えてくれなかったのだ。
俺達は飛鳥君が戻って来て、いったい何があったのか聞こうという事になったのだが、本当に飛鳥君が戻ってくるのか不安で仕方がなかった。飛鳥君は高校を卒業するまでと言っていたが、あの悲しそうな表情と声だけではこのままいなくなってしまうのではと思ってしまっていた。高校を卒業することなく辞めてしまう可能性があるのではないかと思っていたのだが、まるで何事も無かったかのように飛鳥君は教室に戻ってきていたのである。
「もう大丈夫なのか?」
「うん、心配かけてごめんね。しばらくは大丈夫だと思うよ。これからまたよろしくね」
昌晃君と飛鳥君の何気ない会話ではあったが、以前とは違う飛鳥君の返答に飛鳥君の問題はまだ解決していないのだと俺は感じていた。他のみんなも俺と同じことを思っていたと思うのだが、誰もそれを口に出すことは無かった。
いつもは無理にでもクラスの中を明るくさせようとしていたジェニファーさんとエイリアスさんもいつものように変な日本語を使ってみんなを笑わせようとはせず、ただ黙って俺達のやり取りを見守っていたのであった。
「わ、吾輩の事なら心配しなくてもいいぞ。何も問題などないのだからな」
クラスの中を支配している重い空気をどうにかしようとして飛鳥君は以前のように振舞っていたのだが、言っていることは同じでも全く別物のように感じてしまい、クラスの中の空気はより重いものになってしまったように感じていた。
何よりも気になっていたのは、飛鳥君の一人称が吾輩から僕に変わっていたという事なのだ。元魔王であるとか前世の記憶だとか過去の因縁とかはわからないのだが、クラスの中でも一番仲の良い昌晃君が何かあったか尋ねてみても僕たちが期待するような答えは返ってこなかったのだ。
「飛鳥君に何があったのかわからないけど、月曜からずっとあんな感じだから気になるよね。愛華も何かあったか聞きに行ったんだけどさ、何も無いって言うんだよ。あの姿を見て何も無いとは思えないんだけどさ、飛鳥君に何かあったのは間違いないと思うんだよな。僕たちで何か出来ることが無いか先生にも聞いてみようよ」
なぜか先生に聞きに行く役目は俺とフランソワーズさんになったのだが、知らない間に学級長と副学級長に任命されていたのだ。そもそも、俺のクラスにそんな役割があったのも知らなかったし、委員会が開催されていたという事も聞いたことが無かった。俺以外のクラスメイトは皆何かしらの委員になっているのだが、俺は委員では無いかわりに全ての副委員になっていた。俺が転校してくる前に委員は全て決まっていたし副委員もしっかり決まっていたのだが、俺が委員にならない代わりに全ての委員会の副委員になっていたのだ。もちろん、俺の他にも一人ずつ副委員はいるのだが、委員会が重ならない限りは俺が副委員としての役目を全うすることになっていたそうだ。これは初耳だ。
「そう言うわけで、飛鳥君がいつもと違って変なんです。いや、いつも飛鳥君は変だったと思うんですけど、そういう意味ではなく変なんです。先生はその理由をご存じないですか?」
「そうよね。先生もいつもと違って大人しいなって思ってたんだよね。他の先生も丸山君が普通になったって驚いてるんだよね。先生も何があったのかって思ってたんだけど、みんなも何があったかは知らないんだね」
「先生も何があったか知らないんですね。わかりました。飛鳥君が変になったのは何でなのかもう少しみんなと相談してみます」
「ごめんね。でも、先生に協力出来ることがあったら何でも頼ってくれていいからね。他の先生たちもかなり気にしてるみたいだからさ。今の普通の丸山君も良いと思うけど、ちょっと変な丸山君も先生は個性的でいいと思ってるからね」
「はい、私達も前みたいに変な飛鳥君に戻ってほしいって思ってますから。何かあった時はよろしくお願いします」
俺とフランソワーズさんは先生から有力な手がかりももらえぬまま職員室を後にしたのだ。先生が何か知っていればここで飛鳥君が変になった問題の答えも出ていたのだろうが、何も知らないと言われれば俺達が職員室に残る理由もない。それにしても、普通になった飛鳥君を変だというのもおかしな話である。普通になったのならそれでいいのではないかと思うのだが、以前の飛鳥君の方が何となく話しやすいししっくり来ていたのも事実なのである。
教室に戻ってフランソワーズさんは開口一番に収穫が何も無かったという事を伝えたのだが、伝えた輪の中心にいたのは何と飛鳥君であった。みんなは何も収穫が無かったことでガッカリしているのだが、その中心にいる飛鳥君は何もわからないような様子できょとんとしていた。
俺達が先生に聞きに行ってその答えがどうであれみんなに報告するというのは誰もがわかっているはずなのに、その報告する場の中心に当事者がいるというのはどう考えても変だと思う。フランソワーズさんは飛鳥君の事を変だと何度も行っていたのだが、この状況ではクラス全員が変なのではないかと思ってしまっても不思議ではない。何より、自分の事でクラスメイトが何かしているという事をちゃんと理解しているはずの飛鳥君が何も理解していないというのも変な話なのだ。
「言いにくいことかもしれないけどさ、月曜からずっと飛鳥君は様子が変だけど、休みの間に何かあったの?」
「何かあったとかは別にないよ。僕はいつも通りだと思うけど」
「ねえ、今飛鳥君は自分の事を僕って言ったよね?」
「うん、僕って言ったけど、それがどうかしたの?」
「いや、この前まで飛鳥君は自分の事を吾輩って言ってたじゃない。覚えてる?」
「うん、覚えてるって言うか、吾輩って言ってた自覚はあるよ。でも、自分の事を吾輩って言うのはどうかなって思ってさ、それだけの話だよ」
「それだけの話って、じゃあさ、元魔王だったって話は覚えてる?」
「うん、覚えてるけどさ、それって結構痛々しい話だよね。前世の記憶が残ってるのは本当なんだけどさ、それが本当に僕の前世なのかって証明のしようも無いしね。でも、僕は昌晃君と愛華さんは勇者だったって思うよ」
その後も今までの事が急に恥ずかしくなったようにしている飛鳥君を見て思ったのだが、元魔王だ元勇者だとか魔王として恥ずかしくない行動をとらなくなった飛鳥君は普通に良い男になってしまっていた。もともと顔も良くて運動も出来て気遣いも出来る飛鳥君から変な言動を除けばモテてしまうのも仕方ないと思ってしまうくらい見た目も中身も素晴らしい男なのである。今までの中身が残念過ぎた結果、中身がまともになれば芸能人と勝負してもモテてしまいそうな予感がしていた。
「飛鳥さんって、土日に何かあったみたいですけど、それを私たちにも教えてもらう事は可能でしょうか。事と次第によっては力になることも出来ると思うのですが」
「神谷さんありがとう。みんなもありがとうね。心配してくれるのは嬉しいけど、僕は大丈夫だからさ。うん、大丈夫。とりあえず、高校を卒業するまではよろしくね。なるべく迷惑をかけないようにするからさ」
「迷惑だなんて余計な心配しなくていいんだよ。って、高校を卒業するまでって、大学はどうするんだよ?」
「うーん、まだわからないけどさ、たぶん今のままじゃ一緒に行くことは難しいかも。でも、高校はちゃんと卒業出来ると思うから大丈夫だよ」
「高校は卒業出来るって当り前じゃないかよ。それに、大学だってこのまま進学できるんだから一緒に卒業しようや。何か嫌なことがあったんだったら言ってくれよ。綾乃さんも言ってたけどさ、僕たちもみんな出来ることがあれば協力するって。なあ、みんなも協力するよな?」
いつもはクールな昌晃君が珍しく声を荒げていた。荒げていたと言っても元が落ち着いているので少し元気だなくらいにしか思えないのだが、いつもに比べると口調も少し荒々しく思えた。そんな昌晃君と綾乃の気持ちに応えるかのようにクラスのみんなも協力するという事を飛鳥君に伝えていた。
「ありがとう。こんな僕の事を本気で心配してくれて嬉しいよ。でも、僕は普通で大丈夫だからさ。今までと同じように接してくれて大丈夫だからさ。男子も女子もみんな仲の良いこのクラスで良かったと僕は思ってるよ。本当に、ありがとう」
まるで最後の別れかと思えるような事を言った飛鳥君ではあったが、その話を聞いたほとんどの人がその真意には気付いていない振りをしていたと思う。理由はわからないが、飛鳥君がみんなと一緒に大学に行くことが出来なくなった事情があるという事だけはこの場にいるみんなが理解していた。ただ、頭では理解しているのに納得をしようとしないようにしていると感じていた。
飛鳥君が普通の人のようになったまま週末を迎え、新しい一週間が始まってしまったのだが、この一週間の間は飛鳥君が登校してくることが無かったのだ。
家庭の事情で十日ほど休むという話ではあったが、その理由を相内先生は教えてくれなかった。綾乃が聞いても伸一さんが聞いても相内先生は答えてくれなかったのだ。
俺達は飛鳥君が戻って来て、いったい何があったのか聞こうという事になったのだが、本当に飛鳥君が戻ってくるのか不安で仕方がなかった。飛鳥君は高校を卒業するまでと言っていたが、あの悲しそうな表情と声だけではこのままいなくなってしまうのではと思ってしまっていた。高校を卒業することなく辞めてしまう可能性があるのではないかと思っていたのだが、まるで何事も無かったかのように飛鳥君は教室に戻ってきていたのである。
「もう大丈夫なのか?」
「うん、心配かけてごめんね。しばらくは大丈夫だと思うよ。これからまたよろしくね」
昌晃君と飛鳥君の何気ない会話ではあったが、以前とは違う飛鳥君の返答に飛鳥君の問題はまだ解決していないのだと俺は感じていた。他のみんなも俺と同じことを思っていたと思うのだが、誰もそれを口に出すことは無かった。
いつもは無理にでもクラスの中を明るくさせようとしていたジェニファーさんとエイリアスさんもいつものように変な日本語を使ってみんなを笑わせようとはせず、ただ黙って俺達のやり取りを見守っていたのであった。
「わ、吾輩の事なら心配しなくてもいいぞ。何も問題などないのだからな」
クラスの中を支配している重い空気をどうにかしようとして飛鳥君は以前のように振舞っていたのだが、言っていることは同じでも全く別物のように感じてしまい、クラスの中の空気はより重いものになってしまったように感じていた。
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