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プロローグ
良く出来た妹とお兄様
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今まで暮らしていた家よりも大きな部屋を一人で使って良いと言われても持てあましてしまうのだが、それは俺だけではなく妹の璃々も同じだった。あまりにも大きすぎる部屋に璃々は完全に委縮していたのだが、俺が部屋に入ってきたのを見た瞬間に番犬のように吠え出してしまったのだ。
その様子を見ていたこの屋敷のメイドさんは俺達の様子を楽しそうに見守ってくれていたのだが、話している言葉が英語ではない外国の言葉だったので俺にはさっぱり理解出来なかったのだ。璃々はそんなメイドさんたちと楽しそうに話をしているのだが、どうして学校に真面目に行っていない妹が俺の知らない謎の言語で外国人のメイドさんと会話が出来てしまうのだろうか。その理由を俺は知りたい。
「なあ、お前が話してるのって何語だよ。俺にも教えてくれよ」
「なんでお兄ちゃんに教えなきゃいけないよ。知りたかったら自分で調べて勉強しなさいよ。なんでも教えてくれって言う人は成長しないわよ」
「そんな事言うなよ。何のヒントも無かったら俺には分かりっこないだろ。それよりも、なんでお前はその謎の言語を理解してるんだよ」
「なんでって、普通に映画を字幕で見てるからよ。本当にその字幕があってるのかって気になって調べてたら普通に日常会話位出来るようになるでしょ。ゲームばっかりしているから他の事に目が向かなくなってるのよ」
「いや、俺だって字幕で映画を見ることくらいあるけどさ、そんな簡単に会話できるようになんてならないだろ。天才と凡人の違いが凄すぎるだろ」
俺の抗議もむなしく璃々は再び俺の知らない言語でメイドさんと楽しそうに会話をしていた。時々俺の方を見て笑っているのが腹立たしいのだが、メイドさんのリアクションを見る限りでは良くない事を吹き込んでいるようだ。俺も何か璃々の弱点でも教えてやりたいのだが、あのメイドさんと話すことは俺には出来ないのだ。それよりも、俺が知る限りでは璃々に弱点なんて無いのでそう言った意味でも話すことは出来ないのであるが。
「もう、いつまで私の部屋にいるつもりなのよ。お兄ちゃんはさっさと出て行ってよね。邪魔なんだから」
「そんなに邪魔者扱いするなよ。言われなくても出て行くから安心してくれていいって」
「あらあら、邦宏総料理長とアヴィザーナ博士の仰る通りで将浩さんと璃々さんは仲が良いんですね。お互いに尊敬しあっているのが伝わる良い関係ですね。まるで伸一様と綾乃様を見ているようですわね」
「え、ちょっと待って。日本語話せるんですか?」
「もちろん話せますよ。だって、ここは日本ですからね」
何語かわからない言語ではなくとても流暢な日本語を話すこのメイドさんに驚いていたのだが、璃々は俺以上に驚いていたようだ。璃々がこんなに驚いている姿を見たのは生まれて初めてかもしれないというくらいに驚いているのが面白かった。
「それにしても、将浩さんは璃々さんの事を大変尊敬していらっしゃるのですね。それに負けないくらい璃々さんも将浩さんの事を自慢してましたよ。将浩さんは理解していなかったと思いますが、私も知らないような言い回しで褒めてましたからね。フランス人でもあそこまで褒めることなんてなかなかできませんよ。そう考えると、お二人は伸一様と綾乃様以上にお互いを認め合っているという事になるのかもしれませんね」
「ちょっと待ってよ。私はそんなにお兄ちゃんの事を褒めてないですって。それに、さっき聞いた時は日本語が話せないって言ってたじゃないですか」
「言いましたけど、それは嘘ですよ。私はフランス語と英語と日本語が話せますよ。ジェニファーとエイリアスは日本語を話せないので通訳が必要だったらいつでも呼んでくださいね。ちなみに、璃々さんは英語とイタリア語も話せたりしますか?」
「たぶん大丈夫だと思うけど」
「それならジェニファーとエイリアスとも会話は出来そうですね。将浩さんは遠慮なく私を頼ってくださいね。あ、可愛い妹の璃々さんに頼っても大丈夫ですからね」
天才の璃々がこうも簡単にからかわれる姿を見ることが出来るとは思ってもみなかったのだが、からかわれて恥ずかしいのか璃々は背を向けて俺に部屋を出て行くように強い口調で命令してきた。普段とは違う感じで怒っているのか判断がつかないのだが、触らぬ神に何とやらで俺はソレに素直に従うことにした。ドアを閉める時に一瞬だけ璃々と目が合ったのだが、すぐに逸らされてしまったので怒りは相当のもののようだ。だが、俺は何も怒らすような事はしていないはずなのだが。
これだけ広い屋敷であれば自分の部屋に戻るのも一苦労なのだが、基本的に一本道なので迷うことは無かった。俺たち家族は四人で三部屋を与えられているのだが、両親の部屋を挟んで俺と璃々の部屋があるのだ。璃々の部屋は一番奥の角部屋に当たるのだが、これだけ広いと角部屋かどうかなんてほぼ関係ないように思えた。
父親の雇い主でもあるこの屋敷のご主人様はとても忙しい方であるようで、朝に軽く挨拶をしただけで外へと行ってしまったのだが、奥さんの京子さんと長男であり俺がこれから通うことになる学校の先輩でもある伸一さんとは挨拶を交わすことが出来たのだ。もう一人長女の綾乃さんという方がいるようなのだが、休みの日はなかなか起きてこないそうなので挨拶をすることは出来なかった。
ちなみに、長男の伸一さんは三年生で生徒会長もしているそうで、長女の綾乃さんは俺と同じ学年で新入生だそうだ。同じ学年という事で学校について聞いてみたいこともあったのだが、寝ているところを無理に起こして聞くのも悪いと思ってその事は黙っていることにしたのだ。
一つ付け加えておくのだが、この屋敷では雇い主である神谷さん一家と一緒に俺達だけではなくメイドさんやその他の従業員の方も一緒に食事をとることになっている。大人数での食事ではあるが皆しっかりとマナーを守って厳かな雰囲気の中朝食をとっていたのだ。緊張で味なんてわからないのではないかと思いながら食べていたのだが、父さんの作る料理はどんな時にどこで食べても美味しいものだと改めて知ることが出来たのだった。
「やあ、ここでの暮らしはなれそうかな?」
「まだ半日くらいしか経ってないのであれですが、広すぎて落ち着かないですね」
「そうだろうね。僕も生まれてからずっとここに住んでるんだが、いまだに広すぎて落ち着かないよ。ここだけの話、お父様も本当はここの屋敷よりも別荘で暮らすことを望んでいるんだよ」
「別荘って、そこも普通の家より大きいんじゃないですか?」
「そんなことは無いよ。別荘は六畳が二間に風呂トイレとキッチンがあるだけの簡素な作りなのさ。お父様の仕事柄そう言うところに住むわけにはいかないだけで、本当は僕も別荘の方が落ち着くんだよね」
「そうなですね。でも、その気持ちは分かりますよ。前の家では妹と同じ部屋だったんで落ち着かなかったんですけど、今は一人の部屋なのに広すぎて落ち着かないんですけどね」
「ま、そのうち慣れるさ。僕はいまだに部屋の広さに慣れてないけどね。教室より広い部屋なんて必要ないんだけどな」
長男の伸一さんは僕にも妹の璃々にも優しく実の兄のように接してくれているのだ。
「そうそう、食事について一つ言っておきたいことがあるんだけど、後で君の妹さんにも伝えておいてもらえると嬉しいんだが、良いかな?」
「はい、なんですか?」
「我が家ではね、従業員も一緒に食事をとっていることは気付いてたと思うんだけど、いつもはあんな感じじゃないんだ。今日は邦宏さんの料理を食べれるという事で皆緊張していただけなんだよ」
「それって、どういうことですか?」
「僕もお父様もお母様も邦宏さんの料理を食べたことがあるので美味しいのは知っていたんだがね、メイドさんや他の従業員にも邦宏さんの料理が相当美味しいという事を宣伝し過ぎてしまったようで、みんな緊張していつも以上に静かな空間になってしまったんだ。いつもはもっと和気あいあいとしたアットホームな感じなんだけど、夕食の時にそうなっていたとしても驚かないでおいて欲しいんだ」
「はあ、そう言うことだったら大丈夫です。妹にもそう言う風に伝えておきます」
「よろしく頼むよ。将浩君の事を尊敬している璃々さんによろしくと伝えておいてくれよ」
あのメイドさんが璃々と話していたことがすでに広まっているのだが、一体どんな伝達網を持っているのか気になってしまったのだ。これは変なことは出来ないなと思い知らされるのであった。
「それと、僕の妹の事もよろしく頼むね。将浩君と璃々さんとならきっと仲良くなれると思うからさ」
その様子を見ていたこの屋敷のメイドさんは俺達の様子を楽しそうに見守ってくれていたのだが、話している言葉が英語ではない外国の言葉だったので俺にはさっぱり理解出来なかったのだ。璃々はそんなメイドさんたちと楽しそうに話をしているのだが、どうして学校に真面目に行っていない妹が俺の知らない謎の言語で外国人のメイドさんと会話が出来てしまうのだろうか。その理由を俺は知りたい。
「なあ、お前が話してるのって何語だよ。俺にも教えてくれよ」
「なんでお兄ちゃんに教えなきゃいけないよ。知りたかったら自分で調べて勉強しなさいよ。なんでも教えてくれって言う人は成長しないわよ」
「そんな事言うなよ。何のヒントも無かったら俺には分かりっこないだろ。それよりも、なんでお前はその謎の言語を理解してるんだよ」
「なんでって、普通に映画を字幕で見てるからよ。本当にその字幕があってるのかって気になって調べてたら普通に日常会話位出来るようになるでしょ。ゲームばっかりしているから他の事に目が向かなくなってるのよ」
「いや、俺だって字幕で映画を見ることくらいあるけどさ、そんな簡単に会話できるようになんてならないだろ。天才と凡人の違いが凄すぎるだろ」
俺の抗議もむなしく璃々は再び俺の知らない言語でメイドさんと楽しそうに会話をしていた。時々俺の方を見て笑っているのが腹立たしいのだが、メイドさんのリアクションを見る限りでは良くない事を吹き込んでいるようだ。俺も何か璃々の弱点でも教えてやりたいのだが、あのメイドさんと話すことは俺には出来ないのだ。それよりも、俺が知る限りでは璃々に弱点なんて無いのでそう言った意味でも話すことは出来ないのであるが。
「もう、いつまで私の部屋にいるつもりなのよ。お兄ちゃんはさっさと出て行ってよね。邪魔なんだから」
「そんなに邪魔者扱いするなよ。言われなくても出て行くから安心してくれていいって」
「あらあら、邦宏総料理長とアヴィザーナ博士の仰る通りで将浩さんと璃々さんは仲が良いんですね。お互いに尊敬しあっているのが伝わる良い関係ですね。まるで伸一様と綾乃様を見ているようですわね」
「え、ちょっと待って。日本語話せるんですか?」
「もちろん話せますよ。だって、ここは日本ですからね」
何語かわからない言語ではなくとても流暢な日本語を話すこのメイドさんに驚いていたのだが、璃々は俺以上に驚いていたようだ。璃々がこんなに驚いている姿を見たのは生まれて初めてかもしれないというくらいに驚いているのが面白かった。
「それにしても、将浩さんは璃々さんの事を大変尊敬していらっしゃるのですね。それに負けないくらい璃々さんも将浩さんの事を自慢してましたよ。将浩さんは理解していなかったと思いますが、私も知らないような言い回しで褒めてましたからね。フランス人でもあそこまで褒めることなんてなかなかできませんよ。そう考えると、お二人は伸一様と綾乃様以上にお互いを認め合っているという事になるのかもしれませんね」
「ちょっと待ってよ。私はそんなにお兄ちゃんの事を褒めてないですって。それに、さっき聞いた時は日本語が話せないって言ってたじゃないですか」
「言いましたけど、それは嘘ですよ。私はフランス語と英語と日本語が話せますよ。ジェニファーとエイリアスは日本語を話せないので通訳が必要だったらいつでも呼んでくださいね。ちなみに、璃々さんは英語とイタリア語も話せたりしますか?」
「たぶん大丈夫だと思うけど」
「それならジェニファーとエイリアスとも会話は出来そうですね。将浩さんは遠慮なく私を頼ってくださいね。あ、可愛い妹の璃々さんに頼っても大丈夫ですからね」
天才の璃々がこうも簡単にからかわれる姿を見ることが出来るとは思ってもみなかったのだが、からかわれて恥ずかしいのか璃々は背を向けて俺に部屋を出て行くように強い口調で命令してきた。普段とは違う感じで怒っているのか判断がつかないのだが、触らぬ神に何とやらで俺はソレに素直に従うことにした。ドアを閉める時に一瞬だけ璃々と目が合ったのだが、すぐに逸らされてしまったので怒りは相当のもののようだ。だが、俺は何も怒らすような事はしていないはずなのだが。
これだけ広い屋敷であれば自分の部屋に戻るのも一苦労なのだが、基本的に一本道なので迷うことは無かった。俺たち家族は四人で三部屋を与えられているのだが、両親の部屋を挟んで俺と璃々の部屋があるのだ。璃々の部屋は一番奥の角部屋に当たるのだが、これだけ広いと角部屋かどうかなんてほぼ関係ないように思えた。
父親の雇い主でもあるこの屋敷のご主人様はとても忙しい方であるようで、朝に軽く挨拶をしただけで外へと行ってしまったのだが、奥さんの京子さんと長男であり俺がこれから通うことになる学校の先輩でもある伸一さんとは挨拶を交わすことが出来たのだ。もう一人長女の綾乃さんという方がいるようなのだが、休みの日はなかなか起きてこないそうなので挨拶をすることは出来なかった。
ちなみに、長男の伸一さんは三年生で生徒会長もしているそうで、長女の綾乃さんは俺と同じ学年で新入生だそうだ。同じ学年という事で学校について聞いてみたいこともあったのだが、寝ているところを無理に起こして聞くのも悪いと思ってその事は黙っていることにしたのだ。
一つ付け加えておくのだが、この屋敷では雇い主である神谷さん一家と一緒に俺達だけではなくメイドさんやその他の従業員の方も一緒に食事をとることになっている。大人数での食事ではあるが皆しっかりとマナーを守って厳かな雰囲気の中朝食をとっていたのだ。緊張で味なんてわからないのではないかと思いながら食べていたのだが、父さんの作る料理はどんな時にどこで食べても美味しいものだと改めて知ることが出来たのだった。
「やあ、ここでの暮らしはなれそうかな?」
「まだ半日くらいしか経ってないのであれですが、広すぎて落ち着かないですね」
「そうだろうね。僕も生まれてからずっとここに住んでるんだが、いまだに広すぎて落ち着かないよ。ここだけの話、お父様も本当はここの屋敷よりも別荘で暮らすことを望んでいるんだよ」
「別荘って、そこも普通の家より大きいんじゃないですか?」
「そんなことは無いよ。別荘は六畳が二間に風呂トイレとキッチンがあるだけの簡素な作りなのさ。お父様の仕事柄そう言うところに住むわけにはいかないだけで、本当は僕も別荘の方が落ち着くんだよね」
「そうなですね。でも、その気持ちは分かりますよ。前の家では妹と同じ部屋だったんで落ち着かなかったんですけど、今は一人の部屋なのに広すぎて落ち着かないんですけどね」
「ま、そのうち慣れるさ。僕はいまだに部屋の広さに慣れてないけどね。教室より広い部屋なんて必要ないんだけどな」
長男の伸一さんは僕にも妹の璃々にも優しく実の兄のように接してくれているのだ。
「そうそう、食事について一つ言っておきたいことがあるんだけど、後で君の妹さんにも伝えておいてもらえると嬉しいんだが、良いかな?」
「はい、なんですか?」
「我が家ではね、従業員も一緒に食事をとっていることは気付いてたと思うんだけど、いつもはあんな感じじゃないんだ。今日は邦宏さんの料理を食べれるという事で皆緊張していただけなんだよ」
「それって、どういうことですか?」
「僕もお父様もお母様も邦宏さんの料理を食べたことがあるので美味しいのは知っていたんだがね、メイドさんや他の従業員にも邦宏さんの料理が相当美味しいという事を宣伝し過ぎてしまったようで、みんな緊張していつも以上に静かな空間になってしまったんだ。いつもはもっと和気あいあいとしたアットホームな感じなんだけど、夕食の時にそうなっていたとしても驚かないでおいて欲しいんだ」
「はあ、そう言うことだったら大丈夫です。妹にもそう言う風に伝えておきます」
「よろしく頼むよ。将浩君の事を尊敬している璃々さんによろしくと伝えておいてくれよ」
あのメイドさんが璃々と話していたことがすでに広まっているのだが、一体どんな伝達網を持っているのか気になってしまったのだ。これは変なことは出来ないなと思い知らされるのであった。
「それと、僕の妹の事もよろしく頼むね。将浩君と璃々さんとならきっと仲良くなれると思うからさ」
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