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彼女達との夏休み前のある日
陽菜ちゃんとの夏休み前のとある日
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オカ研の活動が無い日も僕はまっすぐに帰ることはしていないのだが、最近はそんな僕に陽菜ちゃんが付き合ってくれることも多くなっていた。
二人で何かをするわけでもなく、部室に行くことも出来ないので校舎内でダラダラと過ごしているのだが、だんだんと陽射しもきつく気温も高くなっているという事もあって涼しい場所を求めて移動していた。
最初は図書室で本を読んでいたりもしたのだけれど、僕に何度も話しかけてくる陽菜ちゃんの声が大きく周りに迷惑になるという事もあって、僕たちは図書室に揃って入ることが出来なくなってしまったのだ。
他に涼しい場所が無いかと何度も探してみたのだけれど、見つけた場所はことごとく何らかの部活が使っているので僕たちの居場所なんてどこにも見当たらなかったのだ。
結局、僕たちは下校時間まで空いている教室や非常階段脇のスペースなんかでお話をしていたのであった。
「まー君先輩は怪談とか得意なんですか?」
「聞くのは好きだけど、誰かにそんな話をしたことは無いかな。陽菜ちゃんはどうなの?」
「陽菜もまー君先輩と一緒ですよ。友達は怖い話苦手な子が多いからいっつも一人で聞いてるんです。そうだ、夏休みになったら一緒に怖い話聞く会をやりませんか?」
「面白そうだけどさ、それはオカ研の怪談会の時でいいんじゃない?」
「それとは別にやりましょうよ。陽菜の知らない怖い話を教えてくださいよ。一緒に聞きましょうよ」
「一緒に聞くってさ、どこでやるのさ」
別に僕の家に来てもらってそう言う会を開くのも問題はないのだけれど、何となく陽菜ちゃんを家に呼ぶのは抵抗があった。何かあるわけではないと僕は思っているのだけれど、陽菜ちゃんを家に呼ぶ行為が愛ちゃんにとって良い印象を与えることが無いと思ったからだ。
「じゃあ、陽菜の部屋に来ますか。ちょっと狭いんで窮屈かもしれないですけど、一緒にベッドに入って聞く分には問題無いと思いますし」
「一緒にベッドに入るとかダメでしょ。良くないと思うよ」
「陽菜は別に何もしないんだけどな。まー君先輩も変な事しなそうだし、愛ちゃん先輩もダメだって言わないと思うんですけどね」
「ダメだって言わなかったとしてもさ、イヤな気にはなるでしょ。それに、僕は陽菜ちゃんの部屋には行かないよ」
「そんなに気にする事でもないのにな。もしかして、まー君先輩は陽菜の事を少しは意識してくれているんですか?」
「意識って、可愛い後輩だとは思ってるよ。それ以上でもそれ以下でもないけど」
「ふーん、可愛い後輩ですか。それって、女子として可愛いって事ですか。それとも、後輩だから可愛いって思ってるって事ですか。どっちですか?」
「どっちって言われてもな。普通に陽菜ちゃんは普通に可愛い女の子だと思うよ。誰に聞いてもそう思いそうだけど」
「他の人の事なんてどうでもいいんですよ。まー君先輩は陽菜の事を可愛いって思ってくれてるって事ですか?」
「普通に可愛いって思うよ。それは第一印象から変わってないから。ちょっと、思ってたのと違うところはあるけどさ」
「思ってたのと違うとこって、陽菜の履いているパンツがお子様パンツなところですか?」
「違う違う。そうじゃなくて、お菓子作りが上手なところとか気を遣えるところとかいろいろあるじゃない」
「でも、そんな陽菜はお子様パンツを履いてるんですよ。それでもいいんですか?」
「それは個人の自由だからさ。好きなのはいた方が良いと思うよ。誰かに見せるためにはいてるわけでもないだし」
「陽菜は好きではいてるんですけど、まー君先輩には見て欲しいなっていっつも思ってますよ。まー君先輩が陽菜のパンツを見て嬉しいなって思ってくれればそれでいいんですし、今日だって見てもらおうと思ってるんですよ」
陽菜ちゃんは僕の顔を見ながらスカートをひらひらとさせていた。見えそうで見えないのを狙っているようなのだが、僕はあえてそこを見ようとはしていないので見えることは無いのだ。
動物みたいに動くものを無意識のうちに見てしまう事はあるのだが、陽菜ちゃんといる時はそうならないように意識的に下の方を見ないようにしている。今だって陽菜ちゃんの顔を見ているのだ。
「あれ、まー君先輩。陽菜の顔を見つめてどうしたんですか。もしかして、陽菜の顔が好きなんですか?」
「好きとかじゃないけど。話をする時は目を見ないといけないって思うし」
「陽菜の事を真っすぐ見てくれるのは嬉しいんですけど、こうしてパンツを見せてるんだから陽菜の可愛いパンツを見てくれてもいいんですよ。今日は珍しくまー君先輩が好きそうな大人っぽいパンツにしてきたんですからね。本当は、まー君先輩とデートする時まで履かないって決めてたんですけど、何となく今日は履いちゃいました」
僕は思わず視線を下に動かしそうになってしまったのだが、陽菜ちゃんの言葉に惑わされずに前だけを見てやり過ごすことが出来た。
大人っぽいパンツに興味が無いのかと言われれば興味があると答えるのだが、僕は体のうちから湧き上がってくる好奇心を全力で抑え込んでいたのだ。見たくないわけではないのだけれど、見てはいけないという葛藤が僕の中で激しい戦いをおこなっていたのだ。
「せっかくまー君先輩のために選んで履いてきたのにな。見てくれないんだったらもう履くのやめちゃおうかな。まー君先輩は陽菜の履いてるパンツとか興味無いみたいだし、今度はパンツを脱いでからまー君先輩に会いに行っちゃおうかな」
「え、ソレはダメでしょ。見る見ないは別としてさ、パンツは履かないとダメだって」
僕は明らかに動揺していた。どんなパンツを履いていようが僕はあえてそれを見ようとはしないのだが、僕以外の誰かがたまたま陽菜ちゃんのスカートの中を見てしまう事だってあるだろう。そんな時に、陽菜ちゃんが何も履いていなかったとしたら、とんでもないことになってしまうんじゃないだろうか。
「嫌だな。さすがにそれは嘘ですよ。そんなことするわけないじゃないですか.それに、今だってちゃんと見せパン履いてますからね。最初の時みたいに履き忘れが無いかトイレで確認してきたんで大丈夫ですよ。ほら、見せパンなんで見ても平気ですよ」
陽菜ちゃんはそう言って思いっきりスカートをめくりあげていた。今この場を誰かが目撃したとしたら、自らノリノリでスカートをめくりあげている陽菜ちゃんの事を変態だと思う人が大半だろう。僕は被害者という立場になれるかは微妙ではあるが、陽菜ちゃんが変な事をしているという事に変わりはないのだ。
それでも、僕は陽菜ちゃんの顔から視線を下に下げないようにしていた。別に見たくないというわけではないのだが、ここまで堂々とされてしまうとかえって見たくなくなってしまう。男心というものも複雑なのだ。
「もう、見せパンだから見てらっても平気なのにな。まー君先輩だから逆に見て欲しいって思うのに。それとも、見せパンじゃなくて本当のパンツを見たいですか?」
「本当のパンツも見せパンもどっちもパンツでしょ。こっちからしたらどっちも変わらずにパンツだから」
ちょっとした沈黙の後に陽菜ちゃんは納得はしていないようだが、僕の言い分を理解はしてくれていたようだ。
「そうですね。見せパンと言ってもパンツには変わりないですよね。でも、陽菜的にはこれは見られても恥ずかしくないパンツなわけですし、見られたところで何の問題もないんですよね。というよりも、陽菜はまー君先輩が相手だったらどんなパンツでも見てもらいたいですけど。でも、まー君先輩にとっては陽菜のパンツは見たくないものって認識なんでしょうか。それはちょっと悲しいですね」
「いや、見たくないとかじゃなくてさ、何となく気まずいんだよ。陽菜ちゃんみたいに可愛い子のパンツが見れるのは幸せなことだとは思うけどさ、愛ちゃんに隠れてそう言うことするのは良くないって思うんだよ」
「でも、それだったら、愛ちゃん先輩に隠れて陽菜と会ってる方がダメだと思うんですけど。陽菜は別にそれでも良いって思ってますけど、まー君先輩はどうなんですか?」
「それなら大丈夫だよ。陽菜ちゃんと会ってるって事は愛ちゃんも知ってるからね。隠してなんかいないし、陽菜ちゃんのパンツを見ちゃったこととかも言ってるからね」
「へえ、愛ちゃん先輩は知ってたんですね。それでも文句を言われてないって事は、今まで見たいなことをしても大丈夫って事ですよね」
今までに無いくらい長い沈黙が続いていた。僕と陽菜ちゃんの二人しかいないのでお互いに黙ってしまう事もあったりはしたが、今は陽菜ちゃんが意図的に僕と会話をしようとしていないのだ。僕に背を向けて何か考え事をしているのである。
「そう言えば、怖い話をしてくれる人が見つかりましたよ。陽菜の友達の部活の先輩なんですけど、部活が終わった後で良いなら怪談だけでも参加してくれるって言ってました。肝試しの時間には間に合わないかもしれないけど、夜からの怪談には間に合うって言ってくれてましたよ。部活が終わった後にシャワーを浴びてご飯食べてから来てくれるって言ってたんです」
「部活が終わった後って、疲れてるんじゃない?」
「そうだと思ったんですけど、その先輩は怖い話をするのが好きみたいなんですよ。怖がる人を見るのが好きだって言ってました。だから、どんなに疲れてても参加してくれるって言ってましたよ。陽菜の友達は肝試しにも期待って言ってたんですけど、さすがに大会が近いんで練習をさぼることは出来ないみたいですね」
「まあ、怖い話をしてくれるっていうのはありがたいかもね。会長も友達にお願いするって言ってたし、僕も誰か見付けないとな」
「まー君先輩は別にいいと思いますよ。だって、友達自体少なそうだし、怖い話出来る知り合いだっていなそうですもん」
陽菜ちゃんの言っていることは何一つ間違ってはいない。僕に友達がいないというのも事実であるし、友達がいないのだから怖い話が出来る知り合いだっているわけがないのだ。だからと言って、それをそのまま言うのはどうかと思う。もう少しオブラートに包んで言ってくれてもいいのではないかと思い、僕は少しだけ傷付いていた。
「まー君先輩は他の事で頑張ればいいんですよ。ほら、肝試しの時に愛ちゃん先輩を守るとか、怪談の会場設営とか後片付けとかやることいっぱいありますからね」
「知り合いがいなくても出来ることはあるからね。出来ることを精一杯頑張るよ」
「もう、そんなつもりで言ったんじゃないんですけど。でも、時間が空いてたら陽菜とも一緒に肝試しをしてもらいたいです。たぶん、そんな時間無いと思いますけどね」
「時間はありそうな気もするけどね。そんなにきついスケジュールじゃないでしょ?」
「それが、結構時間も無いみたいなんですよ。前の日から夕方まで児童館の人が管理棟を使ってるみたいでして、怪談の準備をするのもその人達が帰ってからになるみたいなんですよ。本当だったら昼過ぎから陽菜たちが使えるんですけど、児童館の人達の予約が夕方までになってるみたいなんですよ。他の日にずらせればそれで良かったんですけど、他の日は全部予約で埋まってるみたいで、そこを使えるのも夕方から朝までってことになってるんです。さすがに朝までは使わないので帰る時に掃除とかもしないといけないんですけど、もしかしたら肝試しをしている時から会場の準備をしないと間に合わないかもしれないって会長も言ってるんです。他のオカ研メンバーも手伝ってくれたらいいんですけど、普段参加してない人達に準備だけさせるってのも申し訳ない気がして、せっかく来てくれるんだったら楽しんでもらいたいなって思うんですよ。それに、会長は肝試しの方で何かあったら困るんで会場の準備も出来ないって事だし、まー君先輩は愛ちゃん先輩と一緒にいなくちゃだし、準備が間に合うか陽菜はちょっぴり不安なんですよ」
「そう言うことは先に言ってくれればいいのに。会長に頼んで僕と愛ちゃんの番を最初の方にしてもらうからさ。それが終わったら会場づくりを手伝うよ」
「ありがとうございます。でも、それだったら陽菜と二人で会場づくりデートしましょうよ」
「いや、さすがに愛ちゃんと肝試しをさせてよ」
今のは完璧な間で返すことが出来たと思う。その証拠に、言われた陽菜ちゃんも笑っていたのだ。
「確かにそうですね。ごめんなさい。手伝ってくれるだけでも嬉しいですよ。会場づくりをしている時に肝試しみたいなことが出来たらいいですね。陽菜は肝試しの方に参加出来なくても、まー君先輩と一緒に会場を作れるんだったら嬉しいです。今までよりも楽しみになりました」
「そう言ってくれて嬉しいよ。僕も困ってる陽菜ちゃんの役に立ちたいからね」
「ありがとうございます。そうだ。今日はクッキーを持ってきたんです。良かったら食べてくださいね」
陽菜ちゃんは鞄から可愛らしい袋を取り出すと、それを僕に手渡してくれた。袋越しにも微かに甘い匂いが伝わってくるのだが、陽菜ちゃんの作るお菓子は食べる前から美味しいのを知っている。今までもらったお菓子はどれも美味しくて見た目も綺麗なのだ。
「今日のクッキーは星形にしてみました。意外と上手に焼けたんで嬉しかったんですよ。ほら、これなんて型を使わずにナイフで形を整えたんです。一つだけ他のより小さいでしょ」
「本当だ。他のよりも少し小さいね。この大きさに何かこだわりでもあるの?」
「そうなんですよ。この大きさが大事なんです。どうです、味は他のと変わらないと思うんですけど、食べてみた感想はどうですか?」
「うん、これも美味しいよ。でも、食感とかも別に他のとは変わらないと思うんだけど。何が特別なの?」
「その秘密を教えてあげますよ。それはこれなんです」
陽菜ちゃんがスマホに映し出されている写真を見せてくれたのだが、そこに映っているのは星が沢山描かれた小さな巾着袋だった。
確かに小さな星が描かれてはいるのだが、それがいったい何の意味を持っているのか僕にはわからなかったのである。
「どうですか。これを見たら美味しさ倍増したりしますか?」
「いや、そう言うことは無いけど。これっていったい何の袋?」
「それはですね。袋ではないんです。なんと、陽菜が履いているパンツを丸めた物なんです」
「え、そんなわけないでしょ。普通に巾着袋みたいに紐で縛ってるじゃない」
「それはあえてそうしてみたんです。まー君先輩を騙すためですよ」
「いや、それはおかしいって。何でそんなことするのさ。意味無いでしょ」
「意味は確かに無いですけど、面白いじゃないですか。そういうのも大切かなって思ったんです。ちなみに、そのパンツは今朝履く前に撮ったやつですから」
陽菜ちゃんはクッキーを食べている僕をニヤニヤしながら見ていたのだが、僕が陽菜ちゃんの履いているパンツの星を食べているとでも思っていたのだろう。だが、そんな事を思われていたとしても実際にパンツを見たわけではないので問題などないのだ。
「そうだ、買ってきたお茶もあるんで飲んでください。クッキーだけだと喉が渇いちゃいますよね。結構水分もってかれちゃうと思うし」
そう言いながら鞄から取り出してくれたお茶を受け取ろうとしたのだが、目測を誤ったのか僕はそのお茶を受け取りそこなって落としてしまった。
僕は慌てずにそのお茶を拾ったのだが、自然と視線を下に移して上に戻す間に不自然なものがあるのに気付いてしまった。
陽菜ちゃんの足首に靴下ではない黒い布がついていたのだ。何なんだろうなと思ってはいたのだが、そう思った時にはその布が陽菜ちゃんの履いていた見せパンだったという事に気付いてしまったのだ。
なぜ気付いたのかというと、僕がお茶を拾って元の位置に戻った時に陽菜ちゃんは立ち上がっていて、僕の視線が陽菜ちゃんの顔にたどり着く前にスカートを持ち上げて僕にパンツを見せていたのだ。
そこには白い生地の中に黄色い星がいくつか浮かんでいたのだが、僕が食べているクッキーよりも少し大きくなっているように見えた。
きっと、陽菜ちゃんが履いたことで少し大きくなってしまったのだと思うが、僕はその星とクッキーの大きさを比べるなんてことはしなった。そんな事をしても意味がない事を僕は知っていたのだ。
陽菜ちゃんは呆然とパンツを見ている僕の顔を見て嬉しそうにしていた。
「どうですか。もう一度聞きますけど、陽菜のクッキー美味しいですか?」
二人で何かをするわけでもなく、部室に行くことも出来ないので校舎内でダラダラと過ごしているのだが、だんだんと陽射しもきつく気温も高くなっているという事もあって涼しい場所を求めて移動していた。
最初は図書室で本を読んでいたりもしたのだけれど、僕に何度も話しかけてくる陽菜ちゃんの声が大きく周りに迷惑になるという事もあって、僕たちは図書室に揃って入ることが出来なくなってしまったのだ。
他に涼しい場所が無いかと何度も探してみたのだけれど、見つけた場所はことごとく何らかの部活が使っているので僕たちの居場所なんてどこにも見当たらなかったのだ。
結局、僕たちは下校時間まで空いている教室や非常階段脇のスペースなんかでお話をしていたのであった。
「まー君先輩は怪談とか得意なんですか?」
「聞くのは好きだけど、誰かにそんな話をしたことは無いかな。陽菜ちゃんはどうなの?」
「陽菜もまー君先輩と一緒ですよ。友達は怖い話苦手な子が多いからいっつも一人で聞いてるんです。そうだ、夏休みになったら一緒に怖い話聞く会をやりませんか?」
「面白そうだけどさ、それはオカ研の怪談会の時でいいんじゃない?」
「それとは別にやりましょうよ。陽菜の知らない怖い話を教えてくださいよ。一緒に聞きましょうよ」
「一緒に聞くってさ、どこでやるのさ」
別に僕の家に来てもらってそう言う会を開くのも問題はないのだけれど、何となく陽菜ちゃんを家に呼ぶのは抵抗があった。何かあるわけではないと僕は思っているのだけれど、陽菜ちゃんを家に呼ぶ行為が愛ちゃんにとって良い印象を与えることが無いと思ったからだ。
「じゃあ、陽菜の部屋に来ますか。ちょっと狭いんで窮屈かもしれないですけど、一緒にベッドに入って聞く分には問題無いと思いますし」
「一緒にベッドに入るとかダメでしょ。良くないと思うよ」
「陽菜は別に何もしないんだけどな。まー君先輩も変な事しなそうだし、愛ちゃん先輩もダメだって言わないと思うんですけどね」
「ダメだって言わなかったとしてもさ、イヤな気にはなるでしょ。それに、僕は陽菜ちゃんの部屋には行かないよ」
「そんなに気にする事でもないのにな。もしかして、まー君先輩は陽菜の事を少しは意識してくれているんですか?」
「意識って、可愛い後輩だとは思ってるよ。それ以上でもそれ以下でもないけど」
「ふーん、可愛い後輩ですか。それって、女子として可愛いって事ですか。それとも、後輩だから可愛いって思ってるって事ですか。どっちですか?」
「どっちって言われてもな。普通に陽菜ちゃんは普通に可愛い女の子だと思うよ。誰に聞いてもそう思いそうだけど」
「他の人の事なんてどうでもいいんですよ。まー君先輩は陽菜の事を可愛いって思ってくれてるって事ですか?」
「普通に可愛いって思うよ。それは第一印象から変わってないから。ちょっと、思ってたのと違うところはあるけどさ」
「思ってたのと違うとこって、陽菜の履いているパンツがお子様パンツなところですか?」
「違う違う。そうじゃなくて、お菓子作りが上手なところとか気を遣えるところとかいろいろあるじゃない」
「でも、そんな陽菜はお子様パンツを履いてるんですよ。それでもいいんですか?」
「それは個人の自由だからさ。好きなのはいた方が良いと思うよ。誰かに見せるためにはいてるわけでもないだし」
「陽菜は好きではいてるんですけど、まー君先輩には見て欲しいなっていっつも思ってますよ。まー君先輩が陽菜のパンツを見て嬉しいなって思ってくれればそれでいいんですし、今日だって見てもらおうと思ってるんですよ」
陽菜ちゃんは僕の顔を見ながらスカートをひらひらとさせていた。見えそうで見えないのを狙っているようなのだが、僕はあえてそこを見ようとはしていないので見えることは無いのだ。
動物みたいに動くものを無意識のうちに見てしまう事はあるのだが、陽菜ちゃんといる時はそうならないように意識的に下の方を見ないようにしている。今だって陽菜ちゃんの顔を見ているのだ。
「あれ、まー君先輩。陽菜の顔を見つめてどうしたんですか。もしかして、陽菜の顔が好きなんですか?」
「好きとかじゃないけど。話をする時は目を見ないといけないって思うし」
「陽菜の事を真っすぐ見てくれるのは嬉しいんですけど、こうしてパンツを見せてるんだから陽菜の可愛いパンツを見てくれてもいいんですよ。今日は珍しくまー君先輩が好きそうな大人っぽいパンツにしてきたんですからね。本当は、まー君先輩とデートする時まで履かないって決めてたんですけど、何となく今日は履いちゃいました」
僕は思わず視線を下に動かしそうになってしまったのだが、陽菜ちゃんの言葉に惑わされずに前だけを見てやり過ごすことが出来た。
大人っぽいパンツに興味が無いのかと言われれば興味があると答えるのだが、僕は体のうちから湧き上がってくる好奇心を全力で抑え込んでいたのだ。見たくないわけではないのだけれど、見てはいけないという葛藤が僕の中で激しい戦いをおこなっていたのだ。
「せっかくまー君先輩のために選んで履いてきたのにな。見てくれないんだったらもう履くのやめちゃおうかな。まー君先輩は陽菜の履いてるパンツとか興味無いみたいだし、今度はパンツを脱いでからまー君先輩に会いに行っちゃおうかな」
「え、ソレはダメでしょ。見る見ないは別としてさ、パンツは履かないとダメだって」
僕は明らかに動揺していた。どんなパンツを履いていようが僕はあえてそれを見ようとはしないのだが、僕以外の誰かがたまたま陽菜ちゃんのスカートの中を見てしまう事だってあるだろう。そんな時に、陽菜ちゃんが何も履いていなかったとしたら、とんでもないことになってしまうんじゃないだろうか。
「嫌だな。さすがにそれは嘘ですよ。そんなことするわけないじゃないですか.それに、今だってちゃんと見せパン履いてますからね。最初の時みたいに履き忘れが無いかトイレで確認してきたんで大丈夫ですよ。ほら、見せパンなんで見ても平気ですよ」
陽菜ちゃんはそう言って思いっきりスカートをめくりあげていた。今この場を誰かが目撃したとしたら、自らノリノリでスカートをめくりあげている陽菜ちゃんの事を変態だと思う人が大半だろう。僕は被害者という立場になれるかは微妙ではあるが、陽菜ちゃんが変な事をしているという事に変わりはないのだ。
それでも、僕は陽菜ちゃんの顔から視線を下に下げないようにしていた。別に見たくないというわけではないのだが、ここまで堂々とされてしまうとかえって見たくなくなってしまう。男心というものも複雑なのだ。
「もう、見せパンだから見てらっても平気なのにな。まー君先輩だから逆に見て欲しいって思うのに。それとも、見せパンじゃなくて本当のパンツを見たいですか?」
「本当のパンツも見せパンもどっちもパンツでしょ。こっちからしたらどっちも変わらずにパンツだから」
ちょっとした沈黙の後に陽菜ちゃんは納得はしていないようだが、僕の言い分を理解はしてくれていたようだ。
「そうですね。見せパンと言ってもパンツには変わりないですよね。でも、陽菜的にはこれは見られても恥ずかしくないパンツなわけですし、見られたところで何の問題もないんですよね。というよりも、陽菜はまー君先輩が相手だったらどんなパンツでも見てもらいたいですけど。でも、まー君先輩にとっては陽菜のパンツは見たくないものって認識なんでしょうか。それはちょっと悲しいですね」
「いや、見たくないとかじゃなくてさ、何となく気まずいんだよ。陽菜ちゃんみたいに可愛い子のパンツが見れるのは幸せなことだとは思うけどさ、愛ちゃんに隠れてそう言うことするのは良くないって思うんだよ」
「でも、それだったら、愛ちゃん先輩に隠れて陽菜と会ってる方がダメだと思うんですけど。陽菜は別にそれでも良いって思ってますけど、まー君先輩はどうなんですか?」
「それなら大丈夫だよ。陽菜ちゃんと会ってるって事は愛ちゃんも知ってるからね。隠してなんかいないし、陽菜ちゃんのパンツを見ちゃったこととかも言ってるからね」
「へえ、愛ちゃん先輩は知ってたんですね。それでも文句を言われてないって事は、今まで見たいなことをしても大丈夫って事ですよね」
今までに無いくらい長い沈黙が続いていた。僕と陽菜ちゃんの二人しかいないのでお互いに黙ってしまう事もあったりはしたが、今は陽菜ちゃんが意図的に僕と会話をしようとしていないのだ。僕に背を向けて何か考え事をしているのである。
「そう言えば、怖い話をしてくれる人が見つかりましたよ。陽菜の友達の部活の先輩なんですけど、部活が終わった後で良いなら怪談だけでも参加してくれるって言ってました。肝試しの時間には間に合わないかもしれないけど、夜からの怪談には間に合うって言ってくれてましたよ。部活が終わった後にシャワーを浴びてご飯食べてから来てくれるって言ってたんです」
「部活が終わった後って、疲れてるんじゃない?」
「そうだと思ったんですけど、その先輩は怖い話をするのが好きみたいなんですよ。怖がる人を見るのが好きだって言ってました。だから、どんなに疲れてても参加してくれるって言ってましたよ。陽菜の友達は肝試しにも期待って言ってたんですけど、さすがに大会が近いんで練習をさぼることは出来ないみたいですね」
「まあ、怖い話をしてくれるっていうのはありがたいかもね。会長も友達にお願いするって言ってたし、僕も誰か見付けないとな」
「まー君先輩は別にいいと思いますよ。だって、友達自体少なそうだし、怖い話出来る知り合いだっていなそうですもん」
陽菜ちゃんの言っていることは何一つ間違ってはいない。僕に友達がいないというのも事実であるし、友達がいないのだから怖い話が出来る知り合いだっているわけがないのだ。だからと言って、それをそのまま言うのはどうかと思う。もう少しオブラートに包んで言ってくれてもいいのではないかと思い、僕は少しだけ傷付いていた。
「まー君先輩は他の事で頑張ればいいんですよ。ほら、肝試しの時に愛ちゃん先輩を守るとか、怪談の会場設営とか後片付けとかやることいっぱいありますからね」
「知り合いがいなくても出来ることはあるからね。出来ることを精一杯頑張るよ」
「もう、そんなつもりで言ったんじゃないんですけど。でも、時間が空いてたら陽菜とも一緒に肝試しをしてもらいたいです。たぶん、そんな時間無いと思いますけどね」
「時間はありそうな気もするけどね。そんなにきついスケジュールじゃないでしょ?」
「それが、結構時間も無いみたいなんですよ。前の日から夕方まで児童館の人が管理棟を使ってるみたいでして、怪談の準備をするのもその人達が帰ってからになるみたいなんですよ。本当だったら昼過ぎから陽菜たちが使えるんですけど、児童館の人達の予約が夕方までになってるみたいなんですよ。他の日にずらせればそれで良かったんですけど、他の日は全部予約で埋まってるみたいで、そこを使えるのも夕方から朝までってことになってるんです。さすがに朝までは使わないので帰る時に掃除とかもしないといけないんですけど、もしかしたら肝試しをしている時から会場の準備をしないと間に合わないかもしれないって会長も言ってるんです。他のオカ研メンバーも手伝ってくれたらいいんですけど、普段参加してない人達に準備だけさせるってのも申し訳ない気がして、せっかく来てくれるんだったら楽しんでもらいたいなって思うんですよ。それに、会長は肝試しの方で何かあったら困るんで会場の準備も出来ないって事だし、まー君先輩は愛ちゃん先輩と一緒にいなくちゃだし、準備が間に合うか陽菜はちょっぴり不安なんですよ」
「そう言うことは先に言ってくれればいいのに。会長に頼んで僕と愛ちゃんの番を最初の方にしてもらうからさ。それが終わったら会場づくりを手伝うよ」
「ありがとうございます。でも、それだったら陽菜と二人で会場づくりデートしましょうよ」
「いや、さすがに愛ちゃんと肝試しをさせてよ」
今のは完璧な間で返すことが出来たと思う。その証拠に、言われた陽菜ちゃんも笑っていたのだ。
「確かにそうですね。ごめんなさい。手伝ってくれるだけでも嬉しいですよ。会場づくりをしている時に肝試しみたいなことが出来たらいいですね。陽菜は肝試しの方に参加出来なくても、まー君先輩と一緒に会場を作れるんだったら嬉しいです。今までよりも楽しみになりました」
「そう言ってくれて嬉しいよ。僕も困ってる陽菜ちゃんの役に立ちたいからね」
「ありがとうございます。そうだ。今日はクッキーを持ってきたんです。良かったら食べてくださいね」
陽菜ちゃんは鞄から可愛らしい袋を取り出すと、それを僕に手渡してくれた。袋越しにも微かに甘い匂いが伝わってくるのだが、陽菜ちゃんの作るお菓子は食べる前から美味しいのを知っている。今までもらったお菓子はどれも美味しくて見た目も綺麗なのだ。
「今日のクッキーは星形にしてみました。意外と上手に焼けたんで嬉しかったんですよ。ほら、これなんて型を使わずにナイフで形を整えたんです。一つだけ他のより小さいでしょ」
「本当だ。他のよりも少し小さいね。この大きさに何かこだわりでもあるの?」
「そうなんですよ。この大きさが大事なんです。どうです、味は他のと変わらないと思うんですけど、食べてみた感想はどうですか?」
「うん、これも美味しいよ。でも、食感とかも別に他のとは変わらないと思うんだけど。何が特別なの?」
「その秘密を教えてあげますよ。それはこれなんです」
陽菜ちゃんがスマホに映し出されている写真を見せてくれたのだが、そこに映っているのは星が沢山描かれた小さな巾着袋だった。
確かに小さな星が描かれてはいるのだが、それがいったい何の意味を持っているのか僕にはわからなかったのである。
「どうですか。これを見たら美味しさ倍増したりしますか?」
「いや、そう言うことは無いけど。これっていったい何の袋?」
「それはですね。袋ではないんです。なんと、陽菜が履いているパンツを丸めた物なんです」
「え、そんなわけないでしょ。普通に巾着袋みたいに紐で縛ってるじゃない」
「それはあえてそうしてみたんです。まー君先輩を騙すためですよ」
「いや、それはおかしいって。何でそんなことするのさ。意味無いでしょ」
「意味は確かに無いですけど、面白いじゃないですか。そういうのも大切かなって思ったんです。ちなみに、そのパンツは今朝履く前に撮ったやつですから」
陽菜ちゃんはクッキーを食べている僕をニヤニヤしながら見ていたのだが、僕が陽菜ちゃんの履いているパンツの星を食べているとでも思っていたのだろう。だが、そんな事を思われていたとしても実際にパンツを見たわけではないので問題などないのだ。
「そうだ、買ってきたお茶もあるんで飲んでください。クッキーだけだと喉が渇いちゃいますよね。結構水分もってかれちゃうと思うし」
そう言いながら鞄から取り出してくれたお茶を受け取ろうとしたのだが、目測を誤ったのか僕はそのお茶を受け取りそこなって落としてしまった。
僕は慌てずにそのお茶を拾ったのだが、自然と視線を下に移して上に戻す間に不自然なものがあるのに気付いてしまった。
陽菜ちゃんの足首に靴下ではない黒い布がついていたのだ。何なんだろうなと思ってはいたのだが、そう思った時にはその布が陽菜ちゃんの履いていた見せパンだったという事に気付いてしまったのだ。
なぜ気付いたのかというと、僕がお茶を拾って元の位置に戻った時に陽菜ちゃんは立ち上がっていて、僕の視線が陽菜ちゃんの顔にたどり着く前にスカートを持ち上げて僕にパンツを見せていたのだ。
そこには白い生地の中に黄色い星がいくつか浮かんでいたのだが、僕が食べているクッキーよりも少し大きくなっているように見えた。
きっと、陽菜ちゃんが履いたことで少し大きくなってしまったのだと思うが、僕はその星とクッキーの大きさを比べるなんてことはしなった。そんな事をしても意味がない事を僕は知っていたのだ。
陽菜ちゃんは呆然とパンツを見ている僕の顔を見て嬉しそうにしていた。
「どうですか。もう一度聞きますけど、陽菜のクッキー美味しいですか?」
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