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君影草 プロローグ
黄色い百合
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私はいじめを受けていたらしいのだけれど私自身がそれを気にしていなかったのだ。その結果、些細ないじめが人目につくようになっていき、最終的には先生方もいじめの存在を認識するようになっていた。そんな中、私を助けてくれようと百合ちゃんは色々と裏で動いていてくれたらしい。私は自分がイジメられているという事も、百合ちゃんがそんな風に動いてくれるのも知らなかったまま、イジメの主犯格に謝られるといった状況に置かれていた。
人伝に百合ちゃんの行動を聞いていたのだけれど、一度は仲違いしていたとはいえ、こんなに私の為に行動してくれたことは嬉しかった。最近ではあまり嬉しいと思うことは無かったのだけれど、直接見るよりも誰かから聞いた百合ちゃんの行動は私にとって喜悦の色が輝いているようだった。
そんな百合ちゃんも私の前では相変わらず一線を引いているようなのだけれど、ところどころ感情が漏れ出しているようにも見えていて、少しだけ私もからかってみたくなる衝動に駆られてしまった。そんな事はしないのだけれど。
どうしてかはわからないけれど、ある日の放課後に百合ちゃんが我が家を訪ねてきて一緒に宿題をやる事になった。その宿題はさして難しいものでもなく、例文を参考に短文を作ってみるだけの事だった。勉強がしっかりできる百合ちゃんの数少ない弱点の一つが作文や感想文なのだ。私は意外と文章が好きなので得意な方なのだが、百合ちゃんは完ぺきに決まっていない物は苦手らしく、気付くとペンを持ったまま固まっている事が多かった。
と言っても、元が優秀な百合ちゃんなので、ある程度の傾向を掴むとスラスラと短文を完成させていた。同じ例文を見て参考にしたはずなのに文章に差があるのは根が真面目でポジティブなのか実は不真面目でネガティブなのかといったくらいに文章の出発点と中継点と結末が違いすぎる。
百合ちゃんは自分で書いた文章が恥ずかしいらしく、私に見せる前にカバンの中にしまってしまった。途中までは盗み見していたのだけれど、結末がどうなってしまうのかは興味があるのだが、書き出しから途中までで何度か展開があったのだけれど、どれも突拍子の無いもので完全に無視をされていた。
そのまま裏庭に出て母が残してくれた花壇を見ていたのだけれど、昨日までは芽も出ていなかったはずなのに、今では黄色い百合が三輪咲いていた。花壇のすぐ横に立っている愛華が何かを言おうとしていたのだけれど、何も言わずに消えてしまった。何も言わずに消えてしまったのは初めてだったのだけれど、それはそれでゆっくり花を見ることが出来そうだと思った。
「あのさ、勘違いだったら申し訳ないんだけど。カスミちゃんって一人っ子だよね?」
「うん、私は一人っ子でこの家に父と二人で住んでるよ」
「花壇のところにセーラー服を着た女の人が立っていなかった?」
私以外にも愛華の姿が見える人がいるのは意外だったけれど、それが百合ちゃんだったのは喜ばしい事のように感じていた。さて、姿が見えてしまっているのならごまかす必要も無いように思えた。
「あの人はね、私にしか見えないと思っていたんだけれど、他にも見える人がいたってのは嬉しいかも。見える人が百合ちゃんで良かったと思うよ」
「詳しい事は後でちゃんと聞くけど、何だかよくないものが憑いていると思うんだけど、カスミは何ともないの?」
「ごめん、良くないものってのがわからないんだけど、私は大丈夫だよ」
「それならいいんだけど、私にも守り神がついているんだよね。その子が言うには、さっきのは危険な感じがするってさ」
私は愛華にそんな危険な感じは受けなかったのだけれど、百合ちゃんがそんな事を言うのは珍しいと思うし、冗談を言うタイプでもないと思った。よくなくて危険なモノが何を意味するのかわからないけれど、私は自分の直感と百合ちゃんの事のどちらを信じればいいのだろうか。
それを決めかねていると百合ちゃんは花壇の土を気にしていた。触ってみたり手に取ってみたりしてるけれど、何がわかるのだろうか。私は百合ちゃんの行動を一通り見守っていたのだけれど、百合ちゃんは花壇の土を少しだけ袋に入れていた。
「もうちょっと一緒に居たかったけれど、今日はこれで帰るね。少しだけ花壇の土を貰っていくけど、あとでちゃんと返すからね」
私の返事を待たずに百合ちゃんは大急ぎで帰っていった。そこに残された私は唯立ち尽くしているだけで、どうしたらいいのかわからなかった。
「ねえ、今の女の子が百合ちゃんなのかな?」
固まっている私に愛華が話しかけてきたのだけれど、私はそれに頷くことしか出来なかった。
「あの子って、もしかしたら悪霊に憑りつかれているのかもしれないよ。友達なら助けてあげなきゃダメだと思うけど、良かったらあそこのホオズキの花を渡してあげるといいよ」
「あそこって、どこにあるの?」
「花壇に咲いている百合の花に隠れているけど、すぐ後ろに一輪だけ咲いているでしょ?」
私は愛華に言われた通りにホオズキの花を摘むと花瓶に花を挿して部屋へと戻る事にした。
「そうそう、百合の花って色で花言葉が変わるって言ったけれど、今日咲いている百合の花言葉は『偽り』だよ」
私には百合ちゃんが嘘をついているとはにわかに信じられなかったけれど、愛華も嘘を言っているようには思えなかった。
誰を信じていいのかわからなかったけれど、今はとにかく一つ一つ確かめていくことにしよう。
人伝に百合ちゃんの行動を聞いていたのだけれど、一度は仲違いしていたとはいえ、こんなに私の為に行動してくれたことは嬉しかった。最近ではあまり嬉しいと思うことは無かったのだけれど、直接見るよりも誰かから聞いた百合ちゃんの行動は私にとって喜悦の色が輝いているようだった。
そんな百合ちゃんも私の前では相変わらず一線を引いているようなのだけれど、ところどころ感情が漏れ出しているようにも見えていて、少しだけ私もからかってみたくなる衝動に駆られてしまった。そんな事はしないのだけれど。
どうしてかはわからないけれど、ある日の放課後に百合ちゃんが我が家を訪ねてきて一緒に宿題をやる事になった。その宿題はさして難しいものでもなく、例文を参考に短文を作ってみるだけの事だった。勉強がしっかりできる百合ちゃんの数少ない弱点の一つが作文や感想文なのだ。私は意外と文章が好きなので得意な方なのだが、百合ちゃんは完ぺきに決まっていない物は苦手らしく、気付くとペンを持ったまま固まっている事が多かった。
と言っても、元が優秀な百合ちゃんなので、ある程度の傾向を掴むとスラスラと短文を完成させていた。同じ例文を見て参考にしたはずなのに文章に差があるのは根が真面目でポジティブなのか実は不真面目でネガティブなのかといったくらいに文章の出発点と中継点と結末が違いすぎる。
百合ちゃんは自分で書いた文章が恥ずかしいらしく、私に見せる前にカバンの中にしまってしまった。途中までは盗み見していたのだけれど、結末がどうなってしまうのかは興味があるのだが、書き出しから途中までで何度か展開があったのだけれど、どれも突拍子の無いもので完全に無視をされていた。
そのまま裏庭に出て母が残してくれた花壇を見ていたのだけれど、昨日までは芽も出ていなかったはずなのに、今では黄色い百合が三輪咲いていた。花壇のすぐ横に立っている愛華が何かを言おうとしていたのだけれど、何も言わずに消えてしまった。何も言わずに消えてしまったのは初めてだったのだけれど、それはそれでゆっくり花を見ることが出来そうだと思った。
「あのさ、勘違いだったら申し訳ないんだけど。カスミちゃんって一人っ子だよね?」
「うん、私は一人っ子でこの家に父と二人で住んでるよ」
「花壇のところにセーラー服を着た女の人が立っていなかった?」
私以外にも愛華の姿が見える人がいるのは意外だったけれど、それが百合ちゃんだったのは喜ばしい事のように感じていた。さて、姿が見えてしまっているのならごまかす必要も無いように思えた。
「あの人はね、私にしか見えないと思っていたんだけれど、他にも見える人がいたってのは嬉しいかも。見える人が百合ちゃんで良かったと思うよ」
「詳しい事は後でちゃんと聞くけど、何だかよくないものが憑いていると思うんだけど、カスミは何ともないの?」
「ごめん、良くないものってのがわからないんだけど、私は大丈夫だよ」
「それならいいんだけど、私にも守り神がついているんだよね。その子が言うには、さっきのは危険な感じがするってさ」
私は愛華にそんな危険な感じは受けなかったのだけれど、百合ちゃんがそんな事を言うのは珍しいと思うし、冗談を言うタイプでもないと思った。よくなくて危険なモノが何を意味するのかわからないけれど、私は自分の直感と百合ちゃんの事のどちらを信じればいいのだろうか。
それを決めかねていると百合ちゃんは花壇の土を気にしていた。触ってみたり手に取ってみたりしてるけれど、何がわかるのだろうか。私は百合ちゃんの行動を一通り見守っていたのだけれど、百合ちゃんは花壇の土を少しだけ袋に入れていた。
「もうちょっと一緒に居たかったけれど、今日はこれで帰るね。少しだけ花壇の土を貰っていくけど、あとでちゃんと返すからね」
私の返事を待たずに百合ちゃんは大急ぎで帰っていった。そこに残された私は唯立ち尽くしているだけで、どうしたらいいのかわからなかった。
「ねえ、今の女の子が百合ちゃんなのかな?」
固まっている私に愛華が話しかけてきたのだけれど、私はそれに頷くことしか出来なかった。
「あの子って、もしかしたら悪霊に憑りつかれているのかもしれないよ。友達なら助けてあげなきゃダメだと思うけど、良かったらあそこのホオズキの花を渡してあげるといいよ」
「あそこって、どこにあるの?」
「花壇に咲いている百合の花に隠れているけど、すぐ後ろに一輪だけ咲いているでしょ?」
私は愛華に言われた通りにホオズキの花を摘むと花瓶に花を挿して部屋へと戻る事にした。
「そうそう、百合の花って色で花言葉が変わるって言ったけれど、今日咲いている百合の花言葉は『偽り』だよ」
私には百合ちゃんが嘘をついているとはにわかに信じられなかったけれど、愛華も嘘を言っているようには思えなかった。
誰を信じていいのかわからなかったけれど、今はとにかく一つ一つ確かめていくことにしよう。
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