上 下
42 / 45

第42話 イザーの秘密

しおりを挟む
 教室に戻った工藤珠希とイザーはクラスメイト達がどこのクラスに助っ人に行くかで盛り上がっていた。
 栗宮院うまなも栗鳥院柘榴も他の生徒と同じように楽しそうにしているのだが、イザーは浮かない顔をしていた。左腕を失ったからという理由ではなく、みんなに伝えなくてはいけないことがあることを思い出してしまって急に怖くなってしまったのだ。

「随分と昼休みを満喫したみたいだね。珠希ちゃんは明日からの戦争に参加しないからいいんだけど、イザーちゃんはもう少しみんなの事を考えて行動してもらいたいかな。イザーちゃんが強いって事はみんな知ってることではあるけどさ、どんなに強くたって一人じゃ限界があるってのはわかってた方がいいと思うよ。イザーちゃんが一人で野生のサキュバス達を倒せるって言うんだったら話は別だけど、そうじゃないんだからもう少しみんなと協力して戦うってことを考えないとね。それにしても、どうしたのその恰好は?」

 シャワーを浴び手綺麗になった体なのに返り血を浴びた制服を着ると言うのもおかしな話なのでイザーは工藤珠希が売店で買ってきた体操服を着ていたのだ。名前を書く欄がついている学校指定の体操着なのだけど、零楼館高校は基本的に服装が自由なので好んで学校指定の体操服を着ている生徒はいない。一部、そういった需要を満たそうと思ってきている生徒はいるのだけれど、それは全くの少数である。

「ちょっと色々あって着替える必要があったんだよ。それについてなんだけど」
「なんだなんだ、この学校の指定体操服を着ている人を見たのは久しぶりだな。わざわざそんなものを好んで着るなんて、イザーちゃんはそういった趣味があるという事なのかもしれないな。だが、私はそういった趣味を持っているからと言って君の考えを否定したりはしないからね」
「イザーちゃんがソレを着てると体のラインがまるわかりでちょっとヤバいかも。もう少し食べて肉付けた方がいいんじゃないかなって思うけど、イザーちゃんって普段から結構間食と化してるよね。もしかして、イザーちゃんって太りにくい体質だったりするのか。そうだったとしたら本当に羨ましいんだけど」
「こんなに可愛らしいのに昔からずっと変わらないもんね。イザーちゃんと同じものを食べてたら凄い太ってる自信あるわ」
「そうなのよね。イザーちゃんって家に帰ってからもずっと何かしら食べてるんだけど、全然太らないの。何か秘密あるんじゃないかなって思って一週間くらい見張ってたことがあるんだけど、イザーちゃんって私たちが想像してる十倍は運動してるのよ。持つところなんてほとんど何もない壁をすいすいと昇っていったり、池の横の空いている場所に行けと同じ大きさの穴を掘って水を移し替えたり、重機を使わずに護岸工事をしてたり、転移装置を使って適当な惑星に降り立ってその星の地形を人力で変えたりしているんだよ。何のためにそんな事をしているのかさっぱりわからないんだけど、それをやっている時のイザーちゃんってすっごく充実している顔だったな」

 そんな事をしているイザーにも若干引いている工藤珠希とクラスメイト達ではあるが、その事をずっと観察していた栗宮院うまなに対しても似たような感想を持ってしまっていた。
 あれだけ強い悪魔とあれだけの時間戦えるのであれば栗宮院うまなが言っていることも真実なのだろうと予想はつくのだが、惑星の地形を変えるというのはどういう意味なのだろうと疑問に思っていた。

「ねえ、その惑星の地形を変えるってどういう事?」
「そのまんまの意味だよ。イザーちゃんが遊びに行った惑星の地面や山なんかを直接叩いたり蹴ったりして地形を変えてるって事。なんでそんな事をしているのか気になって聞いてみたんだけど、ちょっと前にやってたゲームで島の地形を自由に変えることが出来たんで自分もやってみたくなったんだって。完全に生物が死滅した世界だったらいいんじゃないかって思ってやったって事なんだけど、生物がいないからってそんな事をやっちゃうのは非常識だよね。私はやめた方がいいんじゃないかなって思ってたんだけど、すごく楽しそうにしてるイザーちゃんを見てると止められなかったんだよね」
「楽しそうにしてるんだったら止められないよね。誰の土地かもわからないと思うし、イザーちゃんが楽しんでるんだったらそれでいいのかもね」

 栗宮院うまなと鈴木愛華はイザーに対して一定の評価はしつつも決して満点ではないという事を伝えたいのかもしれない。
 イザーはそんな事を言われても気にしなそうなのだが、栗宮院うまなに言われたことにはショックを受けていた。

「イザーちゃんって夢中になっちゃうと他の事が目に入らなくなるんだよね。集中力があるって言えば聞こえはいいんだけど、一つの事に集中し過ぎちゃうのは欠点なのかもね。もう少し視野を広く持つことが出来たらいいのになって思うよ」
「十分広い視野を持ってると思うよ。模擬戦でも実戦でもイザーちゃんは的確に指示を出してたよ。空から全体を見てるんじゃないかって思うくらいに完璧だったからね」
「それよそれ。明日から始まる予定の戦争もイザーちゃんがいてくれればソレだけで安心だからね。レジスタンスのみんなもイザーちゃんの凄さを実感するといいんじゃないかな」

 明日の戦争についてイザーはみんなに言いたいことがあるのだけれど、なかなかその事を切り出すきっかけがつかめないのであった。
 みんなにちゃんと言わないといけないことなのに、あそこまでみんなが熱心に準備をしている事を知ってしまうとますます言いにくくなってしまっていた。
 ちゃんと言わないといけないことなのに、勇気が出なくて言い出せないイザーであった。

 戦う事なら出来るのに、こういう場面では弱気になってしまう可愛らしい一面も持ち合わせているようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...