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第34話 人間とサキュバスの違い
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どこに誰がいるのかドクターポンピーノにもわからないので工藤珠希は誰も連れていくことが出来なかった。戦う力を持たない工藤珠希に出来ることは誰かを連れてくるという事だけだったのだが、それすらも出来ずに時間だけが過ぎていた。
「みんなどこに行ったのかわからないんだけど、あの子なら助けを呼ばなくても大丈夫なんじゃないかな。もしも、死んでいたとしてもココに連れてきたら生き返らせてあげることも出来るんだし。出来れば、全身揃った完全な状態が望ましいんだけどね」
冗談のつもりで言ったと思われるのだが、工藤珠希にはドクターポンピーノの思いは正確に伝わることはなかった。
そもそも、イザーがやられるかもしれないという事で仲間を探すことに必死になっている工藤珠希に対してそんな冗談を言うこと自体が間違っていると思われるのだが、ドクターポンピーノは相手が誰であれイザーが負けるとは思っていない。前提からして異なってしまっているのでお互いの考えを理解する事など出来やしないのだ。
「イザーちゃんが死んでたとして、その死体を私一人で持ってくるなんて無理だと思うんですけど。それに、イザーちゃんが殺されているんだとしたらその体も無事だとは思えないんですよね」
「そうかもしれないけど、それは仮の話だろ。相手がどれくらい強いのか私には想像もつかないけれど、あの子がそんな簡単に負けるとは思えないんだけどね。いくら強いって言ったって二人くらいなら相手にならないでしょ。それくらいあの子は強いと思うよ」
「でも、あの人たちがここに攻める準備をしているんだとしたらですよ。それ以外にもたくさんの仲間を集めてやってくるんじゃないですかね。それこそ、この学校を壊そうとしているくらいなんだからとんでもない数になると思うんですけど」
「確かに。それは君のいう事が一理あるかもしれないね。でも、それでも私はあの子が負けるところは想像できないね。あの子に勝つために必要な戦力は、この学校にいるサキュバスとレジスタンスが共闘したうえで重火器で完全武装して反撃させないくらいの事はしないとスタートラインに立てないと思うんだよ」
「さすがにそれは言い過ぎだと思いますよ。もしそれが本当だとしたら、誰かを呼びに行くって行為自体が無駄なことになるじゃないですか」
「無駄ではないと思うよ」
無駄ではないと言われても工藤珠希には納得出来なかった。
仮に、ドクターポンピーノの言っていることが正しいのだとすればわざわざ相手についていく必要もないわけだし、工藤珠希が誰かを呼びに行くという行動自体も無駄なことで片付けられてしまうだろう。
誰かを呼んで来いとイザーに言われたわけではないのだけれど、そうなると野城君が何かを企んでいるという事にもなるかもしれない。
工藤珠希はますます頭が混乱してしまっていた。
「無駄ではないという事に関して考えてしまっているみたいだけど、私がなぜ無駄だと思わないのかの理由を説明させてもらうね。まず、大前提として理解してもらいたいのが、あの子は戦闘に関して言えば誰よりも優れていてどんな相手でも苦にならないという事と、君はあの子とは対照的にいたって普通の人間なので誰かと戦う事なんて慣れていないしそんな経験だってないだろう。誰かと命のやり取りをした経験ってあるのかな?」
「無いです。殴り合いの喧嘩だってしたことないです。ふざけて叩いたことくらいはありますけど喧嘩とかはしたことないです」
「だろうね。普通の人はそうだと思うよ。この学校に通ってる子たちは別だろうけど、普通にこの国で暮らしていたら命のやり取りをしたことがある人なんてそうそう見つかるものではないだろうね」
中学でもそんな経験はなかったし、小学校でも誰かと喧嘩した記憶はなかった。
もっと古い記憶、幼稚園時代にまで遡ればオモチャか何かを巡って喧嘩をしたことがあるような気もしていたが、相手を殺そうなどと思った事は無かったと思う。
そう考えると、工藤珠希はやはり誰とも命のやり取りをした経験はないのであった。
善良な日本人も悪い日本人もこの国に暮らしている大半の者は誰かと命のやり取りなんて行った経験はないだろう。
「この学校では日常的に命のやり取りを行っているわけなんだけど、君がそれに関わろうとする気持ちは持たなくてもいいんじゃないかなと私は思っている。もちろん、君が戦闘に巻き込まれて命を落としてしまったとしたら完璧に蘇らせることを誓うけれど、出来ることなら君は戦闘に関わらないでほしいと思っているんだよ。正直に言うと、私は誰も死んでほしいなんて思っていないんだ。いくら完璧に蘇らせたところで手当てがついて給料が増えることも無いからね。だからと言って手を抜くことはないけれどね」
「私も死にたいとは思ってないです。生き返らせてもらえるってわかってても、死ぬのは怖いです」
「それは普通の考えだと思うよ。私だって生き返れるって知ってるのに死ぬのは怖いからね。それはレジスタンスのみんなも同じだと思うよ。戦い方を見ていたらわかると思うんだけど、レジスタンスの子たちはなるべく怪我もしないようにって立ち回っているからね。サキュバスの子たちは怪我をする事だけじゃなく死ぬことも恐れてないみたいだけどさ」
「命の価値が軽いって思ってるって事ですか?」
「どうなんだろうね。そうかもしれないし、別の考えがあるからなのかもしれないね。ただ、イザーちゃんに関してはどちらも当てはまらないんじゃないかな。あの子は、自分が誰かに殺されるなんて考えてないと思うよ」
「みんなどこに行ったのかわからないんだけど、あの子なら助けを呼ばなくても大丈夫なんじゃないかな。もしも、死んでいたとしてもココに連れてきたら生き返らせてあげることも出来るんだし。出来れば、全身揃った完全な状態が望ましいんだけどね」
冗談のつもりで言ったと思われるのだが、工藤珠希にはドクターポンピーノの思いは正確に伝わることはなかった。
そもそも、イザーがやられるかもしれないという事で仲間を探すことに必死になっている工藤珠希に対してそんな冗談を言うこと自体が間違っていると思われるのだが、ドクターポンピーノは相手が誰であれイザーが負けるとは思っていない。前提からして異なってしまっているのでお互いの考えを理解する事など出来やしないのだ。
「イザーちゃんが死んでたとして、その死体を私一人で持ってくるなんて無理だと思うんですけど。それに、イザーちゃんが殺されているんだとしたらその体も無事だとは思えないんですよね」
「そうかもしれないけど、それは仮の話だろ。相手がどれくらい強いのか私には想像もつかないけれど、あの子がそんな簡単に負けるとは思えないんだけどね。いくら強いって言ったって二人くらいなら相手にならないでしょ。それくらいあの子は強いと思うよ」
「でも、あの人たちがここに攻める準備をしているんだとしたらですよ。それ以外にもたくさんの仲間を集めてやってくるんじゃないですかね。それこそ、この学校を壊そうとしているくらいなんだからとんでもない数になると思うんですけど」
「確かに。それは君のいう事が一理あるかもしれないね。でも、それでも私はあの子が負けるところは想像できないね。あの子に勝つために必要な戦力は、この学校にいるサキュバスとレジスタンスが共闘したうえで重火器で完全武装して反撃させないくらいの事はしないとスタートラインに立てないと思うんだよ」
「さすがにそれは言い過ぎだと思いますよ。もしそれが本当だとしたら、誰かを呼びに行くって行為自体が無駄なことになるじゃないですか」
「無駄ではないと思うよ」
無駄ではないと言われても工藤珠希には納得出来なかった。
仮に、ドクターポンピーノの言っていることが正しいのだとすればわざわざ相手についていく必要もないわけだし、工藤珠希が誰かを呼びに行くという行動自体も無駄なことで片付けられてしまうだろう。
誰かを呼んで来いとイザーに言われたわけではないのだけれど、そうなると野城君が何かを企んでいるという事にもなるかもしれない。
工藤珠希はますます頭が混乱してしまっていた。
「無駄ではないという事に関して考えてしまっているみたいだけど、私がなぜ無駄だと思わないのかの理由を説明させてもらうね。まず、大前提として理解してもらいたいのが、あの子は戦闘に関して言えば誰よりも優れていてどんな相手でも苦にならないという事と、君はあの子とは対照的にいたって普通の人間なので誰かと戦う事なんて慣れていないしそんな経験だってないだろう。誰かと命のやり取りをした経験ってあるのかな?」
「無いです。殴り合いの喧嘩だってしたことないです。ふざけて叩いたことくらいはありますけど喧嘩とかはしたことないです」
「だろうね。普通の人はそうだと思うよ。この学校に通ってる子たちは別だろうけど、普通にこの国で暮らしていたら命のやり取りをしたことがある人なんてそうそう見つかるものではないだろうね」
中学でもそんな経験はなかったし、小学校でも誰かと喧嘩した記憶はなかった。
もっと古い記憶、幼稚園時代にまで遡ればオモチャか何かを巡って喧嘩をしたことがあるような気もしていたが、相手を殺そうなどと思った事は無かったと思う。
そう考えると、工藤珠希はやはり誰とも命のやり取りをした経験はないのであった。
善良な日本人も悪い日本人もこの国に暮らしている大半の者は誰かと命のやり取りなんて行った経験はないだろう。
「この学校では日常的に命のやり取りを行っているわけなんだけど、君がそれに関わろうとする気持ちは持たなくてもいいんじゃないかなと私は思っている。もちろん、君が戦闘に巻き込まれて命を落としてしまったとしたら完璧に蘇らせることを誓うけれど、出来ることなら君は戦闘に関わらないでほしいと思っているんだよ。正直に言うと、私は誰も死んでほしいなんて思っていないんだ。いくら完璧に蘇らせたところで手当てがついて給料が増えることも無いからね。だからと言って手を抜くことはないけれどね」
「私も死にたいとは思ってないです。生き返らせてもらえるってわかってても、死ぬのは怖いです」
「それは普通の考えだと思うよ。私だって生き返れるって知ってるのに死ぬのは怖いからね。それはレジスタンスのみんなも同じだと思うよ。戦い方を見ていたらわかると思うんだけど、レジスタンスの子たちはなるべく怪我もしないようにって立ち回っているからね。サキュバスの子たちは怪我をする事だけじゃなく死ぬことも恐れてないみたいだけどさ」
「命の価値が軽いって思ってるって事ですか?」
「どうなんだろうね。そうかもしれないし、別の考えがあるからなのかもしれないね。ただ、イザーちゃんに関してはどちらも当てはまらないんじゃないかな。あの子は、自分が誰かに殺されるなんて考えてないと思うよ」
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