11 / 45
第11話 勘違いは誰にでもある
しおりを挟む
自習とは言え午前中に勉強を一切やらないのもばつが悪いと思ったのか、少しずつではあるが勉強をする生徒も増えていた。
やっていることはそれぞれ違うのだが、わからないことがあれば手の空いている教師や栗宮院うまなと栗鳥院柘榴が理解するまで根気よく教えていたのだ。工藤太郎も新一年生ながらに教える立場になっていたので驚いてしまった工藤珠希ではあったが、今までも何度か勉強を教えて貰ったことがあったのでその時の事を思い出すと工藤太郎が勉強を教えるのが上手だというのはわかっていたのだ。
人間と言うのは不思議なもので人がやっていることを真似してみたくなるものなのだが、それはサキュバスにとっても同様のようでSRクラスの生徒の大半が教師役をやりたいと言い出したのだった。
その中でも工藤珠希は黙ってその流れに乗らずにいたのだが、それについて何かを言う生徒は誰もいなかった。
「みんなが勉強熱心なのはよくわかったよ。その意欲を無駄にしないためにも午後からは一人ずつ先生をやってもらう事にしようね。じゃあ、最初に先生をやりたい人はいるかな?」
片岡瑠璃の言葉に反応する生徒は誰もいなかった。
あれだけ熱心に勉強を教えたいと言った生徒たちではあったが、これからの流れを決定づける最初の教師になりたいと思う者はいなかった。誰かが作った流れに沿って自分も勉強を教えたい、人間もサキュバスも基本的に考えることは同じなのか積極性のある生徒は誰もいないようだった。
このままでは時間が無駄に過ぎてしまうだけだと思った工藤太郎が空気を呼んで手を上げようとしたその瞬間、鈴木愛華が立ち上がって手を上げていた。
それに気付いた工藤太郎は上げようとした手をゆっくりと下ろしたのだった。
「何のとりえもない私ですが、一番最初に先生になりたいです。サキュバスには難しい話をしちゃうかもしれないですけど、最後までついてきてもらえると嬉しいです」
「最後までって、愛華さんは何を教えてくれる予定なのかな?」
「はい、私は学校の授業では細かく教えて貰えない戦国時代から幕末にかけての熱い男たちの話をしたいと思います」
少し前に戦国時代のゲームをやっていた工藤珠希には気になる題材ではあったが、戦国時代から幕末と言う長い期間を上手にまとめることが出来るのだろうか。何百人もいる侍達の話になると思うのだが、どんな感じになるのか楽しみであった。
「戦国時代から幕末と言うと、結構長い期間になっちゃうと思うんだけど、授業時間でまとめられそうかな?」
「それは大丈夫だと思います。私の計算では、何事もなく無事に進んだとしたら私の卒業の少し前に完結すると思います。毎日私が皆さんの時間を独占するのは良くないと思うので、お昼休み以降は他の方に譲ろうと思っていますけどね」
さらりと凄いことを言っているように思った工藤珠希ではあったが、他の生徒もそんなに長い話を延々と聞きたくないと思ったようで全員が鈴木愛華に対して文句を言っていた。彼女の仲間であるはずのレジスタンスの面々もブーイングをしているところを見ると、彼女の言っていることはめちゃくちゃだという事がわかる。
「君が好きなモノに熱中してしまうというのはよくわかっている事だ。君が卒業するころに終わる授業だと私たちは途中で強制的に終了することになるのだが、それについては何か考えがあったりするのかな?」
真剣な表情の栗鳥院柘榴に見つめられた鈴木愛華は色々と考えを張り巡らせていたようだが、誰もが納得するような答えをすぐに出すことが出来ずに謝っていた。
「謝ってもらう必要はないんだがね。私が聞きたいのは謝罪ではなくて、どういった形で私たちに授業をしてくれるのかという事なんだよ。私も戦国時代や幕末が好きなので君の考えを聞きたいと真剣に思っているんだよ。だからこそ、最後まで君の授業を受けることが出来ない私に対してどのような対応をしてくれるのかを聞いているんだがね。それについてはどう考えているのかな?」
最初のうちは責められている鈴木愛華の困っている顔を見てバカにしようとしていたサキュバスたちも栗鳥院柘榴の発するプレッシャーに気おされたのか少しずつ声が小さくなっていって、最終的には栗鳥院柘榴から視線を外して黙ってしまっていた。
「すいません。会長が私よりも先に卒業することをすっかり忘れていました。なので、会長が興味あるんでしたら個人的にお話しさせてください。私も会長がどのような解釈をしているのか気になるので、会長の話も聞いてみたいです」
「そうか、忘れていたのだとしたら仕方ないね。私の好きな坂本龍馬の話をたくさんしようじゃないか」
「あ、会長は坂本龍馬が好きなんですね。ちょっと意外でした。私はてっきり新選組が好きなのかと思ってましたよ。会長の待ち受けって新選組の隊旗だったような気がしたんで」
「もちろん、私は新選組も好きだよ。だが、一番好きなのは坂本龍馬と言うだけの話なのさ」
同じレジスタンスの二人が揉めるのではないかと思って見守っていたクラスメイト達は二人がすぐに笑顔になったのを見て安堵していた。
鈴木愛華の目が一瞬だけ全てを諦めてしまったように感じたのだが、それは工藤珠希の気のせいだったのかもしれない。
「じゃあ、私のおすすめの侍ではなく、私のおすすめの仏像について皆さんに解説しますね。好きな仏像を全て教えたいところではありますが、時間内に収まるように自重しますね」
仏像と聞いて誰もが驚いていたのだが、その中でも栗宮院うまなは前のめりになって食いついていた。
サキュバスなのに仏像が好きなのかと誰もが思ったのだが、そのようなことをあえて口に出すような者はいなかったのだ。
やっていることはそれぞれ違うのだが、わからないことがあれば手の空いている教師や栗宮院うまなと栗鳥院柘榴が理解するまで根気よく教えていたのだ。工藤太郎も新一年生ながらに教える立場になっていたので驚いてしまった工藤珠希ではあったが、今までも何度か勉強を教えて貰ったことがあったのでその時の事を思い出すと工藤太郎が勉強を教えるのが上手だというのはわかっていたのだ。
人間と言うのは不思議なもので人がやっていることを真似してみたくなるものなのだが、それはサキュバスにとっても同様のようでSRクラスの生徒の大半が教師役をやりたいと言い出したのだった。
その中でも工藤珠希は黙ってその流れに乗らずにいたのだが、それについて何かを言う生徒は誰もいなかった。
「みんなが勉強熱心なのはよくわかったよ。その意欲を無駄にしないためにも午後からは一人ずつ先生をやってもらう事にしようね。じゃあ、最初に先生をやりたい人はいるかな?」
片岡瑠璃の言葉に反応する生徒は誰もいなかった。
あれだけ熱心に勉強を教えたいと言った生徒たちではあったが、これからの流れを決定づける最初の教師になりたいと思う者はいなかった。誰かが作った流れに沿って自分も勉強を教えたい、人間もサキュバスも基本的に考えることは同じなのか積極性のある生徒は誰もいないようだった。
このままでは時間が無駄に過ぎてしまうだけだと思った工藤太郎が空気を呼んで手を上げようとしたその瞬間、鈴木愛華が立ち上がって手を上げていた。
それに気付いた工藤太郎は上げようとした手をゆっくりと下ろしたのだった。
「何のとりえもない私ですが、一番最初に先生になりたいです。サキュバスには難しい話をしちゃうかもしれないですけど、最後までついてきてもらえると嬉しいです」
「最後までって、愛華さんは何を教えてくれる予定なのかな?」
「はい、私は学校の授業では細かく教えて貰えない戦国時代から幕末にかけての熱い男たちの話をしたいと思います」
少し前に戦国時代のゲームをやっていた工藤珠希には気になる題材ではあったが、戦国時代から幕末と言う長い期間を上手にまとめることが出来るのだろうか。何百人もいる侍達の話になると思うのだが、どんな感じになるのか楽しみであった。
「戦国時代から幕末と言うと、結構長い期間になっちゃうと思うんだけど、授業時間でまとめられそうかな?」
「それは大丈夫だと思います。私の計算では、何事もなく無事に進んだとしたら私の卒業の少し前に完結すると思います。毎日私が皆さんの時間を独占するのは良くないと思うので、お昼休み以降は他の方に譲ろうと思っていますけどね」
さらりと凄いことを言っているように思った工藤珠希ではあったが、他の生徒もそんなに長い話を延々と聞きたくないと思ったようで全員が鈴木愛華に対して文句を言っていた。彼女の仲間であるはずのレジスタンスの面々もブーイングをしているところを見ると、彼女の言っていることはめちゃくちゃだという事がわかる。
「君が好きなモノに熱中してしまうというのはよくわかっている事だ。君が卒業するころに終わる授業だと私たちは途中で強制的に終了することになるのだが、それについては何か考えがあったりするのかな?」
真剣な表情の栗鳥院柘榴に見つめられた鈴木愛華は色々と考えを張り巡らせていたようだが、誰もが納得するような答えをすぐに出すことが出来ずに謝っていた。
「謝ってもらう必要はないんだがね。私が聞きたいのは謝罪ではなくて、どういった形で私たちに授業をしてくれるのかという事なんだよ。私も戦国時代や幕末が好きなので君の考えを聞きたいと真剣に思っているんだよ。だからこそ、最後まで君の授業を受けることが出来ない私に対してどのような対応をしてくれるのかを聞いているんだがね。それについてはどう考えているのかな?」
最初のうちは責められている鈴木愛華の困っている顔を見てバカにしようとしていたサキュバスたちも栗鳥院柘榴の発するプレッシャーに気おされたのか少しずつ声が小さくなっていって、最終的には栗鳥院柘榴から視線を外して黙ってしまっていた。
「すいません。会長が私よりも先に卒業することをすっかり忘れていました。なので、会長が興味あるんでしたら個人的にお話しさせてください。私も会長がどのような解釈をしているのか気になるので、会長の話も聞いてみたいです」
「そうか、忘れていたのだとしたら仕方ないね。私の好きな坂本龍馬の話をたくさんしようじゃないか」
「あ、会長は坂本龍馬が好きなんですね。ちょっと意外でした。私はてっきり新選組が好きなのかと思ってましたよ。会長の待ち受けって新選組の隊旗だったような気がしたんで」
「もちろん、私は新選組も好きだよ。だが、一番好きなのは坂本龍馬と言うだけの話なのさ」
同じレジスタンスの二人が揉めるのではないかと思って見守っていたクラスメイト達は二人がすぐに笑顔になったのを見て安堵していた。
鈴木愛華の目が一瞬だけ全てを諦めてしまったように感じたのだが、それは工藤珠希の気のせいだったのかもしれない。
「じゃあ、私のおすすめの侍ではなく、私のおすすめの仏像について皆さんに解説しますね。好きな仏像を全て教えたいところではありますが、時間内に収まるように自重しますね」
仏像と聞いて誰もが驚いていたのだが、その中でも栗宮院うまなは前のめりになって食いついていた。
サキュバスなのに仏像が好きなのかと誰もが思ったのだが、そのようなことをあえて口に出すような者はいなかったのだ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。


俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。


女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる