百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎

文字の大きさ
上 下
9 / 45

第9話 あたたかいココア

しおりを挟む
 学外にいるサキュバスという言葉を寝る直前に思い出した工藤珠希は眠れなくなっていた。
 明日から本格的に授業が始まると思うと寝た方がいいのだが、サキュバスというものがどのような存在なのか調べてしまった事もあって眠れなくなってしまっていた。
 いつもであれば工藤太郎に眠くなるまで付き合ってもらうところであるのだが、サキュバスと言うモノを調べてしまった事もあって何だか気まずい気がして工藤太郎の部屋に行くことが出来なかった。

 横になっても眠れる気配が無かったので少しだけ外の空気を吸ってみようと思い窓を開けたのだが、遠くの空に不規則に揺れている光があることに気が付いた。飛行機でもヘリコプターでもない動きをする不思議な光をじっと見ていたのだが、その光がゆらゆらと上下左右不規則に動いているのを自然と目で追っていると、少しずつ光が大きくなっているように思えてきた。
 そんな事なんてあるわけが無いと思いつつも、最初は空に浮かんでいる星くらいの大きさだと思っていたのが今では月も隠れるくらいの大きさになっていた。
 何だか怖くなった工藤珠希は静かに窓を閉めてから隙間の無いようにカーテンもきっちりを閉めたのだった。

 変なモノを見たせいで余計に眠れなくなってしまった工藤珠希はいったん落ち着こうと思って水を飲むことにしたのだが、台所へ行くと母親がお弁当の下ごしらえをしていたのだった。

「こんな時間にお腹でも空いたの?」
「そうじゃなくて、何となく眠れないから水でも飲もうかと思った」
「それならココアでも作ってあげるからちょっと待ってなさい。それ飲んだらちゃんと寝るのよ。明日から授業も始まるんだから寝不足はダメよ」
「授業って言ってもずっと自習みたいだけど」
「そう言えば説明会でそんな事を言ってたわね。本当に自習だとは思わなかったけど」

 小さい時もなかなか寝付けなかったときにココアを作ってもらったことを思い出していた。あの時は太郎も一緒に熱々のココアをゆっくりと飲んでいたんだったななんて考えていると、母親はココアを二つ差し出してきた。

「え、一つでいいんだけど」
「あんたの分と太郎ちゃんの分よ。きっと太郎ちゃんは今も勉強しているから持っていってあげなさい。寝てたらあんたが飲んでいいし」
「いや、二杯も飲んだら太るでしょ」
「あんたは背も高いんだから少しくらい太った方がいいわよ。お父さんも珠希はもう少し肉を付けた方がいいんじゃないかって心配してたからね」

「お父さんってそういう趣味だったんだ」
「変なこと考えてると、あんたのお弁当だけカロリー増やすわよ」

 この世の物とは思えない脅し文句に怯えた工藤珠希はこれ以上恐ろしい目に遭わないように階段を上っていった。ココアを持っているのでこぼさないように慎重に一歩一歩足を進めているのだが、この時間に工藤太郎の部屋に行っても良いものかと迷ってしまった。
 階段を上りきって工藤太郎の部屋の前に立っていたのだが、両手にココアを持っているのにどうやってノックしようと考えていたところ、タイミングを計っていたかのようにゆっくりと扉が開いて工藤太郎が笑顔で出迎えてくれた。

「ココアを持ってきてくれたんだ。ありがとう。ちょうど飲みたいなって思ってたところだったんだ」
「そうだったんだ。お母さんが太郎にも持っていきなさいって言ってたから。じゃあ、コレどうぞ」
「ありがとう。一緒に飲む?」

 誘われた工藤珠希は特に断る理由も無かったので部屋の中に入っていった。
 小さいころから何度も入っている工藤太郎の部屋は自分の部屋と同じ間取りとは思えないくらい綺麗に整理整頓がされていた。この部屋を参考に模様替えをしようと思ったことは何度もあったのだが、どうしても自分の手の届く範囲にモノを集めてしまう工藤珠希には綺麗に整理して維持するというは難しいことであった。

「なんかいい匂いがするね。芳香剤?」
「さっきまでアロマを焚いてたからかな。勉強するときに集中できるって言うのと、リラックスできるからね」
「へえ、太郎って女子力も高いのか。私も部屋の綺麗さは真似できないけど、アロマとか参考にしてみようかな」
「色々試してみたらいいよ。きっと珠希ちゃんの好きな匂いとかも見つかると思うよ」
「次の休みにでも見に行ってみようかな」

 前々から少し興味を持っていた工藤珠希ではあったが、自分がそんなものに興味を持つなんて早いのではないかと思って遠慮していたのだ。工藤太郎の勧めもあってか遠慮するのもおかしいと思えてきた。
 一人で行くのは少し気恥しいものがあるのだが、だからと言って工藤太郎を誘って一緒に行くのも恥ずかしい。かといって、親に頼むのも恥ずかしい。何とも気難しい年頃なのだ。

「珠希ちゃんは甘い匂いがいいんじゃないかな。エキゾチックな香りよりも甘くてふわふわした匂いが似合うと思うよ」
「それって、ココアの匂いじゃないよね?」
「違うよ。ほら、珠希ちゃんてお風呂上りに良い匂いがしているからそれもあるし」
「え、ちょっとキモイんだけど」

 そんなやり取りをしながらココアを飲み終えた二人は揃って台所にマグカップを置きに行った。
 台所には誰もいなかったのでマグカップを軽くすすいで食洗器に入れておいた。

 部屋に戻った工藤珠希は落ち着いた気持ちでウトウトしていた。
 先ほど見た謎の光の事などすっかり忘れることが出来たので、ゆっくりと眠りにつくことが出来たのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

学校1のイケメンが俺のハーレム化計画を邪魔してくる

山田空
キャラ文芸
過去を振り返りながら俺はたくさんの女性と恋人になる 学校一のイケメンだったはずが俺よりイケメンなやつが現れてハーレムを奪われた。 そのはずなのになぜかそのイケメンが俺に近づいてくる。 「おいごらお前は俺のことが嫌いだったはずだろ」 でも実は女の子で俺のことが好きでした。 「ぼく以外のことは見ないでいてくれるよね?」 ヤンデレだったイケメンから俺は逃げる。 なんでって?そりゃ怖いからだよ

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

処理中です...