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第8話 工藤太郎の進路の秘密
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入学式だけで終わると思った初日はSRクラスのオリエンテーションも行われたのだ。
工藤珠希は今日あった出来事を整理しようと思っていたのだが、あまりに濃い一日だったので上手にまとめることが出来なかった。
一人では整理しきれないと思った工藤珠希はいつものように食後の鍛錬を行っている工藤太郎を呼んで話をすることにしたのだ。
「太郎は今日の事どう思ったの?」
「そうだね。変わっている学校だとは思っていたけど、想像していたよりもずっとずっと変わっていたと思ったよ。今まで誰一人として高校から通うことが出来なかったのは何故なのかなって考えてたけど、結局その答えは見つからなかったけどね」
「確かに変わった学校だよね。サキュバスとか言われてもどうすればいいんだって感じだし」
「それはあんまり気にしなくてもいいんじゃないかな。今の感じだとサキュバスって言っても実害はないみたいだし、普通にしていれば卒業も出来るんじゃないかな。あ、サキュバスのみんなは珠希ちゃんの事を狙ってるって言ってたけどね」
「ちょっと待って、それって本気だったの?」
「本気じゃないかな。珠希ちゃんが“特別指名推薦”で入学できたのもそれが理由なんだろうし。なんで珠希ちゃんがサキュバスの人達に惚れられたのかは謎だけど、明日学校に行ったら聞いてみようかな」
「それはやめて。理由を知ってしまったら逃げられないような気がしているから」
今まで人に好かれる経験をしてこなかった工藤珠希は少しだけ混乱していた。自分に好意を寄せてきている人達は例外なく工藤太郎と仲良くなるための踏み台として自分に近付いてきた人達ばかりだったのだが、今回は誰一人として工藤珠希を利用して工藤太郎と仲良くなろうとしている人はいなかったのだ。
勉強が出来るだけではなく運動も全国レベルで何でも出来て、真面目に一つに取り組んでいれば歴史が変わってしまうのではないかと言われてしまうくらいの逸材の工藤太郎に下心をもって近付いてくる人がいるのは理解出来る。おそらく、自分が他の人の立場だとしてもその人達と同じことをしてしまうんじゃないかと言う事を理解している。それでも、零楼館高校に通う生徒も教師も職員もそんな特別である工藤太郎に対して何らかの特別な感情を抱いている様子もなく、逆に自分に対して恋愛よりも重い感情を向けられているという自覚もあったのだ。
「でもさ、みんな珠希ちゃんの事を好きになってくれるってのは俺としても嬉しいよ。正直に言うとさ、俺は中学までのクラスメイトも先生たちもみんなあまり好きじゃなかったんだよね。みんな俺の事ばっかりで珠希ちゃんの事を全然見てなかったもんね。それって何か嫌だなって思ってたんだよ」
「太郎が総思ってくれてるのは嬉しいけどさ、勉強も運動も何でも出来て人の気持ちもちゃんと考えることが出来る太郎を特別視するのは当然なんじゃないかな。私もみんなの立場だったら太郎と仲良くなりたいって思うだろうし」
「思ってもらえるのは嬉しいんだけどさ、俺を誉める時に他の人を貶す必要なんて無いと思うんだよね。誰かと比べられるってのは仕方ないとは思うんだけど、そこで相手を悪く言うのはおかしいと思うんだ」
工藤太郎は何かを思い出したのか悲しそうな顔をしていた。その表情は一瞬だったのだが、工藤珠希は見逃さない。でも、その事をわざわざ言うようなことはしなかったのだ。
「進路で悩んでいたときなんだけど、俺はどこの高校にもいくつもりは無かったんだよね。お父さんとお母さんとも話してたんだけど、ヨーロッパに行って格闘技をやってみようかと思ってたんだ」
「なんで格闘技なの?」
「なんでって言われてもね。今までやったことが無かったから、かな」
「喧嘩もしたことないのに?」
「したことが無いからこそだよ。誰かを殴る経験なんて一生しないと思ってたんだけど、少しだけ気になっちゃったんだ。お父さんもお母さんも格闘技を見るのが好きだし、一緒に見てたら興味も出てきちゃって、どうせやるなら本格的にやってみようっていう事になったんだ」
「本格的に始めようって、いきなり外国って凄すぎるでしょ」
「色々あって、オランダのトレーナーが俺に興味を持ってくれたみたいでこえをかけてくれたんだ。バスケの全国大会で見た俺のフェイントが格闘技にも使えるとか何とか言ってたかな」
「ちょっと待って、今オランダって言ったよね?」
「うん、オランダ」
中学三年生の夏休みに急に海外旅行に行くことになったのだが、その旅行先はオランダとドイツだった。その時は何とも思わなかった工藤珠希もこの話を聞くと裏でそんな事が行われていたのかと考えてしまった。この話を聞いたからと言えばそうなのだが、母親と工藤珠希のグループと父親と工藤太郎のグループで別れて観光した日があったのも不自然なことに感じていた。
「もしかしてだけど、別れて観光した時もそのトレーナーって人に会いに行ったって事?」
「そういう事。珠希ちゃんは変だと思わなかったでしょ?」
「うん、全然変だと思わなかった。男二人で山登りをするって言ってたからそうなのかと思ってたけど、なんで自転車で移動するんだろうって思ってたくらいかも」
「オランダには登山するような山は無いんだけどね」
騙されたという感情が無いわけではなかったが、その事に対して怒るようなことは出来なかった。理由はどうあれ初めての海外旅行はとても楽しく良い思い出になっていたからである。
「でも、結局俺はその話を断ることにしたんだよね」
「やっぱり格闘技とか大変そうだもんね。優しい太郎には人を殴るとか無理なんじゃない」
「そんな事無いと思うよ。俺もいつかは誰かと殴り合いをすることもあるかもしれないし。断ったのはそういう理由じゃないしね」
「どんな理由なのよ?」
「それは、珠希ちゃんが零楼館高校から“特別指名推薦”を貰ったからだよ。珠希ちゃんの事を凄いって認めるような学校がどんな学校か気になっちゃったからね」
「そんな理由であれだけ来ていた推薦を断って一般で入ったって事なの?」
「そうだよ。そのために俺も頑張ったからね」
「頑張る理由がおかしいわ」
工藤珠希は少し呆れていたのだが、その頑張りのおかげで零楼館高校に一般入試で合格者が出たという事実が生まれたのはある意味歴史が変わった瞬間でもあったのだ。
工藤珠希は今日あった出来事を整理しようと思っていたのだが、あまりに濃い一日だったので上手にまとめることが出来なかった。
一人では整理しきれないと思った工藤珠希はいつものように食後の鍛錬を行っている工藤太郎を呼んで話をすることにしたのだ。
「太郎は今日の事どう思ったの?」
「そうだね。変わっている学校だとは思っていたけど、想像していたよりもずっとずっと変わっていたと思ったよ。今まで誰一人として高校から通うことが出来なかったのは何故なのかなって考えてたけど、結局その答えは見つからなかったけどね」
「確かに変わった学校だよね。サキュバスとか言われてもどうすればいいんだって感じだし」
「それはあんまり気にしなくてもいいんじゃないかな。今の感じだとサキュバスって言っても実害はないみたいだし、普通にしていれば卒業も出来るんじゃないかな。あ、サキュバスのみんなは珠希ちゃんの事を狙ってるって言ってたけどね」
「ちょっと待って、それって本気だったの?」
「本気じゃないかな。珠希ちゃんが“特別指名推薦”で入学できたのもそれが理由なんだろうし。なんで珠希ちゃんがサキュバスの人達に惚れられたのかは謎だけど、明日学校に行ったら聞いてみようかな」
「それはやめて。理由を知ってしまったら逃げられないような気がしているから」
今まで人に好かれる経験をしてこなかった工藤珠希は少しだけ混乱していた。自分に好意を寄せてきている人達は例外なく工藤太郎と仲良くなるための踏み台として自分に近付いてきた人達ばかりだったのだが、今回は誰一人として工藤珠希を利用して工藤太郎と仲良くなろうとしている人はいなかったのだ。
勉強が出来るだけではなく運動も全国レベルで何でも出来て、真面目に一つに取り組んでいれば歴史が変わってしまうのではないかと言われてしまうくらいの逸材の工藤太郎に下心をもって近付いてくる人がいるのは理解出来る。おそらく、自分が他の人の立場だとしてもその人達と同じことをしてしまうんじゃないかと言う事を理解している。それでも、零楼館高校に通う生徒も教師も職員もそんな特別である工藤太郎に対して何らかの特別な感情を抱いている様子もなく、逆に自分に対して恋愛よりも重い感情を向けられているという自覚もあったのだ。
「でもさ、みんな珠希ちゃんの事を好きになってくれるってのは俺としても嬉しいよ。正直に言うとさ、俺は中学までのクラスメイトも先生たちもみんなあまり好きじゃなかったんだよね。みんな俺の事ばっかりで珠希ちゃんの事を全然見てなかったもんね。それって何か嫌だなって思ってたんだよ」
「太郎が総思ってくれてるのは嬉しいけどさ、勉強も運動も何でも出来て人の気持ちもちゃんと考えることが出来る太郎を特別視するのは当然なんじゃないかな。私もみんなの立場だったら太郎と仲良くなりたいって思うだろうし」
「思ってもらえるのは嬉しいんだけどさ、俺を誉める時に他の人を貶す必要なんて無いと思うんだよね。誰かと比べられるってのは仕方ないとは思うんだけど、そこで相手を悪く言うのはおかしいと思うんだ」
工藤太郎は何かを思い出したのか悲しそうな顔をしていた。その表情は一瞬だったのだが、工藤珠希は見逃さない。でも、その事をわざわざ言うようなことはしなかったのだ。
「進路で悩んでいたときなんだけど、俺はどこの高校にもいくつもりは無かったんだよね。お父さんとお母さんとも話してたんだけど、ヨーロッパに行って格闘技をやってみようかと思ってたんだ」
「なんで格闘技なの?」
「なんでって言われてもね。今までやったことが無かったから、かな」
「喧嘩もしたことないのに?」
「したことが無いからこそだよ。誰かを殴る経験なんて一生しないと思ってたんだけど、少しだけ気になっちゃったんだ。お父さんもお母さんも格闘技を見るのが好きだし、一緒に見てたら興味も出てきちゃって、どうせやるなら本格的にやってみようっていう事になったんだ」
「本格的に始めようって、いきなり外国って凄すぎるでしょ」
「色々あって、オランダのトレーナーが俺に興味を持ってくれたみたいでこえをかけてくれたんだ。バスケの全国大会で見た俺のフェイントが格闘技にも使えるとか何とか言ってたかな」
「ちょっと待って、今オランダって言ったよね?」
「うん、オランダ」
中学三年生の夏休みに急に海外旅行に行くことになったのだが、その旅行先はオランダとドイツだった。その時は何とも思わなかった工藤珠希もこの話を聞くと裏でそんな事が行われていたのかと考えてしまった。この話を聞いたからと言えばそうなのだが、母親と工藤珠希のグループと父親と工藤太郎のグループで別れて観光した日があったのも不自然なことに感じていた。
「もしかしてだけど、別れて観光した時もそのトレーナーって人に会いに行ったって事?」
「そういう事。珠希ちゃんは変だと思わなかったでしょ?」
「うん、全然変だと思わなかった。男二人で山登りをするって言ってたからそうなのかと思ってたけど、なんで自転車で移動するんだろうって思ってたくらいかも」
「オランダには登山するような山は無いんだけどね」
騙されたという感情が無いわけではなかったが、その事に対して怒るようなことは出来なかった。理由はどうあれ初めての海外旅行はとても楽しく良い思い出になっていたからである。
「でも、結局俺はその話を断ることにしたんだよね」
「やっぱり格闘技とか大変そうだもんね。優しい太郎には人を殴るとか無理なんじゃない」
「そんな事無いと思うよ。俺もいつかは誰かと殴り合いをすることもあるかもしれないし。断ったのはそういう理由じゃないしね」
「どんな理由なのよ?」
「それは、珠希ちゃんが零楼館高校から“特別指名推薦”を貰ったからだよ。珠希ちゃんの事を凄いって認めるような学校がどんな学校か気になっちゃったからね」
「そんな理由であれだけ来ていた推薦を断って一般で入ったって事なの?」
「そうだよ。そのために俺も頑張ったからね」
「頑張る理由がおかしいわ」
工藤珠希は少し呆れていたのだが、その頑張りのおかげで零楼館高校に一般入試で合格者が出たという事実が生まれたのはある意味歴史が変わった瞬間でもあったのだ。
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