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第5話 クラスメイトの君
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SクラスのSはサキュバスの略でありRクラスのRはレジスタンスの略である。
それを知ったからとって工藤珠希は何も感じていなかった。何も感じていないというよりは、現実感のない話にしか思えなかった。サキュバスという言葉は知っていたし、どういう存在なのかは何となく知って入るのだけれど、それが本当に実在するのかという疑問もあったのだ。
そんな事を考えていた工藤珠希は教室の自分の席に座って教室内の掲示物を見ていた。
特に気になるものは無かったのだけれど、時間割表に書かれている授業科目は全て自習となっていた。
工藤太郎に時間割の事を話そうとしたのを見計らったかのように一人の男子生徒が話しかけてきたのだ。
「入学式お疲れさん。二人とも注目されてるから色々と大変だと思うけど、何か困ったことがあったら何でも聞いてくれよ。俺は野城って名前なんだけど好きな風に呼んでくれていいからな」
「ありがとう。俺は工藤太郎だ」
「知ってるよ。お前ら二人は有名人だからな。そっちのお姉さんは工藤珠希ちゃんだよね。よろしく」
「よろしく。さっそく聞きたいことがあるんだけど、このクラスの授業って自習ばっかりになってるけど、それってどうしてなの?」
「ああ、それはすぐにわかることなんだけどさ、このクラスって学年に一つってわけじゃなくてこの学校に一つしかないんだよ。一年生から三年生までの特別優秀な生徒がSクラスRクラス関係なく選ばれるって事なんだけど、3学年分の授業を同時に行うのなんて無理な話だから自習になるってわけ。でも、自習って言っても空いてる先生がいれば勉強を教えて貰う事も出来るんだよな。それって、学習塾の個別指導みたいなもんだよな」
「何で3学年が同じクラスにまとめられるんだろ?」
「なんでって言われてもな、それが学校の方針なんでわからないんだよな。でも、SRクラスって本当に優秀な生徒しか選ばれないんだぜ。そんなクラスに選ばれたのは嬉しいことなんだけど、プレッシャーもあるんだよな。なにせ、クラスメイトの中には生徒会長もいるし部活連の総会長もいるしサキュバスの女帝もいるからな。学年はみんな違うけど、仲良くやれるんじゃないかな」
「仲良くって、生徒会長はSクラスに宣戦布告みたいのをしてたと思うんだけど、そんな事をして仲良くなれるもんなのか?」
「仲良くなれるだろ。格闘技だってリングを降りたらよほどのことがない限り相手に敬意をはらうもんだろ。それと同じだよ」
工藤珠希は野城の説明を聞いても何が同じなのか良くわからないが、それ以上にわからないのが工藤太郎がサキュバスという存在をすでに受け入れているという事実なのだ。サキュバスが実在するという前提で話は進んでいる事を何とか受け止めようとしている工藤珠希ではあったが、まだ理解しようという気持ちはあっても理解出来る状況にはなっていなかった。
何だか自分だけが置いて行かれているように感じている工藤珠希ではあった。
「何か揉めるようなことがあったとしてもこの教室内での武力行使は禁止されているからな。ちょっとした小競り合い程度なら黙認される場合もあるけど、当人同士で収まらない範囲になっちゃうとそれなりに重い処罰が下されることもあるんだぜ。あくまで噂で聞いたレベルの話にはなるけど、大きな揉め事を起こした生徒は外国に飛ばされたって話だからな。そうならないように気を付けないとな」
「外国って、この学校って海外に提携校でもあるのか?」
「さあ、そんな話は聞いたことないな。あくまでも噂だけど、外国ってのは俺たちが暮らしているこの地球ではない別の星なんじゃないかって話だぜ。サキュバスにとってもレジスタンスにとっても辛い環境になってるって噂だからな」
「ちょっとごめん。太郎は受け入れているみたいだけど、サキュバスとかレジスタンスとか本気で言ってるの?」
「もちろん。本気も本気大真面目だよ。入学式で理事長も言っていたけど、いつかはサキュバスと人間の間にある壁がなくなるといいなってみんな思ってるからな。サキュバスのみんなだって普通に接したいって思ってるはずなんだけど、それでも抑えきれないサキュバスの本能ってやつがあるみたいなんだよ。こういう言い方をするのは不適切だとわかってるんだけどさ、理性では抑えきれないサキュバスの本能ってやつをどうにかしたいってのがレジスタンスの考えなんだぜ」
「あら、野城君たら立派なことをおっしゃってるのね。サキュバス側でもレジスタンス側でもない傍観者であるはずのあなたがそんな事を言うなんて、まるでレジスタンス側についているみたいだわね」
「別にそういうわけじゃないよ。俺はこの二人が何も知らないみたいだから説明していただけさ。傍観者の俺がどちらかに肩入れするとかそんな事はしてないしするつもりもないよ。うまなさんが二人に話があるって言うんだったら俺は席を外すよ」
「そうなのね。それならいいのだけど。大丈夫、野城君がいてもいなくても変わらないから。ところで、珠希さんと太郎君。あなたたちは柘榴ちゃんと仲が良いようだけど、二人ともレジスタンス側についているという認識でよろしいのかしら?」
突然そんな事を言われても困るといった表情の工藤珠希だったが、それに対して何かを言われる前に工藤太郎が答えていた。
「俺も珠希ちゃんもこの学校の事はまだ何も知らないんですよ。サキュバスとレジスタンスって話も今日が初耳なんでどっちにつくとかはないかな。俺としてはどっちの話も聞いてから判断したいって思ってるところなんですけど、一つだけハッキリしていることがあります」
「何かしら?」
「俺は珠希ちゃんを傷つけるやつの味方にはならないって事です」
「あら、それなら私たちの敵になることはないわね。私たちは珠希さんを絶対に傷つけたりなんてしないからね。そんな事をするような奴がいたとしたら、たとえ相手が神だとしても魔王だとしても私たちの威信にかけて倒して見せるわ」
サキュバスの女帝と呼ばれている栗宮院うまなはとても柔らかい表情で工藤珠希の事を見ていたのだ。今まであったどの人からも向けられたことのないような優しい顔だと思った工藤珠希ではあったが、無意識のうちに距離をとっているのであった。
「もし時間が空いてればの話だけど、次の授業の時に私たちの考えも聞いてもらえるかしら。私個人の考えではなく、サキュバス全体の考えだと思ってくれてもいいからね」
それを知ったからとって工藤珠希は何も感じていなかった。何も感じていないというよりは、現実感のない話にしか思えなかった。サキュバスという言葉は知っていたし、どういう存在なのかは何となく知って入るのだけれど、それが本当に実在するのかという疑問もあったのだ。
そんな事を考えていた工藤珠希は教室の自分の席に座って教室内の掲示物を見ていた。
特に気になるものは無かったのだけれど、時間割表に書かれている授業科目は全て自習となっていた。
工藤太郎に時間割の事を話そうとしたのを見計らったかのように一人の男子生徒が話しかけてきたのだ。
「入学式お疲れさん。二人とも注目されてるから色々と大変だと思うけど、何か困ったことがあったら何でも聞いてくれよ。俺は野城って名前なんだけど好きな風に呼んでくれていいからな」
「ありがとう。俺は工藤太郎だ」
「知ってるよ。お前ら二人は有名人だからな。そっちのお姉さんは工藤珠希ちゃんだよね。よろしく」
「よろしく。さっそく聞きたいことがあるんだけど、このクラスの授業って自習ばっかりになってるけど、それってどうしてなの?」
「ああ、それはすぐにわかることなんだけどさ、このクラスって学年に一つってわけじゃなくてこの学校に一つしかないんだよ。一年生から三年生までの特別優秀な生徒がSクラスRクラス関係なく選ばれるって事なんだけど、3学年分の授業を同時に行うのなんて無理な話だから自習になるってわけ。でも、自習って言っても空いてる先生がいれば勉強を教えて貰う事も出来るんだよな。それって、学習塾の個別指導みたいなもんだよな」
「何で3学年が同じクラスにまとめられるんだろ?」
「なんでって言われてもな、それが学校の方針なんでわからないんだよな。でも、SRクラスって本当に優秀な生徒しか選ばれないんだぜ。そんなクラスに選ばれたのは嬉しいことなんだけど、プレッシャーもあるんだよな。なにせ、クラスメイトの中には生徒会長もいるし部活連の総会長もいるしサキュバスの女帝もいるからな。学年はみんな違うけど、仲良くやれるんじゃないかな」
「仲良くって、生徒会長はSクラスに宣戦布告みたいのをしてたと思うんだけど、そんな事をして仲良くなれるもんなのか?」
「仲良くなれるだろ。格闘技だってリングを降りたらよほどのことがない限り相手に敬意をはらうもんだろ。それと同じだよ」
工藤珠希は野城の説明を聞いても何が同じなのか良くわからないが、それ以上にわからないのが工藤太郎がサキュバスという存在をすでに受け入れているという事実なのだ。サキュバスが実在するという前提で話は進んでいる事を何とか受け止めようとしている工藤珠希ではあったが、まだ理解しようという気持ちはあっても理解出来る状況にはなっていなかった。
何だか自分だけが置いて行かれているように感じている工藤珠希ではあった。
「何か揉めるようなことがあったとしてもこの教室内での武力行使は禁止されているからな。ちょっとした小競り合い程度なら黙認される場合もあるけど、当人同士で収まらない範囲になっちゃうとそれなりに重い処罰が下されることもあるんだぜ。あくまで噂で聞いたレベルの話にはなるけど、大きな揉め事を起こした生徒は外国に飛ばされたって話だからな。そうならないように気を付けないとな」
「外国って、この学校って海外に提携校でもあるのか?」
「さあ、そんな話は聞いたことないな。あくまでも噂だけど、外国ってのは俺たちが暮らしているこの地球ではない別の星なんじゃないかって話だぜ。サキュバスにとってもレジスタンスにとっても辛い環境になってるって噂だからな」
「ちょっとごめん。太郎は受け入れているみたいだけど、サキュバスとかレジスタンスとか本気で言ってるの?」
「もちろん。本気も本気大真面目だよ。入学式で理事長も言っていたけど、いつかはサキュバスと人間の間にある壁がなくなるといいなってみんな思ってるからな。サキュバスのみんなだって普通に接したいって思ってるはずなんだけど、それでも抑えきれないサキュバスの本能ってやつがあるみたいなんだよ。こういう言い方をするのは不適切だとわかってるんだけどさ、理性では抑えきれないサキュバスの本能ってやつをどうにかしたいってのがレジスタンスの考えなんだぜ」
「あら、野城君たら立派なことをおっしゃってるのね。サキュバス側でもレジスタンス側でもない傍観者であるはずのあなたがそんな事を言うなんて、まるでレジスタンス側についているみたいだわね」
「別にそういうわけじゃないよ。俺はこの二人が何も知らないみたいだから説明していただけさ。傍観者の俺がどちらかに肩入れするとかそんな事はしてないしするつもりもないよ。うまなさんが二人に話があるって言うんだったら俺は席を外すよ」
「そうなのね。それならいいのだけど。大丈夫、野城君がいてもいなくても変わらないから。ところで、珠希さんと太郎君。あなたたちは柘榴ちゃんと仲が良いようだけど、二人ともレジスタンス側についているという認識でよろしいのかしら?」
突然そんな事を言われても困るといった表情の工藤珠希だったが、それに対して何かを言われる前に工藤太郎が答えていた。
「俺も珠希ちゃんもこの学校の事はまだ何も知らないんですよ。サキュバスとレジスタンスって話も今日が初耳なんでどっちにつくとかはないかな。俺としてはどっちの話も聞いてから判断したいって思ってるところなんですけど、一つだけハッキリしていることがあります」
「何かしら?」
「俺は珠希ちゃんを傷つけるやつの味方にはならないって事です」
「あら、それなら私たちの敵になることはないわね。私たちは珠希さんを絶対に傷つけたりなんてしないからね。そんな事をするような奴がいたとしたら、たとえ相手が神だとしても魔王だとしても私たちの威信にかけて倒して見せるわ」
サキュバスの女帝と呼ばれている栗宮院うまなはとても柔らかい表情で工藤珠希の事を見ていたのだ。今まであったどの人からも向けられたことのないような優しい顔だと思った工藤珠希ではあったが、無意識のうちに距離をとっているのであった。
「もし時間が空いてればの話だけど、次の授業の時に私たちの考えも聞いてもらえるかしら。私個人の考えではなく、サキュバス全体の考えだと思ってくれてもいいからね」
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