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天使を狩りし悪魔
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サクラを元に戻すために出来る事は何だろうか。僕が今知っている事は、強いものをひたすら倒すという事だ。この世界には魔王と呼ばれる強いものがいるのだけれど、今の僕には魔王の大半が物足りない存在になってしまっている。その上、魔王は人間の中でも限られた一握りの者がなることが出来る希少な存在であって、気軽に戦うことが出来るような相手ではない。では、僕は一体何と戦っていけばいいのだろうか?
答えは単純なモノで、魔王以上の存在でありながら物凄く気軽に戦うことが出来る存在がこの世界には無数に存在している。それは、戦う力を持たぬものを守護している町の守り神的存在である天使だ。いつからかこの世界には魔王の力に抗う勢力として天使が降臨していたのだった。天使はこの世界に存在する度の魔王よりも強いのだけれど、その力はごく限られた範囲でしか発揮することが出来ないようで、この世界での活動範囲は降臨した場所からせいぜい数百メートルほどのようだ。それでも、主に降臨する場所が人間の住んでいる地域の近くが多かったため町の防衛機能としての役割を果たすことになっていた。
時々人の住んでいない地域に降臨することもあるらしいのだが、その時は決まってその近くに何か希少な資源であったり水や温泉などが豊富にあったりするのだ。
そんな天使たちを相手に戦い続けていて分かったことがいくつかあるのだが、天使を倒したとしても次の天使が降臨するので完全に天使がいなくなることは無い。新たに降臨する天使は以前の天使よりも強い事もあれば弱い事もあるのだが、基本的には強くなっている事の方が多い。それでも同じ場所で倒し続けていると再び降臨するまでに数日かかってしまう事もあった。そうなってしまうと防衛機能としての役割を果たすことが出来ず、住んでいる人達に迷惑がかかるためその場所での天使狩りを中断することになっていしまう。もっとも、その場所の天使を倒したとしてもすぐ近くに他の天使が降臨する場所はあるわけだし、ピンポイントの場所ではなく大まかな地域で活動している天使もいるのでそんなに気にする事でもないのだけれど、何となくその場所を守護する天使がいないのは気持ちが悪かったりするのだ。
僕の当初の目的はこの世界の魔王を殲滅する事だったのだけれど、魔王を倒したところで新しい魔王が誕生しているだけだし、何より僕より弱い人間をいたぶる事に抵抗を感じてしまっていた。それよりも、天使を倒すことに何とも言えない快感を覚えてしまっている僕がそこにはいたのだ。何だかわからないけれど、天使を倒すことは僕にとって神から与えられた使命のようにすら感じていた。しかし、天使は神がこの世界の人間を護るためにつかわせた存在ともいわれているので、そのような僕の考えは確実に間違っているのだろう。それでも、僕は神のしもべである天使を倒すことに喜びを見出していたのだ。
僕が魔王の一人に数えられているのは知っていたけれど、その中でもとりわけ異色の存在である天使狩りと呼ばれているのは意外だった。確かに、この世界の誰よりも天使を狩っているのはいるのは自他ともに認めるところではあるのだけれど、天使を求めて遠くの宿場町まで行った時にもその異名が轟いていたのは本当に驚いてしまった。
「お兄さんは何のために天使と戦っているの?」
まだ十歳にもなっていないような女の子にそう尋ねられたことがあったのだけれど、僕はその質問にちゃんと答えることが出来なかった。不思議そうな目で僕を見ているその少女は天使に毎日お祈りとお供えを欠かさない生活を送っているのだった。それに気付かないまま天使と戦っていた僕ではあったが、何の苦労もなく天使を屠るとその数分後に降臨するであろう次の天使を待っていた。その時に近くにいた少女を発見したのだが、その時の少女は今にも号泣しそうなくらい目に大量の涙をためているのがわかった。僕はその姿を見てとても悪い事をしているような気持になってしまった。
それでも、天使が再び降臨すると少女は少しだけ晴れやかな表情になってはいたのだけれど、僕が屠った天使とは似ても似つかない天使が降臨したことに戸惑いを覚えていたようだった。それでも、天使は少女に優しく微笑みかけるとどこからか取り出した花の冠を少女の頭にそっと乗せていた。僕はその瞬間にここで天使と戦う気が無くなってしまった。
「へえ、お兄さんはお姉さんを元に戻すために戦っているんだね。それで天使様と戦っているって変な話だと思うよ。だって、強い人を倒したからってお姉さんが元に戻るわけないじゃない」
「そうかもしれないけど、他に方法が無いからね」
「そんな事無いよ。パパもママも言ってたけど、神様はちゃんと見てるから悪い事はしちゃダメだよってさ」
「神様が見てるとしたら、僕は多くの天使を殺し過ぎているから大変な罰を受けちゃうかもしれないね」
「そんなにたくさん殺しちゃったの?」
「うん、ここに来る前に他の宿場で一年くらい狩り続けたかも。毎日数回を休みなく毎日毎日繰り返していたよ」
「そんなにたくさん倒していたならお姉さんに何か変わったところはなかったの?」
「何も変化は起きなかったよ」
「ほら、お兄さんは騙されているんだよ」
少女はそう言い残すと僕の近くから少し離れてこちらに向かって舌を出していた。その後にすぐ後ろを向いて走り去っていたのだけれど、僕はそれでも天使と戦う気分に離れなかった。
「おいおい、あんな小娘の言う事を真に受けているのか?」
「そんなんじゃないさ」
「お前がなんで俺様にそんな口のきき方をしているのだ?」
「そんなのは僕の勝手だろ」
「ああ、確かにお前の勝手ではあるが、俺様の気分を損ねることになるぞ」
「気分を損ねたら何かあるのかよ?」
「お前ごときが俺様の気分を害するような事をしたのだから、その命を持って償ってもらう事になるな」
「悪いけどそんな冗談に付き合っている気分じゃないんだよね。わかるでしょ?」
「何を言っているのか理解不能ではあるが、お前は俺様に殺されたいという事だけは理解できたぞ」
一年前の僕だとしたらこのような態度にはなっていなかっただろう。一年間天使と戦い続けた結果、僕はとても成長することが出来た。その成長は自分で思っているよりも大きいようで、今では天使であっても油断さえしなければまともに攻撃を受ける事も無いくらいにはなっていた。油断したとしてもほとんど攻撃は効いていないのだけれど。
僕はその自信があったのでこの偉そうな悪魔にも勝てそうな予感はしていた。天使も悪魔もこの世界ではほとんど成長することは無いらしいので一年前の僕では感じる事の出来なかった余裕がそこにはあったのだ。
「たかが悪魔のくせに偉そうなんだよな」
力関係で言うなれば、最下層に人間がいてその人間よりも強いのは魔王である。その魔王よりも強いのが天使であってその天使は無数に存在している。無数に存在していても活動範囲は極限定されているため魔王の脅威にはなりえないのだけれど、一番弱い人間を護る事は出来ていた。
そんな天使よりも強い存在が悪魔なのだけれど、悪魔の数は確認されているだけでも世界に数体しかいないようだった。そんな数体しかいない悪魔には天使の軍隊を差し向けることでしか対抗できないと言われているのだけれど、天使が軍隊を作ることなどありえないので事実上悪魔に対抗することは不可能と思われている。
でも、今の成長した僕なら悪魔にだって勝てる気がしている。より強い力を倒せばサクラが元に戻ると言うならば、どんな強敵だって倒して見せるつもりだ。
「お前ごときが俺様に挑もうとするなんて無謀にもほどがあるぞ。もっと身をわきまえて言葉を選ぶことが出来たのならば長生きも出来たろうに、本当に残念だ」
何事もなかったように立っている僕ではあったけれど、その右手で悪魔の頭をしっかりと握っていた。もう二度と動かなくなったその体は思っていたよりも軽く、力を入れて投げたのならばどこまでも遠くまで飛んでいきそうなほどだった。
悪魔を倒したことでどれくらい成長したのかわからないけれど、以前の僕にはなかった戦う事への執着心が産まれているように思えていた。
いや、戦う事ではなく一方的に攻撃することに快感を覚えてしまっているのかもしれない。この悪魔ほどではなくてもいいので手ごたえのある敵と戦ってみたいと心の底から思ってしまった。その結果でサクラが元に戻れば何も言う事はないだろう。
「ねえ、お兄ちゃんはどこまで強くなりたいのかな?」
聞き覚えの無い声がしている方向を向くと、そこには瞳が無い少女が僕をじっと見ていた。瞳が無いのにその眼は突き刺すような視線を向けているようで、僕はこの少女に対して恐怖を覚えてしまっていた。
答えは単純なモノで、魔王以上の存在でありながら物凄く気軽に戦うことが出来る存在がこの世界には無数に存在している。それは、戦う力を持たぬものを守護している町の守り神的存在である天使だ。いつからかこの世界には魔王の力に抗う勢力として天使が降臨していたのだった。天使はこの世界に存在する度の魔王よりも強いのだけれど、その力はごく限られた範囲でしか発揮することが出来ないようで、この世界での活動範囲は降臨した場所からせいぜい数百メートルほどのようだ。それでも、主に降臨する場所が人間の住んでいる地域の近くが多かったため町の防衛機能としての役割を果たすことになっていた。
時々人の住んでいない地域に降臨することもあるらしいのだが、その時は決まってその近くに何か希少な資源であったり水や温泉などが豊富にあったりするのだ。
そんな天使たちを相手に戦い続けていて分かったことがいくつかあるのだが、天使を倒したとしても次の天使が降臨するので完全に天使がいなくなることは無い。新たに降臨する天使は以前の天使よりも強い事もあれば弱い事もあるのだが、基本的には強くなっている事の方が多い。それでも同じ場所で倒し続けていると再び降臨するまでに数日かかってしまう事もあった。そうなってしまうと防衛機能としての役割を果たすことが出来ず、住んでいる人達に迷惑がかかるためその場所での天使狩りを中断することになっていしまう。もっとも、その場所の天使を倒したとしてもすぐ近くに他の天使が降臨する場所はあるわけだし、ピンポイントの場所ではなく大まかな地域で活動している天使もいるのでそんなに気にする事でもないのだけれど、何となくその場所を守護する天使がいないのは気持ちが悪かったりするのだ。
僕の当初の目的はこの世界の魔王を殲滅する事だったのだけれど、魔王を倒したところで新しい魔王が誕生しているだけだし、何より僕より弱い人間をいたぶる事に抵抗を感じてしまっていた。それよりも、天使を倒すことに何とも言えない快感を覚えてしまっている僕がそこにはいたのだ。何だかわからないけれど、天使を倒すことは僕にとって神から与えられた使命のようにすら感じていた。しかし、天使は神がこの世界の人間を護るためにつかわせた存在ともいわれているので、そのような僕の考えは確実に間違っているのだろう。それでも、僕は神のしもべである天使を倒すことに喜びを見出していたのだ。
僕が魔王の一人に数えられているのは知っていたけれど、その中でもとりわけ異色の存在である天使狩りと呼ばれているのは意外だった。確かに、この世界の誰よりも天使を狩っているのはいるのは自他ともに認めるところではあるのだけれど、天使を求めて遠くの宿場町まで行った時にもその異名が轟いていたのは本当に驚いてしまった。
「お兄さんは何のために天使と戦っているの?」
まだ十歳にもなっていないような女の子にそう尋ねられたことがあったのだけれど、僕はその質問にちゃんと答えることが出来なかった。不思議そうな目で僕を見ているその少女は天使に毎日お祈りとお供えを欠かさない生活を送っているのだった。それに気付かないまま天使と戦っていた僕ではあったが、何の苦労もなく天使を屠るとその数分後に降臨するであろう次の天使を待っていた。その時に近くにいた少女を発見したのだが、その時の少女は今にも号泣しそうなくらい目に大量の涙をためているのがわかった。僕はその姿を見てとても悪い事をしているような気持になってしまった。
それでも、天使が再び降臨すると少女は少しだけ晴れやかな表情になってはいたのだけれど、僕が屠った天使とは似ても似つかない天使が降臨したことに戸惑いを覚えていたようだった。それでも、天使は少女に優しく微笑みかけるとどこからか取り出した花の冠を少女の頭にそっと乗せていた。僕はその瞬間にここで天使と戦う気が無くなってしまった。
「へえ、お兄さんはお姉さんを元に戻すために戦っているんだね。それで天使様と戦っているって変な話だと思うよ。だって、強い人を倒したからってお姉さんが元に戻るわけないじゃない」
「そうかもしれないけど、他に方法が無いからね」
「そんな事無いよ。パパもママも言ってたけど、神様はちゃんと見てるから悪い事はしちゃダメだよってさ」
「神様が見てるとしたら、僕は多くの天使を殺し過ぎているから大変な罰を受けちゃうかもしれないね」
「そんなにたくさん殺しちゃったの?」
「うん、ここに来る前に他の宿場で一年くらい狩り続けたかも。毎日数回を休みなく毎日毎日繰り返していたよ」
「そんなにたくさん倒していたならお姉さんに何か変わったところはなかったの?」
「何も変化は起きなかったよ」
「ほら、お兄さんは騙されているんだよ」
少女はそう言い残すと僕の近くから少し離れてこちらに向かって舌を出していた。その後にすぐ後ろを向いて走り去っていたのだけれど、僕はそれでも天使と戦う気分に離れなかった。
「おいおい、あんな小娘の言う事を真に受けているのか?」
「そんなんじゃないさ」
「お前がなんで俺様にそんな口のきき方をしているのだ?」
「そんなのは僕の勝手だろ」
「ああ、確かにお前の勝手ではあるが、俺様の気分を損ねることになるぞ」
「気分を損ねたら何かあるのかよ?」
「お前ごときが俺様の気分を害するような事をしたのだから、その命を持って償ってもらう事になるな」
「悪いけどそんな冗談に付き合っている気分じゃないんだよね。わかるでしょ?」
「何を言っているのか理解不能ではあるが、お前は俺様に殺されたいという事だけは理解できたぞ」
一年前の僕だとしたらこのような態度にはなっていなかっただろう。一年間天使と戦い続けた結果、僕はとても成長することが出来た。その成長は自分で思っているよりも大きいようで、今では天使であっても油断さえしなければまともに攻撃を受ける事も無いくらいにはなっていた。油断したとしてもほとんど攻撃は効いていないのだけれど。
僕はその自信があったのでこの偉そうな悪魔にも勝てそうな予感はしていた。天使も悪魔もこの世界ではほとんど成長することは無いらしいので一年前の僕では感じる事の出来なかった余裕がそこにはあったのだ。
「たかが悪魔のくせに偉そうなんだよな」
力関係で言うなれば、最下層に人間がいてその人間よりも強いのは魔王である。その魔王よりも強いのが天使であってその天使は無数に存在している。無数に存在していても活動範囲は極限定されているため魔王の脅威にはなりえないのだけれど、一番弱い人間を護る事は出来ていた。
そんな天使よりも強い存在が悪魔なのだけれど、悪魔の数は確認されているだけでも世界に数体しかいないようだった。そんな数体しかいない悪魔には天使の軍隊を差し向けることでしか対抗できないと言われているのだけれど、天使が軍隊を作ることなどありえないので事実上悪魔に対抗することは不可能と思われている。
でも、今の成長した僕なら悪魔にだって勝てる気がしている。より強い力を倒せばサクラが元に戻ると言うならば、どんな強敵だって倒して見せるつもりだ。
「お前ごときが俺様に挑もうとするなんて無謀にもほどがあるぞ。もっと身をわきまえて言葉を選ぶことが出来たのならば長生きも出来たろうに、本当に残念だ」
何事もなかったように立っている僕ではあったけれど、その右手で悪魔の頭をしっかりと握っていた。もう二度と動かなくなったその体は思っていたよりも軽く、力を入れて投げたのならばどこまでも遠くまで飛んでいきそうなほどだった。
悪魔を倒したことでどれくらい成長したのかわからないけれど、以前の僕にはなかった戦う事への執着心が産まれているように思えていた。
いや、戦う事ではなく一方的に攻撃することに快感を覚えてしまっているのかもしれない。この悪魔ほどではなくてもいいので手ごたえのある敵と戦ってみたいと心の底から思ってしまった。その結果でサクラが元に戻れば何も言う事はないだろう。
「ねえ、お兄ちゃんはどこまで強くなりたいのかな?」
聞き覚えの無い声がしている方向を向くと、そこには瞳が無い少女が僕をじっと見ていた。瞳が無いのにその眼は突き刺すような視線を向けているようで、僕はこの少女に対して恐怖を覚えてしまっていた。
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