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花咲百合編2
百合 その七
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雪さんの連れてきたライターの人はいかにもと言った風貌をしていた。
ファッション誌や女性誌を作っているといった感じは受けなかったし、見た目だけで判断しても最前線で事件を取り扱っているといった感じも受けなった。
実際に話を聞いてみても過去に書いていた記事がそのような感じだったので、私の見る目は間違っていないのだと確認できただけでもいいだろう。
「今まで俺は記事を書いてもあまり反応されることも無くて、今回の事で俺も注目されるようになりました。花咲さんのお陰で俺は日の目を見ることも出来ましたし、テレビに出て解説する仕事も決まったんですよ。そのお礼ではないですけど、花咲さんが無事に出られるように俺も協力しますからね。俺だけじゃなくて花咲さんの職場の人達も協力してくれていますから安心してください」
「職場の人って誰ですか?」
「一番協力してくれているのは桐木カンナさんですね。舞島皐月さんも花咲さんのために色々と協力してくれているんですが、一部では花咲さんと舞島さんが揉めていたという情報もありまして、二人に話を伺っているとそのような印象は受けなかったんですよね。花咲さんと舞島さんは何か揉めるようなことがあったんですか?」
「えっと、谷村さんでしたっけ。谷村さんはどこまでご存じなんでしょうか?」
「ご存じとおっしゃいますと?」
「会社での人間関係の事ですね。私が勤めていた会社の事です」
「話を伺ったお二人から聞いた話ですが、以前休暇を巡って花咲さんと舞島さんが揉めたこともあったみたいですと伺っていますね」
「そんな事もありましたね。今となってはどうしてあんなに意地になってしまったのだろうと思っています。何か原因でもあったんですかね?」
「それこそ、あの土地にあった呪いが原因なんじゃないでしょうかね。そう思っていれば世間が花咲さんを見る目もより同情的になるんじゃないでしょうかね。その方が俺にとってもアクセス数を稼げて嬉しいんですよ」
「谷村さんは真実と違う事でも問題なく記事を書いてしまうんですか?」
「そうですよ。俺みたいなのが書いている記事は真実よりも大衆が求めている物をいかに提供できるかが大事になってくるんですよ。テレビや新聞なんかもそうですけど、真実をそのまま見せるよりも真実を伏せて真実っぽく見せる方が喜ばれることもありますからね。占いとか好きな人なんかは真実を知るよりも、自分にとって都合のいいことを目にした方が安心すると思うんですよ。俺の記事なんてそんな程度のものだと思っていたんですけど、花咲さんのお陰で俺も表に出ることが出来たんです。そういった意味でも、俺は花咲さんが無事に出られるためだったら協力は惜しまないですよ」
「雪さんもそう思っているんですか?」
「私は最後まで百合さんの味方なので、百合さんにとって一番いい結果になるように努力するだけですよ。今のところ、その努力も報われそうなんで良かったのですけど、最後まで気を抜かないで頑張りますからね」
「そう言えば、花咲さんと花車弁護士のお名前って響きだけだったら似てますよね。花咲百合さんの弁護を花車雪弁護士が担当するってのは運命だったんですかね。呪いに立ち向かう二人ってのは大衆が求める良い記事になると思うんですけど、花咲さんの名前を出すのはまだNGなんですよね」
「私の名前は出ていないんですか?」
「調べれば出てきますし、今でもネットやSNSでは百合さんの実名は出ていますね。ただ、報道機関では精神鑑定の話が出た時点で匿名報道に切り替わりました。事件の事を最近知った人でテレビや新聞以外に情報を得ることが無い人はいまだに百合さんの名前は知らないと思いますよ」
「その件なんですけど、俺にはどうも不思議でならないんですよね。今までも精神鑑定を行われたケースはあったと思うんですけど、匿名報道に切り替わったことなんてありましたっけ?」
「谷村さんが存じ上げないだけであったんじゃないですかね」
「そうだったとしても、ウチみたいなネットメディアも一斉に匿名報道に切り替わるなんて前例がないと思うんですけど、花咲さんってもしかしてメディアに物凄い影響力を持ってたりするんですか?」
「私はそんな力が無いと思いますけど。それに、そんな力があるなら一般企業で働いていたりしないと思いますよ」
「それもそうですよね。それにしても、こうしてお話しさせていただいて感じたのですけど、花咲さんってとてもじゃないけどあんな事件を起こした人とは思えないくらい落ち着いていますよね。いや、あんな事件を起こしたからこそ普段は落ち着いていると言えるんですかね?」
「さあ、それはどうでしょうね」
「そろそろお時間になりますね。私はまた明日も百合さんに会いに来ますけど、今日も警察に負けないように頑張ってくださいね」
雪さんと谷村さんが立ち上がって私に礼をしていた。
私は二人が部屋を出るまでの様子を窺っていたけれど、明日からはまた雪さんと二人だけの時間になるのだと思うと少しだけ嬉しくなっていた。
ライターの谷村さんと会うことはもうないと思うけれど、私のために頑張るという言葉が少し引っかかっていたので確かめたい気持ちがわいてきてしまった。
私のためではなく自分が食べていくために書いているので、状況が変われば私の事を悪く書いてしまいそうだな。
それならそれでいいんだけれどね。
ファッション誌や女性誌を作っているといった感じは受けなかったし、見た目だけで判断しても最前線で事件を取り扱っているといった感じも受けなった。
実際に話を聞いてみても過去に書いていた記事がそのような感じだったので、私の見る目は間違っていないのだと確認できただけでもいいだろう。
「今まで俺は記事を書いてもあまり反応されることも無くて、今回の事で俺も注目されるようになりました。花咲さんのお陰で俺は日の目を見ることも出来ましたし、テレビに出て解説する仕事も決まったんですよ。そのお礼ではないですけど、花咲さんが無事に出られるように俺も協力しますからね。俺だけじゃなくて花咲さんの職場の人達も協力してくれていますから安心してください」
「職場の人って誰ですか?」
「一番協力してくれているのは桐木カンナさんですね。舞島皐月さんも花咲さんのために色々と協力してくれているんですが、一部では花咲さんと舞島さんが揉めていたという情報もありまして、二人に話を伺っているとそのような印象は受けなかったんですよね。花咲さんと舞島さんは何か揉めるようなことがあったんですか?」
「えっと、谷村さんでしたっけ。谷村さんはどこまでご存じなんでしょうか?」
「ご存じとおっしゃいますと?」
「会社での人間関係の事ですね。私が勤めていた会社の事です」
「話を伺ったお二人から聞いた話ですが、以前休暇を巡って花咲さんと舞島さんが揉めたこともあったみたいですと伺っていますね」
「そんな事もありましたね。今となってはどうしてあんなに意地になってしまったのだろうと思っています。何か原因でもあったんですかね?」
「それこそ、あの土地にあった呪いが原因なんじゃないでしょうかね。そう思っていれば世間が花咲さんを見る目もより同情的になるんじゃないでしょうかね。その方が俺にとってもアクセス数を稼げて嬉しいんですよ」
「谷村さんは真実と違う事でも問題なく記事を書いてしまうんですか?」
「そうですよ。俺みたいなのが書いている記事は真実よりも大衆が求めている物をいかに提供できるかが大事になってくるんですよ。テレビや新聞なんかもそうですけど、真実をそのまま見せるよりも真実を伏せて真実っぽく見せる方が喜ばれることもありますからね。占いとか好きな人なんかは真実を知るよりも、自分にとって都合のいいことを目にした方が安心すると思うんですよ。俺の記事なんてそんな程度のものだと思っていたんですけど、花咲さんのお陰で俺も表に出ることが出来たんです。そういった意味でも、俺は花咲さんが無事に出られるためだったら協力は惜しまないですよ」
「雪さんもそう思っているんですか?」
「私は最後まで百合さんの味方なので、百合さんにとって一番いい結果になるように努力するだけですよ。今のところ、その努力も報われそうなんで良かったのですけど、最後まで気を抜かないで頑張りますからね」
「そう言えば、花咲さんと花車弁護士のお名前って響きだけだったら似てますよね。花咲百合さんの弁護を花車雪弁護士が担当するってのは運命だったんですかね。呪いに立ち向かう二人ってのは大衆が求める良い記事になると思うんですけど、花咲さんの名前を出すのはまだNGなんですよね」
「私の名前は出ていないんですか?」
「調べれば出てきますし、今でもネットやSNSでは百合さんの実名は出ていますね。ただ、報道機関では精神鑑定の話が出た時点で匿名報道に切り替わりました。事件の事を最近知った人でテレビや新聞以外に情報を得ることが無い人はいまだに百合さんの名前は知らないと思いますよ」
「その件なんですけど、俺にはどうも不思議でならないんですよね。今までも精神鑑定を行われたケースはあったと思うんですけど、匿名報道に切り替わったことなんてありましたっけ?」
「谷村さんが存じ上げないだけであったんじゃないですかね」
「そうだったとしても、ウチみたいなネットメディアも一斉に匿名報道に切り替わるなんて前例がないと思うんですけど、花咲さんってもしかしてメディアに物凄い影響力を持ってたりするんですか?」
「私はそんな力が無いと思いますけど。それに、そんな力があるなら一般企業で働いていたりしないと思いますよ」
「それもそうですよね。それにしても、こうしてお話しさせていただいて感じたのですけど、花咲さんってとてもじゃないけどあんな事件を起こした人とは思えないくらい落ち着いていますよね。いや、あんな事件を起こしたからこそ普段は落ち着いていると言えるんですかね?」
「さあ、それはどうでしょうね」
「そろそろお時間になりますね。私はまた明日も百合さんに会いに来ますけど、今日も警察に負けないように頑張ってくださいね」
雪さんと谷村さんが立ち上がって私に礼をしていた。
私は二人が部屋を出るまでの様子を窺っていたけれど、明日からはまた雪さんと二人だけの時間になるのだと思うと少しだけ嬉しくなっていた。
ライターの谷村さんと会うことはもうないと思うけれど、私のために頑張るという言葉が少し引っかかっていたので確かめたい気持ちがわいてきてしまった。
私のためではなく自分が食べていくために書いているので、状況が変われば私の事を悪く書いてしまいそうだな。
それならそれでいいんだけれどね。
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