ギ家族

釧路太郎

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弁護士編

弁護士 その二

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 空港まで出迎えが来てくれるとのことだったが、出迎えに来てくれたのは花咲百合の代理で私を雇ってくれた花咲陽三その人だった。

「お忙しいのにわざわざ直接迎えに来ていただかなくてもこちらから出向きますのに」
「いえいえ、本来なら私が出向かなければいけないところを先生がこちらまで来てくださったのですから、私が直接迎えに来るのが最低限の礼儀かと思いまして」
「花咲さんはお忙しい方と伺ってましたので、時間を取っていただいてすいません」
「全然いいんですよ。会社は忙しいところもありますが、私が口を出さなくてもなんとかやっていけるくらいには育ててますからね。先生はお昼ごはんは何か召し上がりましたか?」
「いいえ、まだ頂いてないですね。どこかおススメがあればそこに行ってみたいのですが、北海道っぽいもので何かおススメはありますか?」
「そうですね。今すぐ何か食べたいとおっしゃるんでしたらこの空港でも十分満足できる食事はとれると思いますが、まだしばらく我慢できるようでしたらおススメがありますよ」
「そうですね。私は朝食をしっかりととってきたのでしばらくは大丈夫なんで、花咲さんのおススメの場所に連れて行っていただいてもよろしいですか?」
「それはよかった。実はね、先生が食べに来てくれるといいなと思いながら店は用意してあるんですよ。海鮮と肉と御座いますが、どちらがお好きですか?」
「北海道に来たんですから、海鮮が食べてみたいですね」
「海鮮ですね。北海道らしいものを用意してあるので楽しみにしててくださいね。では、立ち話もなんですから向かうとしますか。駐車場まで少し歩きますのでお荷物をお持ちしますね」

 どこの地域に行っても思うのだが、その土地土地によって空港の様子は違うものだ。駐車場まで行くのにそれなりに時間がかかるのはいつもの事だが、その時間の間にも展示されている物や窓から見える景色が北海道に来ていることを実感させられる。
 どこまでも突き抜けるような空と大地の奥にわずかに見える山の稜線はそれほど起伏も無く、今回の依頼もそのように平和的に解決してくれるといいなと思えていた。
 しかし、今回の件はどう考えても死刑以外には判決が出ないと思うのだ。
 私が裁判官でも検察官でも担当弁護士だとしてもそう思えるくらいの証拠がそろっているのだ。
 これを逆転無罪に導く為に裁判を何度もやり直せるとしても、私にはそれをやり遂げる自信は無かった。
 しかもだ、今回の依頼は死刑だとしても多額の報酬を頂けるということなのだ。私にはそれがどうしても引っかかるので、それを確かめに来たというのが今回の目的なのだ。北海道の食と観光はあくまで副産物なので、メインではないということは忘れないようにしよう。

「えっと、こちらに今車が来ますのでもう少しお待ちください」
「駐車場にはいかなくていいのですか?」
「お恥ずかしい話なんですが、私は免許を持っていないので運転は専属の運転手が行ってくれるのですよ。本当は免許を取っておきたかったのですが、小さいときに左目を失ってしまったのでそういった事は出来なくなってしまったんですよ。ですが、日常生活にはそれほど支障はないので問題ないですし、もう慣れましたよ」

 花咲陽三さんはそう言って豪快に笑っていたのだが、そのすぐ後に有名な高級車が私達の前までやってきた。
 車の助手席から降りてきた身長の高い男がドアを開けるて私を中へと促すと、反対側のドアから陽三さんが乗り込んでいた。
 身長の高い男は体のがっしりとした黒人で、運転手は座っているのではっきりとはわからないがガタイのいい白人のようだった。

「彼らは私のボディーガード兼運転手なんですよ。ボディーガードと言っても命を狙われているとかそういったモノではなくて、危険を回避するためのお守りみたいなものですね。何せ私には死角が多いもんですから一人で行動するのは不安なんですよ。女性が街灯のない暗い夜道を一人で歩いているようなもんだと思っていただければいいでしょうか。先生も夜道を一人で歩くよりは誰かと一緒の方が安心しますでしょ?」
「そうですね。私も出来るだけ街灯のない場所は避けるようにしてますし、この二人に守られているんでしたらよほどのことがない限り心配無さそうですよね」
「そうなんですよ。この二人はもともと格闘技をやっていたのですが今は引退してまして、たまたま声を掛けたら雇えることになったんですよ。ですがね、一つ問題がありまして」
「問題ですか?」
「この二人は日常会話程度の日本語も話せないのですよ。そのおかげで私もこの年で英会話の勉強を始めることになってしまったんです。さっぱり話せないんですけど、それなりに聞き取ることは出来るようになったんです。先生は英語も堪能なんですか?」
「多少は話せますけど、円滑にコミュニケーションをとれるかと言われたらちょっと考えてしましますね。そんなに多くない機会ですが、外国の方と話すときはうちの事務員が英会話ができるので通訳としてお願いしているんですよ」
「なるほど。喋ることは出来ても正確に伝えられるかとは別問題ですもんね。それなら得意な人に最初から任せた方がいいですもんね。先生の事務所は事務員さんがたくさんいらっしゃるんですか?」
「たくさんと言うほどでもありませんが、それなりにいますね。忙しいときは知り合いの先生にお願いして助けていただくこともありますよ。先月はそれなりに忙しかったので助かりましたが」
「あの事件は私も興味を持っていたのですが、求刑よりも大幅に減刑されていたようですね。相当大変だったんじゃないですか?」
「そうですね。出来ればあのような事件はあまり関わりたくないんですが、色々と人間関係の事もありまして頑張りましたね」
「そんなに疲れているところ申し訳ないのですが、今回の花咲百合の事件を担当していただけると私としても、我が社としても大変助かるんですよ」
「事件史料を拝見させていただいたのですが、これを無罪にするのは無理だと思いますよ。私だって努力はいたしますが、依頼をお受けするかもまだ決めかねているというのが正直なところですね」
「はい、それはこちらも承知しております。この事件を担当したことで先生の経歴に傷がついてしまうかもしれませんからね。もしかしたら、世間の同情を買って人情派弁護士と呼ばれるかもしれませんが、それも先生には必要ないステータスかもしれませんね。それに、今回の事件は気楽に担当していただいて構わないですよ」
「担当するかはまだ決めていませんが、もしも担当することになりましたらみすみす死刑にならないように努力はいたしますよ」
「そう言っていただけるだけでも嬉しいのですが、先生は本当に何もしなくても大丈夫なようにしてありますので」
「そう言われましても、ただ黙って裁判の日まで黙っているのは無理だと思うのですが」
「いえいえ、そうではなくて、無罪になるためのシナリオはこちらが既に用意してありますので、先生はどっしりと構えていただいて問題無いのですよ」

 私は陽三さんが何を言っているのか理解していなかった。
 そもそも、あれだけの事件を起こした人物を無罪にする方法などあるのだろうか。
 誰も知らない第三者の関与があったとして、警察があれだけ念入りに調べた現場に何の痕跡も残さずに消えることなど人間が出来るのだろうか?
 もしも、人間ではない何かが犯人だとでもいうつもりなのだろうか?
 私の中に大きな?が浮かんでいるのを感じたのか、陽三さんは私に厚い資料を手渡してきた。

「予約している場所までもうしばらくかかると思いますので、よろしければそれをお読みください。その資料の事はこの車の中だけの話にしていただけると助かります」
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