ギ家族

釧路太郎

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ライター編

ライター その七

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 俺はそこまでオカルトが好きではなかったし、どちらかと言えば否定派なのだ。
 否定派なのだけれど、ここは乗っておいた方が色々と便利そうだと思う。
 そんなわけで、俺は舞島さんからもっと情報を引き出すことにした。

「お酒のお代わりはどんどん頼んじゃっていいですからね。で、その『ナニカ』ってどんなものなんだと思いますか?」
「私がはっきり見たわけでも体験したわけでもないんだけど、私の母方の祖母が花咲さんの住んでいた辺りはその昔お寺があったらしいの。祖母が子供の頃にそのお寺から急に住職さんがいなくなってしまったらしく、祖母が成人するころには放置された建物の荒れに荒れて誰も立ち入らない廃寺になっていたそうよ。土地とか建物の権利関係がどうだったかは今となってみたら疑問だけど、あの辺一帯を所有する地主さんがお寺に無償で土地を貸していたみたいね。そして、祖母が結婚した時には建物は完全に無くなっていたみたいね。それからずっと土地は売りに出されていたみたいなんだけど、地元の人達はもともとお寺があった場所だと知っているのでなかなか買い手はつかなかったみたいなの。別に祟りとか呪いとかそういった話があるわけじゃないんだけど、なんとなく買いづらいって気持ちはわかるわ。それで、私の母が小学生の時に友達数人でその場所で遊んでいたところ、着崩れた着物を着て日本刀を持った人を目撃したそうなの。その場にいた友達も目撃したらしく、すぐに祖父に言って不審者を探しに行ったらしいんだけど、周りの大人や警察が一生懸命探してもそんな人は見つからなかったらしいわ。ただ、お寺のご本尊が祀られていた場所に刀身が錆びた日本刀が置いてあったらしいの」
「その不審者と日本刀って何か関係あるんですか?」
「さあね。私が体験した話じゃないし、その後の話を母に聞いてもわからないっていうし、祖父母もそんな昔の事は覚えてないって感じだったわ。今にして思えば、あれは何かを隠しているような態度だったと思うんだけどね。そうそう、それからもしばらくあの辺りは全然売れなかったみたいよ。バブルの時に何度か売れたみたいなんだけど、すぐに売りに出されてしまったそうよ。詳細はわからないけれど、どの家も慌てて引越しをしていった様子だったわね。毎日のように引越しのトラックを見ていたから間違いないと思うんだけどね」
「それでも、今はそれくらいの時期から住んでいる方も多くいらっしゃるようなんですが、花咲さんもそれくらいの時期から住んでいるんでしょうかね?」
「さあ、直接聞いたことは無いけれど、花咲さんの家ってそんなに古い感じも新しい感じもしないからそれなりに最近出来たんじゃないかな。それと、これは私の想像なんだけど、花咲さんの家って、もともとご本尊が祀られていた場所なんじゃないかって思うのよ。だから、あんな悲惨な事件が起こったんじゃないかって思っているわ」
「そういうことってあるんですね。お二人はあの辺りで不思議な経験ってしたことあるんですか?」
「私は無いわね。住んでいるのは別の地区だし、あの辺りに友人もいなかったから遊びに行くことは無かったわ。花咲さんの事件を聞くまではあのお寺の話も覚えてなかったくいだしね」
「私は百合ちゃんじゃないけど、友達があの辺に住んでて遊びに行ったことはあるんです。今思えばなんですけど、ちょっといつもより帰りが遅くなると誰かに見られているようで怖くなったのを思い出しました。もしかしたら、その悪霊に見られていたんですかね」
「カンナちゃん、悪霊と決めつけるのは良くないわ。私にはそう言った力は無いけれど、悪霊だったとしたらカンナちゃんはもうこの世にいないかもしれないじゃない」
「そうかもしれないですけど、どうして百合ちゃんが急にあんなことになったんですかね?」
「それは俺の憶測なんですけど、花咲さんってそういった霊とかに影響されやすい人だったんじゃないですかね?」
「もしかしたらそうかもしれないわね。花咲さんって感情が不安定なところもあったんだけど、それって周りにいる霊の仕業だとしたら納得できるわ。どうしてもっと早くそれに気付けなかったんだろう。気付いていればあんな惨いことにならなかったと思うのに」
「気付いたとしても結果は変わらなかったかもしれないですし、舞島さんがそこまで思いつめることも無いと思いますよ。そういった変化に一番気付いていたのはご家族の方たちだと思うし、気付いてもずっと一緒に暮らしていたんだから問題ないって思ってたはずですよ」
「そうよね。私が何か助けられたとしてもそこまで大きく結果は変わらなかったかもしれないわ。でも、出来ることならもっと支えてあげたかったわね」

 グラスを傾けながら残っていた酒を飲んでいると、桐木さんが僕たちの前にタブレットを差し出してきた。

「ちょっとこれ見てもらってもいいですか?」
「何か見つけたのかな?」

 タブレットの画面を覗き込むと、この地域の歴史と発展が記されているページが開かれていた。そして、そのページにはこの地域一帯の地図が表示されていた。今の地図と何年か前の地図のようだった。
 俺は土地勘が無いのでどのあたりが事件のあった現場なのか判断に迷っていたが、舞島さんと桐木さんが場所を教えてくれていたので何とか理解することが出来た。
 最近の地図では事件のあったあたりは家がたくさんあり、何年か前の地図でもそれは変わらなかった。
 少し時代をさかのぼって地図を見ていると、花咲さんが事件を起こしたあたりの家が若干少なくなって空き地が目立つようになっていた。
 さらに時代をさかのぼると、花咲さんが事件を起こした土地にはほとんど家は無く、少し離れた中心部に近い郊外の土地に家が数件建つようになっていた。
 その後も過去の地図を見ていたのだが、ある年代になった時から事件の起こった土地が地図から消えていたのだった。

「ねえ、これって、意図的に消されているんじゃないですか?」
「そうかもしれないわね。カンナちゃんは何かあの辺りの事について知っていることはあるかな?」
「はっきりとはわからないですけど、今度おじいちゃんに話を聞いてみようと思います。もしかしたら、百合ちゃんって自分の意志じゃなくて悪い霊に操られてたかもしれないってことですもんね」
「ライターさんはどう思いますか?」
「そうだね、これを見ただけでは何とも言えないけれど、そういった可能性があるのは確かだと思うよ。俺も図書館なり行ってこの辺りの歴史をもっと深堀してみようと思うんだけど、君たちもよかったら力を貸してくれないかな?」
「ええ、百合ちゃんがどうしてあんな事件を起こしたのか気になるから協力します」
「私も、花咲さんのためにも他の人達のためにもあの土地の因縁を確かめたいと思います」

 俺は二人の協力を受けてあの土地にまつわる因縁を調べることになった。
 正直に言えば、このことがあの事件に関係しているとは到底思えないのだ。
 だが、俺のようなライターは事件の真実とは違う何か面白いものを読者に提供する必要があったりするのだと感じている。

 その後もそれぞれがスマホやタブレットで歴史や地図なんかを調べてみたのだけれど、あの辺りの土地に関する情報は何も出てこなかった。
 俺は翌日になってから図書館で情報を集めることにしたのだけれど、一応編集にその事を伝えておいた。

 他の人達と違った面から事件を調べるのは面白そうだからお願いします。ある程度裏が取れたらいつも通り憶測と希望を混ぜていいですからね。

 と返事が返ってきたのは俺が寝ようと思っていた時だった。
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