ギ家族

釧路太郎

文字の大きさ
上 下
12 / 49
刑事編

刑事 その七

しおりを挟む
 警部補と店長さんの話を聞きながらも私はランチメニューを眺めていた。
 私も会話に混ざった方がいいのだろうけど、警部補には何か考えがあるみたいなので私は変に口を挟まないことにした。

「そうそう、私の他にも刑事が何度かお邪魔していたと思うのですが、よろしければ木戸さんにいくつか尋ねたいことがあるのですが、木戸さんは休憩に入られているでしょうか?」
「木戸さんでしたら、ランチタイムだけのパートですので間もなく勤務も終了すると思うのですが、木戸さんにも都合があると思いますのでお話が出来るか本人に聞いてみないとわからないですね」
「そうなんですか。木戸さんは夜は働いていないんですね?」
「ええ、木戸さんはランチタイムに働いていただいてますね。木戸さんは大変仕事が出来ますので夜も働いてもらいたいんですが、木戸さんは忙しい方なので無理をさせることも出来ませんからね。そうそう、今から木戸さんに話が出来るか聞いてみますので、少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「ぜひ、お願いします。あまり無理強いはしていただかなくて結構ですので。事件の事ではなく個人的に確認したいことがあるだけなものですから」
「個人的ですか。そう伝えてみますね」

 店長さんは警部補にそう言われて不思議そうな顔をしていたけれど、そのまま木戸さんに伝えているようだった。

「個人的に聞きたいことって何ですか?」
「ちょっと引っかかることがあるからな。それを確認したいだけさ」
「もしかして、働いてる姿を見て惚れたとかですか?」
「お前はバカなのか。そんなわけないだろ」
「じゃあ、なんだって言うんですか」
「彼女が来ればわかるさ。それまではお前にだって教えてやらんさ」

 警部補はそう言いながらも自分の手帳を確認していた。
 何か大切なことをする前に手帳を確認するのは警部補の癖なのだけれど、本人はその事に気付いていないようだ。
 今までも何度かその行動を見てきたけれど、手帳を見た後の警部補は意外としつこい諦めの悪い男になっている。
 木戸さんがそれに嫌気を指して協力してくれなくなったら大変だなと思って待っていたのだけれど、こちらに近づいてくる木戸さんはあからさまに嫌そうな表情を浮かべていた。
 殺人事件の被疑者の親友ということで今まで何度も他の刑事から取り調べを受けていたり事情聴取だってされてきたことだろう。
 被疑者の自白を信じるのなら、木戸さんは事件に何の関係も無いのはわかっていることなのだが、被疑者が唯一名前を出した友人である木戸さんに捜査が及ぶのは仕方ないと言えば仕方ないのだ。
 木戸さんもそれはわかっているようだけれど、全くの無関係とわかっているのに調べられるのは相当なストレスも感じてしまうことだろう。

「あの、店長に言われてきたんですけど、個人的に聞きたいことって何ですか。事件の事でしたら私は何も知りませんし、百合の事だって知っていることは他の刑事さんにお話ししたんですけど」
「ああ、すいませんね。ちょっと個人的に気になることがいくつかありましてね。もしよろしければ少しだけお時間いただきたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「そうですね。17時まででしたら大丈夫です。それ以上遅くなるのは困りますが」
「はい、それで構いませんのでお願いします。仕事終わりなのにすいませんね」
「いえ、いつもは夕方まで何もしていないことの方が多いので時間的には大丈夫です」
「では、ここではちょっと聞きにくい話もありますので、近くの喫茶店に移動してもよろしいですか?」
「あの、出来ればなんですが、喫茶店ではないところの方が嬉しいです」
「では、どこがよろしいでしょうか?」
「喫茶店じゃなければどこでも大丈夫です」
「私はこの辺の地理にあまり詳しくないものですから、どこがいいですかね?」
「じゃあ、ここから少し歩いたところにあるカラオケはどうでしょうか?」
「カラオケ、ですか?」
「はい、カラオケでしたら他の人に聞かれる心配も無いですし、時間になったらお店の方から教えてもらえますからね」
「そうですね。お話を伺うのにカラオケというのは案外いいかもしれませんね。ちなみに、喫茶店を嫌がるのには何か理由があるのですか?」
「これといった理由は無いのですけど、あそこのマスターも奥さんも口が軽いんですよ。それに、ちょっと探偵気取りなのかわかりませんが、事件とか事故とかあったら黙ってられないタイプだと思いますので、刑事さんたちの話も漏れちゃうと思いますよ」
「それは良くないですね。教えていただいて助かります。他の者にもその事は伝えておきますね」

 警部補はそう言った後に私のスマホを指さして何かを指示していた。きっと、今聞いた話を他の刑事とも共有しておけという合図なのだろう。
 私は警部補の指示通りに情報を共有すると、何件かすぐに返事が来ていた。
 それに返事を返している間に店を出ることになったのだが、店を出る前に少しだけ見えた厨房の中にある料理がとても美味しそうに見えていた。
 メニューにない料理だったと思うので、あれは気っと賄いだったのだろう。
 私は羨ましいなと思いながらも店を出た。
 お会計は警部補が済ませてくれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友よ、お前は何故死んだのか?

河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」 幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。 だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。 それは洋壱の死の報せであった。 朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。 悲しみの最中、朝倉から提案をされる。 ──それは、捜査協力の要請。 ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。 ──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?

リアル

ミステリー
俺たちが戦うものは何なのか

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

戦憶の中の殺意

ブラックウォーター
ミステリー
 かつて戦争があった。モスカレル連邦と、キーロア共和国の国家間戦争。多くの人間が死に、生き残った者たちにも傷を残した  そして6年後。新たな流血が起きようとしている。私立芦川学園ミステリー研究会は、長野にあるロッジで合宿を行う。高森誠と幼なじみの北条七美を含む総勢6人。そこは倉木信宏という、元軍人が経営している。  倉木の戦友であるラバンスキーと山瀬は、6年前の戦争に絡んで訳ありの様子。  二日目の早朝。ラバンスキーと山瀬は射殺体で発見される。一見して撃ち合って死亡したようだが……。  その場にある理由から居合わせた警察官、沖田と速水とともに、誠は真実にたどり着くべく推理を開始する。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

ファクト ~真実~

華ノ月
ミステリー
 主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。  そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。  その事件がなぜ起こったのか?  本当の「悪」は誰なのか?  そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。  こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!  よろしくお願いいたしますm(__)m

彼女が愛した彼は

朝飛
ミステリー
美しく妖艶な妻の朱海(あけみ)と幸せな結婚生活を送るはずだった真也(しんや)だが、ある時を堺に朱海が精神を病んでしまい、苦痛に満ちた結婚生活へと変わってしまった。 朱海が病んでしまった理由は何なのか。真相に迫ろうとする度に謎が深まり、、、。

Like

重過失
ミステリー
「私も有名になりたい」 密かにそう思っていた主人公、静は友人からの勧めでSNSでの活動を始める。しかし、人間の奥底に眠る憎悪、それが生み出すSNSの闇は、彼女が安易に足を踏み入れるにはあまりにも深く、暗く、重いモノだった。 ─── 著者が自身の感覚に任せ、初めて書いた小説。なのでクオリティは保証出来ませんが、それでもよければ読んでみてください。

処理中です...