マーちゃんの深憂

釧路太郎

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ハゲワシ兵長とマーちゃん中尉の試合まであと少し

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 六連敗で迎えた最終戦。ここで負けてしまえば全敗が決まってしまうマーちゃん中尉ではあったが、今までの戦いを思い返せばマーちゃん中尉が勝てる見込みなどないのだ。
「今回の戦いでわかっていただけたと思いますが、話題性だけで注目されている十九番隊の中でも弱いと評判のマーちゃん中尉を相手にするにはちょっとばかし大人気なかったかもしれないですね。でも、こんなに弱いとは思ってなかったので許してほしいです」
 全敗しているこの状況で妖精マリモ子は栗鳥院松之助に対して言い返すことが出来ずにいた。何か言い返そうとしても、マーちゃん中尉が一度も勝っていないという事もあって黙ってやり過ごすことにしていた。
「そういえば、マーちゃん中尉が全敗すると罰ゲームをしてもらうって話になってるよな。その罰ゲームは俺と一晩過ごしてもらうってのでいいよな。俺と一緒に過ごすってのは罰にならないとは思うけど、お前もそれで納得するよな?」
「そんなの無理に決まってるでしょ。そんな約束認められるわけないでしょ」
「こんな事テレビの前では言えないけど、今ならだれも聞いてないんだから関係ないだろ。それに、ハゲワシ兵長は階級は低いかもしれないけど実力は確かだもんな。中尉であるマーちゃんが兵長であるハゲワシに負けるなんてありえない話だとは思うけど、マリモ子はマーちゃん中尉が勝てないって思ってるからこの賭けに乗れないってことだもんな。しょせんお前も自分の仲間を信じられないってことだよな」
「そんなことないもん。私はマーちゃんを信じてるもん最後の最後でマーちゃんが勝つって信じてるもんね」
「それだったらどっちが勝つか賭けようぜ。俺はもちろんハゲワシ兵長が勝って全勝で俺らの勝ちって事に賭けるぜ」
「私はもちろんマーちゃんが勝つ方に賭けるわ。あんな禿げ散らかした気持ち悪いやつにマーちゃんが負けるはずないもん。ハゲは絶対に負けるって決まってるんだもん」
 妖精マリモ子の言っていることはかなり酷い言葉だったとは思うけれど栗鳥院松之助はあえてその事には触れずに約束を取り付けて帰っていってしまった。
 マーちゃん中尉を信じていないわけではない妖精マリモ子ではあったが、この約束をしたことをほんの少しだけ後悔していたのであった。

 約束の事をマーちゃん中尉に言うべきか迷っていた妖精マリモ子は直接マーちゃん中尉には言わずにイザー二等兵にそれとなしに言ってみることにしたのだ。良い反応は返ってこないとは思っていたけれど、イザー二等兵は妖精マリモ子の話を真剣に聞いてどうすればいいのか考えてくれるのであった。
「でも、私たちがいくらアイデアを出し合ったってさ、マーちゃんがどうにかしてくれないと解決しないんだよね。マリモ子には悪いけど、どうにかなる可能性はほとんどないんじゃないかな」
 イザー二等兵はいくら考えてもマーちゃん中尉がハゲワシ兵長に勝てるビジョンが見えなかった。どんなに考えても正解が見つからないクイズを解いている気分になっていた。
「諦めたくはないけど、これ以上何をするのが正解なのかわからないよ。マーちゃんが負けてしまったらうまなちゃんに助けてもらうことも考えた方が良いかもね」
「それだったら、今からうまなちゃんに助けてもらえるようにお願いしてもいいかな。でも、私の事を助けてくれるのかな?」
「うまなちゃんなら絶対に助けてくれるよ。それだけは私が保証するからね」
 二人の話を物陰から聞いていたマーちゃん中尉は少しだけ複雑な心境になっていた。今までの事を考えると自分が勝てるはずがないというのはマーちゃん中尉自身が一番よくわかっていた。それでも、少しくらいは自分が勝てるという事を考えてくれてもいいんじゃないかと思っていたけど、当然そんなことは口が裂けても言えないのであった。
 ただ、ピーチ中尉に教えてもらった魔法の正しい使い方を自分のモノに出来れば勝機が見えるのではないかとひそかに考えてはいたのだ。

 試練の七番勝負もいよいよラストとなるのだが、ここまでの成績はあえていう事でもないがマーちゃん中尉の全敗となっている。いいところをほとんど見せられずに一番隊の隊員によって一方的に叩きのめされてしまっていたのだ。そんなマーちゃん中尉も今回は一番隊が相手ではないので勝てるかもしれない。そんな風に考えている人は誰もいない。
「ここまでお送りしてきました試練の七番勝負も本日を持ちまして最終戦となります。過去六戦を振り返っていただいてよろしいでしょうか」
「過去六戦を振り返るってのはちょっと無理があるんじゃないかな。マーちゃん中尉はここまでいいところもなくあっという間に負けてましたよ、そして、それは最終戦である本日も変わることはないでしょう。『うまな式魔法術』は確かに協力ではありますが、それは対魔物や機械生命体に対してだけですからね。『うまな式魔法術』を習得している人間同士だと魔法でダメージを与えることが出来ないって言う栗宮院うまな中将の優しさが仇となっていると言えるのではないでしょうか。もっとも、魔法で戦ったとしてハゲワシ兵長は我々の中でも一番強い人物ですからね。魔法も格闘技術もあり得ないレベルで鍛え上げているんですよ。それこそ、七番勝負に参加していた六人と同時に戦っても勝てるくらいには強いですからね」
「ハゲワシ兵長は六番隊からも入隊案内がきていたようなんですが、松之助さんのもとで活動をしたいという事で三番隊に入隊したという事ですからね。素質だけで言えば将来の隊長候補と言ったところでしょうか」
 妖精マリモ子は自分が知らなかった情報を聞いたことで軽はずみに勝負に乗ってしまったことを後悔していた。
 こうなっては仕方も無いのでマーちゃん中尉を応援しつつこの場から逃げ出す準備だけはしておこうと思っていたのだった。
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