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入隊試験開始
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温泉街で入隊試験を行うのは賛否両論だと思っていたのだが、蓋を開けてみると賛辞を贈られるばかりで多少拍子抜けしてしまった。もっと批判的な意見が多く寄せられてしまうのかとも思っていたのだけれど、俺たちの耳に批判的な意見が届くことはなかったのだ。
阿寒湖温泉について三日ほどゆっくりとしてから入隊試験を開始することになったのだが、入隊希望者も温泉で程よい休暇をとることが出来たみたいで誰もが満足してくれていたのだ。
「さっそく入隊試験を開始することにするんだけど、記念すべき一人目の入隊希望者はどんな人なのかな」
「資料を見ただけなんでよくわからないけど、私たちよりもかなりベテランの格闘家ですね。三年前にある出来事がきっかけで魔法を使えるようになったみたいなんだけど、今まで修行を重ねてきた格闘技術と魔法を融合させた戦闘スタイルで民間所属ながら魔物を十四体も倒してきたみたいよ。機械生命体を討伐したことがないみたいなんでそこがちょっとネックかもしれないけど、格闘技の実績も考えるとかなりの戦力として期待出来そうね。あと十年早く魔法が使えていたら五番隊に入っていた可能性もあるんじゃないかしら」
「ちょっと気になるんだけどいいかな。三年前に魔法を使えるようになった出来事っていったい何なのかしら?」
「それは私も気になっていたのよ。詳しく調べてみるから待っててね」
栗宮院うまなとイザーはわざとらしく驚いて見せると一冊の本を取り出してパラパラとページをめくっていた。今年出たばかりの最新版の魔法年表なのだが、三年前を見てみるとほぼすべてのページに『うまな式魔法術』についての記載がされている。当然二人はそれを知っていてこんな茶番を演じているのだが、面倒なことに入隊希望者もそこに加わってしまったのだ。それを見たマーちゃんは三人に聞こえるように大きくため息をついていた。だが、そんなものは三人の耳に届くはずもなかったのだ。
「今まで二十年以上格闘技を習っていた私は一切魔法が使えませんでした。私は国防軍に入ってこの国に貢献することが目標だったのですが、魔法が一切使えない私に出来ることなんてほとんどありませんでした。鍛えに鍛えぬいたこの体も国防軍のために役立てるには荷物運びをするくらいしかなかったんです。その荷物運びも今では人力ではないという事を聞いてショックを受けてしまいました。それでも私は体を鍛えることはやめず、いつの日かこの鍛え上げた肉体が役に立てる日も来ると信じて日々研鑽を繰り返していたのです」
「ちょっと待ってもらっていいかしら。体をそこまで鍛えることが出来たんならわざわざ危険な国防軍になんて入らないで違う仕事を選んだ方が良いんじゃないかしら。その方があなたのご家族もあなた自身も安心すると思うのだけど。国のために役に立ちたいという思いは立派だけど、魔法が使えないんじゃ役に立つどころか足手まといになる可能性だってあると思うわ」
「そうなんだ。私の悩みはそこなんだよ。どんなに体を鍛え上げても一向に魔法が使えるようにならない。民間の訓練校に行って魔法を習ってみてもイマイチその感覚をつかむことが出来ないんだ。このままではどんなに鍛えたとしても意味が無い。年齢的にももう新しいことを覚えられるような感じではないんだろうなってあきらめかけていたんだよ。そんな時に出会ったのが『うまな式魔法術』だったんだ」
わざとらしく驚いている栗宮院うまなとイザーに呆れたようなまなざしを向けているマーちゃんではあったが、二人の圧力に屈する形で何も言葉を発することはなかった。この空気を壊してしまうのは良くないとわかっているので何も言わないのだが、これが本当に入隊試験なのかと疑問に思うマーちゃんであった。
「ねえ、私もうわさでは聞いたことがあったんだけど、『うまな式魔法術』ってそんなにいいの?」
「もちろんさ。それまで一切魔法が使えなかった私も今ではこうして体内を巡っている魔法を一か所に集中させることが出来るようになったんだよ。そのおかげで今まで一切攻撃が通らなかった魔物にもダメージを与えることが出来るようになったんだ」
「凄いじゃない。今まで魔法が使えなかったのに魔物を倒すことが出来るようになっちゃうなんて信じられないわ」
「三年前までは魔物から逃げることしかできなかった私も今では魔物と対等に戦うことが出来るようになったんだよ。それまでは魔法の才能なんてないってあきらめていたんだけど、最後まであきらめずに努力を続ければ報われるって思い知らされたんだ」
そんなやり取りが永遠に続くかと思われたのだが、終わりというモノはあっさりやって来るのであった。あまりにもあっさりしすぎていてマーちゃんは気付かずに見守ってしまったのだが、栗宮院うまなの合図で小芝居が終わったことを知ったのであった。
「じゃあ、自己PRはそれくらいにして試験を始めましょうか。これから始まる試験は勝敗だけを見て合否は決まりません。勝ったとしても戦い方によっては失格になる場合もありますし、負けたとしてもそれまでの行動次第では次に進める可能性もあります。むしろ、二人に勝てるなんて思わない方が身のためですよ。イザー二等兵もマーちゃん中尉も相当な数の修羅場をくぐっていますからね」
マーちゃんは栗宮院うまなに対して何か言いたげにしていたのだけど何も言えなかった。何かを言おうと思っても隣で睨んでくるイザーに底知れぬ恐怖を感じて固まってしまっていたのだった。
「まず始めは私がお相手いたしますね。資料を拝見させていただいたところ、格闘術と魔法を融合させた魔法戦闘術が得意なようですね。私もどちらかと言えばそちらに近い戦闘スタイルですよ。魔法の方は私に分があるとは思うのですが、圧倒的に体格に差があるので案外あっけなく勝負がつくかもしれませんね」
「そんなことはないと思いますよ。私は格闘技にはそこそこ自信はあるのですが、魔法に関してはまだまだひよっこもいいところだと思います。ですが、試験に臨む以上は負けるつもりなどないので本気で行かせていただきます」
イザー二等兵と入隊希望者やっさんの戦いが始まるのである。
阿寒湖温泉について三日ほどゆっくりとしてから入隊試験を開始することになったのだが、入隊希望者も温泉で程よい休暇をとることが出来たみたいで誰もが満足してくれていたのだ。
「さっそく入隊試験を開始することにするんだけど、記念すべき一人目の入隊希望者はどんな人なのかな」
「資料を見ただけなんでよくわからないけど、私たちよりもかなりベテランの格闘家ですね。三年前にある出来事がきっかけで魔法を使えるようになったみたいなんだけど、今まで修行を重ねてきた格闘技術と魔法を融合させた戦闘スタイルで民間所属ながら魔物を十四体も倒してきたみたいよ。機械生命体を討伐したことがないみたいなんでそこがちょっとネックかもしれないけど、格闘技の実績も考えるとかなりの戦力として期待出来そうね。あと十年早く魔法が使えていたら五番隊に入っていた可能性もあるんじゃないかしら」
「ちょっと気になるんだけどいいかな。三年前に魔法を使えるようになった出来事っていったい何なのかしら?」
「それは私も気になっていたのよ。詳しく調べてみるから待っててね」
栗宮院うまなとイザーはわざとらしく驚いて見せると一冊の本を取り出してパラパラとページをめくっていた。今年出たばかりの最新版の魔法年表なのだが、三年前を見てみるとほぼすべてのページに『うまな式魔法術』についての記載がされている。当然二人はそれを知っていてこんな茶番を演じているのだが、面倒なことに入隊希望者もそこに加わってしまったのだ。それを見たマーちゃんは三人に聞こえるように大きくため息をついていた。だが、そんなものは三人の耳に届くはずもなかったのだ。
「今まで二十年以上格闘技を習っていた私は一切魔法が使えませんでした。私は国防軍に入ってこの国に貢献することが目標だったのですが、魔法が一切使えない私に出来ることなんてほとんどありませんでした。鍛えに鍛えぬいたこの体も国防軍のために役立てるには荷物運びをするくらいしかなかったんです。その荷物運びも今では人力ではないという事を聞いてショックを受けてしまいました。それでも私は体を鍛えることはやめず、いつの日かこの鍛え上げた肉体が役に立てる日も来ると信じて日々研鑽を繰り返していたのです」
「ちょっと待ってもらっていいかしら。体をそこまで鍛えることが出来たんならわざわざ危険な国防軍になんて入らないで違う仕事を選んだ方が良いんじゃないかしら。その方があなたのご家族もあなた自身も安心すると思うのだけど。国のために役に立ちたいという思いは立派だけど、魔法が使えないんじゃ役に立つどころか足手まといになる可能性だってあると思うわ」
「そうなんだ。私の悩みはそこなんだよ。どんなに体を鍛え上げても一向に魔法が使えるようにならない。民間の訓練校に行って魔法を習ってみてもイマイチその感覚をつかむことが出来ないんだ。このままではどんなに鍛えたとしても意味が無い。年齢的にももう新しいことを覚えられるような感じではないんだろうなってあきらめかけていたんだよ。そんな時に出会ったのが『うまな式魔法術』だったんだ」
わざとらしく驚いている栗宮院うまなとイザーに呆れたようなまなざしを向けているマーちゃんではあったが、二人の圧力に屈する形で何も言葉を発することはなかった。この空気を壊してしまうのは良くないとわかっているので何も言わないのだが、これが本当に入隊試験なのかと疑問に思うマーちゃんであった。
「ねえ、私もうわさでは聞いたことがあったんだけど、『うまな式魔法術』ってそんなにいいの?」
「もちろんさ。それまで一切魔法が使えなかった私も今ではこうして体内を巡っている魔法を一か所に集中させることが出来るようになったんだよ。そのおかげで今まで一切攻撃が通らなかった魔物にもダメージを与えることが出来るようになったんだ」
「凄いじゃない。今まで魔法が使えなかったのに魔物を倒すことが出来るようになっちゃうなんて信じられないわ」
「三年前までは魔物から逃げることしかできなかった私も今では魔物と対等に戦うことが出来るようになったんだよ。それまでは魔法の才能なんてないってあきらめていたんだけど、最後まであきらめずに努力を続ければ報われるって思い知らされたんだ」
そんなやり取りが永遠に続くかと思われたのだが、終わりというモノはあっさりやって来るのであった。あまりにもあっさりしすぎていてマーちゃんは気付かずに見守ってしまったのだが、栗宮院うまなの合図で小芝居が終わったことを知ったのであった。
「じゃあ、自己PRはそれくらいにして試験を始めましょうか。これから始まる試験は勝敗だけを見て合否は決まりません。勝ったとしても戦い方によっては失格になる場合もありますし、負けたとしてもそれまでの行動次第では次に進める可能性もあります。むしろ、二人に勝てるなんて思わない方が身のためですよ。イザー二等兵もマーちゃん中尉も相当な数の修羅場をくぐっていますからね」
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「そんなことはないと思いますよ。私は格闘技にはそこそこ自信はあるのですが、魔法に関してはまだまだひよっこもいいところだと思います。ですが、試験に臨む以上は負けるつもりなどないので本気で行かせていただきます」
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