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女子バスケ部エースの後輩とベンチ外の俺
第六話
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ルールは単純で、失敗するまで続けるだけという事だ。向こうは何人いるのかわからないが、試合に出ていない人たちまで列に並んでいた。その中には俺と同じ三年生も混ざっているようなのだが、これだけの人数を相手に俺一人で延々と打ち続けなくてはいけないのかと思うと少しだけ憂鬱になっていた。
さすがは兎梅中といったもので、最初に失敗したのは十五人目に登場した三年生の人だった。どこかで見覚えがあるなと思っていたのだが、俺が唯一出た試合に出ていたような気がしてきた。あとで聞いてみようかな。
その後もなかなか失敗してくれなかったので時間はどんどん過ぎていって、とうとう試合時間よりも長い時間フリースロー対決をおこなってしまっていた。もう何本打ったのかわからないくらい打ち続けて履いたのだが、兎梅中の部員はまだ六人も残っていたのである。
「このままだと一生終わらない感じですし、ここらで終わりにしませんか?」
「そうだね。これ以上続けると帰りが遅くなっちゃうし、みんな疲れてるもんね」
「自分らは大丈夫ですけど、萩原先輩の負担が大きいんじゃないかなって思いまして、疲れてないですか?」
「ありがとう。俺は試合にも出てないから大丈夫だよ。それにしても、本気で全国を目指してるだけあってみんな上手いよね。もっと簡単に終わるかと思ってたよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんですが、ほとんど運で入ってただけだと思います。一時間越えたくらいから打ってる感覚ほとんど無かったですもん。萩原さんはずっと一人で打ってましたけど、本当に疲れたりしてないんですか?」
「うん、フリースローだけしかやってないから疲れたりはしてないよ。結構長い時間やっちゃったけどさ、これで大丈夫だった?」
「はい、ばっちりです。俺達も近くで萩原さんのシュート見れましたし、カメラも十台以上回してるから完璧だと思います。でも、最後までずっとフォームが綺麗なままだったんですけど、何かコツとかってあるんですか?」
「いろんな人にそれを聞かれるんだけどさ、コツとかは何もないんだよね。ただ言えることは、俺はこれしか出来ないってだけの話なんだけどね」
「へえ、フリースローのスペシャリストって事ですね。バスケにも他のスポーツみたいにフリースローをやる専門のポジションがあったら萩原さんはNBAでも活躍出来ると思いますよ。それくらい完璧なフリースローだったと思います」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。ありがとうね」
「こちらこそありがとうございました。今日は大変勉強になりました。俺達はこれからフリースローがもっと上手くなるように頑張ります」
俺に向かって頭を下げる兎梅中の部員たちに困惑しながらも俺も同じように深々と頭を下げていた。兎梅中で最初に失敗した彼に話を聞いてみたところ、やはり俺が出た練習試合に参加していたという事だった。俺の記憶力もまんざらではないという事だ。
「あの勝負って萩原先輩の勝ちってことになるんですかね?」
「どうだろう、向こうは最後まで失敗しなかったって事だし、引き分けってことになるんじゃないかな」
「そうですかね。でも、普通だったら一人失敗した時点で向こうの負けってことになると思いますよ。だって、萩原先輩は一人で向こうは二十人近くいましたからね。単純に失敗できる回数に違いがありすぎますもん」
「それでもさ、あそこまで連続でシュートを決められるってのも凄いことだと思うよ。普通はあそこまで行く前に失敗しちゃうと思うし」
「それって、萩原先輩は失敗しないって言ってるって事に聞こえるんですけど、そうなんですか?」
「そういうつもりではないけどさ、室内だと失敗することも無いと思うんだよね」
「そんな事を平然と言うなんてカッコいいですね。私と萩原先輩がフリースロー勝負してたらどうなってると思います?」
「どうなんだろうね。兎梅中の人達と違って一対一だし、すぐに決まっちゃうんじゃないかな。若葉ちゃんはフリースロー苦手だって言ってるし」
「そうかもしれないですけど、私だってそれなりに上手いかもしれないじゃないですか。あとで勝負しますか?」
「勝負するって、どこでやるつもりなのさ」
「そうですね。今度練習が終わった後とかでもいいですよ。皆に言っておくんで女子側のコート使ってもいいですから」
「そんな事を今決めちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。瞳たちも萩原先輩と勝負したいって言ってましたもん。先生の許可だって練習終わった後ならいらないと思うんですよね。美月なんて今頃になって萩原先輩の魅力に気付いたみたいですよ。私は最初から萩原先輩のシュートフォームが綺麗だって知ってましたからね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけどさ、お手本ならもっと他にたくさんいると思うよ」
「まあ、そうかもしれないですけど、近くにこんなに上手な人がいるんだったら参考にしない手は無いじゃないですか。でも、兎梅中の人達はこれからたくさん萩原先輩の映像を見て研究するって事ですもんね。それって、敵に塩を送ったってことになりませんか?」
「どうなんだろうね。そうなったとしてもみんなが上手くなるんだったらいいと思うけどな」
「でも、兎梅中にフリースロー決められたら男子たちは考えちゃうんじゃないですかね。あの時練習試合に萩原先輩が行かなければ良かったって思うかもしれないですよ」
「そんなことは無いでしょ。そもそも、兎梅中はフリースロー下手だってわけでもないからね。公式戦だってうちより成功率高いはずだよ」
「それは萩原先輩が出てないからだと思いますよ」
「俺が出てたら惨敗続きで皆部活を辞めてると思うよ」
俺の取り柄はフリースローだけだと自分でも自覚はしている。ただ、その唯一の武器だけは誰にも負けたくはないと強く思ったのだった。
フリースローだけで勝負なんてこれから先二度とないかもしれないけれど、その時も負けない様に頑張ろうと誓ったのであった。
さすがは兎梅中といったもので、最初に失敗したのは十五人目に登場した三年生の人だった。どこかで見覚えがあるなと思っていたのだが、俺が唯一出た試合に出ていたような気がしてきた。あとで聞いてみようかな。
その後もなかなか失敗してくれなかったので時間はどんどん過ぎていって、とうとう試合時間よりも長い時間フリースロー対決をおこなってしまっていた。もう何本打ったのかわからないくらい打ち続けて履いたのだが、兎梅中の部員はまだ六人も残っていたのである。
「このままだと一生終わらない感じですし、ここらで終わりにしませんか?」
「そうだね。これ以上続けると帰りが遅くなっちゃうし、みんな疲れてるもんね」
「自分らは大丈夫ですけど、萩原先輩の負担が大きいんじゃないかなって思いまして、疲れてないですか?」
「ありがとう。俺は試合にも出てないから大丈夫だよ。それにしても、本気で全国を目指してるだけあってみんな上手いよね。もっと簡単に終わるかと思ってたよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんですが、ほとんど運で入ってただけだと思います。一時間越えたくらいから打ってる感覚ほとんど無かったですもん。萩原さんはずっと一人で打ってましたけど、本当に疲れたりしてないんですか?」
「うん、フリースローだけしかやってないから疲れたりはしてないよ。結構長い時間やっちゃったけどさ、これで大丈夫だった?」
「はい、ばっちりです。俺達も近くで萩原さんのシュート見れましたし、カメラも十台以上回してるから完璧だと思います。でも、最後までずっとフォームが綺麗なままだったんですけど、何かコツとかってあるんですか?」
「いろんな人にそれを聞かれるんだけどさ、コツとかは何もないんだよね。ただ言えることは、俺はこれしか出来ないってだけの話なんだけどね」
「へえ、フリースローのスペシャリストって事ですね。バスケにも他のスポーツみたいにフリースローをやる専門のポジションがあったら萩原さんはNBAでも活躍出来ると思いますよ。それくらい完璧なフリースローだったと思います」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。ありがとうね」
「こちらこそありがとうございました。今日は大変勉強になりました。俺達はこれからフリースローがもっと上手くなるように頑張ります」
俺に向かって頭を下げる兎梅中の部員たちに困惑しながらも俺も同じように深々と頭を下げていた。兎梅中で最初に失敗した彼に話を聞いてみたところ、やはり俺が出た練習試合に参加していたという事だった。俺の記憶力もまんざらではないという事だ。
「あの勝負って萩原先輩の勝ちってことになるんですかね?」
「どうだろう、向こうは最後まで失敗しなかったって事だし、引き分けってことになるんじゃないかな」
「そうですかね。でも、普通だったら一人失敗した時点で向こうの負けってことになると思いますよ。だって、萩原先輩は一人で向こうは二十人近くいましたからね。単純に失敗できる回数に違いがありすぎますもん」
「それでもさ、あそこまで連続でシュートを決められるってのも凄いことだと思うよ。普通はあそこまで行く前に失敗しちゃうと思うし」
「それって、萩原先輩は失敗しないって言ってるって事に聞こえるんですけど、そうなんですか?」
「そういうつもりではないけどさ、室内だと失敗することも無いと思うんだよね」
「そんな事を平然と言うなんてカッコいいですね。私と萩原先輩がフリースロー勝負してたらどうなってると思います?」
「どうなんだろうね。兎梅中の人達と違って一対一だし、すぐに決まっちゃうんじゃないかな。若葉ちゃんはフリースロー苦手だって言ってるし」
「そうかもしれないですけど、私だってそれなりに上手いかもしれないじゃないですか。あとで勝負しますか?」
「勝負するって、どこでやるつもりなのさ」
「そうですね。今度練習が終わった後とかでもいいですよ。皆に言っておくんで女子側のコート使ってもいいですから」
「そんな事を今決めちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。瞳たちも萩原先輩と勝負したいって言ってましたもん。先生の許可だって練習終わった後ならいらないと思うんですよね。美月なんて今頃になって萩原先輩の魅力に気付いたみたいですよ。私は最初から萩原先輩のシュートフォームが綺麗だって知ってましたからね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけどさ、お手本ならもっと他にたくさんいると思うよ」
「まあ、そうかもしれないですけど、近くにこんなに上手な人がいるんだったら参考にしない手は無いじゃないですか。でも、兎梅中の人達はこれからたくさん萩原先輩の映像を見て研究するって事ですもんね。それって、敵に塩を送ったってことになりませんか?」
「どうなんだろうね。そうなったとしてもみんなが上手くなるんだったらいいと思うけどな」
「でも、兎梅中にフリースロー決められたら男子たちは考えちゃうんじゃないですかね。あの時練習試合に萩原先輩が行かなければ良かったって思うかもしれないですよ」
「そんなことは無いでしょ。そもそも、兎梅中はフリースロー下手だってわけでもないからね。公式戦だってうちより成功率高いはずだよ」
「それは萩原先輩が出てないからだと思いますよ」
「俺が出てたら惨敗続きで皆部活を辞めてると思うよ」
俺の取り柄はフリースローだけだと自分でも自覚はしている。ただ、その唯一の武器だけは誰にも負けたくはないと強く思ったのだった。
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