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第二部

第四話 栗鳥院家最後の女帝 ボーナスステージ前編

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 湯船につかりながらお互いに身の上話をしてたんだけど、少ないとはいえお互いに共通点もあったりしたので俺と栗鳥院朝里は少しだけ仲良くなることが出来た。
「魔王さんが今までしてきた苦労を考えるとさ、私もちょっと協力してあげたいって思っちゃうよね。でも、瑞穂陛下から受けた恩もまだ返しきれてないのにそんなことしていいのかなって思うところもあるんだよ。だからさ、私が魔王さんの事を助ける前提で魔王さんも私に力を貸してくれないかな。一日だけでもいいんで、いや、半日でもいいんで私のチームに参加して魔竜王チャンリーナと戦ってもらえないかな。私たちではあいつの外殻を削ることすらできないんだけど、魔王さんの強力な魔法だったら一か所くらい傷をつけることも出来るんじゃないかなって思うんだよ。小さな傷でも出来れば私たちがどうにか出来ると考えてるからね」
「その魔竜王チャンリーナってのがどんな奴なのかわからないけど、傷をつけるだけでいいのかい。なんだったら、俺がそいつの息の根を止めてやってもいいんだぜ」
「ハハハ、随分と自分の力を過信しているようだね。でも、その自信があるからこそ君が魔王の中の魔王たる所以なのかもしれないな。盛大なフラグのようにも聞こえるけど、期待させてもらうことにするよ」
 魔竜王チャンリーナなんてふざけた名前だと思ったのだが、詳しく聞いてみるとそいつも俺と同じで他の世界からやってきた化け物だということだ。人間形態と竜形態に変身するということが出来るとのことだ。普通に考えれば人間形態の時にどうにかするべきなのだと思うけど、基本的なエネルギー量が変化することはないので体の小さな人間形態の時の方が強さ的にもヤバいという事らしい。
「竜の巨体を支えているエネルギーが丸々一人の人間の体に収まってる状態なんだよ。竜形態の時は多少の会話は出来るくらい知性も理性もあるんだけどね、人間形態になったら動くもの全て破壊し生きているものはみな殺戮する恐ろしい悪魔になってしまうんだよ」
「なるほど、理屈は何となくわかるけど納得は出来ないな。普通に考えたら竜の方が強そうだけど、人間の体に竜の力をそのまま移してるって事なんだもんな。そう考えたら人間の体に竜の力が凝縮されてるってことになるんだし、そんだけ強い力があるからこそすべて破壊してしまうような暴走状態になっちゃうって事だよな。でも、その竜の体に傷をつけたら人間形態になっちゃうんじゃないの?」
「それは大丈夫です。そうならないように瑞穂陛下が魔竜王チャンリーナの力を抑えてますから。瑞穂陛下は自らの命を削って魔竜王チャンリーナが人間形態に変化しないように呪いをかけてるんですよ。呪いって言い方は良くないかもしれないですけど、呪いとしか言えないような力で抑えつけてるんです」
 なるほど、栗鳥院瑞穂が思っていたよりも良さそうに見えたのはそれが原因なのかもしれないな。であるならば、俺がその魔竜王チャンリーナをどうにかすれば栗鳥院瑞穂の力も知ることが出来るというモノだな。うまなちゃんの居場所を知るためにも魔竜王チャンリーナをどうにかするべきだろう。そのためには、実際にこの目で魔竜王チャンリーナを見ておく必要があるな。
「その魔竜王チャンリーナってのはどこに行けば見られるんだ?」
「普段は六鐘砦にいるみたいですけど、今朝から姿が見えなくなってるみたいなんです。私のチームメンバーが懸命に創作活動をしているんですけど、尻尾はおろか足跡すら見つけられない状況なんです。なので、どこにいるかはわからないんですよ」
「そうなのか。でも、それだけ強い奴だったらすぐに見つかるだろう。気長に待つわけにもいかないので俺も探すのを手伝うことにするよ」
 魔竜王が俺の知っている竜と同じ形状なら何とかなるだろう。それに、この世界の魔法レベルが低いということも考えると、案外俺の攻撃であっさり討伐することも出来るのかもしれないな。そんなに甘くはないとは思うけど、ここで俺が負けるようであればうまなちゃんを探し出すことなんて不可能だろうな。
「そろそろ風呂から上がってみんなと合流するべきじゃないかな」
「ええ、もう出ちゃうんですか。私たちは体を洗いあいっこして湯船につかってただけじゃないですか。ほら、もう少し楽しんでもいいと思いますよ」
「それだけすれば十分だと思うけど。それに、あんまりゆっくりしてない方が良いんじゃないかな。今だって君の仲間が懸命に捜索活動をしてるって事でしょ?」
「そうなんですけど、それはそれでいいんだと思いますよ。戦える子と戦えない子で役割をしっかりと分けてますから。索敵班と実戦部隊は明確に役割を分担してるんです。私は実戦部隊なんで敵が見つかるまですることが何にもないんですよ。魔王さんは一人でどっちも出来ちゃう人だろうからわからないと思いますけど、私たちみたいなのが索敵に参加しちゃうと敵も姿を消しちゃうことがあるんですよね。そういうのってあんまりよくないんじゃないかなって思うですよ。なので、もう少し魔王さんの体に私の背中を預けててもいいですよね」
 遠くで見ていると毛に覆われた体が異様に見えてしまうのだが、こうして近くで見てみると柔らかい毛並みが優しい動物のようにも見えてしまう。思わず抱きしめてしまいそうになったのだが、そんなことをしてしまえばソレだけで終わるはずがないということを知っている。むしろ、栗鳥院朝里はそれを望んでいるような節すら見えるのだ。
 ただ、もう少しだけこうしてゆっくりと湯につかっているのも悪くないとは思う。まるで恋人のようにくっついている時間も大切なんじゃないかと考えていたのであった。
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