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第二部

第三話 栗鳥院家最後の女帝 後編

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「私が知っていることを教えてあげてもいいんだけど、それを教える見返りっていったい何があるのかな。ちょっとやそっとの事じゃ私は満足しないけど、君は私の事を満足させる自信はあるのかな?」
「その言い方って、性的な満足を望んでるって解釈していいのかな?」
「な、何を言っているんだ。私がそんな破廉恥なことを望むわけないだろ。全く君ってやつは噂通りの魔王なんだね。だが、その噂が真実なのか確かめるのも私の仕事って事になるのかもしれないね」
 栗鳥院瑞穂は俺の手を引いてバスルームへと誘導すると俺を置いてそのまま出て行ってしまった。このまま風呂に入れということなのだろうが、黙って出て行かずに何か言ってくれればいいのにと思いながらも俺は風呂に入ることにした。
 服を脱いで浴室に向かったところ、俺よりも背の高い肉付きのいい女が待ち構えていた。当然風呂なので全裸なわけではあるが、この女は体毛が濃いので肝心な部分は綺麗に隠れていた。
「どうも初めまして。瑞穂陛下から魔王さんのお世話をするように言われてる栗鳥院朝里です。私も栗鳥院って名乗ってるんですけど瑞穂陛下とは何の関係もありません。たまたま苗字が一緒なだけで親戚でも何でもないです。生まれた世界も種族も違うんですけど、こうして同じ苗字って事が縁で働かせてもらってるんです。普段は私の力を役立てるために鉱山で働いんてるんですよ。私が通れるような坑道は他の人も簡単に入れるようになるからってのもあるんですけどね。それと、瑞穂陛下からも言われてるんで理解はしてるんですけど、魔王さんが本当に強いのか確かめさせてもらってもいいですか。いいですよね。強いって噂だし実際に瑞穂陛下の兵隊も何も出来なかったって言う話も聞いてますよ。でもね、私はこの目で見て自分で体験したことしか認めたくないんです。周りに流されて本質を見逃すってのがとんでもなく我慢出来ないたちなんです。だから、ちょっと魔王さんの事を試させてもらいますからね」
 俺の答えを待たずに栗鳥院朝里はいきなり上段回し連撃を繰り出してきた。一発目は何となく避けてみたので二発目はくらってみることにしたのだが、体が大きくてそれなりに体重もある栗鳥院朝里の体重が綺麗に乗った渾身の一撃は俺の左こめかみに綺麗に入った。もちろん、俺には何の効果もないので問題はないと思うのだけど、俺が普通の人間であったら首が折れているか頭がどこかへ飛んで行っていそうなくらい強烈な威力になっていた。
 俺の左こめかみに栗鳥院朝里の左かかとが綺麗に入ったのだが、その時に何か鈍い音がしていたので栗鳥院朝里は左足を負傷したのかもしれない。さすがに骨折はしていないと思うのだけど、捻挫か脱臼はしている可能性が高いだろう。栗鳥院朝里は泣きそうな顔で俺をにらんでいるのだが、ついに我慢が出来なくて涙をこぼしてしまっていた。
「ごめん、ただ立ってただけで悪気はなかったんだ」
「謝らないでください。ってより、なんで私の渾身の一撃をくらって微動だにしないんですか。今まで蹴ってきた中で一番綺麗に入ったと思ったのに。体重移動だって角度だって当てた場所だってこれ以上ないって思ったのに、なんで魔王さんは平気な顔して立っていられるんですか」
「そう言われてもな。俺もそれなりに強い奴らと数多く戦ってきたからね。初期段階の俺だったらさっきの一撃で死んじゃってたと思うけどさ、俺もそれなりに多くの修羅場を経験してきたから強くなっちゃってるんだよな。君と同じくらいの身長で君よりも体重の重い人とも戦ったことあるからね。多分、そいつは君よりも五キロくらい体重が重かったと思うんだけど、そんな奴の攻撃を受けても平気だったことあるから気にしなくてもいいからね」
「ちょっと待ってください。それってどういう事ですか。私を見ただけで体重とかわかっちゃうって事ですか?」
「正確な体重じゃなくてアバウトな感じだけど、何となくどれくらいかなってのはわかるよ。君の体重はざっと見たところ」
「いいですいいです。そんなの言わなくていいです。もしかして、瑞穂陛下の事も一目見ただけで体重がわかったりしたんですか?」
 体のラインがわかればおおよその見当はつくのだけど、栗鳥院瑞穂は甲冑であったり体のラインを隠すようなゆったり目の服を着ていることが多いので正確に測定することは出来ない。それでも、栗鳥院瑞穂の体重が知りたいのであればどんな手段を用いても正確な体重を測定するつもりだけど、そんなお願いをしてくるような人間はこの世界にもいないだろう。
「さすがにあの甲冑を着ている状態ばっかり見てたから判断のしようがないな。さっきちょっと見ただけの印象でもいいなら答えるけど、君よりは体重も軽いと思うよ」
「いや、そんなのはちゃんと見てなくてもわかりきったことでしょ。さすがに瑞穂陛下が私よりも体重が重かったら大事件だよ。そんなことは子供でもどっちが重いかわかるってもんさ。まあ、瑞穂陛下の骨が全部金属で出来ていてすごく重いってことになったら話は別だけど、そんな意味不明なことなんてするはずないもんね」
 単純に体重を比べるだけならそんな感じで終わると思うのだが、直接一対一で戦うのであればリーチもあって体重のある栗鳥院朝里の方が圧倒的に強いと思う。皇帝が直接戦う事なんて無いと思うので比べることに意味なんてないとは思うけどな。
「あの、私の体重の事なんてどうでもいいんで、とりあえずお風呂に入りましょうよ。裸のままだったら風邪ひいちゃいそうですし」
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