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第二部
第一話 栗鳥院家最後の女帝 前編
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「何度言ってもアスモちゃんはうまなちゃんの事を助けに行こうとなんてしないんだね。私、ちょっとそういうところに幻滅しちゃったかも。アスモちゃんはそんなことないって思ってるかもしれないけどさ、今の君の行動を見ていたら私がそう思っちゃっても仕方ないよね」
冷たい金属の棒を俺の顔に押し当てながらイザーちゃんは俺に優しく話しかけてきた。言っていることはちょっとだけ怖く感じてしまっていたけれど、その言葉の奥にある優しさが隠し切れないイザーちゃんはまだ俺に対して期待を寄せているように思えた。
「でも、さすがにこれ以上先延ばしにされても困っちゃうし、うまなちゃんも待ちきれなくなっちゃいそうだもんな。アスモちゃんがちゃんとうまなちゃんを見つけることが出来るように私も協力しちゃおうかな」
「協力してくれるというのは嬉しいんだけどさ、イザーちゃんはうまなちゃんがどこにいるのか知ってるんだよね?」
「え、何言ってるのかな。私はうまなちゃんがどこにいるかなんて知らないって。知ってるわけないじゃない。いやだな、そんなことあるわけないじゃない。大体、私がうまなちゃんの居場所を知ってるんだったらこんな回りくどいことしないで真っ先にそこに向かってるに決まってるじゃない。それにさ、知ってるんだったら私が行かないまでもアスモちゃんの事をそこに行かせてると思うんだよね。だから、私はうまなちゃんがどこにいるのかなんて知らないんだって」
「そうは言うけどさ、俺の事を飛ばしてる先ってうまなちゃんの事を全然知らない人のところばっかりだったよね。それってさ、俺がすぐにうまなちゃんを見つけ出したら暇潰しにならないからって事はないよね」
静寂に包まれていたこの部屋の中でひときわ大きな金属音が響いていた。イザーちゃんが持っていた金属の棒が転がる音が耳から入ってきているのに直接脳に届いているような錯覚さえ覚えていたのだった。
「そ、そ、そ、そそそそそそんなわけないないないないないないじゃない。暇潰しとかそんなわけないし。暇だからってそんな事してするんだったらもっと他に楽しいことをし手暇つぶすと思うし。あ、もしかして、アスモちゃんは自分が上手にうまなちゃんの居場所を見つけられないからって私が何か企んでるってことにしてるんじゃないの。もしそうだったとしたら、男としてどうなんだろうって思っちゃうかも。魔王としてはそれでもいいかと思うんだけどさ、やっぱりそういうのって男らしくないよね」
「男らしいとか魔王らしいとかそういう事じゃなくてさ、俺に何か隠してることあるよね?」
「別に書く仕事なんてないけど。そりゃ、私も女の子なんだからアスモちゃんに言えないことの一つや二つくらいはあるけどさ、それを今アスモちゃんに教える必要なんてないよね。気のせいだったら謝るけどさ、アスモちゃんってうまなちゃんを助けないのって、私と二人っきりでこうして話す時間を楽しみたいからって事はないよね?」
「うん、それはないね」
「いや、そこは即答しちゃダメじゃないかな。いくら私でもそういう風に即答されたら傷付いちゃうよ。ちょっとくらいは考えたふりをしてもらいたかったな」
「それはごめん。ちょっと配慮が足りなかったかもしれないね」
「そこで素直に謝られるのもつらいかも。アスモちゃんってみんなに優しい魔王なのにさ、私にはちょっと冷たい時があるよね。私にはいつでも優しくしてくれてもいいんだからね。ほらほら、優しくしてくれてもいいんだからね」
イザーちゃんは落とした金属の棒を拾い上げると壊れていないか確かめるように様々な角度から棒を見つめていた。そこまで大事なものを落としてしまったのだから先ほどのは図星だったのだろうと思うけど、今このタイミングでそれを追及してしまったら俺はあの棒で殴り殺されてしまうのではないかと思えてしまった。
「大丈夫だよ。そんなに心配そうに見なくても私はアスモちゃんの事を殺したりなんてしないって。いくらアスモちゃんが強い魔王だからってさ、何度も何度も生き返らせてたら脳に障害が残っちゃうかもしれないもんね。生き返ったとしても脳が完全に元通りになってるってわけでもないらしいから」
「ちょっと待ってもらってもいいかな。その言い方だと俺が何回も死んでるみたいに聞こえるんだけど、俺って何度も死んでるって事なのかな?」
「一説によるとって事だよ。何回死んでも脳の状態が生前と変わらない人もいるみたいだし。でも、普通の脳だったら死ぬ直前の事を覚えてるのが凄くストレスになっちゃうからその前後の関連する記憶をすべて消去してしまうってこともあるみたいなんだ。その方が生物として正しい選択だと思うんだよ。魔王とは言えども、死ぬ直前の事を覚えているってのは凄いストレスに感じてしまうって事じゃないかな」
「言ってることはわかるけど、それって俺の事を何度も殺して生き返らせているって事を言ってるんじゃないの?」
「嫌だな。私たちがアスモちゃんを殺す理由なんてないじゃない。むしろ死んでほしくないって思ってるんだよ。アスモちゃんがいるから今の私たちがあると言ってもいいんだからね。私はこうしてアスモちゃんと一緒に過ごせているからいいんだけど、うまなちゃんは今もどこかで一人寂しくアスモちゃんが助けに来るのを待ってるんじゃないかな。早くアスモちゃんがうまなちゃんを見つけてくれることを私も願っているよ」
「俺も早く助けに行きたいとは思っているけどさ、俺が行く世界にはうまなちゃんにつながる情報が何もないんだよ。そんな状況だったら助けたくても助けられないよね」
「それもそうだよね。うん、先生に頼んでうまなちゃんの事を知っている人がいる世界にアスモちゃんが行けるようにしておくよ。でも、それはアスモちゃんが望んで決めたことなんだから私の事を恨んじゃだめだからね」
冷たい金属の棒を俺の顔に押し当てながらイザーちゃんは俺に優しく話しかけてきた。言っていることはちょっとだけ怖く感じてしまっていたけれど、その言葉の奥にある優しさが隠し切れないイザーちゃんはまだ俺に対して期待を寄せているように思えた。
「でも、さすがにこれ以上先延ばしにされても困っちゃうし、うまなちゃんも待ちきれなくなっちゃいそうだもんな。アスモちゃんがちゃんとうまなちゃんを見つけることが出来るように私も協力しちゃおうかな」
「協力してくれるというのは嬉しいんだけどさ、イザーちゃんはうまなちゃんがどこにいるのか知ってるんだよね?」
「え、何言ってるのかな。私はうまなちゃんがどこにいるかなんて知らないって。知ってるわけないじゃない。いやだな、そんなことあるわけないじゃない。大体、私がうまなちゃんの居場所を知ってるんだったらこんな回りくどいことしないで真っ先にそこに向かってるに決まってるじゃない。それにさ、知ってるんだったら私が行かないまでもアスモちゃんの事をそこに行かせてると思うんだよね。だから、私はうまなちゃんがどこにいるのかなんて知らないんだって」
「そうは言うけどさ、俺の事を飛ばしてる先ってうまなちゃんの事を全然知らない人のところばっかりだったよね。それってさ、俺がすぐにうまなちゃんを見つけ出したら暇潰しにならないからって事はないよね」
静寂に包まれていたこの部屋の中でひときわ大きな金属音が響いていた。イザーちゃんが持っていた金属の棒が転がる音が耳から入ってきているのに直接脳に届いているような錯覚さえ覚えていたのだった。
「そ、そ、そ、そそそそそそんなわけないないないないないないじゃない。暇潰しとかそんなわけないし。暇だからってそんな事してするんだったらもっと他に楽しいことをし手暇つぶすと思うし。あ、もしかして、アスモちゃんは自分が上手にうまなちゃんの居場所を見つけられないからって私が何か企んでるってことにしてるんじゃないの。もしそうだったとしたら、男としてどうなんだろうって思っちゃうかも。魔王としてはそれでもいいかと思うんだけどさ、やっぱりそういうのって男らしくないよね」
「男らしいとか魔王らしいとかそういう事じゃなくてさ、俺に何か隠してることあるよね?」
「別に書く仕事なんてないけど。そりゃ、私も女の子なんだからアスモちゃんに言えないことの一つや二つくらいはあるけどさ、それを今アスモちゃんに教える必要なんてないよね。気のせいだったら謝るけどさ、アスモちゃんってうまなちゃんを助けないのって、私と二人っきりでこうして話す時間を楽しみたいからって事はないよね?」
「うん、それはないね」
「いや、そこは即答しちゃダメじゃないかな。いくら私でもそういう風に即答されたら傷付いちゃうよ。ちょっとくらいは考えたふりをしてもらいたかったな」
「それはごめん。ちょっと配慮が足りなかったかもしれないね」
「そこで素直に謝られるのもつらいかも。アスモちゃんってみんなに優しい魔王なのにさ、私にはちょっと冷たい時があるよね。私にはいつでも優しくしてくれてもいいんだからね。ほらほら、優しくしてくれてもいいんだからね」
イザーちゃんは落とした金属の棒を拾い上げると壊れていないか確かめるように様々な角度から棒を見つめていた。そこまで大事なものを落としてしまったのだから先ほどのは図星だったのだろうと思うけど、今このタイミングでそれを追及してしまったら俺はあの棒で殴り殺されてしまうのではないかと思えてしまった。
「大丈夫だよ。そんなに心配そうに見なくても私はアスモちゃんの事を殺したりなんてしないって。いくらアスモちゃんが強い魔王だからってさ、何度も何度も生き返らせてたら脳に障害が残っちゃうかもしれないもんね。生き返ったとしても脳が完全に元通りになってるってわけでもないらしいから」
「ちょっと待ってもらってもいいかな。その言い方だと俺が何回も死んでるみたいに聞こえるんだけど、俺って何度も死んでるって事なのかな?」
「一説によるとって事だよ。何回死んでも脳の状態が生前と変わらない人もいるみたいだし。でも、普通の脳だったら死ぬ直前の事を覚えてるのが凄くストレスになっちゃうからその前後の関連する記憶をすべて消去してしまうってこともあるみたいなんだ。その方が生物として正しい選択だと思うんだよ。魔王とは言えども、死ぬ直前の事を覚えているってのは凄いストレスに感じてしまうって事じゃないかな」
「言ってることはわかるけど、それって俺の事を何度も殺して生き返らせているって事を言ってるんじゃないの?」
「嫌だな。私たちがアスモちゃんを殺す理由なんてないじゃない。むしろ死んでほしくないって思ってるんだよ。アスモちゃんがいるから今の私たちがあると言ってもいいんだからね。私はこうしてアスモちゃんと一緒に過ごせているからいいんだけど、うまなちゃんは今もどこかで一人寂しくアスモちゃんが助けに来るのを待ってるんじゃないかな。早くアスモちゃんがうまなちゃんを見つけてくれることを私も願っているよ」
「俺も早く助けに行きたいとは思っているけどさ、俺が行く世界にはうまなちゃんにつながる情報が何もないんだよ。そんな状況だったら助けたくても助けられないよね」
「それもそうだよね。うん、先生に頼んでうまなちゃんの事を知っている人がいる世界にアスモちゃんが行けるようにしておくよ。でも、それはアスモちゃんが望んで決めたことなんだから私の事を恨んじゃだめだからね」
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