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第二部

第六話 栗鳥院家の悪い奴 ボーナスステージ後編

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 栗鳥院興業から少し離れた場所にあるマンションの一室を借りている俺は景色を眺めながら人に迷惑をかけている魔物を探していた。特にやることもないので魔物狩りを楽しんでいたところ、自動的に栗鳥院興業の評判も上がっていってうまなちゃんに関する情報も少しずつではあったが手に入るようになってきた。
「あのさ、あんたは栗宮院うまなの居場所がわかったらここを出ていくんだろ?」
「そうだな。もともとうまなちゃんの居場所を掴むためにここに来たわけだからな。目的が達成できればそっちに行くだけだよ」
「なあ、アタシは思うんだけどさ、あんたにとってその栗宮院うまながどれくらい大事なのかはわからないけど、今のアタシにとってあんたはそれと同じくらい大切だと思うんだよ。ほら、あんただってこの世界でいっぱい贅沢も出来てるししたいことだってなんだって出来てるだろ。だからさ、栗宮院うまなが見つかっても少しだけここにいてもらうことって出来ないかな?」
 よくよく考えてみると、俺がうまなちゃんを探す必要なんてないんだとは思う。絶対にうまなちゃんとイザーちゃんはグルになって俺が困っているのを楽しんでみているに違いないのだ。もしかしたら、栗鳥院家の人達もみんなグルなのかもしれない。こうして俺に対して優しくしてくれている栗鳥院桔梗だって今の姿が俺を引き留めるための作戦という可能性だってあるのだ。
 だが、そんなことは関係なしにこの世界は他の世界と違って過ごしやすいように思える。俺がもともと住んでいた日本に近いからというのもあるのだろうが、程よく忙しくて程よく暇な時間を持てるというのが一番大きい理由だろう。
「あんたはさ、性欲大魔王って呼ばれてたんだろ。それなのにさ、この世界ではそういうのを全然見せないって言うか、かけらも感じさせてないじゃないか。そういうのって我慢することが出来たりするのかな?」
「我慢とかは別にしてないけどな。俺は周りが言う程エロいって事でもないんだけど。ただ、一番最初に飛ばされた世界でサキュバスに襲われて反撃してたら相手を殺しちゃってたってのがあったんだよな。それのせいでそんな不名誉な二つ名がついちゃったんだと思うよ」
「確かに不名誉かもな。でも、考えようによってはとても名誉なことかもしれないぞ。サキュバスを殺すなんて普通は出来ないからな。とんでもなく精神力が強くて相手に惑わされなかったって事なんだろ?」
 あの時の俺は自分の意志でやっていたのか、サキュバスの術にはまってそうなったのかわからないが、最終的にあのサキュバスは俺の腕の中で死んでいたのだ。次の日には生き返っていたみたいだけど、今にして思えば俺が初めて命を奪った瞬間になるのかもしれないな。
 ただ、栗鳥院桔梗は俺がサキュバスを殺した方法をちゃんと理解していないような気がする。そのことをちゃんと説明すべきかどうか、俺は少し悩んでしまっていた。
「アタシはさ、あんたみたいに多くの世界を見てきたわけでもないし多くの事を経験したってわけでもないんだ。でもさ、そんなのは後から経験すればいいってだけの話だと思うんだよ。そこで、あんたの力でアタシを今までにない世界へ連れて行ってほしいんだ」
「いや、それは無理じゃないかな。俺がいろんな世界に行ってるのって俺の力じゃなくて向こうの世界の人の力だからな。俺が君を連れて他の世界に行くことなんて出来ないと思うんだよ」
 俺が自分の力で世界を飛び回っているのではないということを知ってショックを受けているのか栗鳥院桔梗は腕を組んで考え事をしていた。しばらく待っていると、栗鳥院桔梗は急に眼を見開いて俺に急接近してきた。
「そういう意味じゃないんだよ。ほら、凄いことをした後って新しい世界の扉を開いたとか新しい世界が見えたって言うだろ。そういう意味でアタシは言ってるんだよ。あんたは察しがよさそうに見えるのに意外と察しが悪かったりするんだね。ここまで言えばアタシが何を言いたいかわかってもらえると思うんだけど、わかってくれているよね?」
「ああ、そっちの意味だったのね。そうだとは気づかなくてごめんな。いつぞやの事務員さんが君はそっち方面がとんとご無沙汰だから無理はするなみたいなことを言ってたから違う意味だと思ってたよ。いや、この場合は君の言っていることが違う意味って事になるのかな」
「ちょっと待ってくれ。アタシは確かにご無沙汰と言えばそうなんだけどさ、その事務員ってのは本当に誰なんだ。そんな人がアタシの会社に出入りしてるって事だろ。そもそも、そんなにアタシの事を知っている人であそこに出入りすることが出来る人なんて知り合いにだっていないんだが」
 ちょっとだけそういう気分になりかけていた俺も少しうろたえている栗鳥院桔梗を見ていると冷静になってしまっていた。今日はそんな感じにはならないんだろうなと思って窓から外を見ていつものように魔物を探していたのだが、栗鳥院桔梗は俺の腰にそっと手を回しながら後ろから抱き着いていたのだ。
「アタシが最後にしたのがいつだったか覚えていないくらい前なんだけどさ、そんなアタシの事をあんたは気にせずに抱いてくれるのかい?」
「その抱くってのはそういう意味でいいんだよな?」
「そっちの意味の抱くで理解してくれたら助かるよ。あんまり直接的な表現は苦手なんだ。でも、あたしが久しぶりだからってあんたは遠慮なんてしなくていいからね。アタシはあんたが好きなようにやってくれるのを受け入れるからね。ただ、最初は優しいキスからお願いしたいかな」
 窓から見える景色に何体かの魔物が見えていたような気もするのだが、俺が相手をしに行かなくても問題なんてないだろう。
 今までだって誰かに呼ばれて行っていたわけじゃないし、見逃してしまっていたことだってあったに違いない。
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