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第二部

第五話 栗鳥院家の悪い奴 ボーナスステージ中編

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 問題を解決してやったのだが、栗鳥院桔梗は残念なことにうまなちゃんとは関わりがないらしくその居場所も知らないそうだ。栗鳥院興業の応接室兼事務室には俺と栗鳥院桔梗だけしかいないのだが、栗鳥院桔梗は他の誰にも聞こえないように声を潜めて教えてくれた。
 そうなるとここにはもう用はないということになるのだけれど、どうしてももう一つだけ俺に頼みたいことがあるという。あまり乗り気ではないけれど、何かやっていればこの世界にとどまることが出来るような言い訳をイザーちゃんに出来ると思って受けることにしたのだ。
 うまなちゃんがいる場所を知らない栗鳥院桔梗にかまっている時間はないと思うのだけど、俺としてはもう少しこの世界で栗鳥院桔梗と遊んであげてもいいような気もしていたのだ。
「栗宮院うまながどこにいるのかはアタシは知らないんだけどさ、あんたがどうしても見つけたいっているんだったら協力するよ。ほら、アタシの下僕たちを使って探してあげるからね。その方があんたも嬉しいんでしょ?」
「それは助かるよ。俺としてももう少しこの世界に残りたいって思ってたところだし、君が協力してくれるんだったら残る理由も出来るしね」
「何だ、あんたもアタシと同じ気持ちだったんだね。それなら話が早いや。じゃあ、さっそく下僕どもに言って栗宮院うまなを探させるね」
 栗鳥院桔梗は嬉しそうに声を弾ませながら部屋を出て行った。一人残された俺はゆっくりと部屋の中を見ているのだが、下僕というのはいったいどういうことだろうと思って考えを巡らせていた。だが、当然その答えを見つけることなんて出来ずに一つため息をついていた。
「ため息をつくと幸せが逃げるって言いますよ。魔王さんはこれから桔梗ちゃんと幸せな時間を過ごすと思うんですけど、そんなにため息ばっかりついていたらその幸せも逃げちゃいますよ」
 栗鳥院興業の事務所には俺と栗鳥院桔梗しかいなかったはずなのだが、どこからか現れた老婆にも見える事務員がお茶を出しながら俺に話しかけてきた。
「桔梗ちゃんはあれでいてちょっと奥手なところがあるから魔王さんにリードしてもらえればいいんだけどね。魔王さんはそういうの得意そうだし問題はないと思うんだけど、桔梗ちゃんはもうずっと男とそういった関係になってなかったからね。ほら、桔梗ちゃんに近付いてくる男なんてあいつらみたいにみんな支配されたいって思ってる変わったやつなんだよ。桔梗ちゃんも魔王さんほどではないけどそれなりに強いから慕ってくる奴はたくさんいるんだけどさ、その人たちはみんな変質的で盲目的な信仰心を持ってると言ってもいいくらいなんだよ」
 窓の外から聞こえる怒声にも似た掛け声が重なっていて何を言っているのか理解することが出来ないのだけど、かすかに聞き取れるうまなと探せという言葉が俺の力になってくれているという証明になっていた。
「桔梗ちゃんの事をよろしく頼みますよ。それと、そのお茶はちょっといい茶葉を使ってるんでゆっくりと味わってくださいね」
 俺が湯飲みをもってゆっくりとお茶を口に含んで香りを楽しんでいたところで栗鳥院桔梗は息を切らせて栗鳥院興業へと戻ってきたのだ。なぜかその両手は血にまみれているように見えたのだが、あまり深く追及するのはやめておくことにしよう。
「あ、お茶も出さずに出て行ってすいません。でも、よくお茶の置いてる場所がわかりましたね」
「いや、俺がいれたんじゃなくておばあさんみたいな事務員の人が出してくれたんだけど」
「何ですかそれ。うちにはそんな人いないですよ。そもそも、ここってアタシともう一人の若い女の子の二人でやってるところなんですからね。その子はちょっと恥ずかしがりやなんであんたの前には出たくないって言って引きこもっちゃってるんですけど」
「若い女の子って、白髪で事務員みたいな制服を着てるってことはないよね?」
「何言ってるんですか。ここは制服なんてないですよ。しいて言えば、いつでも戦えるように戦闘服は着てるんですけどね。その子もアタシほどではないですけどそこそこ強いんですからね。それに、白髪じゃなくて綺麗な翡翠色の髪をした若い女の子ですよ。あ、若い女の子って聞いてちょっと気になってるみたいですけど、そんなの気にしちゃダメですからね。その子は若いけど結婚してるんですよ」
「いや、別にそこまでは聞いてないんだけど」
 ちょっとだけ不機嫌そうになっている栗鳥院桔梗と二人でお茶を飲むゆったり死とした時間を過ごしていたのだが、さっきの事務員さんがいれてくれたお茶と栗鳥院桔梗がいれてくれたお茶では微妙に味が違うような気がしていた。いれ方の問題なのか茶葉自体が違うのかわからないけれど、ゆっくりと味わえば味わう程最初に飲んでいたお茶の方が深みのある味わいのようにも感じていた。
「どうしたの。あんたさ、アタシのいれたお茶は美味しくないって顔してるよね?」
「そんなことはないよ。これも美味しいとは思うけど、さっき飲んでたお茶と味が違うなって思ってただけだし」
「さっきから何言ってるのかわかんないんだけど。あんたが言ってるおばあさんっていったい誰の事なのさ。そんな人見たことも聞いたこともないんだけど」
 俺もよくわかっていないので話を広げることは出来なかった。なぜかさっき会ったばかりの事務員さんの顔を思い出すことも出来なくなっていたのだ。老婆のようにも見えていたけれど、若い人だったような気もしてきた。その声も老婆というにはハリがあり過ぎるようにも思えたし、お茶を出してくれた時の手が少し震えていたような気もしていた。
 ただ、どうしてもあの事務員さんの事を思い出すことは出来なかったのだけど、あの時飲んだお茶が美味しかったということだけは記憶に残っていたのだった。
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