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第二部
第三話 栗鳥院家の悪い奴 後編
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何の変哲もない雑居ビルの一角に紛れて秘密結社のアジトが存在していた。
「栗鳥院興業って、秘密結社というよりはそっち系の感じがするんだけど」
「そっち系ってどういうことよ。アタシの銃弾を避けることが出来るからってちょっと調子に乗ってない?」
さすがにビルの中では銃を乱射してくることもないだろうが、用心しておくに越したことはない。これから悪の秘密結社のアジトに潜入するということであるし、いつも以上に気合を入れて慎重に行動することにしよう。
「まあ、あんたがいったい何の用でアタシのところに来たのか知らないけど、あんたの話を聞く前にアタシの頼みを聞いてもらいたいんだよね。あんたはそんなに忙しそうじゃないし、アタシの仲間よりも腕が立ちそうだから協力してほしいんだ」
「協力って、何をすればいいんだ?」
「立ち話もなんだし、中に入ってゆっくり話そうよ」
秘密結社のアジト改め栗鳥院興業事務所はとても簡素なつくりになっていた。応接用のソファとテーブルがあるだけで他には何もなく、奥にある事務スペースだと思われる場所は衝立で仕切られていた。
栗鳥院桔梗に勧められるまま腰を下ろした俺はゆっくりと事務所の中を見てみたのだが、特筆すべきものは何もなかった。本当にここが秘密結社のアジトと言っていいのだろうか。今の俺にはそんなことも判断することが出来なかった。
「さっそくで悪いんだけど、魔王であるあなたに頼みたいことがあるのよ。この辺でデカい顔をしている魔物をどうにかしてほしいの。本来ならアタシ自ら出向いてやっちゃってもいいんだけど、今アタシが使ってる銃じゃ傷一つ付けられないんだよね。もう少しお金を貯めて良い銃が買えればいいんだけど、今はあの魔物が邪魔で仕事もろくに出来ないんだよね。あの魔物を倒してくれなんて無理なことは言わない。あんたのその素早さを利用してあの魔物をどこか他の場所へ誘導してもらえたら嬉しいな」
「誘導って、どうやって誘導すればいいんだ?」
「さあ、それがわかればとっくにやってるんだけど。あんたのすばしっこさを利用してどうにか出来ないかと思うんだよね」
「その魔物ってどんな奴なんだ?」
「簡単に説明するとね、頭が七つあってその一つ一つが別の属性を持っていて弱点をカバーしあっているのよ。それだけでも厄介なのに、皮膚が尋常じゃなく固くなっていて物理攻撃も魔法攻撃も効果が薄くなっちゃうのよ。アタシの銃も今療養中の子が使ってる聖剣もほとんどダメージを与えることが出来なかったんだ。そんなわけで、あの魔物は倒すよりも他に移動させることが出来れば勝ちだと思うのよ。ほら、邪魔者を排除するってのにも色々と意味はあると思うし」
この世界で俺の強さがどれくらいなのか確かめるにはちょうど良い相手なのかもしれないな。七種類の属性を持ちそれぞれの弱点をカバーしあっていて、装甲が死ぬほど硬くて物理攻撃も魔法攻撃もほとんど効果がないというのか。今までそんな奴に出会ったことがないのでちょっとだけワクワクしているのであった。
「なあ、その魔物って、移動するだけじゃなくて殺しちゃってもいいんだよな?」
「出来るんならそうしてくれると助かるんだけど、あんたの速さをもってしてもそれは難しいんじゃないかな」
何はともあれ、その魔物に出会わなければ何も始まらない。何も始まらなければ終わらせることなんて出来ないのだ。
栗鳥院興業から出て適当に歩いているとすぐに出会うと言われたのだが、どれだけ歩き回っても噂の魔物に遭遇することはなかった。七つの顔を持つ巨大な魔物ということなので見落としているということはないと思うのだが、どこを見てもそんな奇妙な生き物なんて見つからない。誰かに聞こうにも出歩いている人なんてどこにもいないのでそれも不可能であった。
もしかして、そんな魔物がいるという嘘をついて俺を外に連れ出して始末しようという考えだったりするのだろうか。そうだったとしたら、秘密結社がどんな手を使ってくるのか楽しみだという思いもあったりしたのだ。
だが、待てども暮らせど魔物なんて見つからないし、栗鳥院桔梗も俺を襲ってくる気配すら感じさせてくれなかった。どれだけ探しても見つからない魔物とどんなに待っても襲ってくることがない栗鳥院桔梗。
「心配で見に来たんだけど、あんたはあの魔物に会えたのかな?」
「いや、そんな魔物なんてどこにもいないみたいだな。どこかに隠れるにしたってそんなに大きい部屋なんてあるわけないし、どこに行ったんだろうね」
俺が話している途中にもかかわらず何者かに襲われてしまった。いつでも襲ってきていいというスタンスで無防備に立ち尽くしていたので襲われても仕方ないのだが、せめて丸呑みするのではなく俺の事を殺す勢いで向かってきてほしいと思ってしまった。
人生で初めて経験した体を丸ごと丸呑みされるという行為は思っていたよりも苦しく、息も出来ないくらい酸素が薄く光も届いていないので何も見えない状況になっていた。
さて、魔法も物理も効きにくいんだったらどうすればいいのだろう。今は体内にいる状況なのだから体の内側から攻めてみるのもありなのかもしれない。俺を飲み込んだことを後悔させてやろう。
「栗鳥院興業って、秘密結社というよりはそっち系の感じがするんだけど」
「そっち系ってどういうことよ。アタシの銃弾を避けることが出来るからってちょっと調子に乗ってない?」
さすがにビルの中では銃を乱射してくることもないだろうが、用心しておくに越したことはない。これから悪の秘密結社のアジトに潜入するということであるし、いつも以上に気合を入れて慎重に行動することにしよう。
「まあ、あんたがいったい何の用でアタシのところに来たのか知らないけど、あんたの話を聞く前にアタシの頼みを聞いてもらいたいんだよね。あんたはそんなに忙しそうじゃないし、アタシの仲間よりも腕が立ちそうだから協力してほしいんだ」
「協力って、何をすればいいんだ?」
「立ち話もなんだし、中に入ってゆっくり話そうよ」
秘密結社のアジト改め栗鳥院興業事務所はとても簡素なつくりになっていた。応接用のソファとテーブルがあるだけで他には何もなく、奥にある事務スペースだと思われる場所は衝立で仕切られていた。
栗鳥院桔梗に勧められるまま腰を下ろした俺はゆっくりと事務所の中を見てみたのだが、特筆すべきものは何もなかった。本当にここが秘密結社のアジトと言っていいのだろうか。今の俺にはそんなことも判断することが出来なかった。
「さっそくで悪いんだけど、魔王であるあなたに頼みたいことがあるのよ。この辺でデカい顔をしている魔物をどうにかしてほしいの。本来ならアタシ自ら出向いてやっちゃってもいいんだけど、今アタシが使ってる銃じゃ傷一つ付けられないんだよね。もう少しお金を貯めて良い銃が買えればいいんだけど、今はあの魔物が邪魔で仕事もろくに出来ないんだよね。あの魔物を倒してくれなんて無理なことは言わない。あんたのその素早さを利用してあの魔物をどこか他の場所へ誘導してもらえたら嬉しいな」
「誘導って、どうやって誘導すればいいんだ?」
「さあ、それがわかればとっくにやってるんだけど。あんたのすばしっこさを利用してどうにか出来ないかと思うんだよね」
「その魔物ってどんな奴なんだ?」
「簡単に説明するとね、頭が七つあってその一つ一つが別の属性を持っていて弱点をカバーしあっているのよ。それだけでも厄介なのに、皮膚が尋常じゃなく固くなっていて物理攻撃も魔法攻撃も効果が薄くなっちゃうのよ。アタシの銃も今療養中の子が使ってる聖剣もほとんどダメージを与えることが出来なかったんだ。そんなわけで、あの魔物は倒すよりも他に移動させることが出来れば勝ちだと思うのよ。ほら、邪魔者を排除するってのにも色々と意味はあると思うし」
この世界で俺の強さがどれくらいなのか確かめるにはちょうど良い相手なのかもしれないな。七種類の属性を持ちそれぞれの弱点をカバーしあっていて、装甲が死ぬほど硬くて物理攻撃も魔法攻撃もほとんど効果がないというのか。今までそんな奴に出会ったことがないのでちょっとだけワクワクしているのであった。
「なあ、その魔物って、移動するだけじゃなくて殺しちゃってもいいんだよな?」
「出来るんならそうしてくれると助かるんだけど、あんたの速さをもってしてもそれは難しいんじゃないかな」
何はともあれ、その魔物に出会わなければ何も始まらない。何も始まらなければ終わらせることなんて出来ないのだ。
栗鳥院興業から出て適当に歩いているとすぐに出会うと言われたのだが、どれだけ歩き回っても噂の魔物に遭遇することはなかった。七つの顔を持つ巨大な魔物ということなので見落としているということはないと思うのだが、どこを見てもそんな奇妙な生き物なんて見つからない。誰かに聞こうにも出歩いている人なんてどこにもいないのでそれも不可能であった。
もしかして、そんな魔物がいるという嘘をついて俺を外に連れ出して始末しようという考えだったりするのだろうか。そうだったとしたら、秘密結社がどんな手を使ってくるのか楽しみだという思いもあったりしたのだ。
だが、待てども暮らせど魔物なんて見つからないし、栗鳥院桔梗も俺を襲ってくる気配すら感じさせてくれなかった。どれだけ探しても見つからない魔物とどんなに待っても襲ってくることがない栗鳥院桔梗。
「心配で見に来たんだけど、あんたはあの魔物に会えたのかな?」
「いや、そんな魔物なんてどこにもいないみたいだな。どこかに隠れるにしたってそんなに大きい部屋なんてあるわけないし、どこに行ったんだろうね」
俺が話している途中にもかかわらず何者かに襲われてしまった。いつでも襲ってきていいというスタンスで無防備に立ち尽くしていたので襲われても仕方ないのだが、せめて丸呑みするのではなく俺の事を殺す勢いで向かってきてほしいと思ってしまった。
人生で初めて経験した体を丸ごと丸呑みされるという行為は思っていたよりも苦しく、息も出来ないくらい酸素が薄く光も届いていないので何も見えない状況になっていた。
さて、魔法も物理も効きにくいんだったらどうすればいいのだろう。今は体内にいる状況なのだから体の内側から攻めてみるのもありなのかもしれない。俺を飲み込んだことを後悔させてやろう。
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