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第二部
第四話 栗鳥院家の呪われた姫 ボーナスステージ前編
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闇を祓うには強い光が一番だろうと考えたのだが、魔王である俺が光属性の技など使えるはずもなく闇を受け入れようと身を委ねたのだ。しかし、俺を飲み込もうとした闇は何かを悟ったかのように動きを止めると、ゆっくりと沼の中へと入っていって、そのまま俺の前に姿を現すことはなかったのだ。
「どういうことだ。闇に生きる呪われし影が何もせずに身を引くなどありえないことだ。あなたはいったい何者なんですか?」
「何者かと言われてもな。俺はどこにでもいるようなごく平凡な魔王でしかないんだけどな」
「魔王がどこにでもいてたまるか。それにだ、魔王ごときが闇に生きる呪われし影を退けることなど出来るはずもない。もしや、あなた様はかの大魔王ソト・ウィキクリ・トゥリウス様でしょうか?」
俺はそんな恥ずかしい感じの名前ではないのだが、世の中には変わった名前の魔王もいるものだと思い知らされた。魔王だけではなく知り合いにも変わった恥ずかしい感じの名前の人がいるのだが、そういったことには触れないでおくのが大人というモノだ。
「いや、俺はそんな変な名前の魔王じゃないよ。俺は魔王アスモデウスだ。あんたは知らないかもしれないけど、こう見えてもいくつかの世界を支配しているんだぞ」
「ちょっと待ってください。魔王アスモデウス様と言えば四十八の技を使い六十九の世界を統べると言われるほどの大魔王ですよ。そんな方の名を騙るのはおやめになられた方がよろしいかと思います。闇に生きる呪われし影を力をお持ちだということはわかりましたが、大魔王アスモデウス様のお名前を騙るのは本当にやめた方が身のためだと思いますよ」
俺の技は色々合わせれば四十八以上あると思うけど、六十九の世界を統べるというのはさすがに言い過ぎだと思う。そんなに多くの世界に行ったこともなければ支配地域だってそんなに多くないはずである。もしかしたら、俺の配下の魔物たちや同盟を組んでいる英雄たちが勝手に俺の領土を広げているということもあるんだろうが、さすがに六十九の世界を統べるまでには至っていないだろう。それにしても、その数字の選択には少し悪意を感じてしまうな。
いつの間にか建物からじっと俺を見ていた少年なのか少女なのか見ただけではわからない子供が派手な着物を着た男の後ろに立っていた。肩を叩かれた男は驚いて振り返って子供の言葉を聞いているようなのだが、どんなに聞き耳を立ててもその言葉は俺には聞こえてこなかった。
「申し訳ございませんでした。まさか本当に大魔王アスモデウス様だとは思わなかったものですから、失礼な態度をとってしまいなんとお詫びをすればいいものか」
「別に気にしてないからいいけどさ、なんで急に信じるようになったの?」
俺は当然の質問をした。目の前で行われていたこと察するにあの子供が何か俺に関する情報を伝えたのだとは思うが、ほんの一言二言で俺の事を信じさせたのはどんな言葉だったのだろうか。
「我が主があなた様を大魔王アスモデウス様と感じたからでございます」
「俺を見て俺が魔王アスモデウスだと感じたってことなのか。で、その子供があんたのご主人様って事なんだよね?」
「はい、こちらが我が主、十三代目紐畔亭羊仗様でございます」
とても懐かしい名前を聞いて思ったのだが、確かにこの子供は俺の知っている四代目紐畔亭羊仗に似ているような気がする。顔をはっきりと見たわけではないので子孫なのか血縁者なのかわからないが、どことなく雰囲気は似ているように感じていた。
二人は俺を沼のほとりにある建物まで案内してくれたのだが、近くで見ると思っていたよりも大きい建物だったことに驚かされた。途中で見た物置よりも大きいとは思っていたけれど、せいぜいコンビニくらいの広さだとは思っていた。だが、近付いてみると控えめにってもホームセンターくらいの大きさの建物になっていた。
「あれ、こんなに大きかったっけ?」
「へへん、凄いでしょ。私が開発した呪法の効果でこんなに近づかないと全貌がわからないようになってるんだよ」
十三代目紐畔亭羊仗は誇らしげに小さな胸を張っていた。その小さなふくらみを見る限りでは女の子なのかなとも思うのだが、これくらいの大きさの胸の男の子もいるので断言するにはまだ早いだろう。確信を持てる何かがわかるまで決めつけるのは時期尚早というやつだ。
近付かないとわからないような呪法がいったいどんなものなのか俺にはわからないが、あの町の人たちも俺に指摘されるまでこの存在に気が付かなかったのは呪法のなせる業なのだろうな。
誰にも気づかれないようにしているのにしては色も派手で目立つ外観なのはどうかと思うし、でかでかと掲げられた看板に書かれている文字も隠すつもりがないというのが見て取れる。いや、誰にも気付かれない呪法がかけられているからこそ目立つ色で派手になっていて大きな看板があるともいえるのかもしれないな。
「それにしても、紐畔亭式呪術研究所って事は、呪術を研究してるって事なんだよね?」
「そうだよ。私の何代か前の紐畔亭羊仗が呪術に目覚めてからずっと研究しているんだ。今は全然無理かもしれないけど、いつか魔王アスモデウスさんにもぼくたちの呪いが効くようになるかもしれないんだからね」
科学と呪いなんて相反するものだとは思うのだが、両方を深く知ることで新しい道を見つけることが出来るのかもしれないな。偏った視点からでは見つけられない道も様々な角度から観察することでより良い道が見つかるなんてことがあるのかもしれない。
だが、俺にも効くような呪いを開発するというのは勘弁してほしいと心からそう思うのであった。
「どういうことだ。闇に生きる呪われし影が何もせずに身を引くなどありえないことだ。あなたはいったい何者なんですか?」
「何者かと言われてもな。俺はどこにでもいるようなごく平凡な魔王でしかないんだけどな」
「魔王がどこにでもいてたまるか。それにだ、魔王ごときが闇に生きる呪われし影を退けることなど出来るはずもない。もしや、あなた様はかの大魔王ソト・ウィキクリ・トゥリウス様でしょうか?」
俺はそんな恥ずかしい感じの名前ではないのだが、世の中には変わった名前の魔王もいるものだと思い知らされた。魔王だけではなく知り合いにも変わった恥ずかしい感じの名前の人がいるのだが、そういったことには触れないでおくのが大人というモノだ。
「いや、俺はそんな変な名前の魔王じゃないよ。俺は魔王アスモデウスだ。あんたは知らないかもしれないけど、こう見えてもいくつかの世界を支配しているんだぞ」
「ちょっと待ってください。魔王アスモデウス様と言えば四十八の技を使い六十九の世界を統べると言われるほどの大魔王ですよ。そんな方の名を騙るのはおやめになられた方がよろしいかと思います。闇に生きる呪われし影を力をお持ちだということはわかりましたが、大魔王アスモデウス様のお名前を騙るのは本当にやめた方が身のためだと思いますよ」
俺の技は色々合わせれば四十八以上あると思うけど、六十九の世界を統べるというのはさすがに言い過ぎだと思う。そんなに多くの世界に行ったこともなければ支配地域だってそんなに多くないはずである。もしかしたら、俺の配下の魔物たちや同盟を組んでいる英雄たちが勝手に俺の領土を広げているということもあるんだろうが、さすがに六十九の世界を統べるまでには至っていないだろう。それにしても、その数字の選択には少し悪意を感じてしまうな。
いつの間にか建物からじっと俺を見ていた少年なのか少女なのか見ただけではわからない子供が派手な着物を着た男の後ろに立っていた。肩を叩かれた男は驚いて振り返って子供の言葉を聞いているようなのだが、どんなに聞き耳を立ててもその言葉は俺には聞こえてこなかった。
「申し訳ございませんでした。まさか本当に大魔王アスモデウス様だとは思わなかったものですから、失礼な態度をとってしまいなんとお詫びをすればいいものか」
「別に気にしてないからいいけどさ、なんで急に信じるようになったの?」
俺は当然の質問をした。目の前で行われていたこと察するにあの子供が何か俺に関する情報を伝えたのだとは思うが、ほんの一言二言で俺の事を信じさせたのはどんな言葉だったのだろうか。
「我が主があなた様を大魔王アスモデウス様と感じたからでございます」
「俺を見て俺が魔王アスモデウスだと感じたってことなのか。で、その子供があんたのご主人様って事なんだよね?」
「はい、こちらが我が主、十三代目紐畔亭羊仗様でございます」
とても懐かしい名前を聞いて思ったのだが、確かにこの子供は俺の知っている四代目紐畔亭羊仗に似ているような気がする。顔をはっきりと見たわけではないので子孫なのか血縁者なのかわからないが、どことなく雰囲気は似ているように感じていた。
二人は俺を沼のほとりにある建物まで案内してくれたのだが、近くで見ると思っていたよりも大きい建物だったことに驚かされた。途中で見た物置よりも大きいとは思っていたけれど、せいぜいコンビニくらいの広さだとは思っていた。だが、近付いてみると控えめにってもホームセンターくらいの大きさの建物になっていた。
「あれ、こんなに大きかったっけ?」
「へへん、凄いでしょ。私が開発した呪法の効果でこんなに近づかないと全貌がわからないようになってるんだよ」
十三代目紐畔亭羊仗は誇らしげに小さな胸を張っていた。その小さなふくらみを見る限りでは女の子なのかなとも思うのだが、これくらいの大きさの胸の男の子もいるので断言するにはまだ早いだろう。確信を持てる何かがわかるまで決めつけるのは時期尚早というやつだ。
近付かないとわからないような呪法がいったいどんなものなのか俺にはわからないが、あの町の人たちも俺に指摘されるまでこの存在に気が付かなかったのは呪法のなせる業なのだろうな。
誰にも気づかれないようにしているのにしては色も派手で目立つ外観なのはどうかと思うし、でかでかと掲げられた看板に書かれている文字も隠すつもりがないというのが見て取れる。いや、誰にも気付かれない呪法がかけられているからこそ目立つ色で派手になっていて大きな看板があるともいえるのかもしれないな。
「それにしても、紐畔亭式呪術研究所って事は、呪術を研究してるって事なんだよね?」
「そうだよ。私の何代か前の紐畔亭羊仗が呪術に目覚めてからずっと研究しているんだ。今は全然無理かもしれないけど、いつか魔王アスモデウスさんにもぼくたちの呪いが効くようになるかもしれないんだからね」
科学と呪いなんて相反するものだとは思うのだが、両方を深く知ることで新しい道を見つけることが出来るのかもしれないな。偏った視点からでは見つけられない道も様々な角度から観察することでより良い道が見つかるなんてことがあるのかもしれない。
だが、俺にも効くような呪いを開発するというのは勘弁してほしいと心からそう思うのであった。
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