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第二部
第三話 栗鳥院家の呪われた姫 後編
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呪いを解いてくれと言われたものの、全く手掛かりを持っていない俺は街中で聞き込みをすることにした。そんな簡単に見つかるはずもないという気持ちで始めてしまったこともあって思うように情報は集まらなかったのだが、町はずれにある沼地のほとりに異様な雰囲気を漂わせている怪しい建物があることに気付いてしまった。
「あの建物って何なんでしょうね。私たちも長年この町に住んでますけど、魔王さんに言われるまで気にも留めませんでした。それにしても、あんな建物いつからあったんだろう?」
その後も同じ質問を十人以上の住人にしてみたのだが、誰もあの沼地のほとりにある建物の事を知る者はいなかった。子供も老人も太っているお姉さんも痩せているお兄さんも誰もあの建物の事を知る者など存在しなかった。俺に聞かれて初めて認識したという人ばかりなのであった。
全く気は進まない状況ではあったが、いろんな人からあの建物の正体を調べてほしいと頼まれてしまったので行かないわけにはいかなくなってしまった。なんで俺がこんなことをしなくてはいけないのかと思うのだが、人のいい魔王である俺は頼まれてしまったら嫌と言えないのだから仕方ない。
「ちょっとあなた、そこで何をしているんですか。ここは私有地なんで勝手に入ってもらっては困るのですが」
水辺に沿ってゆっくりと歩いていた俺に急に話しかけてきた男がいた。その男はまるで成人式にでも参加するのではないかと思うような派手な着物を着ていたのだが、その足取りはとても軽快で服装からは想像も出来ないほど身軽なものであった。
「ここにどういったご用件でやってきたのかはわかりませんが、これ以上立ち入るようでしたら然るべきところに相談させていただくことになりますが」
ここで簡単に引き下がることも出来るけれど、これだけ何かを隠しているとなると怪しく感じてしまう。栗鳥院稲穂にかけられている呪いとは無関係だと思っているのに何か関係があるんじゃないかと思ってしまう。それくらいこの男からは怪しいオーラが出ていたのだ。
「どうしても引き返していただけないというんでしたら、こちらも手荒な真似をすることになってしまいますよ。もう一度だけ警告いたします。ここから素直に立ち去っていただくことは出来ないでしょうか。そうしていただけると、こちらも大変助かるのですが」
「そんな風に言われたら立ち去るしかないとは思うんだけど、あの建物っていったい何なんのかくらいは教えてもらえないかな?」
「え、あの建物って何のことですか?」
それまでずっと冷静に受け答えをしていたこの男は俺が建物の事を聞いた瞬間に明らかに動揺していた。どこからどう見ても怪しい建物があるんだからそれについて聞いているだけだというのに、何かやましいことでも隠しているんじゃないかと思うくらいに動揺しているのだ。
「た、建物なんてどこにあるというんですか。全く変なことを言う人だ。あ、もしかしたらアレの事ですかね。私たちがこの辺の植物を保管するために作った物置の事ですね。この沼地に群生している貴重な野草を一時保管するために設置した物置ですよ。そうだそうだ、草を保管するための物置です」
全く気付かないうちに物置らしき小さな小屋が建てられていたのだが、俺が聞いているのはその奥にある普通に人が住めそうな建物の事なんだよな。こんな事で騙されたりなんてしないし、今の一瞬で物置を設置することが出来るというのも怪しいとしか言いようがない。栗鳥院稲穂にかけられている呪いとか関係なしにこの男が何を隠しているのか探ってやろうという気になってしまった。
「俺が言ってるのはその手前にある物置じゃなくて、奥にある普通の家の方ですよ。ほら、二階の窓からこっちを見ている人がいるでしょ。あの家の事ですよ」
「あの家って、私には何のことかさっぱりわからないですね。この辺で野草を採っていることが多い私ですけど、そんな建物があるなんて知らないけどな。何かの見間違いなんじゃないですか?」
俺たちの事を注意深く見ている家の人に向かって軽く手を振ってみたところ、俺と目が合った瞬間にその人はカーテンを閉めて部屋の中が見えないように隠れてしまった。
「ほら、誰かいますよ。今だって俺と目が合った瞬間にカーテンを閉めて隠れちゃったもん」
「ちょっと待ってください。目が合ったってどういうことですか。もしかして、本当にあなたには見えてるって事ですか?」
男は俺の後ろの方へ何か合図を出したのだが、一瞬のうちの俺を囲む人間ではない何かがやってきていた。物音ひとつ立てず呼吸音すら聞こえないほど静かに素早く動くこいつらはこの世のモノではないという印象すら感じていた。
「本当に申し訳ないと思うのですが、私たちの事を恨むのはおやめくださいね。私の忠告を素直に聞いていただければ何事もなく過ごせたと思うんですが、あなたは好奇心が強すぎてしまったみたいだ。好奇心は人を成長させる素晴らしいものだとは思いますが、行き過ぎた好奇心とは時に己の身を亡ぼす劇薬ともなってしまうのですよ。恨むとしたら、その旺盛すぎる自分の好奇心をお恨みください」
俺を取り囲んでいた異形の影は俺の近くまでやってきているはずなのにその顔を確認することは出来なかった。いや、そいつらには顔と呼べるようなものは何もなくそこにあるのは漆黒の闇であった。
「あなたも闇の一部となって永遠にさまようことになるのですが、それはそれで良いものかもしれないですよ。幸せのない世界ですが不幸もないわけですからね」
「あの建物って何なんでしょうね。私たちも長年この町に住んでますけど、魔王さんに言われるまで気にも留めませんでした。それにしても、あんな建物いつからあったんだろう?」
その後も同じ質問を十人以上の住人にしてみたのだが、誰もあの沼地のほとりにある建物の事を知る者はいなかった。子供も老人も太っているお姉さんも痩せているお兄さんも誰もあの建物の事を知る者など存在しなかった。俺に聞かれて初めて認識したという人ばかりなのであった。
全く気は進まない状況ではあったが、いろんな人からあの建物の正体を調べてほしいと頼まれてしまったので行かないわけにはいかなくなってしまった。なんで俺がこんなことをしなくてはいけないのかと思うのだが、人のいい魔王である俺は頼まれてしまったら嫌と言えないのだから仕方ない。
「ちょっとあなた、そこで何をしているんですか。ここは私有地なんで勝手に入ってもらっては困るのですが」
水辺に沿ってゆっくりと歩いていた俺に急に話しかけてきた男がいた。その男はまるで成人式にでも参加するのではないかと思うような派手な着物を着ていたのだが、その足取りはとても軽快で服装からは想像も出来ないほど身軽なものであった。
「ここにどういったご用件でやってきたのかはわかりませんが、これ以上立ち入るようでしたら然るべきところに相談させていただくことになりますが」
ここで簡単に引き下がることも出来るけれど、これだけ何かを隠しているとなると怪しく感じてしまう。栗鳥院稲穂にかけられている呪いとは無関係だと思っているのに何か関係があるんじゃないかと思ってしまう。それくらいこの男からは怪しいオーラが出ていたのだ。
「どうしても引き返していただけないというんでしたら、こちらも手荒な真似をすることになってしまいますよ。もう一度だけ警告いたします。ここから素直に立ち去っていただくことは出来ないでしょうか。そうしていただけると、こちらも大変助かるのですが」
「そんな風に言われたら立ち去るしかないとは思うんだけど、あの建物っていったい何なんのかくらいは教えてもらえないかな?」
「え、あの建物って何のことですか?」
それまでずっと冷静に受け答えをしていたこの男は俺が建物の事を聞いた瞬間に明らかに動揺していた。どこからどう見ても怪しい建物があるんだからそれについて聞いているだけだというのに、何かやましいことでも隠しているんじゃないかと思うくらいに動揺しているのだ。
「た、建物なんてどこにあるというんですか。全く変なことを言う人だ。あ、もしかしたらアレの事ですかね。私たちがこの辺の植物を保管するために作った物置の事ですね。この沼地に群生している貴重な野草を一時保管するために設置した物置ですよ。そうだそうだ、草を保管するための物置です」
全く気付かないうちに物置らしき小さな小屋が建てられていたのだが、俺が聞いているのはその奥にある普通に人が住めそうな建物の事なんだよな。こんな事で騙されたりなんてしないし、今の一瞬で物置を設置することが出来るというのも怪しいとしか言いようがない。栗鳥院稲穂にかけられている呪いとか関係なしにこの男が何を隠しているのか探ってやろうという気になってしまった。
「俺が言ってるのはその手前にある物置じゃなくて、奥にある普通の家の方ですよ。ほら、二階の窓からこっちを見ている人がいるでしょ。あの家の事ですよ」
「あの家って、私には何のことかさっぱりわからないですね。この辺で野草を採っていることが多い私ですけど、そんな建物があるなんて知らないけどな。何かの見間違いなんじゃないですか?」
俺たちの事を注意深く見ている家の人に向かって軽く手を振ってみたところ、俺と目が合った瞬間にその人はカーテンを閉めて部屋の中が見えないように隠れてしまった。
「ほら、誰かいますよ。今だって俺と目が合った瞬間にカーテンを閉めて隠れちゃったもん」
「ちょっと待ってください。目が合ったってどういうことですか。もしかして、本当にあなたには見えてるって事ですか?」
男は俺の後ろの方へ何か合図を出したのだが、一瞬のうちの俺を囲む人間ではない何かがやってきていた。物音ひとつ立てず呼吸音すら聞こえないほど静かに素早く動くこいつらはこの世のモノではないという印象すら感じていた。
「本当に申し訳ないと思うのですが、私たちの事を恨むのはおやめくださいね。私の忠告を素直に聞いていただければ何事もなく過ごせたと思うんですが、あなたは好奇心が強すぎてしまったみたいだ。好奇心は人を成長させる素晴らしいものだとは思いますが、行き過ぎた好奇心とは時に己の身を亡ぼす劇薬ともなってしまうのですよ。恨むとしたら、その旺盛すぎる自分の好奇心をお恨みください」
俺を取り囲んでいた異形の影は俺の近くまでやってきているはずなのにその顔を確認することは出来なかった。いや、そいつらには顔と呼べるようなものは何もなくそこにあるのは漆黒の闇であった。
「あなたも闇の一部となって永遠にさまようことになるのですが、それはそれで良いものかもしれないですよ。幸せのない世界ですが不幸もないわけですからね」
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