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第二部

第七話 栗鳥院家の侍 シークレットステージ

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 入り口に手をかけようとしたところ、小屋の中から何かを動かすような音が聞こえてきた。その音は少しずつ入り口から離れてはいるのだが、何をやっているのか全く分からなかった。
 鍵はかかっていないので扉自体は開くのだが、何かがつかえているのか扉は指二本分くらいしか開かない。やっとできた隙間から部屋の中を覗こうとすると、タンスや調理器具だけではなく農耕器具や誰かが使っていたと思われる壊れかけた甲冑が乱雑に積み重ねられていてバリケードのようになっていた。
 このままでは中に入ることもままならないなと考えてみたのだが、隙間から覗ける範囲には動かせそうなものはなかったのであきらめて壁でも壊して侵入してやろうかと思ってみた。
 そのまま小屋の周りをまわってみて入れそうな場所がないか確認してみたところ、台所に勝手口があることに気が付いた。まさかここもバリケードで開かないようになってるんじゃないだろうなと思ってドアノブをゆっくりと回してみたところ、何の抵抗もなく普通に開いてしまったので俺はそのまま小屋の中へと侵入することに成功したのだ。
 ざっと見まわしてみると台所には調理器具一つなく生活感が全くないのだが、本来ここにあったものはすべて玄関に無造作に置かれているのだから仕方ない。なぜこんなことになっているのだろうと思っていたところ、一生懸命にバリケードを増強している栗鳥院藻琴の姿が目に入ってきた。
「本当に村長さんも困った人です。私が今よりももっと強くなるために、魔王アスモデウスさんにだ、抱かれてこいとか言うなんて。そりゃ、初めて会った時からそうなるんじゃないかなって予感はありましたけど、そういうのって人に言われたからってするもんじゃないですよね。誰かに言われてするようなもんじゃないと思いますし、ましてや私は初めての経験になるわけですから、もっと時間をかけてゆっくりとお互い知り合ってからでも遅くないと思うんですよね。むしろ、その方が自然な流れでエッチをするってことになると思うんですよ。だけど、魔王アスモデウスさんは忙しい方だって聞いてますし、そんな私の都合に合わせてもらうなんて出来ないですよね。でも、魔王アスモデウスさんって噂で聞いてたよりもずっと優しい人だったし、そんなわがままも聞いてくれるかもしれないですよね。だからこそ、出会ったその日にいきなり抱かれてこいってのはおかしいと思うんですよ。私だって魔王アスモデウスさんの事を嫌いなわけじゃないから問題はないとは思うんですけど、さすがに出会ったその日ってのは違いますよね」
 自分から進んで抱かれに来てるのではないとは思っていたけど、村長が強引にそうさせたということなのかな。俺が抱いたからと言って栗鳥院藻琴が強くなるという事もないのだが、今までしたことのない経験を積むことで世界が広がるということなら辛うじて意味も分かるというモノだ。いや、それもおかしいか。
「橋を越えて移動できるのが私しかいないってこともあるけど、みんなだって本当は強いはずなのにな。村長だっておじさんたちだって私よりもずっとずっと強いのに何で橋から離れることが出来ないんだろうね。その呪いを魔王アスモデウスさんに解いてもらえば私一人で戦わなくてもいいような気がするんだけどな。抱かれる前に魔王アスモデウスさんにそのことを相談してみようかな。案外、魔王アスモデウスさんは親身になって力を貸してくれるかもしれないよね。でも、中に入ってこれないようにしちゃったから今日は無理かもね。明日の朝になったら玄関も片付けてみんなに謝ってみようかな。私もだ、抱かれてみたいとは思うけど、さすがにまだ早いって思うんだ。ちゃんと話したらみんなも理解してくれるとは思うし、私のわがままも聞いてもらわないと、え?」
 俺は隠れるつもりなんてさらさらなかったので台所で栗鳥院藻琴の独り言をずっと聞いていたのだ。あとで気付いたことなのだけど、独り言を言っているときに誰かが近くにいたことに気付いた瞬間というのは物凄く恥ずかしい気持ちになってしまうのだから、気を使って隠れるなり今来た風を装うべきだったのではないかと思う。ただ、この時の俺はそんな配慮をするなんて毛の先ほども考えてはいなかったのだ。
「な、なななん、なんでここに入ってるんですか?」
「何でって、台所の勝手口が開いてたからそこから入ってきたんだけど」
「ちょっと待ってください。なんで開いてるんですか。そんなのおかしいでしょ。ずっとだれも使ってないこの小屋の戸締りはどうなってるんですか。私はそこの鍵を開けた覚えなんてないんですけど」
「それはそうだろうね。そこの勝手口って鍵がついてないからね。玄関だって鍵がついてないように見えたし、ここってそもそも鍵が無いんじゃないかな。ほら、窓にだって鍵はついてないみたいだよ」
「そんな不用心なわけないじゃないですか。どんだけこの小屋の持ち主は防犯意識が低いんですか。そんなのありえないですよ」
 俺は栗鳥院藻琴と一緒にこの小屋の中を確認してみたのだが、玄関も勝手口も窓もお風呂も鍵らしいものは見当たらなかった。そんな中でもなぜかトイレにだけは鍵がついていたのだが、その理由は俺にもわからなかった。
「なんでこの家は鍵がトイレにしかついてないんですか。絶対にもっと鍵を付けるべきだし、人を信用しすぎですよ。もう、玄関に作ったバリケードのおかげで玄関からは入れなくなってるのはいいんですけど、それ以外の場所は窓も扉も全部簡単に開いて人が出入りすることが出来るって事じゃないですか。もしかして、私が魔王アスモデウスさんに抵抗して中にはいてこれないようにバリケードを設置することを予見して鍵を突けなかったということなのではないでしょうか。さすが村長は先を読む力に長けていますね」
 そういうことでもないと思うんだけど、俺はそのことは口に出さなかった。
「あの、見ての通りこの家にあったベッドも布団も何もかもバリケードとして使っちゃいました。なので、今日はその、私の事を、魔王アスモデウスさんが、抱くとかそういうことは出来ないんじゃないかなって思うんですけど、そういうわけにもいかないですよね?」
「俺は別にそれでもかまわないよ。村長には君を抱いて強くしてくれとしか言われてないからな。文字通り抱きしめて寝るだけでもいいんじゃないかなって思うよ。それで君が強くなるのかは知らんけどさ、昨日よりは強くなってるのは確実だと思うし、村長の頼み事も聞いてるってことになるんじゃないかな。ならないかな」
 俺は栗鳥院藻琴を抱きたいか抱きたくないかで言うと、抱いてみたいとは思う。ただ、こんなに小さい少女を抱くことに対しての抵抗感は物凄いのだ。俺がもともと暮らしていた世界では完全にアウトな年齢だとは思うけど、この世界ではそういった法も無ければ人としてのモラル云々の話もないだろう。俺が色欲大魔王と言われているのは周知の事実なので問題もないと思うけど、それでも俺の中での倫理観が最後の一押しを思いとどまらせているのだ。
 それに、相手に合わせて変化する俺のモノが、確実にいつものような逞しさを露呈していないというのも俺を思いとどまらせている要因の一つではあるのだ。さすがにいつものように隆々としたモノでは栗鳥院藻琴を壊してしまうとは思うけど、それなりの大きさというモノがあるべきだとは思う。
「魔王さんってやっぱり私が思ってた通り、いや、思っていた以上に優しいんですね。今日はお父さんに甘えるみたいに抱き着いてもいいですか?」
 俺はその質問に対して無言でうなずくと、両手を広げて栗鳥院藻琴を抱きしめたのだ。
 俺の手で抱かれる少女はとても幸せそうな顔を俺に向けてくれているのであった。
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