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第二部
第五話 栗鳥院家の占い師 ボーナスステージ中編
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とりあえず靴を脱いで俺は部屋の中へと入っていったのだが、相変わらず栗鳥院蘭島は布団から顔以外を出すつもりはないようだった。
顔や髪を見る限りではちゃんと清潔にしているようなのだが、風呂トイレはおろかキッチンもないようなこの場所でどうやって生活をしているのだろうか。食べ物も飲み物も見当たらないのに、なぜか生活感はあるこの部屋が不思議に思えてきた。
「あの、ここに来た目的って何ですか?」
「目的って言われてもな。うまなちゃんがどこにいるのか知ってるんじゃないかって思ってそれを聞きに来た。って事かな。君はうまなちゃんがどこにいるのか知っていたりするのかな?」
「正確な場所は私も知らないですけど。知っていても教えるわけないですよね。教えたら私がひどい目に遭いそうだし」
「ひどい目になんて合わないと思うけど。こう見えても俺は紳士だからさ、悪いようにはしないよ」
「え、紳士だったら招き入れてない部屋に勝手に入ってきたりしないと思うんですけど。あなたのやってることって紳士的ではないと思いますよ」
正論で返されると何も言い返せないのだということを俺は初めて理解した。何か別の理屈をつけて言い返そうとしても、それは俺が紳士的ではないという事を証明するだけになってしまうだろう。とにかく、俺はこの話題を深堀される前に話題を変えることにした。
「ずっとそうやって布団の中に入って過ごしているの?」
「別にそういうわけじゃないですよ。一人でいるときは普通に過ごしてますし」
「じゃあ、今も布団から出てきて普通に過ごしていいのに。別に何かするわけじゃないから俺の事は気にしなくていいよ」
「それってあなたの言う言葉じゃないですよね。私はあなた、って言うか誰かがいると嫌なんでこうして布団に入って過ごすことにしてるんです。だから、私の事なんて気にしなくていいですから。目的も達成できないってわかったんだったらもう帰ってもいいと思いますよ。ほら、ここで時間を無駄に過ごすよりも他の人に聞きに行った方がいいと思いますから」
相変わらず顔しか見えない状況が気になるのだが、無理やり布団をはいでしまったらただでさえとられている距離がより離れてしまうだろう。どうにかして布団をめくることが出来ないかと思っているのだが、俺には何もいいアイデアが浮かぶことはなかった。
「この部屋ってさ、何もないけど普段何して過ごしているの?」
「別に何もしてないですよ。しいて言えば、漫画を読んだり映画を見たいですかね。お姉ちゃんが差し入れをしてくれるんでそれを楽しんでます」
「へえ、君にお姉ちゃんがいるんだ。そのお姉ちゃんって今日も差し入れしに来るの?」
「今日は来ないと思いますよ。お姉ちゃんは人見知りが激しいから知らない人がいると緊張して何もできなくなっちゃうんで、それを避けるためにも知らない人がいるところには来ないようにしてます」
「でも、君のお姉ちゃんは俺がここにいることを知らないんじゃないかな。知らないんだったらついフラッときちゃうかもしれないでしょ」
「それはないですね。お姉ちゃんは知らない人がいる場所がわかるであなたがここにいるのもわかってるはずですよ。だから、あなたがここにいる間はお姉ちゃんがやってくることはないと思います」
「それって、俺がここにいる間は君に差し入れをしに来る人がいないってことになるんだよね。差し入れってさ、食べ物とかも差し入れてもらってるの?」
「当り前じゃないですか。この部屋で料理とか無理に決まってるでしょ。そんなことも見てわからないとか頭悪いんですか。ひどい魔王だって噂は聞いてましたけど、頭がひどい方だとは思いませんでした」
割とひどい言われようだとは思うけど、俺はそんなことに対してもいちいち反論などすることはなかった。反論したところでこの女を説得できるわけでもないし、少しでもうまなちゃんの居場所を知る手がかりを得る方法がないか探すことの方が大事なのだ。
絶対に俺がうまなちゃんを探すよりもイザーちゃんがうまなちゃんを探した方が早いと思うんだが、それを言ってしまってもイザーちゃんは軽くかわしておしまいなんだろうな。
「君は料理とかできなさそうだもんね。でも、ここってワンルームで玄関しかないみたいだけど、風呂とかトイレってどうしてるの?」
「そんなの別に言う必要ないじゃないですか。トイレに行きたいんだったらさっさと出て行ってくれていいんですよ」
「あ、それは大丈夫。俺は魔王になったときにそういった生理現象はある程度自由に抑えることが出来るようになったからね。ほら、中には一週間くらいぶっ続けで戦うこともあるわけだしさ、そんなときにちょっとトイレに行きたいとか言ったらお互いにさめちゃうでしょ。そうならないように魔王の特性としてそんな能力も備わっちゃってるんだ。あ、もしかして、君はトイレに行きたいって事なのかな?」
「そ、そんなわけないじゃないですか。私は別にトイレに行きたいって思ってないですし。いいからもう帰ってくださいよ」
顔を真っ赤にして起こっている姿を見ると、本当は今すぐにでもトイレに行きたいんだろうなってのがわかっていた。
わかってはいたけれど、ちょっとだけ意地悪したい気持ちが俺の中で生まれてしまい、ちょっとだけ離れて様子を見守ることにした。
「トイレに行きたいんだったら行ってきていいよ。俺はここで待ってるからさ」
「そこにあなたがいたら布団から出られないんですよ。いいから今すぐ出てってください」
「全裸で寝てるってわけでもないんでしょ。寝間着姿だってのはチラッと見たからわかってるし、そんなに気にする必要もないんだけどな」
「いいから、今すぐ出てってください。お願いだから、出て行ってくださいよ」
泣きそうな顔というよりも泣く寸前の顔で目からは大粒の涙がこぼれ落ちそうになっていた。さすがにそんな風に言われると俺も居座るわけにはいかず、そっと部屋を出ようと思ったのだが脱いだ靴を履くのに手間取ってしまい外に出るまで少し時間がかかってしまった。
俺が部屋から出たと同時に引き戸が閉まって家の下から浮き輪のようなものが膨らんできて家を持ち上げていた。本当にホバークラフトみたいだなと思いながら見ていたのだが、そのまま壁際に移動すると塀の一部が開いて小屋を丸ごと収納していた。
あそこに水回りが集約されているんだろうなと思いながら見ていたのだけど、十分経っても二十分経っても小屋が動くことはなかったのだった。
顔や髪を見る限りではちゃんと清潔にしているようなのだが、風呂トイレはおろかキッチンもないようなこの場所でどうやって生活をしているのだろうか。食べ物も飲み物も見当たらないのに、なぜか生活感はあるこの部屋が不思議に思えてきた。
「あの、ここに来た目的って何ですか?」
「目的って言われてもな。うまなちゃんがどこにいるのか知ってるんじゃないかって思ってそれを聞きに来た。って事かな。君はうまなちゃんがどこにいるのか知っていたりするのかな?」
「正確な場所は私も知らないですけど。知っていても教えるわけないですよね。教えたら私がひどい目に遭いそうだし」
「ひどい目になんて合わないと思うけど。こう見えても俺は紳士だからさ、悪いようにはしないよ」
「え、紳士だったら招き入れてない部屋に勝手に入ってきたりしないと思うんですけど。あなたのやってることって紳士的ではないと思いますよ」
正論で返されると何も言い返せないのだということを俺は初めて理解した。何か別の理屈をつけて言い返そうとしても、それは俺が紳士的ではないという事を証明するだけになってしまうだろう。とにかく、俺はこの話題を深堀される前に話題を変えることにした。
「ずっとそうやって布団の中に入って過ごしているの?」
「別にそういうわけじゃないですよ。一人でいるときは普通に過ごしてますし」
「じゃあ、今も布団から出てきて普通に過ごしていいのに。別に何かするわけじゃないから俺の事は気にしなくていいよ」
「それってあなたの言う言葉じゃないですよね。私はあなた、って言うか誰かがいると嫌なんでこうして布団に入って過ごすことにしてるんです。だから、私の事なんて気にしなくていいですから。目的も達成できないってわかったんだったらもう帰ってもいいと思いますよ。ほら、ここで時間を無駄に過ごすよりも他の人に聞きに行った方がいいと思いますから」
相変わらず顔しか見えない状況が気になるのだが、無理やり布団をはいでしまったらただでさえとられている距離がより離れてしまうだろう。どうにかして布団をめくることが出来ないかと思っているのだが、俺には何もいいアイデアが浮かぶことはなかった。
「この部屋ってさ、何もないけど普段何して過ごしているの?」
「別に何もしてないですよ。しいて言えば、漫画を読んだり映画を見たいですかね。お姉ちゃんが差し入れをしてくれるんでそれを楽しんでます」
「へえ、君にお姉ちゃんがいるんだ。そのお姉ちゃんって今日も差し入れしに来るの?」
「今日は来ないと思いますよ。お姉ちゃんは人見知りが激しいから知らない人がいると緊張して何もできなくなっちゃうんで、それを避けるためにも知らない人がいるところには来ないようにしてます」
「でも、君のお姉ちゃんは俺がここにいることを知らないんじゃないかな。知らないんだったらついフラッときちゃうかもしれないでしょ」
「それはないですね。お姉ちゃんは知らない人がいる場所がわかるであなたがここにいるのもわかってるはずですよ。だから、あなたがここにいる間はお姉ちゃんがやってくることはないと思います」
「それって、俺がここにいる間は君に差し入れをしに来る人がいないってことになるんだよね。差し入れってさ、食べ物とかも差し入れてもらってるの?」
「当り前じゃないですか。この部屋で料理とか無理に決まってるでしょ。そんなことも見てわからないとか頭悪いんですか。ひどい魔王だって噂は聞いてましたけど、頭がひどい方だとは思いませんでした」
割とひどい言われようだとは思うけど、俺はそんなことに対してもいちいち反論などすることはなかった。反論したところでこの女を説得できるわけでもないし、少しでもうまなちゃんの居場所を知る手がかりを得る方法がないか探すことの方が大事なのだ。
絶対に俺がうまなちゃんを探すよりもイザーちゃんがうまなちゃんを探した方が早いと思うんだが、それを言ってしまってもイザーちゃんは軽くかわしておしまいなんだろうな。
「君は料理とかできなさそうだもんね。でも、ここってワンルームで玄関しかないみたいだけど、風呂とかトイレってどうしてるの?」
「そんなの別に言う必要ないじゃないですか。トイレに行きたいんだったらさっさと出て行ってくれていいんですよ」
「あ、それは大丈夫。俺は魔王になったときにそういった生理現象はある程度自由に抑えることが出来るようになったからね。ほら、中には一週間くらいぶっ続けで戦うこともあるわけだしさ、そんなときにちょっとトイレに行きたいとか言ったらお互いにさめちゃうでしょ。そうならないように魔王の特性としてそんな能力も備わっちゃってるんだ。あ、もしかして、君はトイレに行きたいって事なのかな?」
「そ、そんなわけないじゃないですか。私は別にトイレに行きたいって思ってないですし。いいからもう帰ってくださいよ」
顔を真っ赤にして起こっている姿を見ると、本当は今すぐにでもトイレに行きたいんだろうなってのがわかっていた。
わかってはいたけれど、ちょっとだけ意地悪したい気持ちが俺の中で生まれてしまい、ちょっとだけ離れて様子を見守ることにした。
「トイレに行きたいんだったら行ってきていいよ。俺はここで待ってるからさ」
「そこにあなたがいたら布団から出られないんですよ。いいから今すぐ出てってください」
「全裸で寝てるってわけでもないんでしょ。寝間着姿だってのはチラッと見たからわかってるし、そんなに気にする必要もないんだけどな」
「いいから、今すぐ出てってください。お願いだから、出て行ってくださいよ」
泣きそうな顔というよりも泣く寸前の顔で目からは大粒の涙がこぼれ落ちそうになっていた。さすがにそんな風に言われると俺も居座るわけにはいかず、そっと部屋を出ようと思ったのだが脱いだ靴を履くのに手間取ってしまい外に出るまで少し時間がかかってしまった。
俺が部屋から出たと同時に引き戸が閉まって家の下から浮き輪のようなものが膨らんできて家を持ち上げていた。本当にホバークラフトみたいだなと思いながら見ていたのだが、そのまま壁際に移動すると塀の一部が開いて小屋を丸ごと収納していた。
あそこに水回りが集約されているんだろうなと思いながら見ていたのだけど、十分経っても二十分経っても小屋が動くことはなかったのだった。
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