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第二部
第五話 天才科学者とお姉さん ボーナスステージ中編
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カルナは俺の事をずっと話さないようにしている。ちょっと飲み物を取りに行こうと思っても俺の背中に張り付いたまま離れようとはしなかった。それなのに、肌と肌が触れ合うという事だけは避けているようで、その理由が俺にはさっぱりわからないのであった。
それも何かの作戦なのかと勘繰っていたのだけれど、何か裏があるというわけではなく単純に恥ずかしがっているというだけの話だったようだ。手を握るのは平気で俺の事を舐めるのも平気みたいなのに、肌と肌が触れ合う事だけはかたくなに避けたいようだった。
「カルナは俺に触られるのって嫌なのかな?」
「嫌じゃ、ないです」
ちょっと困った感じでそう答えたカルナではあった。その言葉が本心なのかはわからないけれど、迷っているという事だけは伝わってきた。俺の体に触れたいし俺に体を触られたいと思っているのだろう。そんな印象を受けたのだ。
俺はこう見えても魔王の中でも優しい方だと思うので、カルナが嫌がるのであれば無理やり肌に触れたりなんてしない。相手の嫌がることを進んでやるのが魔王として正しい道なのだと言われるのかもしれないが、俺は女性に対してだけは誠実でありたいと思っている。こんなことを何度もしている俺が誠実なのかといわれると答えに困ってしまうのだが、少なくとも俺は嫌がるようなことは無理やりしたいとは思わない。
「あの、服の上から触られるのも、恥ずかしいんですけど」
「肌と肌は触れていないから大丈夫だよ。これくらい普通だから気にしなくていいんだって」
「え、普通って違いますよね。普通はそんなに触ったりしないと思うんですけど。アスモさんってなんだか、触り方もいやらしい感じがするんですよ。それって普通じゃないですよね?」
「ぜんぜん普通だよ。これくらいは日常的に行われることだと思うけどね。ほら、朝のあいさつ代わりにおしりを触ったりしてるでしょ?」
「そんなことしないですよ。そんなの昭和で終わってる話ですって。今の世界にそんな挨拶する人なんていないですよ」
「昭和?」
遠い昔の記憶をたどると、異世界に飛ばされる前に暮らしていた一番最初の世界で聞いたことがある言葉だ。確か、平成の前の年号だったと思う。昭和平成令和と年号が変わっていったと思うのだが、カルナは昭和からこの世界に飛んできたという事なのだろうか。
「今、昭和って言ったよね?」
「言いましたけど、それがどうかしたんですか?」
「それがどうかしたって、カルナは昭和からやってきた日本人って事なの?」
「何言ってるんですか、そんなわけないですよ。私はこの国で生まれてこの国で育ってますからね。私が日本人なわけないじゃないですか」
「でも、それじゃあなんで昭和なんて知ってるんだよ。日本人じゃないにしても俺が最初に暮らしていた世界に関わりがあるって事なんじゃないのか?」
「私自身は関わりなんてないですよ。羊仗先生から聞いただけですし。あ、羊仗先生もこの世界の生まれで日本人とかじゃないですから。確か、羊仗先生が数十年前に会った研究者の人が日本人だったって聞いてますよ。その人のおかげで羊仗先生は今の地位を手に入れたといっても過言ではないですからね。私はその人に会ったことがないんでどんな人なのか知りませんけど、羊仗先生よりも博識な方だったみたいですよ」
日本の事を久しぶりに思い出したのがいい事なのかわからないが、昭和という言葉を聞いてひどく懐かしい気分にはなっていた。実際は昭和なんて話でしか聞いたことがない世界ではあるのだけれど、俺が知っていることをこの世界の人も知っていたという事実が俺の気持ちを少しだけ高ぶらせていた。
「昭和の時代にはおしりを触る挨拶があったのを知ってるって事はさ、それ以外の事も何か知ってるって事なのかな?」
「知っているというか、知識として覚えてるだけですね。その日本人の方が残していってくれた昭和の漫画にそういった話がたくさん出てきてましたからね。文字を解読するのは大変でしたけど、それも羊仗先生と私たちで頑張って翻訳したんですよ。アスモさんが気になるなら後で見に行ってみますか?」
「ああ、すごく気になるよ。俺が知ってる漫画があるとは思えないけど、興味はあるからね」
「それは良かったです。この世界の文字と向こうの世界の文字が分かるアスモさんに私たちの翻訳が正しいのか見比べてもらいたいって思いました。きっと羊仗先生も正しい答えを知りたいって思ってるはずですからね」
この世界の文字も俺が知っている日本語もすべて完璧に理解しているというわけではないけれど、カルナ達よりはマシだろう。異世界の文字や数字は割と元の世界に似ている部分があるのでそこまで大きくずれていることなんてないと思う。だが、細かいニュアンスなんかは違ったりするかもしれないな。日本語にはそういうわかりにくいあいまいな表現が多かったりするから仕方ないとは思う。
それにしても、さっきまでよりも嬉しそうにしているカルナは俺の耳をずっと触っているのだ。
何がそんなに楽しいのだろうと思いながら俺もカルナの耳を触ってみたところ、思いのほか気持ち良くて楽しいと思えてしまった。
何がそんな気分にさせたのかわからないけれど、楽しいと思えてしまっていたのだった。
それも何かの作戦なのかと勘繰っていたのだけれど、何か裏があるというわけではなく単純に恥ずかしがっているというだけの話だったようだ。手を握るのは平気で俺の事を舐めるのも平気みたいなのに、肌と肌が触れ合う事だけはかたくなに避けたいようだった。
「カルナは俺に触られるのって嫌なのかな?」
「嫌じゃ、ないです」
ちょっと困った感じでそう答えたカルナではあった。その言葉が本心なのかはわからないけれど、迷っているという事だけは伝わってきた。俺の体に触れたいし俺に体を触られたいと思っているのだろう。そんな印象を受けたのだ。
俺はこう見えても魔王の中でも優しい方だと思うので、カルナが嫌がるのであれば無理やり肌に触れたりなんてしない。相手の嫌がることを進んでやるのが魔王として正しい道なのだと言われるのかもしれないが、俺は女性に対してだけは誠実でありたいと思っている。こんなことを何度もしている俺が誠実なのかといわれると答えに困ってしまうのだが、少なくとも俺は嫌がるようなことは無理やりしたいとは思わない。
「あの、服の上から触られるのも、恥ずかしいんですけど」
「肌と肌は触れていないから大丈夫だよ。これくらい普通だから気にしなくていいんだって」
「え、普通って違いますよね。普通はそんなに触ったりしないと思うんですけど。アスモさんってなんだか、触り方もいやらしい感じがするんですよ。それって普通じゃないですよね?」
「ぜんぜん普通だよ。これくらいは日常的に行われることだと思うけどね。ほら、朝のあいさつ代わりにおしりを触ったりしてるでしょ?」
「そんなことしないですよ。そんなの昭和で終わってる話ですって。今の世界にそんな挨拶する人なんていないですよ」
「昭和?」
遠い昔の記憶をたどると、異世界に飛ばされる前に暮らしていた一番最初の世界で聞いたことがある言葉だ。確か、平成の前の年号だったと思う。昭和平成令和と年号が変わっていったと思うのだが、カルナは昭和からこの世界に飛んできたという事なのだろうか。
「今、昭和って言ったよね?」
「言いましたけど、それがどうかしたんですか?」
「それがどうかしたって、カルナは昭和からやってきた日本人って事なの?」
「何言ってるんですか、そんなわけないですよ。私はこの国で生まれてこの国で育ってますからね。私が日本人なわけないじゃないですか」
「でも、それじゃあなんで昭和なんて知ってるんだよ。日本人じゃないにしても俺が最初に暮らしていた世界に関わりがあるって事なんじゃないのか?」
「私自身は関わりなんてないですよ。羊仗先生から聞いただけですし。あ、羊仗先生もこの世界の生まれで日本人とかじゃないですから。確か、羊仗先生が数十年前に会った研究者の人が日本人だったって聞いてますよ。その人のおかげで羊仗先生は今の地位を手に入れたといっても過言ではないですからね。私はその人に会ったことがないんでどんな人なのか知りませんけど、羊仗先生よりも博識な方だったみたいですよ」
日本の事を久しぶりに思い出したのがいい事なのかわからないが、昭和という言葉を聞いてひどく懐かしい気分にはなっていた。実際は昭和なんて話でしか聞いたことがない世界ではあるのだけれど、俺が知っていることをこの世界の人も知っていたという事実が俺の気持ちを少しだけ高ぶらせていた。
「昭和の時代にはおしりを触る挨拶があったのを知ってるって事はさ、それ以外の事も何か知ってるって事なのかな?」
「知っているというか、知識として覚えてるだけですね。その日本人の方が残していってくれた昭和の漫画にそういった話がたくさん出てきてましたからね。文字を解読するのは大変でしたけど、それも羊仗先生と私たちで頑張って翻訳したんですよ。アスモさんが気になるなら後で見に行ってみますか?」
「ああ、すごく気になるよ。俺が知ってる漫画があるとは思えないけど、興味はあるからね」
「それは良かったです。この世界の文字と向こうの世界の文字が分かるアスモさんに私たちの翻訳が正しいのか見比べてもらいたいって思いました。きっと羊仗先生も正しい答えを知りたいって思ってるはずですからね」
この世界の文字も俺が知っている日本語もすべて完璧に理解しているというわけではないけれど、カルナ達よりはマシだろう。異世界の文字や数字は割と元の世界に似ている部分があるのでそこまで大きくずれていることなんてないと思う。だが、細かいニュアンスなんかは違ったりするかもしれないな。日本語にはそういうわかりにくいあいまいな表現が多かったりするから仕方ないとは思う。
それにしても、さっきまでよりも嬉しそうにしているカルナは俺の耳をずっと触っているのだ。
何がそんなに楽しいのだろうと思いながら俺もカルナの耳を触ってみたところ、思いのほか気持ち良くて楽しいと思えてしまった。
何がそんな気分にさせたのかわからないけれど、楽しいと思えてしまっていたのだった。
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