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第二部

第一話 天才科学者とお姉さん 前編

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 俺をこの世界に飛ばした張本人なので急に現れることもあるとは思うのだが、トイレから戻ってきたタイミングで部屋の中で待っているのは無しなのではないかと思う。それも、当たり前のように俺が食べようとしていたお菓子を勝手に食べているのも良くないと思う。
「この世界はどうかな。アスモ君は楽しめてるかい?」
「戦うことのない世界なんでそこだけは退屈ですけど、おおむね楽しんでると思いますよ。ここは飲み物も食べ物もおいしいですし」
「そうか。それはよかったよ。楽しんでもらえたんだったらこの世界を創ってもらった甲斐があったというものだ。な、イザーもそう思うだろ?」
「そうだね。うまなちゃんの暇潰しになればいいなって思ってた程度の世界だけどさ、この世界もいろいろと楽しい事があるみたいだから私も楽しめてるんだよね。それに、こうしておいしいモノもたくさん食べることが出来るし、平和な世界っていいよね。争いごとが起きていないからちゃんとしたものを食べることが出来るってのは、とてもいいことだと思うよ」
「アスモ君の世界もほとんど争いがなくて第一次産業が異常に発展してるから美味しいものが多かったんだけど、うま味という点ではこの世界の方が上かもしれないわ。だって、この世界はアスモ君の世界と違ってそこまで産業が発展はしていないけど、その分科学分野が異常に発展してるからね。その一環なのか、この世界ではオーガニックな化学調味料が充実しているのよね。なんにでも合う恐ろしい調味料があるんだけど、それって私たちのところでも作れないのかしら?」
「無理だと思うよ。この世界にしかない材料を使って作ってるみたいだからね。私たちの世界にそれを持って行ったとしても、すぐになくなっちゃうと思うからな。残念だけどその夢は叶わないと思うよ」
「じゃあ、あれを作った科学者を連れて行って私たちの世界にふさわしい調味料を作ってもらいましょう。そっちん方が早いような気がしてきた」
「あれを作ったのは初代紐畔亭羊仗で二代目三代目と改良を重ねた結果、四代目紐畔亭羊仗になってようやく一般流通するようになったらしいからね。オリジナル液にこの世界の薬草とこの世界にいる動物とこの世界でとれる魚が必要みたいだからね。どれも私たちの世界には存在していないんだよ。四代目紐畔亭羊仗なら代替品を見つけることが出来ると思うけど、私たちの世界に行きたいなんて言わないんじゃないかな」
 紐畔亭羊仗が四代目であるという情報は初耳だったのだけど、今まであった人は誰もあいつのことを四代目なんて呼んでいなかったと思う。本人がそう言われるのを嫌っているのかもしれないので迂闊に聞くことも出来ないな。
 それと、うまなちゃんやイザーちゃんが言っている通りで、この世界で食べるものはどれをとっても美味いのである。なんでそんなに美味いのだろうとかが得てみたところ、素材がいいのは当然として味付けを決めている調味料が美味いのではないかという結論に至っていた。
「そうそう、大事なことを伝えるのを忘れるところだったよ。四代目紐畔亭羊仗からアスモ君あてに伝言を預かっているので君に伝えるね」
『博士は別に魔王アスモにビビって逃げたんじゃないからな。三賛斎青海青梅がいれば一人で十分だと思ったから博士は家で研究を進めることにしただけだからな。博士はお前みたいな本物の魔王にビビったりなんてしないのだ。だから、博士は三賛斎青海青梅がお前みたいな本物の魔王にまけたなんて思ってないからな。その点はちゃんと理解してほしい話なのだ。次はこのうまなちゃんさんとイザーちゃんさんに教わった通りの女を用意してお前に勝ってやるから覚悟しとくのだ。三賛斎青海青梅がいまだに仕事に復帰できないのはお前のせいなんだから少しは反省して手加減とかしろよ。手加減なんかしてもらわなくても勝てるとは思うけど、お前はちょっと反則みたいなことを平気でするタイプだと思うから少しくらいは手を抜いてもいいんだからな。お前の弱点である綺麗なお姉さんとエッチなことをするときは、お前は完全に受け身になって何もしなくてもいいんだからな。楽しみに待ってるのだ』
 多分、紐畔亭羊仗の口調も真似て話してくれていたと思うけれど、俺は紐畔亭羊仗に一度しか会ったことがないし話もほとんどしたことがない。きっとこんな感じで喋っているんだろうな。
「で、アスモ君は四代目紐畔亭羊仗挑戦を受けるのかね?」
「俺としてはどっちでもいいんですけど、その四代目ってのは何なんですか?」
「なんなんですかと言われてもな。先生に聞きに行けば一発で分かると思うんだけど、そんな事をしても素直に教えてもらえないと思う。イザーちゃんもそう思うよね?」
「まあ、素直には答えてもらえないでしょうね。先生ってそういうところを隠しちゃう癖でもあるのかもね。私もうまなちゃんも好きなことを自分の意志でやってるって思ってるけどさ、本当はそうなるように先生がこの世界を作り上げているからね」
 俺は別に誰の味方でも無い。かといって、誰かれ構わずけんかを仕掛けるような真似もしていない。俺は素直におとなしく質素な生活をおくっているだけだ。
 この世界には俺の知らないことがたくさんまだまだ存在しているということを知れたのはよかった。普通にそんなことはわかりきっているという事なのだが、改めてそう言われるとちゃんと準備をしていた方がいいのだろうという結論に至ったのだ。
 ただ、何の準備をするのが正解なのか、俺にはわからなかった。
 うまなちゃんとイザーちゃんも俺の意見を一応は尊重してくれていたのだった。
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