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第二部

第六話 天才科学者と助手 ボーナスステージ後編

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 俺がこの部屋に閉じ込められてわずか数分。ある条件をクリアすることで部屋から出ることが出来るようになったのだが、俺はトイレに行ったり洗面所に行ったりちょっと外の空気を吸いに行くためにその条件をクリアしていた。
「な、なんでそんな簡単に、絶対おかしい」
「おかしいって言われてもな。君がなんでそんなに自信満々だったのかがわからないんだが」
「だって、だって、私は不感症だって言われてたし」
「不感症じゃなかったとは思うけどな。だって、ほら、今もちょっと触っただけでこんなにトロトロになっちゃってるよ」
 俺の指についた粘り気のある液体を見て恥ずかしそうに顔を背けた青海青梅は俺から逃げるように背を向けているのだが、腰は少しずつ俺の方へと近づいていた。これ以上俺に関わってはいけないという思いもあるのだろうが、その一方で俺から与えられる快楽から逃げることは出来ないという思いが青海青梅の中でせめぎ合っているのだろう。
 どんなに逃げようとしても俺は必ず青海青梅が俺のもとに戻ってくるということが分かっているので、あえて俺から何かをするということはしないでいたのだ。何もしなくても彼女の方から俺の方へと歩み寄ってくることなんて火を見るよりも明らかなのだ。
「あの、私って不感症じゃないんですか?」
「違うと思うよ。不感症だったとしたらさ、隣にいるだけなのにこんなにビショビショにはならないと思うんだ。なんで不感症だって思ってるのかな?」
「思っているというか、前に言われたから、ですかね。その時は痛い思いばっかりで、魔王さんみたいに気持ちいいって思うことはなかったと思います」
「それってさ、君が不感症なんじゃなくて相手が下手なだけだったんじゃない。そいつがどんな奴かは知らないから何とも言えないけど、自分本位で君の事を何とも思ってなかったってだけなんじゃないかな。例えばさ、君が気持ちいいって思うところと違う場所をガシガシ力強くやってきたりしてたんじゃないかな?」
「あんまり覚えてないけど、そんな感じだったかもしれないです。その人も魔王だったけどアスモさんみたいに優しい魔王じゃなかった。アスモさんって本当に魔王なんですか?」
「俺は本当に魔王だよ。どの世界に君臨している魔王よりも強い魔王だと思ってるくらいに我の強い魔王だ。君が魔王にこだわるのって、その経験があったからなのかな?」
「よくわからないです。私はあまりの痛さと不快感に我慢が出来なくて、その時の魔王をバラバラにしちゃいました。羊仗先生もそのことは知っていたので今回もそのつもりで私をアスモさんにけしかけたんだと思いますが、私たちが思っていた魔王像とアスモさんがあまりにもかけ離れているのでこれからどうしたらいいんだろうって思いでいっぱいです。この様子を見ている羊仗先生もこれからどうしたらいいんだろうって困ってると思いますよ。だって、アスモさんって私たちの知っている魔王とは違って人間っぽいところがたくさんあるように思えるんですもん。アスモさんって本当は人間になりたいとか思ってたりしますか?」
 人間になりたいかという質問は前にも何度もされたことがある。そのたびに人間になるということが何を意味するのか分からなくて答えに困っていた。俺はもともと人間であるので人間はどんなことが出来て何が出来ないのかも知ってはいる。昔の記憶なんてほとんどないに等しいのだけど、そんな俺でも楽しかったといえる思い出も少しはあったりするのだ。お祭りに行って屋台で何か買って食べたり、みんなで海で遊んだりといった思い出もある。だが、魔王として何百年何千年と生きてきた今の俺が普通の人間になって純粋に楽しめるのかと聞かれると、その答えはNOと言ってしまうかもしれない。
 俺は前みたいな人間に戻りたいのではなく、新しく人間に生まれ変わりたいと思っているのかもしれない。出来ることなら、今のこの知識と経験を捨てて新しい命を手に入れてやり直したいと思ってしまっている。
 今のまま人間に戻ったとして、俺は出来ないことの多さにストレスを感じて自分が嫌いになってしまうような予感しか持てないのだ。何でもできる今の俺が何にも出来ないただの人間になっても後悔しかしないと思われるのだ。
「俺が人間になるんだとしたら、今のままじゃなくて死んで一から新しい命としてやり直してみたいと思うかな。その方が人生楽しめそうな気もするからね」
「意外です。魔王さんの力を持ったまま人間になったら何でも好きなこと出来そうなのに。今とは違ってその魔力と能力で世界を股にかける英雄にもなれると思いますよ。アスモさんが魔王じゃなくて人間だったら、私は好きになってるかもしれないですし」
「今に力を持ったまま人間になんてなれるわけないよ。この力は魔王だからこそ手に入れられたものだと思うし、人間になるということはその力を捨てるということになると思うんだよね。力を失った俺が人間になったとしても、あまりの無力さに生きる意味を見失ってしまうんじゃないかと思うんだ。君だってその力を失って普通に魔物になったら嫌でしょ?」
「力があってもなくても魔物は嫌ですよ。私は今のままの私でまた新しく生まれ変わりたいです。その時は今と違う見た目でもいいと思いますけど、今の力は失わずに上乗せする形にしてもらうんです」
「してもらうんですって、そんな事出来るとは思えないけどな。神様に知り合いでもいるみたいな口ぶりだよね」
「まあ、そう思いますよね。でも、私にとっての羊仗先生は神様と何も変わらないですからね。私が死んでも新しい肉体を用意してもらうようにお願いしてるんですよ。私の記憶のバックアップは羊仗先生がとってくれてますし、いつ死んでも変わりなんていつでも用意してくれるって約束してくれてますからね。それじゃなきゃ、私一人で魔王と二人で会うなんて出来ないですよ」
 その言葉の意味を理解したとき、俺は紐畔亭羊仗と青海青梅から逃げられないような気がしていた。死んでも怖くないという兵隊はいくらでも見てきたけど、死ぬことを前提条件に俺に会いに来た人間なんて今まで一度も見たことがなかった。
 俺は少しだけたじろいでしまったが、魔王としての矜持から後ろに下がることなんて出来ない。魔王としてではなく、一人の人間として立ち向かう必要があるような気もしているのだ。
「さあ、私が死んじゃうくらいめちゃくちゃにしてくれていいんですよ。アスモさんはそんなことしないと思いますけど、私に怖い魔王ってところを見せてくれていいですからね。私の事を怖いって思うんだったらこのまま逃げ出しちゃってもいいんですけど、優しいアスモさんは逃げちゃいますかね。それとも、怖い魔王さんは逃げずに私をめちゃめちゃにしちゃうんですかね」
 俺は安い挑発なんかには乗ったりしない。そんなものに乗ったところで何の意味もないのだ。
「あれれ、逃げ出さないってことは、私の事をめちゃくちゃにしたいって思ってるって事ですかね。それとも、魔王さんはヘタレなだけで逃げ出すことすら出来ないって事なのかな。私としてはどっちでもいいんですけどね」
 ちょっと触っただけで濡れちゃうような女が安い挑発をしているとわかってはいる。わかってはいるのだけど、それから逃げたりしてはいけないと思う。魔王としてではなく一人の男として逃げてはいけないと俺は本気で思っているのだ。
「よし、そこまで言うんだったら覚悟しておけよ。今更後悔したって遅いんだからな」
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