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第二部

第四話 狐みたいな女の子 後編

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 爆殺系の魔法は殺傷能力こそ高いが魔法耐性の高いものに対してはそんなに脅威ではない。俺には当然致命傷を与えることなんて出来ないのだが、それは地獄の使者にとっても変わることはないのだ。俺はあいつと何度か戦ったことがあるのでそれは理解しているのだけど、このメス子狐はそんなことを当然理解なんてしていない。今も自分の勝利を確信して高笑いをしているのだ。
「どう、凄いでしょ。百年そこそこしか生きていない私がこんな魔法を使うなんて誰も思ってないよね。何もさせずにいきなり攻撃したのは悪いと思うけど、あたしとお兄さんのお話に割り込もうとするほうが悪いもんね。急にやってきて割り込もうとするなんて非常識だと思うよね?」
 いきなり有無も言わさずに爆殺魔法を使うのは非常識ではないのかというツッコミをしてしまいそうになったのだが、そんなことを言ってしまうと面倒くさい返しがありそうなので黙っていることにした。
 それにしても、直撃したとはいえこのメス子狐程度の魔法で地獄の使者が死んでしまったとでもいうのだろうか。そんなはずはないと思うのだけど、煙が晴れた時には地獄の使者の姿が影すら残さずに消えていたのだった。
「あれ、お前の爆殺魔法って思っていたよりも威力が高いのか?」
「思っていたよりもって失礼な言い方だね。あたしの爆殺魔法が特別製のやばいやつなんだよ。お兄さんもさっきの人みたいにこの世から消え去りたいって思ってるんだったら体験させてあげてもいいんだけど、クソ雑魚魔王のお兄さんにそんな勇気なんてないよね。だって、お兄さんって世界を支配してるって言っても、女の子のパンチ一発でへたり込んじゃうくらい弱いんだもんね。あのお姉さんのパンチよりもあたしの爆殺魔法のほうが強いのは当然だし、そんなのまともに食らっちゃったらお兄さんはこの世界から消えちゃうことになっちゃうもんね」
 自信満々な様子は多少鼻に付くのだけどあれくらいの威力の魔法を使えるんだったら自信を持ってもしかたないとは思う。不意打ちとはいえ、地獄からの使者をたた一発で消し去ることが出来るのはそれなりに優秀だな。
「あれれ、あまりの衝撃で驚くことすら出来なくなっちゃったのかな。住む世界が違うってのがどんな感じなのかお兄さんも理解出来たと思うんだけど、勘のいいお兄さんだったらこれからどうするのが一番いいか理解してるよね。あたしが何を望んでいるのか、ヨワヨワでダメダメな魔王のお兄さんでもそれくらいはわかってて当然だよね」
「その爆殺魔法ってすごく、凄い威力だと思うんだけどさ、他にはどんな魔法が使えるわけ?」
「ほ、他の魔法って、いちいち教えてあげる必要なんてないでしょ。そんなことしてあたしに何の得もないし。でも、心配してくれなくても大丈夫だよ。ヨワヨワ魔王のお兄さんが驚いちゃうような魔法がまだまだたくさんあるんだからね」
 爆殺魔法の外にも違う種類の魔法を使うことが出来るというのは本当なのだろう。ただ、メス子狐から感じ取れる魔力量と魔力の流れを見てみると明らかに爆殺系魔法に特化しているというのは理解出来る。百歳程度の魔法生物が操れる次元の威力ではないと断言できるほどの高威力の爆殺魔法ではあるが、年齢と潜在的な魔力量から察するに爆殺系魔法以外の他の魔法は良くても初心者レベルでしかないと思われる。このこともいちいち尋ねたりなんてしないが、おおむね俺の予想は当たっているだろう。
 そんなことを考えていいると、どこからともなく現れた地獄の使者がメス子狐の背後にそっと回り込んでいた。六本ある腕を全部使ってバッファローくらいはありそうな大きさのハンマーをしっかりと握ってメス子狐に向かって振り上げていた。
 何かを感じ取ったのかメス子狐は後ろをちらっと振り返ったのだけど、さっき殺したと思っていた相手が傷一つない状態で自分の背後に立っていて巨大なハンマーを振り上げている姿を見て腰が抜けてしまったようだ。
「え、え、え、なんで、なんで、なんで生きてるの。さっき跡形もなく消し去ったと思ったのに、なんで生きてるの?」
 メス子狐は確実に恐れおののいているのだが、そんなそぶりは一切見せずに虚勢を張り続けている。誰がどう見てもメス子狐はビビっていると断言できるし、どうしてそう断言できるのかと聞かれると、座り込んでいるメス子狐が作り出したちょっと色の濃い水溜まりを見てくれれば理解できると答えるだろう。
 俺としてはここでメス子狐が地獄の使者の手によって屠られても問題は何一つないのだけど、小さな子供が俺に向かって救いを求めるような眼差しを向けてきているという事実が俺の気持ちをほんの少しだけ揺さぶっていた。
「なあ、爆殺系以外の魔法を使ってその場を切り抜けたりしないのか?」
 俺の質問が聞こえていないのか、メス子狐は黙って震えたまま地獄の使者と俺を交互に見ていた。はっきりと助けてほしいと言ってくれれば俺はいつでも助けてあげるのだが、メス子狐は俺に対して救いを求めてはいるようではあるけど、俺に対して直接助けを求めてはこなかった。
 俺としては、たった一言でも助けてほしいと言ってくれればそれで助ける準備は出来ているのだけど、そんなことを死んでも言いたくないのかメス子狐は黙ったままでいつまでも俺と地獄の使者を交互に見ているのだ。
「なあ、自分で何とかできないんだったらさ、ちょっとだけでも手を貸してやろうか?」
「な、何言ってるのよ。お兄さんみたいな雑魚雑魚魔王が私の爆殺魔法を食らっても平気な奴に勝てるわけないでしょそれくらい考えてものを言いなさいよね」
 言葉だけを聞いていると、強気で地震があるように思えるのだが、このメス子狐はまだ腰が抜けたままなのか水溜まりの中央に座ったまま虚勢を張っている。俺も地獄の使者も当然あの爆殺魔法が切り札だということはわかっている。わかったうえで、考えていることがあるのだ。もしも、あの爆殺魔法以上の魔法を使えるのだとしたら。その仮説が正しいのだとしたら、俺も地獄の使者もただただ掌で踊らされていたということになってしまうんだろうな。そんなことはないと思うけど。
「ちょっと、今のあたしは急にこの人が背後に現れたから驚いてるだけだからね。お兄さんみたいに遠くから見守る腰抜けじゃないから」
「いや、腰が抜けてるのはお前だろ。それに、そんなお漏ら」
「してない。そんなことしてない。そんなのお兄さんの気のせいだし。あたしは何もしてない。変な言いがかりはやめて」
 地獄の使者もどのタイミングでハンマーを振り下ろすの考えているのだろう。自分の同士を爆殺したこのメス子狐をどのタイミングで殺すか考えていると思われるが、標的であるメス子狐はそんなことに気付いてはいないだろう。でも、自分が今まさに殺されそうだということくらいは感じているように見える。その証拠に、メス子狐の作り出している水溜まりが少しずつ大きくなっていっているのだ。
「死ね」
 地獄の使者はハンマーをメス子狐に向かって振り下ろした。地獄の使者が振り下ろしたハンマーは大きな水しぶきを上げながら床を大きくえぐり取っていた。
「え、なんで、あたしは助かってるの。って、あんなの食らったら死ぬだけじゃすまないかも。でも、どうしてあたしが殺されなくちゃいけないのよ」
「そりゃ、あいつらの仲間を殺したからだろ。それ以外に理由なんてないと思うけど」
 質問に対して答えを返しただけなのだが、メス子狐はこの問題に対してそれ以上口を開こうとはしなかった。
「あの、あいつの仲間がいるって話なんだけど、もう一回あいつを殺しても別のやつがやってくるってこと?」
「そうなるだろうな。あいつらは本当にしつこいから気を付けたほうがいいぞ。無理せずに頑張れよ」
 さすがに俺の腕に抱かれているメス子狐はお漏らしなんてしていないのだけど、小さく震えているのは怖いからなのか残尿感があるからなのか、俺にはわからないのであった。
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