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観測者ユイと希望のある世界

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 この世界では魔王も勇者も同じ異世界転生者だという事は誰もが知っている事なのだが、転生者の中には勇者にも魔王にもならずに別の道へ進むものも多い。
 その大半は冒険者として名声を得たり商人として富を得たりというものがほとんどなのだが、中には富や名声に目もくれずに己の知識欲にだけ従って行動するものもいるのだ。本日魔王城にやってきた女性もそんな変わり者の一人だったのだ。
 顔つきや声から女性という事はわかるのだが、髪型は女性というよりも活発な少年のように雑に切られた感じであった。胸もお尻もそれなりに膨れて入るのだが、お腹もそれなりに膨らんでいるのでメリハリのついた体型とは呼べない。それが逆にリアルな感じがして俺は嫌いではないのだが。絶世の美女も好きだしモデル体型も好きだが、どこにでもいそうな自然体な感じも俺は好きだったりするのだ。

「私は色々な勇者について回って魔王を見てきましたが、アスモさんみたいな方は初めて見ました。アスモさんはなんでこの世界を恐怖で支配しようとしないんですか?」
「なんでって、別にそんな事をする必要が無いからじゃないかな」
「必要が無いって、魔王がそんな事を考えているなんて不自然です。魔王ならもっと世界を混沌に落とすとかするべきなんじゃないですか」
「そんな事をしても面白くないでしょ。それに、今の状況は誰も不幸になってないと思うんだけど」
「確かに、アスモさんが支配しているこの世界は今まで見てきた世界と比べても平和です。私達が元々住んでいた国に比べても平和ですよ。殺人事件だってこの世界に来てから一件も聞いたことが無いです」
「平和なのはいい事じゃないか。お前はそんなに平和な事が気に入らないのか?」
「そうじゃないですよ。平和が嫌だなんて誰も追わないです。でも、そんなのって変じゃないですか。アスモさんが他の魔王とは違って圧倒的な力をもって勇者を排除していったという事も関係あると思うんですけど。私と一緒に来た勇者たちもこの世界の状況を見て魔王退治は必要無いって思っちゃってリゾート地で観光三昧ですよ。今までは他の勇者と触れ合う機会も無かったから情報交換とか過去の大変だった戦いとかの話題で盛り上がっちゃってまして、ずっと同じところにいるんで新しい情報が全く手に入らなくなったんです」
「お前が勇者と別行動すればいいだけじゃないのか。この世界には他にも勇者はたくさんいるし、お前が行きたい場所には誰だってついて来てくれるだろ」
「それはそうかもしれないですけど、私は知らない人と仲良くするのがちょっと苦手なんですよ。勇者さん達じゃないと自分のしたいことを言えないというか、気を遣ってしまうんです」
「そうは言ってもさ、俺にはそうやって好き勝手なこと言ってるじゃないか。そんな風に思ってることを言えばいいんじゃないか」
「そ、それは、魔王アスモさんが私の敵だからです。観測者として魔王アスモさんの事を見届ける義務があるからです」
「観測者ね。観測者ってのは初めて聞いたんだけど、一体何をする役割なの?」
「やっぱりアスモさんも観測者の事は知らないんですね。私も自分で選ぶまではそんな仕事があるというのも知らなかったくらいですからね。観測者というのは、その世界で起こった出来事を調べて記録に残す仕事です。この目で見たものはきちんと記録に残すことが出来るんです」
「見ただけで記録に残せるって事なのか。それは結構重要な役割を担っているんだな」
「いえ、さすがに見ただけではわからないこともありますよ。だから、こうして魔王アスモさんと面会させていただいているわけなんですけど」
「で、俺と会ってみて何か感じることはあったのかな?」
「え、そうですね。思っていたよりも普通の人なんだなって感じました。もっと自己中な感じで一方的に詰め寄ってくるのかと思ったりもしましたけど」

 俺はいつも通りに面会希望者と会って話を知るだけなのだ。この女も自分にふさわしいオモチャを作って欲しいという願いなのかと思っていたのだが、普通に会話をしているだけなのであった。もしかしたら、オモチャを作って欲しいという事が恥ずかしくて言い出せないだけなのかもしれないが、俺から言い出すというのも野暮な話だろう。さすがに俺もそんなところはわきまえているのだ。
 それにしても、戦闘にも商売にもそんなに影響のなさそうな観測者という仕事には少し興味があるな。他の世界でどんな出来事があったかという事は多少は聞いていたりもするのだが、観測者がどれほどその世界の事を記すことが出来たのか気になってしまう。そのところそ少し聞いてみようかな。

「ちなみにだが、お前は観測者としてどれくらいの世界を渡り歩いてきたのかな?」
「そうですね。前の勇者さん達と今の勇者さんを合わせると、百近いんじゃないかって思いますよ。観測者として渡り歩いたのは半分にも満たないと思いますけど、それでも過去に経験したことは日誌に記してますからね」
「それってさ、俺も見ることが出来たりするの?」
「見ることは出来ますけど、そんなに面白い物でもないと思いますけどね。記録書として起こったことをそのまま書いているだけですから」
「それが良いと思うけどな。俺はさ、この世界の他に行ったのは伝説の勇者たちのど真ん中に魔王として登場しちゃうっていう恐ろしい世界でさ、今とは違って力も何も与えてもらえなかったから出現と同時に討伐されちゃったんだよな。その後は色々あって今みたいな感じになったんだけど、その事が無ければこんなに強く離れなかったと思うんだよね。そのお陰なのかさ、俺は死んで他の世界に行くことも出来なくなっちゃって、たまに別の世界に行ったとしてもその世界を知るチャンスも全然ないわけなんだよ。だからさ、お前みたいに他の世界の事を知っている奴って凄いなって思うんだよね。お前以外にもそう言う事を教えてくれる勇者とか魔王もいたけどさ、そいつらは主観でしか物事を見れないやつだったわけで、ちゃんと記録として客観視して残せている情報って気になるんだよな」
「まあ、勇者さんたちの冒険譚ってのは自分たちにとって都合のいい事しか書いてないですからね。悪いことをしたことなんて人に言えるわけも無いですからね。でも、そういうのもちゃんと記しておく必要はあると思うんですけど、そんなのって喜ばれることでもないですよね。そのお陰で日の目を見ることも無く自分の中にしまっておいてある話も結構あるんですよ。普通はそう言うの見せないんですけど、魔王アスモさんだったら見せても平気かなって思ったりもするんですよね。でも、本当に見せていいのかって悩んじゃいますよね」
「見せられないってわけでもないんなら他の世界で何が起きていたのか見てみたいな。俺はこの世界からあまり長い事離れるわけにもいかないんで、他の世界の事を知れるのは今だけのような気がしているんだよな。なあ、良かったら何が起こっていたか俺に見せてくれないかな」
「別に見せてもいいとは思うんですよ。私は勇者じゃないんで魔王の敵ってわけでもないですし、この平和な世界だったら魔王が敵って認識も無いようですし。でも、一つ気になることがあるんで聞いてもいいですか?」
「気になることって、どんなこと?」
「あの、魔王アスモさんが出てるアレの話なんですよ。ほら、いろんな人とエッチな事をしてる時の話です」
「ああ、それくらいなら何でも答えるけど、あれは相手に合わせて色々と変えてるから具体的にどうとかは答えられないと思うけど、それでもいいかな?」
「具体的に答えてもらいたかったんですけど、無理なら抽象的でも大丈夫です。私は観測者として魔王アスモさんが出ている映像をたくさん見てきたんですけど、何で魔王アスモさんは相手によって全然違うんですか?」
「それは相手によって好みがあるからだと思うよ。誰からも好かれるってのは無いと思うからさ、その相手が好きな大きさや形になってるだけだと思うよ。お前が俺の相手をしてくれるって言うんだったらさ、俺のモノもお前好みの大きさと形になると思うけど」
「わああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁ。そ、その話じゃなくて、見た目の話です。顔とか体格とかそっちの話です。ソレも気になりますけど、見るたびに顔も体も全部違うっては気になったんです」
「そう言われれば、自分で自分の姿を見る機会ってあんまりなかったけど、鏡に映る姿は違ったような気がするな。相手に合わせているのは俺のモノだけじゃなかったって事なのかな。それは自分でも思ってなかったな」

 自分のものが相手によって変わっているというのは気付いていたが、顔や体型まで変わっているというのは気付かなかったな。自分が出てるやつはほとんど見たことが無いし、見たとしても相手の女の事ばかり見てたから気付きもしなかったな。何より、映像として残っている自分の姿は見たいと思ったことも無かったし。
 この観測者に言われるまでは全くそういう事も思いもしなかったな。もしかして、この観測者は客観的に物事を判断することが出来るからこそ気付いた事実なのかもしれない。ただ、そうなると俺が今まで見てきた相手の好きなタイプを完全に理解することが出来るという事なのだろうか。それはそれでちょっと面白いような気もしてきた。

「それって、俺の前にいる相手が一番好みのタイプになってるって事なのかな?」
「そうだと思いますよ。アスモさんの言っていることが本当だとしたら、容姿も含めて全て相手の好みに合わせているってことになると思いますから。そんなのって、反則だと思いますけど、魔王アスモさんの強さを考えればそんな事をする必要も無いんじゃないかなって思いますけどね」
「もしかして、今の俺ってお前の好きなタイプになってるって事?」
「そ、そんなこと言わないでください。恥ずかしいです」

 恥ずかしがっている奴を見ると意地悪をしたくなってしまうのは何なんだろう。俺だけが持っている悪い癖なのかもしれないが、そんな事は気にせずに近付いてみようかな。
 俺が椅子から立ち上がって観測者の前に歩み寄ると、観測者は恥ずかしそうにうつむいてはいたがこの場から去るつもりは無いようだ。それどころか、俺に対して顔は背けても体はまっすぐに正面を向いて受け入れ態勢をとっていたのだ。

「なあ、俺はお前の好みの姿になれているかな?」
「そんなに近くに来ないでください。ドキドキしちゃいます」
「ドキドキって、好きだってことで良いのかな?」
「内緒です。そんな事は教えられません」
「教えてくれないんだったらこれ以上は何もしないよ」
「意地悪ですね。でも、教えたくないです」
「じゃあ、どうすれば意地悪じゃなくなるのかな」
「呼んでください。私の事はお前じゃなくて名前で呼んでください」
「名前で呼んでくれって言われても、俺は名前を聞いてないんだけど」
「あれ、謁見者希望の所に名前を書いてたと思うんですけど、それは見てないんですか?」
「あれは俺の為じゃなくて魔物が管理するためのものだからな。俺は人の名前を覚えるのが苦手なんであんまり覚えられないんだよ。でも、今教えてくれたら忘れないと思うんだけどな」
「そうなんですね。私の名前はユイです。観測者ユイです」
「ユイね。俺の見た目はちゃんとユイの好みのタイプになってるかな?」
「そ、そうですね。嫌いじゃないですよ。いいと思います」
「嫌いじゃないって事は、好きでもないって事なのかな?」
「そ、そう言うわけではないですけど。そんな事を言わせないでください。恥ずかしいです」
「恥ずかしいって、観測者なら主観じゃなくて客観的に物事を見た方がいいんじゃないかな。今のユイは俺の事をどいう言う風に見ていると思うかな?」
「どういう風にって、好きだと思ってみてると思いますよ。客観的に見た場合ですけど」
「じゃあ、主観的に見たらどうなのかな?」
「ど、どうなのって、そんなの、答えられないです。恥ずかしいです」
「恥ずかしいって事は、好きだって受け取って良いのかな?」
「い、いいんじゃないですかね。それでいいと思いますよ」
「そんな俺とユイは何をしたいかな?」
「お、お任せします。私は何でも平気ですから」

 観測者ユイが今まで記してきた色々な世界で見てきた事も気になるのだが、観測者として今日の事を客観的に記すことが出来るのかも気になっていた俺であった。
 こんな時に観測者はどんな風に記すのだろう。その答えは近いうちにわかると思うのだが、俺はそんな事を気にせずに楽しめればいいと思っていたりもした。
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