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天空姫とボーナスステージ 前編

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「あたしがこいつを殺せって言ってるんだから、さっさと殺しなさいよ。お前だって魔王に殺されるんだったら本望でしょ?」
「僕は魔王アスモさんに殺されたいって思ってます。でも、天空姫が女性だって事を確認するまでは死んでも死に切れません。きっと、毎晩化けて出ちゃうと思います」
「お前はいったいどこを見て言ってるんだよ。あたしはどこからどう見ても立派な女だろ。あんまり変なことを言ってるとあたしが直接殺しちゃうよ」
「僕は変なことを言ってるつもりはないんだけどな。確かに、見た目はどう見ても女性だと思うけど、天空姫よりスタイルが良い女装の人を見たことがあるからな。もしかしたら、天空姫って本当は姫じゃなくて王子なんじゃないかなって思っちゃったんですよ」
「そんなわけないでしょ。頭おかしいんじゃないの。そんなこと言って何が目的なのよ」
「何が目的って、僕はただ天空姫が本当に女性なのか知りたいってだけですよ。だって、こんなに暑いのにそこまで体のラインを隠すドレスを着てるのも変な話ですし、胸だって全然ないんじゃないですかね」
「バカじゃないの。そんなこと言って変な事をしようとしてるんじゃないでしょうね。もしそうだったとしたら、あたしの国とお前の国で戦争になるんだけど、その覚悟は出来てるの?」
「戦争になんてなるわけないですよ。だって、僕と天空姫は結婚することになってるんですからね。婚前交渉だって別に珍しいことじゃないですよね。天空人と地上人で体の構造も少し違うわけですし、そこを確認するって事も必要な事だとは思うんですよ。そうだ、僕たちが結ばれる前に魔王アスモさんが天空姫を攫って辱めを与えるってのはどうですか?」
「ちょっと、なんでそこでこいつが出てくる話になるのよ」
「だって、魔王アスモさんに願い事をするって事はそれなりのお礼をしないといけないですよね。そのお礼だって普通に金品ってわけにもいかないと思いますし、今まで魔王アスモさんがどんなことをしてきた人かって見てればどのお礼が一番ふさわしいかわかりますよね。だって、天空姫も魔王アスモさんの映像はたくさん見てるはずですもんね?」
「そ、そんなの知らないわよ。お前が何をしたいのか理解出来ないんだけど」
「別に僕の事を理解してもらわなくてもかまわないですよ。どうせ僕はもうすぐ死ぬんですし。でも、誤解されたままでは死んでも死にきれないと思うので一応説明だけはしておきますね。僕と天空姫の願いは魔王アスモさんに僕を殺してもらう事です。でも、その為には形だけでも魔王アスモさんに僕を殺す理由があった方が都合が良いんですよ。で、その理由っていうのは魔王アスモさんが天空姫をさらう時に僕が邪魔だって事にすればいいんじゃないですかね。これだったら自然だと思うんですけど」
「いや、俺は別にその女をさらう理由が無いと思うのだが。別に俺から何か行動を起こさないといけないって程不自由はしてないんだよな。それにさ、その女も攫いたくなるほどかって言われたら答えに困っちゃうと思うんだよ。そこを突かれると理由としては弱いと思うんだけど、どうかな?」
「そう言われるとそうかもしれないですね。天空姫がもっと人目を引くほどの美貌をお持ちでしたらこんなに悩むことは無いんですけどね。そこだけは課題かもしれないですね」
「それにさ、俺が姫をさらったってなるとそこの国民も俺に対して怒りを向けてくるんじゃないかな。俺は別にそんな風に思われてもなんともないんだけど、そいつらが俺に戦いを挑んできても無駄死にさせちゃうことになると思うんだが」
「そこは問題無いですよ。天空人は昔から魔王に攫われるってのが一種のステータスになってるところがありますからね。僕たちからしたら理解しがたい話なんですが、魔王に攫われないような天空の姫は肩身の狭い思いをしているようなんです。天空人にとって他の種族に見向きもされないというのはプライドが許さない事のようで、色々な世界にちょっかいをかけてまで魔族に手を出させるような事をしてたみたいですよ。でも、魔王アスモさんが台頭してきた事で天空姫がいつ魔王アスモさんに攫われるかってずっと話題になってたんですよ。魔王アスモさんが天空姫に手を出すかどうかってのは国民の関心事でもあったみたいなんですよ」
「そうだったのか。でもさ、俺は天空人とか天空に国があるとか知らなかったんだけど。そこって有名なの?」
「僕たちの世界では有名でしたけど、魔王アスモさんみたいに全次元に名前が知れ渡っているかと言えばそうじゃないと思いますね。魔王が勇者と戦うきっかけを作るために存在しているって側面が強いだけですかね。今までも何度か魔王のいる世界と勇者のいる世界の戦いに巻き込まれる形で天空城は登場しているんですけど、大体は姫が魔王に触られたり魔王を倒すための秘術を勇者に与えたりといった役割を全うしていたようですよ」
「ちょっと、あたしの国を都合のいい女みたいに例えるのやめてもらえる。その説明じゃ魔王と勇者がいなければ存在している価値が無いみたいじゃない」
「でも、歴史の表舞台に出る時って魔王絡みで勇者と関わった時だけじゃないですか。それ以外では天空人としての高いプライドのせいで地上に降り立つことだってないですよね。今だって魔王アスモさんに気付いてもらえないからってわざわざ魔王城まで来てますもんね。その事だって勇者の末裔である僕の魔王討伐に付き添いで来てるんですもんね。僕も天空姫も魔王討伐なんて出来るって思ってないし、誰も期待してなかったですもんね。あれ、それなのについてきたって事は、天空姫は魔王アスモさんに凌辱されることを望んでるって事なんじゃないですか?」
「そんなわけないだろ。バカなんじゃないの。なんであたしがこいつにそんな辱めを受けなきゃいけないんだよ。ちょっと考えればそんなわけないってわかる事なのにさ、バカだよバカ。バーカ」
「ちょっと待ってくれ、この女が姫だというのはかろうじて理解出来るのだが、お前が勇者の末裔だというのは理解し難いのだが。どう見ても普通に頼りない王子にしか見えないんだけど」
「それはそうですよ。勇者の末裔って言ったって僕の家系はそんなに色濃く勇者の血を受け継いでいるわけじゃないですからね。言ってみれば、上澄みのうっすいとろこで繋がってるだけのお飾りの勇者なんですよ。戦闘能力もないし魔法だって人並みにしか使えません。どんなに頑張ったって僕は並の魔王にすら歯が立たないと思うんです。そんな僕の家系でも一つだけ強みがありまして、どの勇者の末裔よりも飛びぬけて運が良いって事なんです。僕の国では今まで運の良さだけが取り柄で目立たないように生きてきたっていうのに、魔王アスモさんの討伐を命じられたことで運が尽きたって思われてるんですよ。でも、僕は選ばれたことによって魔王アスモさんに殺してもらえるなんて運が良いって思ってるんです。それに、他の魔王と違って魔王アスモさんは簡単に会うことが出来るってのも僕の運が良いって証明にもなってると思うんですよね。普通に魔王に遭おうとしたらそれなりに戦いとかもこなさないといけないと思いますし、そんな事は僕には出来ませんからね。だから、僕は運だけは良いって事なんですよ」
「まあ、何だ。運が良いだけでもいいと思うよ。それしかないってのも強みだからこそ生き残れてるんだと思うし、凄いことだと思うわ」
「それにですよ、一応僕と天空姫は婚約者って事ですし、僕よりも先に魔王アスモさんが天空姫に手を出すってことになれば、いわゆる寝取られた状態ってことになりますよね。そう言うのが好きな人にはたまらないシチュエーションだと思いますよ。本物の魔王が本物の姫を寝取る上に、それを本物の王子の目の前で見せつける。今までとは違うリアルなネトラレ物の完成ですよ。そう考えると、僕って本当に運がいいですよね」

 俺はこの王子の掌で踊らされているような気になってきた。
 確かにそれは面白そうではあるのだが、天空姫はこんな王子の発言にどう思っているのだろうか。俺が見た感じではあるが、明らかに軽蔑している眼差しを向けていたのだ。まるで汚物を見ているような目で俺と王子を見ているのだが、俺は別にノリノリで参加するわけじゃないという事はわかってもらった方が良いのだろうか。

 いや、わざわざそんな事を理解してもらっても意味が無いだろう。嫌がられた方が世間からは喜ばれるって可能性もあったりするんだろうな。
 とりあえず、この王子の話に形だけでも乗ってみようとは思ってみたのだが、無理矢理ってのはあんまり好きじゃないんだよな。
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