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勇者リーバとボーナスステージ 前編

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 自分では綺麗なお姉さんが好きだと思っていたのだが、俺が本当に好きなのは幼女に近い少女だったのだろうか。目の前にいる勇者が先ほど見た少女と全く変わっていないことにショックを受けていた。

「なあ、お前がこの村でいたずらをしている勇者なんだろ?」
「え、な、何のことですか。私は、そんな事、何も知りませんけど」
「いや、周りの村人の様子を見てたらわかるだろ。みんなお前に見惚れているんだよ。どんな美人だったとしてもそんな事にはならないだろ。美人過ぎる○○って言われたってみんながみんな好みってわけでもないし、苦手な人だって中にはいるだろ。それなのに、みんながお前に見惚れているってのはおかしい話なんだよ」
「で、でも、そんなことを言ったらさ、魔王だって私の事をそう言う目で見てないじゃん。さっきと変わらない感じで見てるじゃん」
「そうは言われてもな。お前は握手した時と何も変わってないからな。いつになったら俺好みの姿に変わってくれるんだ?」
「ちょっと待って。私の姿が変わってないっていうのか?」
「ああ、握手した時と何も変わってないぞ。周りのやつらを見てる限りはお前の姿が好みの感じになってると思うんだけど、なんでお前はさっきと変わってないんだ?」
「いや、そう言われてもな。私は自分の意思で姿を変えているんじゃなくて、相手が勝手に私の姿を一番好きな見た目になってると錯覚しているだけなんだよな。もしかして、魔王って私のこの姿が一番好みって、事?」
「それは無いと思うんだけどな。一つ尋ねるが、お前は今何歳なんだ?」
「女性に年齢を聞くなんてデリカシーが無いな。でも、魔王は私の事が一番好みらしいんで教えてやってもいいかな。なんと、明日で二十歳になるんだ。こっちの世界と向こうの世界が同じ日付だとしたらって話だけどな。だから、私は十代最後の間に魔王を倒しておこうと思ったんだけど、私の事が好きな魔王を倒しちゃってもいいのかなってさ、考えちゃうよね」
「別に俺はお前の事が好きだとは言ってないんだが。それにさ、他の奴らと違ってお前に見惚れているわけでもないんだし」
「そんなに恥ずかしがることは無いんだよ。ほら、周りを見てごらん。みんな私の事をどうにかしたいって目で見てるよ。でも、そんな私が魔王だけを見て話しているのを見てみんな躊躇しちゃってるね。魔王に勝てないってのがわかってるからさ、みんな気持ちを抑えるのに必死になってるんだよ」
「明日が誕生日だって事は、何かお祝いでもするのか?」
「いや、そういうのは計画してないよ。祝ってくれるような仲間もいないしね」
「そう言えば、お前って勇者なのに一人なんだな。仲間とかいないのか?」
「いないよ。だってさ、仲間が出来たとしてもみんな私に惚れちゃうんだよ。そんな状態で何かしようとしてもうまく行くことなんて無いしさ、気付いた時にはみんな私を取り合って仲間割れをしちゃうんだよ。だから、こっちの世界に来てから誰かとこうして普通に話しているのって久しぶりかもしれないな。でもさ、魔王も本当は私に惚れているのを隠しているって事だろ」
「いや、隠してはいないけど、俺の好みのタイプがお前みたいな女の子だったってのは少し衝撃を受けているわ。でも、お前みたいな女の子を相手にしたこともあったし、実はそうだったのかもと思うと自分で自分の事が不安になってしまうな」
「自分の事がわからなくて不安になる気持ちはわかるけどさ、魔王は私の事を一番理想のタイプだって思ってるって事だろ。それでいいじゃないか。だからさ、私に殺されてくれないかな。そうすれば私もこの世界にやってきた意味が分かると思うし、世界も平和になるんじゃないかな。いや、この世界って私が見てきたいろんな世界と比べても平和かもしれないな。人間も魔物も普通に暮らしているし、一部では助け合ったりもしているもんな。そんな世界を支配している魔王を殺しちゃったらこの世界はどうなっちゃうんだろう」
「別にそんな事は考えなくてもいい名じゃないか。俺を殺したとしても、お前は新しい世界に行くだけだろうし、俺も次は魔王じゃなくて勇者を選べるって事だからな。お互いにとって良いことだと思うぜ」
「でも、私って本当は戦ったことが無いんだよ。いつもさ、私に見惚れている隙に急所を一撃って感じでやってたから。今の魔王はどうやってもそれが出来なそうなんだよな」

 色々なタイプの勇者を見てきたのだが、相手を魅了するだけの能力というのは初めてのような気がする。サキュバスやインキュバスもそれに近い能力を持っているとは思うのだが、同時にこれだけの人数を魅了し続けているというのは不可能なのではないかと思う。奴らも基本的には一対一でしか成立しないような世界を創って行っているわけだし、この勇者のように全てを巻き込んでというのは無理な話のように思えている。

「そうだな。お前が明日誕生日かもしれないという事で俺をプレゼント代わりに殺そうって事なんだが、きっとそれは無理だ。俺はお前に殺されるとは思えない。なぜなら、俺は神にしか殺されることは無いと思ってるからな」
「神にしか殺されることが無いって、それはちょっと傲慢すぎると思うんだけど。でも、いろんな話を聞いているとそれも納得できるところはあるよね。だからってさ、諦めるわけじゃないんだよね。私の記念すべき二十歳の誕生日だし」
「そこで一つ提案があるんだが、聞いてもらえるかな?」
「提案ってなんだよ。私を殺そうとでもいうのか?」
「そう言う物騒な話ではなくてな、お前の誕生会を開いてやろうと思うのだが。そう言うのって迷惑だったりするかな?」
「誕生会って、迷惑じゃないけどさ、魔王が勇者の誕生日を祝っても良いのかよ」
「良いと思うぞ。この世界を支配しているのは俺だし、魔王城にやってくる勇者も俺を倒すのではなく観光目的ってやつもいるからな。俺がお前の誕生日を祝ったところで何の問題もないと思うぞ」
「誕生日を祝ってくれるのは嬉しいんだけどさ、それって私の事が好きで惚れているからどうにかしたいって事だったりするのかな?」
「どうだろうな。正直に言うと、俺はお前の姿を見ても惚れているって思えないんだよな。でも、せっかくの二十歳の誕生日が何事もなく終わるって寂しいだろ。俺が何歳だったかってのはもう覚えてないけど、お前はしっかり覚えてるって事はそれだけ大事にしてるって事だと思うし、そんなに大事にしているならちゃんと祝ってやるのも大人の務めだと思うからな。お前は勇者で俺は魔王って立場だけどさ、もともとは同じ人間だったって事もあるし、少しくらいは大人に甘えてもいいと思うよ」
「そんなこと言ってさ、私に惚れているのを隠そうとしているって事だろ。良いよ、私もやる事ないし、祝ってくれるって言うんだったら魔王が相手でも乗ってやるよ。私の事を騙そうとしてるんだとしてもさ、明日は誕生日だから特別に許してやるよ」
「許してくれるんだったら盛大に祝わないとな。と言っても、開場はここってわけにもいかないし、俺の城で良いよな?」
「別にさ、私はどこでやろうとかまわないよ。祝ってくれるだけでも十分だし」
「じゃあ、さっそく俺は帰って準備でもするかな」
「待ってくれよ。一人で帰るっていうのか?」
「ああ、そうだけど。お前がこの村にしてたイタズラに関してはいったん置いておいて、今は誕生日を祝う方が先だからな。準備もしないといけないし」
「それなんだけどさ、イタズラはしばらくしないでおくよ。だからさ、私も一緒に魔王の所に連れて行ってくれよ」
「別にそれは構わんが、何の準備もしていないぞ」
「普段の感じも見てみたいんだよ。だからさ、ついて行ってもいいだろ?」

 断る理由もないので俺は勇者を連れて魔王城へと戻ることにした。勇者は空を飛ぶことが出来ないので俺が抱きかかえることにしたのだが、高いところが苦手なようで終始俺に強く抱き着いてきていた。空を飛んでいる時にしか見えない景色も綺麗なのだけれど、この勇者にはその綺麗な景色よりも恐怖の方が勝っているようだった。
 魔王城についてからも勇者は俺にしがみついていたのだが、人目が多くなってきたときには俺から自然と離れていた。
 魔王城に訪れていた観光客や勇者はあの村にいた人達と違ってこの勇者ではなく俺の事を見ていた。誰も勇者の事なんて見向きしていないようだったので、その辺にいた勇者達と少女勇者を握手させてみたところ、少女勇者と握手したものはみんな少女勇者に見惚れていた。

「別にお前の能力が消えたってわけではないわけだな。そうなると、最初に見た時から変わらないお前の姿が俺の一番の好みってことになっちゃうのか」
「ねえ、お前じゃなくて名前で呼んでよ。私は勇者リーバだからさ。魔王の事もアスモって呼ばせてもらうから」
「リーバね。わかったよ。俺の事も好きに呼んでいいからさ」
「そうさせてもらうわ。ところで、アスモは誕生日いつなの?」
「いつだったかな。今では人間だった時の記憶もあまり残ってないんだよな。だから、思い出そうとしても思い出せないかも」
「長くいるとそういう事になっちゃうのかもね。じゃあさ、明日誕生日って事にしなよ。今年だけでもいいからさ、一緒に祝ってもらおうよ」
「それはやめといた方が良いと思うよ。だってさ、リーバの二十歳の誕生日なのに俺の適当に決めた誕生日の方が祝われてしまうと思うしな。リーバって直接触れた相手にしたその力が発揮されないんだろ?」
「そうなると少し悲しいくなっちゃうかも。じゃあ、アスモの誕生日を知ってるのは私だけって事にしてさ、私がお礼に一人で祝ってあげることにするよ。だから、私の事は盛大に祝ってくれていいからね」

 俺の誕生日がいつだったか思い出せないのは本当だし、祝ってやる気持ちも嘘はないのだ。最初から盛大に祝ってあげるつもりではいたのだが、お返しに祝ってくれると言われると下心があるみたいで祝いにくいという事もある。
 それでも、出来る限りの事はやって喜んでもらう事にしよう。リーバの好みなんて何も知らないのだけれど、出来る限りの事はしてあげようと思う。

 魔王が勇者の誕生日を祝う世界が一つくらいあってもいいだろうと俺は思うのだ。
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