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クソガキ勇者リーバとかわいそうな村

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 魔王である俺が支配するこの世界にはいくつかの国があるのだが、そのどれもが争い事も無く平和な日常を送っている。時々ではあるが、他の世界からやってきた勇者が騒動を起こすることもあったりするのだが、俺がそれに関わることも無く解決することが多かった。
 そんな中、俺の住む魔王城からほど近い場所にある小さな村に現れた一人の勇者が好き勝手な事をして住人に迷惑をかけているという相談が迷い込んできた。いつも通りに解決出来るものだと思って配下の魔物や住人たちに任せてみたのだが、一か月ほど経っても解決する兆しも見えないという事になっていたようだ。

「申し訳ありませんが、我々の力ではあの勇者の行動を止めることは出来ません。魔王様のお力をお借りしてもよろしいでしょうか」
「それは構わないのだが、お前達でも手が出ないというのはいったいどういう事なのだ?」
「戦闘能力に関しては我々の方が圧倒しているのですが、どうにも手を出しにくい状況にされてしまいまして手をこまねいているのです」
「そいつは危険なやつなのか?」
「ある意味危険だとは思います。勇者なのである程度の力もありますし、我々の知らない魔法もいくつか使うようでして、気付いた時にはこちらに不利な状況になっているのです」
「よくわからんが、俺が行っても楽しめそうな感じがするな」

 その村は田んぼに囲まれた見通しの良い場所にあった。どの田んぼも手が行き届いているようで稲もすくすくと成長しているようだ。こっちの世界でも米やパンが普通に流通しているのだからこういう場所もあるのだろうと思っていたのだが、ここらへんで米を作りだしたのは俺がこの世界を支配してかららしい。それまでは魔物が徘徊するような場所だったので結界内で細々と畑を耕すことしか出来なかったそうだ。
 そんな事もあって俺は来たことも無い村の人達から大歓迎を受けたのだが、その中にも例の勇者がいたらしい。というのも、俺はそこに勇者がいるという事に気が付かなかったのだ。服装も勇者らしくなかったし、なぜか勇者の力を感じることが出来なかったのだ。
 魔王城から離れていたとしても俺はここまで一瞬で来ることが出来るので疲れてなんていないのだが、一日目は村長の話を聞いて何が起こっているかという事を確認する作業から始まっていった。

「要約してみると、その勇者がこの村で些細なイタズラをして遊んでいるという事なんだな」
「そうなんです。そのイタズラはどれも怒るほどではないのですが、それでもそれなりに時間と労力は割かれますし、これからの時期は田んぼの世話もしっかりしないとイケなくなりますので困っております」
「あれだけたくさん田んぼがあれば大変だろうな。それにしても、見事なくらい綺麗に整備されているんだな」
「ええ、村の近くにある畑は魔物に恐れていた昔の名残で形も歪ですが、外の田んぼは仕事もしやすいように整地してから造ってますので。これも魔王様がこの世界から野生の魔物を排除してくださったお陰です。害獣や野盗も魔王様の配下の方々が駆除してくださるので私達は安心して暮らすことが出来ております。私どもは本当に魔王様に感謝してもしきれないと思っているのです」

 勇者のしてくる些細なイタズラというものがどんなものなのか気になるのだが、肝心の勇者の姿を俺はまだ一度も見ていないのだ。どこにいるのか聞いてみても、神出鬼没な勇者がいつどこに現れるのかは全く分からないそうだ。気付いた時には村の食堂でご飯を食べていたり、なぜか学校で生徒と一緒に授業を受けていたりするそうだ。
 行動に一貫性が無いため予測することも出来ないようなのだが、俺が村長との会談を終えて公会堂から外へ出た時に一人の少女が俺に握手を求めてきたのだ。

「魔王さんに会えるの楽しみにしてたんです。この村に来るなんて思っても見なかったですけど、とっても嬉しいな。今日はお城に帰るんですか?」
「俺はすぐに帰ることが出来るから夜になったら帰るよ。あんまりここに居ても気を遣わせちゃうと思うしね。俺に合うのを楽しみにしてたの?」
「うん、色々と魔王さんの噂は聞いているからね。良いことも悪いことも。って、悪い噂は聞いた事ないかもだけど」

 俺は差し出した右手を握られたままなのでそろそろ話して欲しいなと思っていたのだが、少女は一向に俺の手を離すつもりは無いようだ。気が付いた時には手を握られたまま話が続いていた。

「魔王さんってさ、私みたいな美少女でも興奮したりするの?」
「それってどういう意味で?」
「どういう意味って、エッチな意味だよ」
「正直に言って、興奮はしないかな。もちろん状況にもよると思うんだけど、今の状況ではそういう気持ちにはならないね」
「じゃあ、この手を私の胸に当ててキスしたら興奮してくれますか?」
「そんな事しても変わらないかな。お互いにそんな事は望んでないでしょ」
「なんだ、つまんないな。私が聞いてたのとちょっと違ってがっかりしたけど、ちょっと見直したかも。だってさ、噂では魔王ってのは女だったら誰でも見境なく襲ってイカセまくって虜にしちゃうって聞いてたんだもんな」
「俺は別に誰でも見境なく襲ったりはしないよ。そろそろ手を離してもらってもいいかな」
「おっと、手を繋いだままだった。これ以上触れてると私の方が危険になるかもしれないんだよね。だけど、もう手遅れだよ。私の力であんたは最強じゃなくなったんだからね。今日からしばらくの間は気を付けて暮らすんだよ。バーカバーカ」

 少女は離れ際に俺の脛を蹴っていったのだが、その一撃は思っていたよりも重く響いてきた。いったい今のは何だったんだろうと思っていたのだが、あの少女が誰なのか外に出てきた村長が教えてくれた。

「今のはきっと勇者殿だと思います。姿を現すたびに容姿も変わっているので最初は気付かないのですが、あの行動は間違いなく勇者殿でしょう」
「会うたびに姿が変わるって事なのか。そいつは気を付けないといけないな」
「ええ、我々も気を付けてはいるのですが、イタズラが終わった後に初めて勇者殿だったのだと気づくことになるのです」
「イタズラって、どんなことをされるんだ?」
「村にある学校付近で良くイタズラされているのですが、水性のインクで壁に落書きをされたり生徒のノートに勇者殿のサインが書かれていたり、スタイルの良い女性になって肌を露出させて村中を練り歩いていたりするのです。私はスタイルの良い女性だけ見たことが無いのですが、イタズラのターゲットは子供や働き盛りの男性ばかりなのです」
「見た目を変えれるってのは恐ろしい事かもな。最悪の事態を想定すると、俺やあんたに成りすまして好き勝手出来るって事だもんな」
「どうもそう言う事ではないらしいですよ。私も詳しくはないのですが、勇者殿と握手をする事で相手の思考を読み取ることが出来て、相手の志向に合わせた一番好みのタイプに見えるようにするそうです。勇者殿を複数の者が同時に見てもそれぞれ見えている勇者殿の姿は異なるようです。ちなみに、私は勇者殿と握手はしておりません」
「そう言う事なのか。俺は握手をしてしまったけど、好みのタイプってどんなんだろうな。ちょっとだけ自分の好みが気になってしまうかも」

 少しだけ寂しそうにそう話す村長を置いて俺は村の中を散歩してみたのだが、先程から視界の隅で勇者である少女がウロウロしているのが気になってしまった。
 どうせなら俺の好みのタイプになって出てきて欲しいと思っていたのだが、少女は一向にその姿を変えることは無かった。
 すれ違っている男性たちはみんな勇者に見とれているようなのだが、もしかして、俺はあの少女の姿が一番好みだというのだろうか。そんなはずは無いと思いながらも、俺は無感情のまま少女の姿の勇者を見つめていたのだった。
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