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忍者なのとボーナスステージ 前編
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朝早くに起きてしまったので軽く大迷宮を見てきたのだが、中に入ってみるとこれを作ったやつの優しさが溢れているのを肌で感じることが出来た。トラップがある場所はかなり離れた位置から指示が出ているし、近付けば近付くほど注意看板も見やすくわかりやすくなっていた。そして、いざ目の前にトラップが設置されている場所までやってくるとあまりもあからさまに危険を示していたのだ。逆にここまであからさまなのは怪しいとは思うかもしれないのだが、それでもトラップに引っかかり続けるのは難しいと思えた。
何も知らない俺でもトラップを避けているだけである程度はゴールに近づくことが出来たのだが、それだけではただの散歩になってしまうので最後に用意された謎解きがあったおかげで達成感も味わうことが出来たのだ。
そんな事を思いながらゴールにたどり着いてウサギと談笑をしていたのだが、今日はエメラルド色の忍び装束を着た忍者が走ってやってきた。どんなに遠くにいても目立つ服装なので遠い場所にいる時点で気付いてはいたのだが、忍者だけあって気付いてからここまでそれほど時間もかからずに走ってきたのだった。
「おはようございます。今日こそは姑息なトラップに引っ掛けられないようにしますからね。勇者さんにも賢者さんにもアドバイスをいただいてきたので今日の僕は一味違いますよ」
「そのアドバイスが役に立つといいですね。今日もお一人で挑まれるのですか?」
「うん、本当は勇者さんと賢者さんにもついて来てほしかったんだけど、二人ともそんな子供っぽいところは一度で十分だって言っててついて来てくれなかったんだ。でも、二人はそんな僕に知恵と勇気を授けてくれたから大丈夫。今日の僕は今までと違うからね」
「こちらもいつもとは違うサービスを提供させていただきますよ」
「いつもとは違うって、何があるの?」
「なんと、本日に限り、たった今この迷宮を突破したばかりの魔王アスモ様が一緒に迷宮を探索してくれるのです」
「ええええ、そんな事って駄目だよ。僕は全然戦闘向きじゃないのに魔王アスモと一緒に行動するなんて無理無理無理無理」
「そうは言いましても、以前あなたは責任者を出せと言ってましたし、ここの責任者は魔王アスモ様なのでお呼びしたまでですが」
「確かにそう言ったことはあったかもしれないけどさ、いきなり魔王ってのは話が飛び過ぎだと思うよ。普通はもっとこう、段階を踏んで偉い人が出てくるってもんなんじゃないかな。いきなり魔王が出てきたらさ、僕も驚いてしまうってもんだよ。それにさ、僕みたいなのは一人だと一瞬で殺されちゃうよ」
「いや、俺は別にお前を殺そうとは思ってないぞ」
「でも、魔王アスモっていろんな勇者を殺してきたんでしょ。僕の事も殺そうと思ってるんじゃないの?」
「俺は別に誰でも無差別に殺しているわけじゃないぞ。それに、お前は勇者じゃなくて忍者なんだろ。戦う理由も無いじゃないか」
「確かに僕は今は忍者だけどさ、もともとは勇者でもあったんだよね。今の勇者さんに出会ってから僕は勇者をやめて忍者になっただけだし。賢者さんも僕と同じで勇者から転職したんだよ。僕は素早さと器用さをいかして忍者になって、賢者さんは頭の良さとずる賢さをいかして賢者になったんだ」
「お前みたいに元勇者ってのは結構いるもんなのか?」
「いっぱいいると思うよ。魔王になるって選択肢もあったみたいだけどさ、僕たちの周りでは魔王になろうってもの好きは誰もいなかったな。もしかして、魔王アスモさんって元勇者だったりするの?」
「いや、俺は勇者にはならずに魔王を選択した変わり者だよ。死んでしまえばやり直せるって聞いてるから魔王を選んでみたんだけど、俺はどうやらこの世界では死ねないみたいでやり直すことも出来ないんだよな」
「ふーん、魔王さんも意外と大変なんだね。でも、死にたいんだったら僕たちがその願いを叶えてあげてもいいんだよ。勇者さんも賢者さんも魔王アスモくらいだったらいつでも殺せるんだけど、この美しい観光地が無くなってしまうのが惜しいからそれは出来ない。って言ってるからね。死にたいんだったらさ、勇者さんと賢者さんを連れてくるからいつでも言ってくれていいからね」
「そいつは楽しみだな。ところで、どうしてそんな目立つ色の服を着ているんだ?」
「なんでって、目立つ服装の方がいいでしょ。何事も目立ったもん勝ちだからね。なるべくなら悪目立ちしないようには気を付けているんだけどさ」
「忍者なのに忍ばずに目立つって良くないような気もするんだけどな。でも、それがお前の選んだ道だったらそのままでいいと思うぞ。じゃあ、さっそく迷宮に取り掛かろうか」
忍者は後ろをやたらと警戒しながら迷宮の中へ入っていった。魔王が自分の後ろにピッタリと張り付いているのは気が気じゃないとは思うのだが、ここで俺が離れてしまっては一緒に来た意味もなくなってしまう。
もうそろそろ最初のトラップが見えてくる頃合いなのだが、忍者は俺よりも先にトラップを知らせる看板を見付けるて悪態をついていた。
「大体さ、魔物が作った迷宮ってだけでも怖いのに、さらにトラップがあるってのは尋常じゃない怖さがあるね。でも、なんで魔王アスモが僕みたいなちっぽけな忍者の相手を直接してくれるのさ?」
「別に理由はないな。強いて言うのであれば、たまたまタイミングがあったってだけだな。それ以外に理由なんて無い」
「そうなのか。でも、最初のきっかけなんてそんなもんかもね。そろそろトラップがありそうな予感がしてるから気を付けてね。あのトラップに引っかかったら魔王と言えどもただでは済まないと思うよ」
忍者は俺にそう言いながらさっそく一つ目のトラップに引っかかっていた。
お掃除でも大活躍をしているスライムが埋め込まれている落とし穴に落ちた忍者であった。落ちる瞬間に目が合ったのだが、今まで見たことのないような顔で近くには絶望感しかないといったようにも受け取ることが出来た。
あの勢いで落ちてスライムが死んだりしないのかと思っていたのだが、どうやら見た感じでは忍者にダメージが入っているようには思えなかった。
「もう、何度目のスライムだよ。僕もいい加減飽きてきてるんだからさ、ワンパターンはやめてもっとバリエーション増やした方が良いと思うよ。魔王さんもそう思うでしょ?」
「俺は別に何とも思わないぞ。そのトラップは引っかかるやつがいなかったから怪我をしないようにスライムを配置してるって聞いてるしな」
「スライムって意外とべとべとして取れないから嫌なのに。せっかくメイクもしてきたのに全部取れちゃうよ」
「メイクって、忍びなのにそんなに目立つような事してていいのか?」
「別にいいんじゃないかな。これからは個性の時代だってみんな言ってるし、忍者だからって日陰に隠れて活動しなくちゃダメだって決まりはないもん」
「それは別にお前の自由にしたらいいと思うんだけど、忍者じゃなくてもいいんじゃないかな」
「みんなそう言うんだよね。僕は忍者に憧れてたんだから良いんだもん。だってさ、僕には勇者なんてなれっこないのは知ってるし、そんなのは誰も望んでないからね。全然スライムが取れないんだけど、魔王さんどうにかしてよ」
スライムは俺のお願いを聞いてくれたのだが、離れる際に忍者の顔のメイクも綺麗にとってしまった。スッピンになったことに忍者は気付いていないようだったが、なんだか楽しそうにしているので良しとしよう。
「魔王さんってさ、もっと怖い人かと思ってたんだけど、意外といい人だったんだね」
「そんなことは無いと思うぞ。俺は魔王だからお前らの敵ではあるしな」
「それはそうなんだろうけどさ、魔王さんの仲間のモンスターも僕たちを温かく受け入れてくれているし、この国も僕らが前にいたところに比べると比較にならないくらい平和なんだよね。僕らが前にいた世界は魔王を倒したことで人間同士が争い始めちゃって、前よりも多くの人の血が流れたりもしてたんだ。勇者さんも賢者さんもそれは仕方のない事だって言ってこっちの世界に来たんだけど、もっとどうにか出来なかったのかな?」
「勇者と賢者がそう言っていたんなら仕方ない事なんじゃないか。それに、俺は魔王なんで世界が平和になろうが人間同士が争っていようがどうでもいいんだよ。この世界では俺以外のやつに命令されたくないってだけだしな」
「魔王さんも僕たちと同じ転生組だって事はさ、元は人間って事なんでしょ?」
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
「僕が人間だった時にさ、魔王さんみたいな人が近くにいれば良かったなって思ったんだよね。だって、魔王さんは僕が忍者に憧れているのにメイクしたり派手な服を着てても認めてはくれたもんね。僕って、あっちの世界では男の子の体だったんだけど心はずっと女の子だったんだ。それでいじめられることが多くて、こっちの世界に来ることになっちゃったんだけど、今はそれで良かったんだって思ってるよ。お父さんもお母さんもお兄ちゃんも僕の事をちゃんと見てくれなかったんだもん。僕はただありのままの僕を見て欲しかっただけなんだけど、みんな僕の事を変な目で見てきたんだ。でも、今はこっちの世界で体も女の子になれたんだから良いんだもん。それとね、勇者さんと賢者さんも僕と同じ悩みを持ってたんだよ。性別は逆なんだけどね」
「俺はお前の事は何も知らないから無責任な事を言うけどさ、お前がそれでいいって思うんだったら好きにしたらいいと思うよ。お前の周りがどう言おうがお前の人生なんだし、忍者を選んだからって忍者らしく過ごす必要も無いって事だからな。だからさ、俺の首に刃物を押し付けるのはやめてくれないかな」
「あれ、忍者の本能が僕の意思とは別に無防備な魔王さんの首元を狙ってしまったかも。ごめんね、悪気はなかったんだよ。だから、許してね」
「そうか、悪気が無いんだったら許そうな」
俺は首元に突き付けられた短刀をそっと掴んで離すと、空いた左手で忍者の胸を揉んでみた。忍び装束の上からでもわかるくらい形がハッキリしていたので大きいんだろうなとは思っていたのだけれど、実際に手を入れて触ってみると忍び装束と体の間には不自然な空間が広がっていた。
手を入れても自由に動かすことが出来るくらい隙間が空いていた。そんな俺の顔を忍者は困った顔をしてじっと見てきていた。俺は思わず手を抜いてしまったのだが、その時に少しだけ触れた肉は汗ばんでいるのかしっとりとして柔らかかった。
「もう、いきなりそんな事したらダメなのに。悪気が無いって嘘だよね?」
「嘘じゃないよ。本当に悪気なんて無いからさ」
「それならいいんだけどさ。でも、僕の事をちゃんと名前で呼んでくれるんだったら少しくらい触ってもいいよ」
「触っても良いって、そう言う趣味があるのか?」
「趣味じゃないよ。前の世界でも触られたりはしてたし。男の子同士でそんなことするのは変だって思ってたんだけど、僕は女の子だから大丈夫って言われたし。だから、魔王さんに触られたって平気だもん」
「ごめんごめん。勝手に触ったりしないから気を悪くしないでな」
「僕は大丈夫だよ。それに、僕の名前はなのだから名前で呼んで欲しいな」
俺は笑顔なのに嫌そうにしている人を初めて見た。こいつの過去に何があったかはわからないが、いい思い出ではないように思えていた。そんな思い出が無くなることは無いと思うが、せっかく生まれ変わって好きなことが出来るようになったんだし、この迷宮も楽しめるようになるといいなと思ってしまった。
俺も魔王である前に一人の人間だという事なのだろうか。
何も知らない俺でもトラップを避けているだけである程度はゴールに近づくことが出来たのだが、それだけではただの散歩になってしまうので最後に用意された謎解きがあったおかげで達成感も味わうことが出来たのだ。
そんな事を思いながらゴールにたどり着いてウサギと談笑をしていたのだが、今日はエメラルド色の忍び装束を着た忍者が走ってやってきた。どんなに遠くにいても目立つ服装なので遠い場所にいる時点で気付いてはいたのだが、忍者だけあって気付いてからここまでそれほど時間もかからずに走ってきたのだった。
「おはようございます。今日こそは姑息なトラップに引っ掛けられないようにしますからね。勇者さんにも賢者さんにもアドバイスをいただいてきたので今日の僕は一味違いますよ」
「そのアドバイスが役に立つといいですね。今日もお一人で挑まれるのですか?」
「うん、本当は勇者さんと賢者さんにもついて来てほしかったんだけど、二人ともそんな子供っぽいところは一度で十分だって言っててついて来てくれなかったんだ。でも、二人はそんな僕に知恵と勇気を授けてくれたから大丈夫。今日の僕は今までと違うからね」
「こちらもいつもとは違うサービスを提供させていただきますよ」
「いつもとは違うって、何があるの?」
「なんと、本日に限り、たった今この迷宮を突破したばかりの魔王アスモ様が一緒に迷宮を探索してくれるのです」
「ええええ、そんな事って駄目だよ。僕は全然戦闘向きじゃないのに魔王アスモと一緒に行動するなんて無理無理無理無理」
「そうは言いましても、以前あなたは責任者を出せと言ってましたし、ここの責任者は魔王アスモ様なのでお呼びしたまでですが」
「確かにそう言ったことはあったかもしれないけどさ、いきなり魔王ってのは話が飛び過ぎだと思うよ。普通はもっとこう、段階を踏んで偉い人が出てくるってもんなんじゃないかな。いきなり魔王が出てきたらさ、僕も驚いてしまうってもんだよ。それにさ、僕みたいなのは一人だと一瞬で殺されちゃうよ」
「いや、俺は別にお前を殺そうとは思ってないぞ」
「でも、魔王アスモっていろんな勇者を殺してきたんでしょ。僕の事も殺そうと思ってるんじゃないの?」
「俺は別に誰でも無差別に殺しているわけじゃないぞ。それに、お前は勇者じゃなくて忍者なんだろ。戦う理由も無いじゃないか」
「確かに僕は今は忍者だけどさ、もともとは勇者でもあったんだよね。今の勇者さんに出会ってから僕は勇者をやめて忍者になっただけだし。賢者さんも僕と同じで勇者から転職したんだよ。僕は素早さと器用さをいかして忍者になって、賢者さんは頭の良さとずる賢さをいかして賢者になったんだ」
「お前みたいに元勇者ってのは結構いるもんなのか?」
「いっぱいいると思うよ。魔王になるって選択肢もあったみたいだけどさ、僕たちの周りでは魔王になろうってもの好きは誰もいなかったな。もしかして、魔王アスモさんって元勇者だったりするの?」
「いや、俺は勇者にはならずに魔王を選択した変わり者だよ。死んでしまえばやり直せるって聞いてるから魔王を選んでみたんだけど、俺はどうやらこの世界では死ねないみたいでやり直すことも出来ないんだよな」
「ふーん、魔王さんも意外と大変なんだね。でも、死にたいんだったら僕たちがその願いを叶えてあげてもいいんだよ。勇者さんも賢者さんも魔王アスモくらいだったらいつでも殺せるんだけど、この美しい観光地が無くなってしまうのが惜しいからそれは出来ない。って言ってるからね。死にたいんだったらさ、勇者さんと賢者さんを連れてくるからいつでも言ってくれていいからね」
「そいつは楽しみだな。ところで、どうしてそんな目立つ色の服を着ているんだ?」
「なんでって、目立つ服装の方がいいでしょ。何事も目立ったもん勝ちだからね。なるべくなら悪目立ちしないようには気を付けているんだけどさ」
「忍者なのに忍ばずに目立つって良くないような気もするんだけどな。でも、それがお前の選んだ道だったらそのままでいいと思うぞ。じゃあ、さっそく迷宮に取り掛かろうか」
忍者は後ろをやたらと警戒しながら迷宮の中へ入っていった。魔王が自分の後ろにピッタリと張り付いているのは気が気じゃないとは思うのだが、ここで俺が離れてしまっては一緒に来た意味もなくなってしまう。
もうそろそろ最初のトラップが見えてくる頃合いなのだが、忍者は俺よりも先にトラップを知らせる看板を見付けるて悪態をついていた。
「大体さ、魔物が作った迷宮ってだけでも怖いのに、さらにトラップがあるってのは尋常じゃない怖さがあるね。でも、なんで魔王アスモが僕みたいなちっぽけな忍者の相手を直接してくれるのさ?」
「別に理由はないな。強いて言うのであれば、たまたまタイミングがあったってだけだな。それ以外に理由なんて無い」
「そうなのか。でも、最初のきっかけなんてそんなもんかもね。そろそろトラップがありそうな予感がしてるから気を付けてね。あのトラップに引っかかったら魔王と言えどもただでは済まないと思うよ」
忍者は俺にそう言いながらさっそく一つ目のトラップに引っかかっていた。
お掃除でも大活躍をしているスライムが埋め込まれている落とし穴に落ちた忍者であった。落ちる瞬間に目が合ったのだが、今まで見たことのないような顔で近くには絶望感しかないといったようにも受け取ることが出来た。
あの勢いで落ちてスライムが死んだりしないのかと思っていたのだが、どうやら見た感じでは忍者にダメージが入っているようには思えなかった。
「もう、何度目のスライムだよ。僕もいい加減飽きてきてるんだからさ、ワンパターンはやめてもっとバリエーション増やした方が良いと思うよ。魔王さんもそう思うでしょ?」
「俺は別に何とも思わないぞ。そのトラップは引っかかるやつがいなかったから怪我をしないようにスライムを配置してるって聞いてるしな」
「スライムって意外とべとべとして取れないから嫌なのに。せっかくメイクもしてきたのに全部取れちゃうよ」
「メイクって、忍びなのにそんなに目立つような事してていいのか?」
「別にいいんじゃないかな。これからは個性の時代だってみんな言ってるし、忍者だからって日陰に隠れて活動しなくちゃダメだって決まりはないもん」
「それは別にお前の自由にしたらいいと思うんだけど、忍者じゃなくてもいいんじゃないかな」
「みんなそう言うんだよね。僕は忍者に憧れてたんだから良いんだもん。だってさ、僕には勇者なんてなれっこないのは知ってるし、そんなのは誰も望んでないからね。全然スライムが取れないんだけど、魔王さんどうにかしてよ」
スライムは俺のお願いを聞いてくれたのだが、離れる際に忍者の顔のメイクも綺麗にとってしまった。スッピンになったことに忍者は気付いていないようだったが、なんだか楽しそうにしているので良しとしよう。
「魔王さんってさ、もっと怖い人かと思ってたんだけど、意外といい人だったんだね」
「そんなことは無いと思うぞ。俺は魔王だからお前らの敵ではあるしな」
「それはそうなんだろうけどさ、魔王さんの仲間のモンスターも僕たちを温かく受け入れてくれているし、この国も僕らが前にいたところに比べると比較にならないくらい平和なんだよね。僕らが前にいた世界は魔王を倒したことで人間同士が争い始めちゃって、前よりも多くの人の血が流れたりもしてたんだ。勇者さんも賢者さんもそれは仕方のない事だって言ってこっちの世界に来たんだけど、もっとどうにか出来なかったのかな?」
「勇者と賢者がそう言っていたんなら仕方ない事なんじゃないか。それに、俺は魔王なんで世界が平和になろうが人間同士が争っていようがどうでもいいんだよ。この世界では俺以外のやつに命令されたくないってだけだしな」
「魔王さんも僕たちと同じ転生組だって事はさ、元は人間って事なんでしょ?」
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
「僕が人間だった時にさ、魔王さんみたいな人が近くにいれば良かったなって思ったんだよね。だって、魔王さんは僕が忍者に憧れているのにメイクしたり派手な服を着てても認めてはくれたもんね。僕って、あっちの世界では男の子の体だったんだけど心はずっと女の子だったんだ。それでいじめられることが多くて、こっちの世界に来ることになっちゃったんだけど、今はそれで良かったんだって思ってるよ。お父さんもお母さんもお兄ちゃんも僕の事をちゃんと見てくれなかったんだもん。僕はただありのままの僕を見て欲しかっただけなんだけど、みんな僕の事を変な目で見てきたんだ。でも、今はこっちの世界で体も女の子になれたんだから良いんだもん。それとね、勇者さんと賢者さんも僕と同じ悩みを持ってたんだよ。性別は逆なんだけどね」
「俺はお前の事は何も知らないから無責任な事を言うけどさ、お前がそれでいいって思うんだったら好きにしたらいいと思うよ。お前の周りがどう言おうがお前の人生なんだし、忍者を選んだからって忍者らしく過ごす必要も無いって事だからな。だからさ、俺の首に刃物を押し付けるのはやめてくれないかな」
「あれ、忍者の本能が僕の意思とは別に無防備な魔王さんの首元を狙ってしまったかも。ごめんね、悪気はなかったんだよ。だから、許してね」
「そうか、悪気が無いんだったら許そうな」
俺は首元に突き付けられた短刀をそっと掴んで離すと、空いた左手で忍者の胸を揉んでみた。忍び装束の上からでもわかるくらい形がハッキリしていたので大きいんだろうなとは思っていたのだけれど、実際に手を入れて触ってみると忍び装束と体の間には不自然な空間が広がっていた。
手を入れても自由に動かすことが出来るくらい隙間が空いていた。そんな俺の顔を忍者は困った顔をしてじっと見てきていた。俺は思わず手を抜いてしまったのだが、その時に少しだけ触れた肉は汗ばんでいるのかしっとりとして柔らかかった。
「もう、いきなりそんな事したらダメなのに。悪気が無いって嘘だよね?」
「嘘じゃないよ。本当に悪気なんて無いからさ」
「それならいいんだけどさ。でも、僕の事をちゃんと名前で呼んでくれるんだったら少しくらい触ってもいいよ」
「触っても良いって、そう言う趣味があるのか?」
「趣味じゃないよ。前の世界でも触られたりはしてたし。男の子同士でそんなことするのは変だって思ってたんだけど、僕は女の子だから大丈夫って言われたし。だから、魔王さんに触られたって平気だもん」
「ごめんごめん。勝手に触ったりしないから気を悪くしないでな」
「僕は大丈夫だよ。それに、僕の名前はなのだから名前で呼んで欲しいな」
俺は笑顔なのに嫌そうにしている人を初めて見た。こいつの過去に何があったかはわからないが、いい思い出ではないように思えていた。そんな思い出が無くなることは無いと思うが、せっかく生まれ変わって好きなことが出来るようになったんだし、この迷宮も楽しめるようになるといいなと思ってしまった。
俺も魔王である前に一人の人間だという事なのだろうか。
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