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とりあえず、魔王になってみた 後編

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 不思議な事に相手の剣は俺に届く前に粉々に砕け散っていた。それと同時に俺を掴んでいた巨大な手はボロボロに朽ち果てていて、大男も膝をついてこちらを睨みつけていた。

「なんで、俺の攻撃が一切合切効いていないんだよ。こんなのって聞いてないぞ」
「俺の絶対に拘束できるこの手も一瞬で砕かれてしまったようだ。もしや、この世界の魔王は我々よりも強いのか?」
「だから言ったじゃないですか。力を与えられたからってバカみたいに無鉄砲にやみくもに突っ込んだって勝てないって。私は言いましたよね。もう、あなた達二人がちゃんとしてないと私は困っちゃうんですからね。勇者なんだったら勇者らしく勇敢に散ってください。せめて、私だけでも無事に元の世界に戻してくださいよ」
「おい、何言ってんだよお前は。お前だって究極魔法であっという間に終わらせるって言ってたじゃないか。そんなのがあるんだったらさっさとぶっ放して終わらせろよ。このままだったら俺達は攻撃手段を失ったまま逃げることになるぞ。そうか、いったん逃げて体勢を立て直して再挑戦すればいいんだ。ここは戦略的撤退だ。って、なんでアキラがいないんだ?」

 アキラというのは俺の事を掴んでいた大男の事なんだろうな。俺もどうやったのかわからないので手加減なんて出来なかったのだが、掴んでいた手を振りほどいた後にその流れでアキラの事もやってしまったらしい。俺自身も自分が何を出来るのかわかっていないという事もあるので、この勇者達に俺の力がどれくらい通用するのか試してみる価値はありそうだ。

「おいおいおいおい、アキラはやられちゃったって事なのかよ。そんなの聞いてないよ。死んだらどうなるって言うんだよ」
「死んでも生き返れるって言われてたけど、その際は別の世界で転生することになるって言ってたような。それってさ、この魔王よりも弱い魔王のいる世界に行けるかもしれないって事じゃないかな。それだったら私もやり直してみたいかも。今度は私が勇者になれるかもしれないし」
「はあ、何言ってんだよ。次も俺が勇者で活躍して世界からの称賛を一身に受けるんだよ。お前は俺の後ろでサポートしてくれればいいんだって」
「そんなの嫌なんですけど。私がなんであんたのサポートで終わらなきゃいけないのよ。せっかく転生出来たんだから私だって主役になりたいわよ。大体、マモルって名前なのに仲間も守れないやつに勇者が務まるわけも無いでしょ。いい加減にしてよね」
「ああ、それは言っちゃいけないんだ。俺だってちゃんとこの魔王の事を知ってたら違うやり方で討伐してたもんね。それに、お前だって優子って名前なのに全然優しくないじゃん。優しいっていうよりもヤラシイ体してるじゃん。そんなんで魔法使いとか言われても説得力無いんですけど」
「あんたバカじゃないの。そんな目で私の事を見るのやめてもらってもいいですか。気持ち悪いんですけど。そんなこと言われてこれから先あんたと一緒に過ごしたいなんて思えないんですけど。つか、私がどんな体をしてようがあんたには関係無いんだし、こいつを倒したらお別れね」
「はあ、その程度で怒るような奴とはやってられないわ。俺もこいつを倒したらお前とはお別れだわ」

 俺はどのタイミングで仕掛ければいいのかわからず、ただ黙って二人のやり取りを見ていたのだ。二人ともお互いに対する憎悪の力が膨らんでいるようで、俺の目には二人が物凄い力を貯めているのが見えていた。
 そうか、こうして注目して見ていると相手がどれくらい強いのかわかったりもするのだな。相手の強さがわかったところで、俺がどれくらい強いのかわかってないので意味は無さそうなのだが、とにかく強さがわかるのは良いことだと思った。
 それにしても、こいつらのやり取りは本当に仲間なのかと心配になってしまうほどだった。たぶん、知り合って間もないのだろうけど、それでも少しは協調性をもって戦えばいいのにと思ってしまう。

「油断したな。俺の武器が剣だけだと思ってるな。食らいやがれ、我が必殺の一撃を!!」

 勇者マモルはいつの間にか手にしていた先端が鋭くなっている槍を俺に向かって突き出していた。その速さはまさに電光石火といった感じで目にもとまらぬ速さであった。
 ただ、俺に対しては何の効果も無いようだった。

「マモル避けて。私の最強の核爆魔法を発動するわ。この一撃はどんな物質にも効果があるって聞いてるし、あなたも巻き込んでしまうかもしれないのよ。大丈夫、これはターゲットを絶対に外さないから」

 魔法の事は詳しくないんだが、核爆魔法というのはとても嫌な印象を持つ名前だ。そもそも、こんな街中でそんな魔法を使っても平気なのかという思いもあるのだが、さすがにそこまで広範囲の魔法を使うことは無いだろう。
 魔女優子の魔法で俺を包み込むような結界が出来たのだが、その中で爆発を起こすようだ。確かに、これでは結界を破らなくては確実に俺にダメージを与えることも出来るのだろう。それも、周りの建物に被害が及ばないように俺を中心にして小さな結界が展開されているので確実に俺だけをどうにかするもののようだ。
 俺の体が結界の中心に吸い込まれるような感覚に襲われたと思ったと同時に世界が一瞬でホワイトアウトした。何も見えず聞こえない空間で前後左右だけではなく上下もわからなくなってしまったのだが、俺が意識を取り戻した時には、なぜか右手に勇者マモルの首を手にしていたのだ。

「なんで、なんで私の魔法を受けて平気でいられるのよ。もう無理、助けてください。なんでも言う事を聞きますから、命だけは」
「なんでも言う事を聞くって、本当?」
「はいはい、本当です。なんでも言う事を聞きます。だから、許してください」
「じゃあ、魔王っぽいことしてみようかな」

 俺は手に持っていた勇者の首をその辺に投げ捨てると、魔女優子のもとへと歩を勧めた。
 さっきまで気にしていなかったのだが、勇者マモルの言っていた通りで魔女優子は確かにいやらしい体つきをしている。せっかく異世界で魔王になったんだし、少しくらいい思いをしても悪くないのではないかと考えた。いや、魔王として正しい行動をして何が悪いのだ。

「それにしても、勇者の言った通りで凄い体をしているな」
「ひぃ、そんなことは無いです。ただ、転生する時に人間ではない種族を選んでしまったためだと思います」
「種族を選んだ?」
「はい、私は昔から魔法を使ってみたいと思ってまして、魔法使いを選んだのですが、その時に種族を妖精にしてみたんです。ちょっと露出が多いのが気になりましたが、この体を隠すのも良くないと思ってきたところ、ちょうど魔王様にお会いしまして、今ではそれで良かったんじゃないかと思っています。あの、私を生かしていただけるのでしたら何をされてもかまいません。ですが、気が変わって殺そうと思ったのでしたら、苦しまずに殺していただけるとありがたいのですが」
「そんな事はしないって。でも、ちゃんと君の事を色々と教えてもらわないとね」

 難易度選択に関しては最初は失敗してしまったみたいだが、今回は全て俺の思っているような結果になっているな。邪魔な男はみんないなくなったし、綺麗なお姉さんと二人で楽しむことにしますか。
 これからボーナスステージが始まるって事ですね。
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