34 / 46
聖騎士の息子 最終話
しおりを挟む
僕の事で二人が揉めているらしいという事はわかったのだけれど、僕の事を取りあおうとしているわけではないという事がわかって少しだけほっとしていた。女性に言い寄られるだけでも面倒だというのに、男性にまでそんな風に見られてしまうというのは面倒だという言葉で片付けるには骨が折れてしまいそうなのだ。
「隣って、まさかあの男の隣にいるというのか?」
「そうですけど、それがどうかしたんですか?」
「何という事だ。もしや、彼は僕が倒すべき真の相手なのか?」
「何言っているんですか。正樹は良い人ですよ。母さんたちの事はちょっとショックだったけど、父さんも命を助けられたって言ってたし」
「そこも引っかかるんだよ。そもそも、団長殿が襲われた時にも違和感を覚えたのだが、あんな場所で団長殿が勝てないような相手に遭遇するというのはおかしい話だとは思わないかな。それも、都合よくそれを退治できる人間がたまたま居合わせるというのも不自然だと思うのだが」
「考えすぎだと思いますよ。父さんはそんな風に思っていないみたいですし、他の団員さんだってそう思っている方はいないんじゃないですかね。聞いてみたらどうですか?」
「心配しないでくれ。何度も何度も団員連中には聞いているのだよ。みんな僕の話を真剣に聞いてくれるものはいなかったのだよ。父上や母上も僕の意見なんて聞いてくれなかった。でもね、君は僕の話をちゃんと聞いてくれたんだ。誰よりも真剣に僕の話を聞いてくれた。それだけで君は価値があるよ。そうだ、僕の右腕として聖騎士団に入っては貰えないだろうか。僕の推薦と君の父上の推薦があれば問題なく入れるだろう。どうだ、君は僕のために聖騎士団に入らないか?」
「待ってくださいよ。聖騎士団って個人のために活動するもんではないでしょ。大体、僕はあなたのために何かをしようだなんて思ったことは無いですから。そもそも、僕とあなたは赤の他人ですよね?」
「何を言っているんだね。近いうちに僕と君は義理の兄弟になるのだよ。僕の弟になる君はもっともっと僕を信じてついてくればいいんだよ」
「いや、義理の兄弟にはならないでしょ」
「そんな事を言っていいのかな。僕があの男を殺してシギ殿にかけられている呪いを解いたあかつきには正式に交際を申し込もうと思っているのだがね」
「万が一ですよ。万が一正樹に勝てたとして、シギはあなたと交際しないと思いますよ」
「どうしてそんな事を言うのかね。そんなはずはないだろう」
「シギの好みってあなたみたいな軟弱な人じゃないですからね。父さんみたいに体がしっかりした人が好きって正樹に言ってたの聞きましたから」
「そうか、それは良い事を聞いた。これからトレーニングの量を増やして団長殿のような肉体を手に入れるべきなのだな。だが待てよ、彼は全然筋肉質じゃないぞ」
「そんなのは知らないですよ。シギに直接聞けばいいじゃないですか」
「その前にだ、僕にはやることがあるのだ」
僕は少しずつ二人に近付いて行ったのだけれど、コウコは僕の存在に全く気付いていなかったようだった。その証拠に、僕と目が合うとばつの悪そうに目を逸らしていたのだ。
名前も知らない聖騎士は奇声を上げながら僕に襲い掛かってきたのだけれど、僕はそれを難なくいなすとコウコを連れて家に戻るのだった。
聖騎士の名前はあえて確認しなかったし、コウコも聖騎士の事は黙っていることにしたようだ。
「ねえ、なんでこの場所にいるってわかったの?」
「近所のおばさんがコウコを見かけたって言ってたからさ」
「近所におばさんなんて住んでたかな。でもさ、あの聖騎士って見た事ないんだけど仮団員とかじゃないのかな?」
「そう言うのもあるのか?」
「一応僕も登録はしているんだけど、非常事態とか欠員が出たとかそういう時にだけ召集される団員がいるんだよ。正規の団員の人たちと一緒にトレーニングをしたりしてるんだけど、あの人は一度も見たことが無かったんだよね」
「どうでもいい事だよ。コウコは聖騎士になりたいの?」
「どうだろう。父さんを見ていると、一緒に戦っていた仲間が死ぬ辛さとかそれ以外にも辛いことは多いんだってわかるからね。今はちゃんとした聖騎士になれるか自分でもわからないんだけど、可能性があるのなら父さんに近づける努力はしておきたいなって思ってたんだよね」
「その努力が叶うといいな。で、今日はなんで家出したんだ?」
「それを正樹が聞くのっておかしいよ。でもさ、僕は正樹みたいな人が女性に惚れられる能力を手に入れてよかったって思うよ」
「どうして?」
「だって、さっきみたいな変な男が手に入れてたとしたら、絶対によくない事をすると思うからね」
「それは間違いないな」
街灯も無い暗い道を二人並んで歩いていた。
時折雲間から差す月明かりに照らされたコウコの横顔は昼間に見た時よりもずっと精悍な顔つきになっているように思えた。
家についた僕はコウコに言った。
「今日はまっすぐ家に帰らないで、いったん庭にある小屋に寄ってから帰るといいよ。コウコが出ていったのを見たセレさんも心配していたからね」
「……そうするよ」
照れ臭そうに扉をノックしたコウコはゆっくりと開いた扉の中へと消えていった。
その横顔は年相応の少年のようにも見えたし、戦いから帰ってきた勇者のようにも見えたのだった。
「隣って、まさかあの男の隣にいるというのか?」
「そうですけど、それがどうかしたんですか?」
「何という事だ。もしや、彼は僕が倒すべき真の相手なのか?」
「何言っているんですか。正樹は良い人ですよ。母さんたちの事はちょっとショックだったけど、父さんも命を助けられたって言ってたし」
「そこも引っかかるんだよ。そもそも、団長殿が襲われた時にも違和感を覚えたのだが、あんな場所で団長殿が勝てないような相手に遭遇するというのはおかしい話だとは思わないかな。それも、都合よくそれを退治できる人間がたまたま居合わせるというのも不自然だと思うのだが」
「考えすぎだと思いますよ。父さんはそんな風に思っていないみたいですし、他の団員さんだってそう思っている方はいないんじゃないですかね。聞いてみたらどうですか?」
「心配しないでくれ。何度も何度も団員連中には聞いているのだよ。みんな僕の話を真剣に聞いてくれるものはいなかったのだよ。父上や母上も僕の意見なんて聞いてくれなかった。でもね、君は僕の話をちゃんと聞いてくれたんだ。誰よりも真剣に僕の話を聞いてくれた。それだけで君は価値があるよ。そうだ、僕の右腕として聖騎士団に入っては貰えないだろうか。僕の推薦と君の父上の推薦があれば問題なく入れるだろう。どうだ、君は僕のために聖騎士団に入らないか?」
「待ってくださいよ。聖騎士団って個人のために活動するもんではないでしょ。大体、僕はあなたのために何かをしようだなんて思ったことは無いですから。そもそも、僕とあなたは赤の他人ですよね?」
「何を言っているんだね。近いうちに僕と君は義理の兄弟になるのだよ。僕の弟になる君はもっともっと僕を信じてついてくればいいんだよ」
「いや、義理の兄弟にはならないでしょ」
「そんな事を言っていいのかな。僕があの男を殺してシギ殿にかけられている呪いを解いたあかつきには正式に交際を申し込もうと思っているのだがね」
「万が一ですよ。万が一正樹に勝てたとして、シギはあなたと交際しないと思いますよ」
「どうしてそんな事を言うのかね。そんなはずはないだろう」
「シギの好みってあなたみたいな軟弱な人じゃないですからね。父さんみたいに体がしっかりした人が好きって正樹に言ってたの聞きましたから」
「そうか、それは良い事を聞いた。これからトレーニングの量を増やして団長殿のような肉体を手に入れるべきなのだな。だが待てよ、彼は全然筋肉質じゃないぞ」
「そんなのは知らないですよ。シギに直接聞けばいいじゃないですか」
「その前にだ、僕にはやることがあるのだ」
僕は少しずつ二人に近付いて行ったのだけれど、コウコは僕の存在に全く気付いていなかったようだった。その証拠に、僕と目が合うとばつの悪そうに目を逸らしていたのだ。
名前も知らない聖騎士は奇声を上げながら僕に襲い掛かってきたのだけれど、僕はそれを難なくいなすとコウコを連れて家に戻るのだった。
聖騎士の名前はあえて確認しなかったし、コウコも聖騎士の事は黙っていることにしたようだ。
「ねえ、なんでこの場所にいるってわかったの?」
「近所のおばさんがコウコを見かけたって言ってたからさ」
「近所におばさんなんて住んでたかな。でもさ、あの聖騎士って見た事ないんだけど仮団員とかじゃないのかな?」
「そう言うのもあるのか?」
「一応僕も登録はしているんだけど、非常事態とか欠員が出たとかそういう時にだけ召集される団員がいるんだよ。正規の団員の人たちと一緒にトレーニングをしたりしてるんだけど、あの人は一度も見たことが無かったんだよね」
「どうでもいい事だよ。コウコは聖騎士になりたいの?」
「どうだろう。父さんを見ていると、一緒に戦っていた仲間が死ぬ辛さとかそれ以外にも辛いことは多いんだってわかるからね。今はちゃんとした聖騎士になれるか自分でもわからないんだけど、可能性があるのなら父さんに近づける努力はしておきたいなって思ってたんだよね」
「その努力が叶うといいな。で、今日はなんで家出したんだ?」
「それを正樹が聞くのっておかしいよ。でもさ、僕は正樹みたいな人が女性に惚れられる能力を手に入れてよかったって思うよ」
「どうして?」
「だって、さっきみたいな変な男が手に入れてたとしたら、絶対によくない事をすると思うからね」
「それは間違いないな」
街灯も無い暗い道を二人並んで歩いていた。
時折雲間から差す月明かりに照らされたコウコの横顔は昼間に見た時よりもずっと精悍な顔つきになっているように思えた。
家についた僕はコウコに言った。
「今日はまっすぐ家に帰らないで、いったん庭にある小屋に寄ってから帰るといいよ。コウコが出ていったのを見たセレさんも心配していたからね」
「……そうするよ」
照れ臭そうに扉をノックしたコウコはゆっくりと開いた扉の中へと消えていった。
その横顔は年相応の少年のようにも見えたし、戦いから帰ってきた勇者のようにも見えたのだった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ
まみ夜
キャラ文芸
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻(ホラー風味)は現在、更新休止中です。
続きが気になる方は、お気に入り登録をされると再開が通知されて便利かと思います。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる