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聖騎士の息子 第三話

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 聖騎士団団長の助けもあって、僕は寝泊まりする場所を確保することが出来たのだけれど、その前に入国手続きをしなければならないらしい。正直に出身地を書いていいものなのか迷っていたのだけれど、ここで適当な事を書いてあとで誤魔化せなくなるのは大変そうだと思って、出身地の欄には日本と書いておいた。
 不思議な事に、この世界にも日本があるのかと思えるくらい日本に対して理解が進んでおり、僕の入国審査は思っていたよりもスムーズに終わっていった。
 なんでも、この国では四代前の王の時代に今よりも強力な魔物に国土のほとんどを支配されていた時期があったようなのだが、その魔物を全て倒した英雄がいたそうだ。その英雄は日本という聞いたことも無い国からやって来たらしく、それ以降もたびたび日本から人がやってきては小さな問題をいくつも解決していったらしい。
 団長は日本人を見たことが無かったらしく、僕を見ても気付かなかったそうなのだが、現国王であるルドラ六世陛下は僕の顔つきを見ただけで日本人だと気付いたそうだ。国王陛下がまだ幼かった頃に会った日本人に雰囲気が似ていたそうだ。と、聖騎士団団長のノエラが教えてくれたのだ。

「国王陛下も仰っていたが、日本からやってくるものは皆素晴らしい能力を持ち、あるものは想像を絶するような武技を駆使し、またある者は我々のたどり着くことのできない位階の魔法を使いこなすことが出来るそうだな。まさに、正樹殿は人の力を超えた魔法を手足を動かすよりも簡単に使いこなしているのが伝承の通りなのだ。何よりも、正樹殿は私の息子たちとそれほど年も離れていないように見えるのだが、年齢はいかほどなのかな?」
「僕は今年で十六になりますね」
「そうか、それなら私の息子と同じ年齢だな。私の息子は私に似て魔法には明るくないのだが、将来的には聖騎士団の一員としてこの国に貢献したいと言っているのだ。そこで、正樹殿が良ければなのだが、魔法を覚えさせるのは無理だとわかっているので、戦いに向かう際の心の持ち方などを伝授していただくことは出来ないだろうか?」
「そう言われても、僕はあんまり戦いに参加したことが無いんですよ。実際に魔法を使ったのだってあの時が初めてですし、どうやって魔法を使ったのかも最初はわからなかったんです。それなんで、戦いに向けての意気込みとかは全くないんですよね。強いて言えば、彼女に早く会うためにも戦いは時間をかけない方がいいかなって思ったくらいですかね」
「なるほどなるほど。時間をかければかけるだけ反撃される危険性が生まれるという事だな。そのためにも持てる力を使って確実に息の根を止めるのが先決と言うわけだな。だが、我々のように特別な力を持たない者たちはそう上手く戦闘を終わらせることは出来ないと思うのだが、そんな時はどうしたらいいだろうか?」
「そうですね。僕の場合は自分よりも強い人がいたからその人に頼り切ってましたね。へんに弱い人が手を出してグダグダになるよりも、強い人に任せて確実な勝利を手に入れた方がいいと思うんですよね。聖騎士団の力をフルに使って相手よりも多い人数で囲んで一気に叩くっていうのも一つの手じゃないですかね?」
「少数のモノを多数で叩くというのは、それは少し卑怯すぎやしないか?」
「聖騎士団というのは正々堂々と戦うのが信条かもしれませんが、最後に生きていればその辺は何とでもなると思いますよ。相手を全滅させるなり、目撃者を完全に始末するなり口を封じてしまえばいいだけですから。死んでしまえば悲しむ人はいると思いますが、生きて帰れば周りの人は喜んでくれますからね」
「その理屈はわかるのだが、そんな卑怯な手を使って相手に恨まれたりしないかな?」
「生き残ったやつは恨んでくるかもしれませんが、全員始末するなり味方に引き入れてしまえばそんなことは無いんじゃないですかね」
「だがな、人も魔物も死んだ後の怨念が一番怖いと聞くぞ。死んだ者の無念はなかなか晴れることは無いと聞いているのだ。その恨みに対してはどう対処したらいいのだろうか?」
「そんなのは相手にしないで無視してればいいんじゃないですかね。今まで多くの人や怪物とかが信じていくのをこの目で見てこの手で感じてきましたが、一度だって化けて出てきた人はいませんでしたよ。ちゃんと死なないで生き返ろうとしている人はいるみたいですけど、それは恨みとかじゃなく、必要だから生き返らせようとしてるって聞いたことがあるんですよね。だから、恨みとかは気にせずに安全に確実に相手を殺すことを考えるのが一番だと思いますよ。死んで名を遺すよりも生きていた方がいいと思うんですけどね」
「その考えはよくわかるのだが、我々聖騎士団は王の名誉と誇りを胸に刻んでいるゆえ、あまりそういった事は出来ないのだ。それはどうしたらいいのだろうか?」
「そうなんだったら、自分たちが勝てない相手に手を出さなければいいだけじゃないですかね」
「そんな事はわかってはいるのだ。だがな、多くの者を守る立場にもあるわけで、どうしても逃げられない戦いというものもあるのだよ」
「そう言うのって本当にあるんですね。でも、今だったら大丈夫ですよ。そんな時は僕を頼ってくれれば何とか出来ることはしますし、出来なかったとしても何とかしますよ。たぶん、今の僕だったら不死鳥だって殺せると思いますからね」
「不死鳥を殺せるというのは何とも頼もしいものだが、不死鳥は我々聖騎士団の象徴でもあるので出来れば殺さないで逃がしてもらえないだろうか」
「モノの例えですよ。その盾に描かれているのが不死鳥に見えたから行ってみただけですからね」
「これはこれは冗談がきついな。私も本気にしてしまうところだったぞ。そうこうしているうちに我が家が見えてきたな。今日は色々と助けてもらったのでご馳走を用意しているのだけれど、明日以降は質素な食事になるかもしれぬが許してくれ。この国も魔獣の国との戦争であまり物資も潤沢でないのだ。だが、今夜は何も気にせずに楽しんでくれたまえ」
「いや、そんな事を言われたら気にしちゃいますって。でも、せっかくだからこの国の料理を楽しませてもらいますね」

 聖騎士団団長のノエラの家は豪邸と呼んでいいような造りのしっかりした物だった。外から見ると三階建てのように見えたのだけれど、一番上の窓は光を取り入れる採光用のもので、フロア自体は一階と二階の構成になっているのだった。
 階段を駆け下りてくる元気なおそらくノエラの子供なのだろうと思うが、二人とも僕と同じくらいの年齢に見えるのだ。同い年と聞いているので当然なのだが、僕たちの住んでいた世界とは時間の流れが違うのかもと少し期待していたので、その期待が外れたのは少しショックだった。獣人や魔物が普通にいる世界でも人間はどこでも同じ時間軸で生きているのだと実感したのだった。

「お父様お帰りなさい。お母さまから伺っておりますが、そちらの方がこの国を救ってくださる方ですか?」
「俺たちと同い年って聞いてるけど、本当にそんなに強いの?」
「おいおい、挨拶もせずにいきなりそんな事を言い出すのは失礼だろ。二人ともいい子だからまずは挨拶をしようか」
「俺は将来聖騎士団団長になる予定のコウコです。今は修行中なんで強くないけど、絶対に父さんより強くなります」
「私はシギです。父さんやコウコみたいに戦うことは好きではないんですけど、魔法の研究は好きなので将来は国のためにも魔法の研究をしたいと思っています」
「二人とも夢は大きいのだが、その夢が叶ってくれることを願っているよ。さあ、正樹殿も簡単でいいので自己紹介をお願いするよ」
「僕は正樹です。日本人で、この世界のどこかにいると思う彼女を探しています。安心して彼女を探すためにもこの世界をいったん平和に出来ればいいなって思ってます」
「正樹殿の目標は二人の夢よりも大きなモノだが一番現実味があるかもしれないな。それくらい正樹殿は強いのだぞ」
「そんなに強いなら俺の稽古相手になってもらえないかな?」
「それは父さんもお願いしたいのだけれど、正樹殿はとても強い魔法を使うから相手にならないだろうな」
「じゃあ、私に魔法を教えてもらえますか?」
「それも難しいと思うぞ。正樹殿の魔法はこの国にいる魔法使い程度では使いこなせるものがいないと思えるくらいのものだしな。シギが誰よりも強い魔法使いにならないと厳しいかもしれないな」

 僕の答えを聞く前にノエラが答えてくれていたのは助かったと思う。
 最も、僕は人に教えられるような技もないし、魔法を使っているのだってどういう理屈で使えているのかも理解できていないのだ。
 そんな状態で人に教えることは無理だと思うのだ。
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