上 下
21 / 78
獣人編

獣人 第一話

しおりを挟む
 まー君と離れ離れになってしまったので早く会いたいのだけど、まー君がどこにいるのか全く見当もつかなかった。どこにいるのかはわからないけれど、どれくらい一緒にいたら世界が壊れちゃうのかなって思うよね。でも、こうして生きていられるのなら世界が壊れちゃっても関係ないかなって思うかも。
 この世界が壊れたとしても、新しい世界に転生するだけみたいだし、ここがどういう世界なのか興味もモテないんだよね。そんな事よりも、まー君がどこにいるのかが心配で心配でたまらないよ。早く会いたいのに、全然会えそうな予感がしないんだよね。でもさ、そこにいる人に聞いてみたら意外と簡単に見つかるかも。

「すいません。この辺にカッコイイ男の子いませんでした?」
「お前、どこから来たんだ?」
「この辺のもんじゃないだろ」
「人間が何しに来たんだよ。殺すぞ」
「人間の雌一匹か。腹も減ってきたとこだし、食っちまおうぜ」
「そうだな、一人だけじゃ腹の足しにもならないかもしれないけど、何も食わないよりはましだろ」

 何だろう。こっちは質問しただけなのに、なんで私を襲うことになっているのかな。と言っても、私はこの人たちには負けないと思うんだけどね。この中で一番頭のよさそうな人が誰なのか見極めないとな。うん、無理だ。みんな頭悪そうにしか見えない。

「この辺りは俺らの縄張りだって知らないわけはないよな。今からお前は俺たちに食われるんだ。泣きわめいたりしないで大人しくしていろよ。興奮した肉は血が混じって臭くなるからうまくないんだよな!!」
「カッコイイ男の子を見ていないなら話すことも無いんでありがとうございました」
「おい、勝手に話を終わらせて帰ろうとしているんじゃねえぞ」
「そうだ、お前は今から俺らに食われるんだからな。大人しくしてろよ」
「はあ、私を食うってあんたたちが?」
「そうだよ。俺たちが今からお前の肉を骨ごと食ってやるよ。俺たちに出会って逃げなかったことを後悔するんだな」

 この人たちは私を食べるつもりでいるらしい。それも、調理なんかしないで生で骨ごとバリバリといくみたいだ。どうしてそんな発想になるのか理解できないけど、私もこいつらを食ってみたら理解出来るのかな。理解なんかしたくないから食べないけどさ。

 大人しくしていろって言われたから大人しくしているんだけど、この人たちは私の周りをぐるぐると回っているだけで襲ってこないんだよね。何がしたいのかわからないし、早くまー君を探しに行きたいんで、こうしている時間ももったいないな。
 とりあえず、殺すとか食うとか言われたんだから先制攻撃でもしてみようかな。

 私は誰でもいいやと思って一番近い人の腕を掴むと、掴んだままの手を引いて相手の体を私の近くまで持ってきた。体が前かがみになっているところを空いている左手で思いっきり振りぬくと、私が掴んでいた人は私が掴んでいる手首を残して吹っ飛んでいってしまった。殴った瞬間に右手を離せば綺麗に飛んでいったんじゃないかなって感じたな。
 次に近い人を掴もうとしたんだけど、私が一歩踏み出した時にはそこにいた四人が三歩ほど後ろに下がっていた。大げさだなって思って間合いを詰めると、私と目が合った人が泣いているように見えた。泣くとマズくなるって言ってたような気がするけど、私は君たちを食べないのでいくらでも泣いていいよ。なんて思いながら、間合いを詰めた勢いを利用して、思いっきり拳を振り下ろした。拳じゃなくて手を開けば良かったかななんて思ってみたけど、どっちにしろ殺しちゃうから関係ないよね。
 残っているのは三人だけど、三人とも私を食うのはやめたのかな?

「ねえ、私を食べるのはやめたの?」
「はいはいはいはい。やめました、やめました」
「ごめんなさい。僕は最初から乗り気じゃなかったんです」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
「いや、それはどうでもいいんだけどさ。私の質問に答えてもらってもいいかな?」
「はい、何でも答えます。僕たちがわからない答えだったとしても、知っている人を探してきます」
「そこまではしなくていいんだけどさ、この辺にカッコイイ男の子いなかった?」
「カッコイイとは人間基準でしょうか?」
「私基準だからそうなるかもね」
「申し訳ございません。我々は獣人ですので人間とは少々美的センスが異なるのです。よって、我々に人間の容姿の良さを見極めることは難しいかと思います。似顔絵などあれば探すことも出来るのですが」
「似顔絵はないけど、写真ならたくさんあるよ。写真見せるね」

 私はスマホの写真から厳選してプリントアウトしておいたまー君の秘蔵写真を取り出してこいつらに見せてみた。本当は段ボール三つくらいあるんだけど、持って歩くのにも限度ってものがあるんで、今は千五百枚くらいしか持ち歩いていないんだよね。たったこれだけでまー君の良さが伝えきれるのかな?

「あ、見たことがあるなと思っていたら、人間の国に現れた男の魔導士じゃないか?」
「男の魔導士って、あの国で一番強い魔女よりも圧倒的に強いやつか?」
「そうだよ。間違いないって。俺らが人間に化けて侵入した時に見たもん。服装は違ったけど、こんな顔つきだったと思うし、近くに女もたくさんいたからな」
「ねえ、女がたくさんいたってどういうこと?」
「え、理由はわからないですけど、この男の人が女の人たちと戦ってました」
「戦ってただけなの?」
「はい、戦ってただけです。戦ってたというよりも、この男の人がほぼ何もせずにあの場を収めてくれました。僕が見ていた時は、この男の人はほぼ無抵抗な状態で女の人たちの攻撃を無効化してました」

 女に囲まれているって聞いて心配しちゃったけど、一方的に喧嘩を売られただけみたいだし、その後にまー君が誰かと一緒に過ごしているわけでもなさそうだね。

「そう言えば、この男の人が住んでいるとこって、先代の魔女の家だったと思います」
「魔女って何?」
「僕らが魔女と呼んでいるのはいくつかパターンがあるんですけど、人間なのにとんでもない威力の魔法を使う人間を魔女と呼んでるんです」
「で、その魔女っていくつくらいなの?」
「さあ、人間の年齢で言うと五十近いんじゃないでしょうか」
「そうか。おばさんならまー君も本気で相手にしないだろうし、私も一安心かもね。他には何か知っていることはあるの?」
「えっと、魔女の家にはあなたと同じくらいの年の女がいると思いますよ。男もいたと思いますけど」
「それって確かな情報?」
「はい、だって、その人は聖騎士団団長の家に住んでますからね」

 聖騎士団団長ってのはちょっとかっこいい響きだけど、まー君が他の女と一緒に暮らしているってのは腹が立つかも。怒っていいと思うけど、こっそりその女だけどうにかしてみようかな。
 でも、まー君の事は信じているから大丈夫だよね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います

みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」 ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。 何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。 私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。 パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。 設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

処理中です...