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離島編
最終話 次は山奥でお仕事だそうです
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「ただいま帰りました。お兄ちゃんもヒナミちゃんも待っててくれてありがとうね。あたしは学校を休んでヒナミちゃんの様子を見てるって言ったんだけどさ、ママがそんな事をしてないでちゃんと学校に行きなさいって怒るんだよ。あたしは普通にヒナミちゃんが目を覚ますか心配だっただけなのにさ、怒ることなんてないよね。でも、ヒナミちゃんがちゃんと目を覚まして良かったよ」
なんだかいつもより紗雪ちゃんのテンションが高いような気がしますね。何かいい事でもあったんでしょうか?
『お礼が遅くなりましたが、助けていただいてありがとうございます。紗雪ちゃんたちのお陰で私もこうして戻ることが出来たようで、何とお礼を申し上げたらいいのかわかりませんよ』
「良いの良いの。あたしも貴重な経験をさせてもらえたからね。いつもは祓う立場なのにさ、それとは真逆の事をしたんだもんね。たぶんあたしが生きているうちに二度と経験する事も無いと思うし、不謹慎かもしれないけどちょっと楽しかったからね。そうそう、お兄ちゃんにはどうしても言いたいことがあるからちゃんと聞いてよね」
紗雪ちゃんは私に向けてくれていた笑顔から一転してこんな表情をする事があるのだと思うくらいに怒りを浮かべた顔で真白先生の事を睨みつけていた。
「なんでママに買ってきたお土産が可愛い魚の入った置物なのにあたしに買ってきたお土産が魚の骨の立体パズルなのよ。そりゃあたしはこういった立体物が好きだし魚の体の構造が見て取れる模型も好きだよ。でもさ、ママに買ってきたお土産は可愛いのにあたしのは何でこんなにリアルでグロテスクなのよ。それにさ、わざわざ別売りになってる魚の内臓セットとか本当に喜ぶと思ったのかな。悔しいけどさ、これを見た時にちょっと面白いし勉強になるなとは思ったよ。思ったけどさ、なんでママのは可愛いのにあたしにはこういう気持ち悪い系のお土産を買ってくるのかな。あたしが小学生くらいの時だったら本気で喜んでたとは思うけど、もうあたしも子供じゃないんだからね。もう少しまともなモノを買ってきてくれても罰は当たらないと思うけど。まあ、お兄ちゃんがあたしの好きなものを選んでくれたってのは嬉しいことではあるんだけど、こういう時はあたしの好きなものと可愛いものでも買ってくれればいいんじゃないかなって思うよ。叔母さんたちが陰でお兄ちゃんにはヒナミちゃんがいないと何も出来ないって言ってるのを聞いたことが何回もあるけどね、あたしはそのたびにそれを心の中で否定してきたんだよ。でもさ、あたしのために買ってきてくれたお土産を見たらさ、次からその場面に出くわしちゃったら否定出来なくなっちゃうかもしれないって思うよね。ヒナミちゃんがいたらあたしにも可愛いお土産を選んでくれたんじゃないかなって思うくらいにお兄ちゃんの信用は地に落ちてるんだからね。そこだけはちょっと考えてもらえたら嬉しいな。でも、本当は魚の立体模型も別売りの内臓セットも好きだけどね」
私が一緒だったらたぶんこのお土産は選ばせなかったとは思います。百歩譲って真白先生に説得されたとしても、もう一つ何か可愛らしくて普段使いも出来そうなものを選んで提案していたとは思うんですよね。真白先生なりに紗雪ちゃんの事を思って選んだと思うんですけど、若い女の子に渡すようなものではないと思うんですよ。兄妹だからそう言うのを渡すのもありだと言われたら納得するかもしれないですけど、それだけじゃちょっとかわいそうな気もするんですよね。
「そう言えば、ママからの伝言を預かってたのを忘れてたよ。えっとね、確か、次に行くのは島じゃなくて山奥って言ってたよ。あたしも週末になったらそこに行くんだけどさ、ヒナミちゃんと力を合わせてどの霊が悪さをしているのか調べておいて欲しいんだって。あたしが行くとみんな隠れちゃうんでそれっぽい霊がいたらヒナミちゃんがその霊を見張っててね。三日くらいだったらおにちゃんと別の空間にいても大丈夫だと思うけど、あんまり無理はしなくてもいいからね。貴重な体験は一回だけでいいかなって思うからね」
「そうだな。今日から少しずつ別の空間にいても平気なのか確かめてみないとな。これからはある程度離れても大丈夫って事だし、ヒナミも見たくないものを無理してまで見る必要はないからな。俺としては見られても困ることは無いんだけどな」
「お兄ちゃん、なんかその言い方おじさんくさいよ。ちょっとあたしでもひいちゃうかも」
真白先生と同じ空間にいないといけないという制約があったのだけれど、それはこちらの世界に戻された時に少しだけ緩く書き換えられたようだ。どれくらいの時間は慣れていいのかわからないし、どれくらいの距離だけ離れていいのかもわからない。少しずつではあるがそれを試してみる必要があるようだ。
「じゃあ、あたしはママの手伝いしてくるからまたね。お兄ちゃんもヒナミちゃんも気を付けて帰ってね。あ、忘れてた事思い出したけどさ、お兄ちゃんが島で遊んでる間に溜まった事務仕事をお兄ちゃんの事務所に送ってあるからってママが言ってたよ。叔母さん達の分もまとめて送っといたからしばらくはデスクワークを頑張ってね。だって」
明らかに表情が曇っている真白先生は紗雪ちゃんに向かって小さく手を振ると、両肩を落として深くため息をついていた。
私に出来ることならなんでも手伝うつもりで入るのだけれど、物触ることが出来ない私が事務仕事を手伝う事も出来るはずがない。今の私に出来ることは、どれだけの時間どれだけの距離をあけることが出来るのかという検証になるだろう。これはきっと山奥に行った時にも役に立つはずだ。
そんな事を考えていたのだけれど、その思考を読み取ったのか真白先生は何とも恨めしい顔で私の事を見つめていたのだ。これではどちらが幽霊なのかわからないと思ってしまったが、それはただの思い込みだという事はさすがに知ってはいるのであった。
なんだかいつもより紗雪ちゃんのテンションが高いような気がしますね。何かいい事でもあったんでしょうか?
『お礼が遅くなりましたが、助けていただいてありがとうございます。紗雪ちゃんたちのお陰で私もこうして戻ることが出来たようで、何とお礼を申し上げたらいいのかわかりませんよ』
「良いの良いの。あたしも貴重な経験をさせてもらえたからね。いつもは祓う立場なのにさ、それとは真逆の事をしたんだもんね。たぶんあたしが生きているうちに二度と経験する事も無いと思うし、不謹慎かもしれないけどちょっと楽しかったからね。そうそう、お兄ちゃんにはどうしても言いたいことがあるからちゃんと聞いてよね」
紗雪ちゃんは私に向けてくれていた笑顔から一転してこんな表情をする事があるのだと思うくらいに怒りを浮かべた顔で真白先生の事を睨みつけていた。
「なんでママに買ってきたお土産が可愛い魚の入った置物なのにあたしに買ってきたお土産が魚の骨の立体パズルなのよ。そりゃあたしはこういった立体物が好きだし魚の体の構造が見て取れる模型も好きだよ。でもさ、ママに買ってきたお土産は可愛いのにあたしのは何でこんなにリアルでグロテスクなのよ。それにさ、わざわざ別売りになってる魚の内臓セットとか本当に喜ぶと思ったのかな。悔しいけどさ、これを見た時にちょっと面白いし勉強になるなとは思ったよ。思ったけどさ、なんでママのは可愛いのにあたしにはこういう気持ち悪い系のお土産を買ってくるのかな。あたしが小学生くらいの時だったら本気で喜んでたとは思うけど、もうあたしも子供じゃないんだからね。もう少しまともなモノを買ってきてくれても罰は当たらないと思うけど。まあ、お兄ちゃんがあたしの好きなものを選んでくれたってのは嬉しいことではあるんだけど、こういう時はあたしの好きなものと可愛いものでも買ってくれればいいんじゃないかなって思うよ。叔母さんたちが陰でお兄ちゃんにはヒナミちゃんがいないと何も出来ないって言ってるのを聞いたことが何回もあるけどね、あたしはそのたびにそれを心の中で否定してきたんだよ。でもさ、あたしのために買ってきてくれたお土産を見たらさ、次からその場面に出くわしちゃったら否定出来なくなっちゃうかもしれないって思うよね。ヒナミちゃんがいたらあたしにも可愛いお土産を選んでくれたんじゃないかなって思うくらいにお兄ちゃんの信用は地に落ちてるんだからね。そこだけはちょっと考えてもらえたら嬉しいな。でも、本当は魚の立体模型も別売りの内臓セットも好きだけどね」
私が一緒だったらたぶんこのお土産は選ばせなかったとは思います。百歩譲って真白先生に説得されたとしても、もう一つ何か可愛らしくて普段使いも出来そうなものを選んで提案していたとは思うんですよね。真白先生なりに紗雪ちゃんの事を思って選んだと思うんですけど、若い女の子に渡すようなものではないと思うんですよ。兄妹だからそう言うのを渡すのもありだと言われたら納得するかもしれないですけど、それだけじゃちょっとかわいそうな気もするんですよね。
「そう言えば、ママからの伝言を預かってたのを忘れてたよ。えっとね、確か、次に行くのは島じゃなくて山奥って言ってたよ。あたしも週末になったらそこに行くんだけどさ、ヒナミちゃんと力を合わせてどの霊が悪さをしているのか調べておいて欲しいんだって。あたしが行くとみんな隠れちゃうんでそれっぽい霊がいたらヒナミちゃんがその霊を見張っててね。三日くらいだったらおにちゃんと別の空間にいても大丈夫だと思うけど、あんまり無理はしなくてもいいからね。貴重な体験は一回だけでいいかなって思うからね」
「そうだな。今日から少しずつ別の空間にいても平気なのか確かめてみないとな。これからはある程度離れても大丈夫って事だし、ヒナミも見たくないものを無理してまで見る必要はないからな。俺としては見られても困ることは無いんだけどな」
「お兄ちゃん、なんかその言い方おじさんくさいよ。ちょっとあたしでもひいちゃうかも」
真白先生と同じ空間にいないといけないという制約があったのだけれど、それはこちらの世界に戻された時に少しだけ緩く書き換えられたようだ。どれくらいの時間は慣れていいのかわからないし、どれくらいの距離だけ離れていいのかもわからない。少しずつではあるがそれを試してみる必要があるようだ。
「じゃあ、あたしはママの手伝いしてくるからまたね。お兄ちゃんもヒナミちゃんも気を付けて帰ってね。あ、忘れてた事思い出したけどさ、お兄ちゃんが島で遊んでる間に溜まった事務仕事をお兄ちゃんの事務所に送ってあるからってママが言ってたよ。叔母さん達の分もまとめて送っといたからしばらくはデスクワークを頑張ってね。だって」
明らかに表情が曇っている真白先生は紗雪ちゃんに向かって小さく手を振ると、両肩を落として深くため息をついていた。
私に出来ることならなんでも手伝うつもりで入るのだけれど、物触ることが出来ない私が事務仕事を手伝う事も出来るはずがない。今の私に出来ることは、どれだけの時間どれだけの距離をあけることが出来るのかという検証になるだろう。これはきっと山奥に行った時にも役に立つはずだ。
そんな事を考えていたのだけれど、その思考を読み取ったのか真白先生は何とも恨めしい顔で私の事を見つめていたのだ。これではどちらが幽霊なのかわからないと思ってしまったが、それはただの思い込みだという事はさすがに知ってはいるのであった。
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