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離島編

第十七話 意地悪な真白先生と恥ずかしがり屋の忍ちゃん

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 忍ちゃんがゆっくりと真白先生に近付くと、それを受け止めるように真白先生は手を広げて忍ちゃんの事を抱きしめていました。しばらくの間見つめ合っていた二人ですが、忍ちゃんが真白先生の顔を見つめた後に目を閉じると、二人はゆっくりと唇を重ねていました。
 口の動きを見る限りでは舌は使ってないようなんですが、何度も何度も顔を動かして優しいキスをしている姿は初々しさを感じさせて暖かい気持ちにさせられるのでした。ただ、その優しいキスだけでは真白先生は物足りないようで、顔の角度を変えながら少し唇を離して忍ちゃんの唇を舌先で舐めているのです。忍ちゃんもちょっとだけ唇を開けて真白先生の舌を受け入れようとしているみたいなのですが、真白先生は自分から舌を入れるような事はせずに忍ちゃんの動きを待っているみたいです。
「僕、こういうことをするのも初めてなんで鵜崎先生にリードしてもらいたいんですけど、ダメですか?」
「ダメではないけど、忍ちゃんが好きなようにやってくれていいからね。して欲しいことがあったら遠慮しないで言ってくれていいからね」
 忍ちゃんは真白先生に抱き着きながら真白先生の肩に顔を乗せて恥ずかしそうにしています。真白先生の位置からは忍ちゃんの顔は見えていないと思うのですが、忍ちゃんの顔はいつもよりも真っ赤になっていて目も硬く閉じしているので相当恥ずかしい感じになっているんだという事がわかりました。
 でも、そんな忍ちゃんの気持ちを知ってか知らずか、真白先生は自分からは積極的に動こうとはせずに忍ちゃん自ら求めるまで抱きしめているだけで終わらせるつもりなのかもしれないです。目だけでは無く口元を見ても笑っているのがわかるのがその証拠だと思います。
「あの、全然女の子っぽくないからだですけど、僕の事を触ってもらいたいです。鵜崎先生に触って欲しいって思ってます」
「俺に触って欲しいって思ってるんだ。それで、忍ちゃんは俺にどこを触って欲しいのかな?」
「恥ずかしいです。そんなの恥ずかしくて、言えないですよ」
 さっきよりも忍ちゃんが強く抱きしめているようなんですが、忍ちゃんの顔があっちの方を向いてしまったので私の位置からは表情が見えなくなってしまいました。その代わりなのか、真白先生は私の方をチラッとだけ見ると私を挑発するかのようにドヤ顔を見せてきてから忍ちゃんの頭を優しく撫でていました。
 忍ちゃんは真白先生の手に身を委ねながら体を全体的に真白先生側に寄せると、きつく抱き着いていたその腕の力を少しだけゆるめて真白先生の腰に回していました。
「恥ずかしいなら言わなくてもいいけどさ、言ってくれないと俺にはわからないよ。忍ちゃんがどうして欲しいか言ってもらえないとわからないからね」
「あの、緊張して汗をかいちゃったんです。もう一回お風呂に入ってきてもいいですか?」
 忍ちゃんのまさかの提案に私は驚いてしまったのですが、真白先生も私と同じように驚いていました。いや、私以上に驚いていたのかもしれないです。ちょっとだけ動揺している真白先生の姿を見ることが出来たのですが、こんなに珍しいものを見る機会なんて滅多にないので私は忍ちゃんに少しだけ感謝しちゃいました。
「いや、そこまで汗もかいてないと思うし、大丈夫じゃないかな。それにさ、今からお風呂に入り直したとして、お風呂から出るころには伝八さん達も帰ってきちゃうんじゃないかな」
「じいちゃんたちが漁から帰ってくるのはまだまだ先だと思いますよ。今日は鵜崎先生にとっておきを食べさせたいって言ってたんで、いつもよりも遠い場所に行ってると思いますし。でも、鵜崎先生がこのままでもいいって言うんだったら、僕は我慢しますけど、変な匂いとかしたらごめんなさい」
「変な匂いなんてしないよ。忍ちゃんからはいい匂いしかしてないし。それに、その汗だってべとべとしてないサラサラな感じだから気にする必要もないと思うよ」
 そう言いながらも忍ちゃんの匂いを嗅いでいる真白先生なんですが、その姿はちょっと変態っぽいですね。言葉にするだけでも十分だと思うんですけど、実際に匂いを嗅ぐ必要なんてあるんですかね。私にはさっぱり理解出来ないですよ。
 真白先生は忍ちゃんの匂いを嗅ぎながらも首元や耳なんかにキスをしているのですが、真白先生の唇が触れるたびに忍ちゃんが可愛らしい反応をしているのでちょっとドキドキしてしまいました。私は幽霊なのにこんなにドキドキするもんなんだなと思ったのですが、この反応は身体的なものではなく精神的なものなんでしょうね。
「あ、あの。そんなに匂いをかがれると恥ずかしいです。本当に、変な匂いとかしてないですか?」
「どうだろう。ちょっとだけさっきと違う匂いがしてるかも」
「うう、ごめんなさい。やっぱりお風呂入ってきます」
 忍ちゃんは真白先生から離れてお風呂に行こうとしたみたいなのだけれど、真白先生はそれを許さないと言うように強く抱きしめると、もう一度忍ちゃんの頭を撫でて優しく説得するように囁いていた。
「忍ちゃんから感じる違う匂いってさ、さっきまでとは違ってエッチな感じなんだよ。忍ちゃんは俺にどうして欲しいかわかってるんでしょ。それを俺に言ってくれてもいいんだからね」
 忍ちゃんは私のいない方を向いて微かに聞こえる程度の声で真白先生にお願いをしていたました。
 それを聞いた私は、ついに始まってしまうのだという事を認識してしまったのでした。
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