41 / 64
離島編
第十三話 おばあさんと八基の鳥居
しおりを挟む
おばあさんの部屋はまるで神社に来たかのような作りになっていた。幽霊である私が入っていいのか躊躇してしまっていたのだけれど、おばあさんが私にも中に入るようにと優しく言ってくれたので信じて中へと入って行くことにしたのだ。
「さっきはすまなかったね。てっきり忍に悪さでもするのかと思ってたからね。でも、よくよく考えてみると先生と一緒にいるんだから悪さするはずも無いって気付いたんだよ」
『謝らないで大丈夫ですよ。でも、私の姿がハッキリ見えてるんですか?』
「今はハッキリと見えていますよ。この部屋だと見えにくいものも見えるようになるんでね」
『そうなんですか。でも、この部屋ってあまり生活感ないですよね。ここでいつも過ごしてるんですか?』
「まさか。ここは特別な時にしか入らないよ。今日は鳥島で何があったか教えてもらいたくてね。私が知っている事と同じモノを見たんだとしたら、教えなくちゃいけないこともあるって事だからね。伝八から軽くは聞いているけど、あんた達三人からもちゃんと教えてもらわないといけないからね」
私も真白先生も忍さんもあの島の頂上で何を見たかは説明した。見た後で忍さんが何をしたのかはさすがに言わなかったのだけれど、おばあさんは頂上にあった鳥居の話を聞いて少し困ったような顔をしていた。
「あんた達が見た八基の鳥居の高さは腰くらいだったって事なのかい?」
「そうですね。私もヒナミも立ったままくぐるのは無理でしたからね。僕の腰よりは少し低いくらいでしたけど」
「膝くらいの高さではなく、腰までの高さがあったって事で間違いないんだね?」
「うん、間違いないよ。僕もそう感じたし。膝くらいの高さだったら中を見てみようなんて思わないだろうしね」
「いつの間にかそんな時期になっちまったって事なんだね。あんた達が見た女の人って、恨みのこもった目で見てきていたかい?」
『そう言う目ではなかったと思いますよ。どちらかというと、私たちにあまり関わりたくないと言った感じだったような気がします』
おばあさんは私の言葉を聞いて目を見開いて驚いていました。それを目の前で見た私も少し驚いてしまいましたが、真白先生と忍さんはあまり気にしていない様子でした。
「水神様があんた達に対して何を思ったのかわからないけど、もう以前の時の恨みは残ってないって事なのかもね。それがわかっただけでもあんたを呼んだ甲斐があったってもんだね」
「それって、どういう意味なの?」
おばあさんの言っている事が理解出来ないのは私だけではなく忍さんも同じだったようで、私の代わりに忍さんはおばあさんに色々と聞いてくれていた。
そこでわかった事なのだが、真白先生がこの島に呼ばれたのは鳥島にいる水神様の祟りを鎮める方法を探すためだったそうだ。
なんでも、忍さんのお母さんもおばあちゃんも水神様の祟りを鎮めるために犠牲になったそうで、そう遠くない将来に忍さんが子供を産んだ時にはその二人と同じように水神様に命を捧げなくてはいけないという事になっている。だが、その風習をいつまでも続けることは出来ないと思った島の多くの人が鵜崎家に救いを求めてきたところ、女性では水神様を説得することが出来ないという事がわかって真白先生が派遣されるという事になったそうだ。
ただ、真白先生が水神様を説得出来るとは到底思えないのだけれど、解決に向けて何かのきっかけになればいいくらいの気持ちで行かされたのだと後で聞いた時には真白先生も少しだけ怒っていたように見えたのだった。
「でも、僕と鵜崎先生しか頂上にある鳥居を見てないんだけど、信じても平気なの?」
「そりゃ信じるさ。鳥島にあるのは鳥居じゃなくて社祠だからね。それなのに、あんた達は頂上にあるのが鳥居だと言ったじゃないか。それも、何かを守るように八基の鳥居が建っていたのを見たという事は、水神様に招かれたって事だからね。ばあちゃんも若い時に一度その光景を見た事があったんだけど、その時の水神様はとても恐ろしい顔でこっちを見てたんだよ。あの顔は今思い出しても恐ろしくて震えあがっちまうけど、あんたらが見たのはそうじゃなかったって事なんだからね。もう、水神様の祟りに怯えなくても良くなるって事なのかもしれないよ」
『よくわからないのは私だけなのかもしれないですけど、水神様の祟りが無くなるって事は真白先生がここに来た意味も無かったって事になるんじゃないですか?』
「そんなことは無いさ。水神様の様子を確認してもらえるってだけで来てもらえた価値はあったって言えるからね。忍のとこのじいさん以外は水神様の事なんて何とも思っていないんだろうけどさ」
「僕も水神様の事はちゃんと聞いた事ないけど、そんなに怖い神様なの?」
「いいや、怖い神様なんかじゃないよ。海を守ってくれる神様だし、漁に出たみんなが無事に戻ってっこれるように願ってくれる神様だからね。ただ、十年に一度生贄を捧げないといけないという決まりがあるんだよ」
『十年に一度の生贄って、今年がそうだって事ですか?』
私の質問を聞いたおばあさんはまた驚いていたようなのだけれど、私はあんまり話しかけない方が良いのだろうか。幽霊なんだからあまりでしゃばるなよと言われても仕方ないと思うけれど、ここの神様がどんな感じなのか気になっているのだから仕方ないよね。
真白先生も忍さんもそこのところにあまり興味もなさそうだし、私が聞かないと肝心な事をちゃんと理解することが出来なくなりそうだもんね。
おばあさんは私たち一人一人の顔を見てから小さく息を吸って、何も知らない小さな子供に言い聞かせるような感じで優しく語り掛けてきた。
「いや、生贄を捧げる必要があるのは今年じゃないんだよ。必要があったのは、十年前なんだよ」
「さっきはすまなかったね。てっきり忍に悪さでもするのかと思ってたからね。でも、よくよく考えてみると先生と一緒にいるんだから悪さするはずも無いって気付いたんだよ」
『謝らないで大丈夫ですよ。でも、私の姿がハッキリ見えてるんですか?』
「今はハッキリと見えていますよ。この部屋だと見えにくいものも見えるようになるんでね」
『そうなんですか。でも、この部屋ってあまり生活感ないですよね。ここでいつも過ごしてるんですか?』
「まさか。ここは特別な時にしか入らないよ。今日は鳥島で何があったか教えてもらいたくてね。私が知っている事と同じモノを見たんだとしたら、教えなくちゃいけないこともあるって事だからね。伝八から軽くは聞いているけど、あんた達三人からもちゃんと教えてもらわないといけないからね」
私も真白先生も忍さんもあの島の頂上で何を見たかは説明した。見た後で忍さんが何をしたのかはさすがに言わなかったのだけれど、おばあさんは頂上にあった鳥居の話を聞いて少し困ったような顔をしていた。
「あんた達が見た八基の鳥居の高さは腰くらいだったって事なのかい?」
「そうですね。私もヒナミも立ったままくぐるのは無理でしたからね。僕の腰よりは少し低いくらいでしたけど」
「膝くらいの高さではなく、腰までの高さがあったって事で間違いないんだね?」
「うん、間違いないよ。僕もそう感じたし。膝くらいの高さだったら中を見てみようなんて思わないだろうしね」
「いつの間にかそんな時期になっちまったって事なんだね。あんた達が見た女の人って、恨みのこもった目で見てきていたかい?」
『そう言う目ではなかったと思いますよ。どちらかというと、私たちにあまり関わりたくないと言った感じだったような気がします』
おばあさんは私の言葉を聞いて目を見開いて驚いていました。それを目の前で見た私も少し驚いてしまいましたが、真白先生と忍さんはあまり気にしていない様子でした。
「水神様があんた達に対して何を思ったのかわからないけど、もう以前の時の恨みは残ってないって事なのかもね。それがわかっただけでもあんたを呼んだ甲斐があったってもんだね」
「それって、どういう意味なの?」
おばあさんの言っている事が理解出来ないのは私だけではなく忍さんも同じだったようで、私の代わりに忍さんはおばあさんに色々と聞いてくれていた。
そこでわかった事なのだが、真白先生がこの島に呼ばれたのは鳥島にいる水神様の祟りを鎮める方法を探すためだったそうだ。
なんでも、忍さんのお母さんもおばあちゃんも水神様の祟りを鎮めるために犠牲になったそうで、そう遠くない将来に忍さんが子供を産んだ時にはその二人と同じように水神様に命を捧げなくてはいけないという事になっている。だが、その風習をいつまでも続けることは出来ないと思った島の多くの人が鵜崎家に救いを求めてきたところ、女性では水神様を説得することが出来ないという事がわかって真白先生が派遣されるという事になったそうだ。
ただ、真白先生が水神様を説得出来るとは到底思えないのだけれど、解決に向けて何かのきっかけになればいいくらいの気持ちで行かされたのだと後で聞いた時には真白先生も少しだけ怒っていたように見えたのだった。
「でも、僕と鵜崎先生しか頂上にある鳥居を見てないんだけど、信じても平気なの?」
「そりゃ信じるさ。鳥島にあるのは鳥居じゃなくて社祠だからね。それなのに、あんた達は頂上にあるのが鳥居だと言ったじゃないか。それも、何かを守るように八基の鳥居が建っていたのを見たという事は、水神様に招かれたって事だからね。ばあちゃんも若い時に一度その光景を見た事があったんだけど、その時の水神様はとても恐ろしい顔でこっちを見てたんだよ。あの顔は今思い出しても恐ろしくて震えあがっちまうけど、あんたらが見たのはそうじゃなかったって事なんだからね。もう、水神様の祟りに怯えなくても良くなるって事なのかもしれないよ」
『よくわからないのは私だけなのかもしれないですけど、水神様の祟りが無くなるって事は真白先生がここに来た意味も無かったって事になるんじゃないですか?』
「そんなことは無いさ。水神様の様子を確認してもらえるってだけで来てもらえた価値はあったって言えるからね。忍のとこのじいさん以外は水神様の事なんて何とも思っていないんだろうけどさ」
「僕も水神様の事はちゃんと聞いた事ないけど、そんなに怖い神様なの?」
「いいや、怖い神様なんかじゃないよ。海を守ってくれる神様だし、漁に出たみんなが無事に戻ってっこれるように願ってくれる神様だからね。ただ、十年に一度生贄を捧げないといけないという決まりがあるんだよ」
『十年に一度の生贄って、今年がそうだって事ですか?』
私の質問を聞いたおばあさんはまた驚いていたようなのだけれど、私はあんまり話しかけない方が良いのだろうか。幽霊なんだからあまりでしゃばるなよと言われても仕方ないと思うけれど、ここの神様がどんな感じなのか気になっているのだから仕方ないよね。
真白先生も忍さんもそこのところにあまり興味もなさそうだし、私が聞かないと肝心な事をちゃんと理解することが出来なくなりそうだもんね。
おばあさんは私たち一人一人の顔を見てから小さく息を吸って、何も知らない小さな子供に言い聞かせるような感じで優しく語り掛けてきた。
「いや、生贄を捧げる必要があるのは今年じゃないんだよ。必要があったのは、十年前なんだよ」
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。
鞠目
ホラー
さくら急便のある営業所に、奇妙な配達員にいたずらをされたという不可思議な問い合わせが届く。
最初はいたずら電話と思われていたこの案件だが、同じような問い合わせが複数人から発生し、どうやらいたずら電話ではないことがわかる。
迷惑行為をしているのは運送会社の人間なのか、それとも部外者か? 詳細がわからない状況の中、消息を断つ者が増えていく……
3月24日完結予定
毎日16時ごろに更新します
お越しをお待ちしております
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ill〜怪異特務課事件簿〜
錦木
ホラー
現実の常識が通用しない『怪異』絡みの事件を扱う「怪異特務課」。
ミステリアスで冷徹な捜査官・名護、真面目である事情により怪異と深くつながる体質となってしまった捜査官・戸草。
とある秘密を共有する二人は協力して怪奇事件の捜査を行う。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

特別。
月芝
ホラー
正義のヒーローに変身して悪と戦う。
一流のスポーツ選手となって活躍する。
ゲームのような異世界で勇者となって魔王と闘う。
すごい発明をして大金持ちになる。
歴史に名を刻むほどの偉人となる。
現実という物語の中で、主人公になる。
自分はみんなとはちがう。
この世に生まれたからには、何かを成し遂げたい。
自分が生きた証が欲しい。
特別な存在になりたい。
特別な存在でありたい。
特別な存在だったらいいな。
そんな願望、誰だって少しは持っているだろう?
でも、もしも本当に自分が世界にとっての「特別」だとしたら……
自宅の地下であるモノを見つけてしまったことを境にして、日常が変貌していく。まるでオセロのように白が黒に、黒が白へと裏返る。
次々と明らかになっていく真実。
特別なボクの心はいつまで耐えられるのだろうか……
伝奇ホラー作品。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる